「パンデミックを生きる指針–歴史研究のアプローチ」( 藤原辰史著) のご紹介

当初の楽観的な観測とは異なって、日に日に深刻さを増していくかのような新型コロナ感染症。自分とはかけ離れた所で起こっていると思っていた伝染病が、次第に身近に迫ってきて社会が緊張していくことを実感している人も多いと思う。

そんな折、私は貴重な論文を読む機会を得た。多くの人に読んでもらいたいと思い、本ブログに掲載し紹介する。
私が参加している「東アジア近現代史研究会」の関係者から送られてきた論文「パンデミックを生きる指針――歴史研究のアプローチ」(藤原辰史著)である。この論文は岩波新書HP 「 B 面の岩波新書」に掲載されたもので、関係者が著者の許可を得てPDF版を作成・配布したものとのこと。
200407 パンデミックを生きる指針、藤原辰史、岩波書店

近年、サーズやマーズ、鳥インフルなどの感染症が話題にはなったが、世界的な大流行までには至らず沈静化したこともあって、私も含めて大部分の人々はこうした感染症について大したことはなかった、それほど恐れるほどのものではない、という印象なのではないか。

だが、こうした楽観論が生まれるのも、私たちが感染症についての歴史的な知識を欠いているせいなのではないかと思う。逆に、こうした歴史的認識の欠如は、身近に迫った危機においてパニックを起こし、他者を差別・攻撃することにもなりかねない。

前述の論文は、わずか100年前の第一次世界大戦期に世界中で猛威をふるい4800万~1億人もの命を奪い、日本でも40万人の死者が出たと言われるスペイン風邪の教訓が正しく伝えられていないことを危惧し、人類の感染症とのたたかいの歴史から学ばなければならないことを強く訴えている。

新型コロナウィルス感染症の恐怖が身近に迫ってきた今こそ、この論文が鳴らす警鐘に耳を傾け、学ぶべきと思う。

草野好文(完全護憲の会会員)

※PDFは下記をクリックするとダウンロードできます。
200407 パンデミックを生きる指針、藤原辰史、岩波書店

新型コロナの緊急事態時、国民の生活を守れ

新型コロナウィリスの感染拡大が続く中、国民の生活が脅かされ始めている。

密集・密閉・密接の三密を避けるための不要不急の外出自粛により、飲食業・観光業は壊滅的な状況となり、学校も休校が続いています。関連産業では雇用喪失や廃業・倒産も増加しつつあります。

この結果、憲法第三章が保障する「国民の権利及び義務」が脅かされる状況が現出しています。

憲法25条は、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と定めているが、これは決して生活保護のみを言っているわけではない。今回のような事態においては、非常に広範囲に明日の生活にも窮する国民が発生しているなか、早急に金銭給付等で住居・生活費を支給しなければならない。10万円、30万円なんて言う議論をやっている場面ではないはずです。

憲法26条は、「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて等しく教育を受ける権利を有する」と定めているが、突然に何の法的かつ科学的根拠もなく、休校宣言し、非常事態宣言後は各自治体判断に任すなど、無責任に教育の権利を奪うような行為をしてはならない。

憲法27条は、「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う」と定めるが、勤労者の責に帰さない理由で自粛要請して勤労の場を奪うのであれば、その損失を担保する金銭給付がなければ、勤労の権利は有名無実ではないか。

政府は欧米に負けない規模の予算を組んだと言っているが、必要なのは今困窮している人を救うことです。それがコロナの早期収束にもつながるし、経済的負担の最小化にもつながるはずです。

2020.04.24 柳澤

新型コロナを憲法への「緊急事態条項」付加に繋げてはならない

新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)に基づく緊急事態宣言が7都府県に発せられ、地域拡大の動きもあります。日本においては、PCR検査の絶対数が圧倒的に少なく、発表されている感染者数・死亡者数が信頼できる数値であるかは大きな疑問があり、感染拡大のピークの目途は全く立っていません。
こうした不透明状況下、自民党内では今回のコロナショックをチャンスと見て、「緊急事態条項」付加の改憲論議が高まりつつあり、野党にも呼び掛けている。
自民党憲法草案における「緊急事態条項」の基本は、時の政権が緊急事態と認定した事象に対して政令一本で私権を制限できるようにするというもので、国権の最高機関たる国会は無視されます。ナチスを生んだドイツのような独裁を許しかねない、極めて危険な代物であり、決して憲法に付加すべきものではありません。
昨日(4/14)たまたま衆議院の厚生労働委員会を見ていると、日本維新の会の藤田文武議員が質問に立ち、「新型コロナの緊急事態のため一般質疑はしません。緊急事態では新型コロナ問題以外の法案審議は先送るべし」などと発言し、35分の持ち時間のところ3分で終了しました。緊急事態時は余計な国会審議はするな、政府に協力しろ、と暗に主張しているかのようでした。今回の感染症拡大といった事態が発生した際に、こうした政府への同調圧力が国民に蔓延し、「緊急事態条項やむなし」といった世論が高まってしまうことが最も危険なことであり、絶対に阻止しなければなりません。緊急事態時だからこそ国会が正常に機能し、メディアも政権を監視する機能を維持してこそ、民主主義国と言えるはずです。

「選択的夫婦同姓」でしょ?――「強制」から「選択」へ「原則」の転換

(弁護士 後藤富士子)

1 「夫婦同姓」の何が問題か?
戦前の民法は、家父長的「家」制度を採用していたから、妻は、婚姻によって「夫の家に入る」とされていた。そして、家父長的「家」制度を実務的に支えたのは「戸主」という単位で編纂された戸籍制度である。 続きを読む

2020年3月31日 | カテゴリー : ①憲法 | 投稿者 : 後藤富士子

勉強会のご案内 「日本国憲法が求める司法改革」

「戦後日本の司法制度が手にした最大のものは、違憲法令審査権である」(『官僚司法を変える――法曹一元裁判官』後藤富士子著 現代人文社)と言われる。

だが、「憲法の番人」である裁判所はこの役割を果たし得ていない。果たしていないどころか、多くは憲法判断を回避するか憲法違反の悪法を合憲として追認している。司法が社会の悪化を加速させているとも言える。

この司法の現状を改革することなくして、社会の悪化は止められない。

日本国憲法が求める「司法改革」とは何か。長年、「司法改革」の必要性を訴えてきた後藤弁護士に講演していただき、学びたいと思います。多くの皆様の参加をお待ちします。

講 師  後藤 富士子 氏(弁護士・みどり共同法律事務所)
会 場  三田いきいきプラザ 集会室A(東京都港区芝4-1-17)
・都営地下鉄 三田線・浅草線 「三田駅」A9番出口より徒歩1分
・JR 山手線・京浜東北線 「田町駅」西口より徒歩8分

 

 

 

 

 

 

 

資料代  300円(例会資料含む)

第1回
4月26日(日)15:00~16:30(例会は13:30~14:50)
「司法制度――戦前と戦後」

第2回
5月24日(日)15:00~16:30  (例会は13:30~14:50)
「憲法と裁判所法が描く司法・裁判官」

※新型コロナウィルス感染問題が沈静化せず、深刻化した場合には日程の変更もあり得ますので、ご注意ください。
(日程の変更は下記完全護憲の会HPを参照するか、または下記事務局までお問い合わせください。)

https://kanzengoken.com
事務局電話番号:03-3772-5095

新刊紹介 『自衛隊も米軍も、日本にはいらない! 「災害救助即応隊」構想で 日本を真の平和国家に』(花岡しげる著)

平和を愛し、戦争を憎む国民にとって待望の本が現れた。
『自衛隊も米軍も、日本にはいらない!――「災害救助即応隊」構想で日本を真の平和国家に』(花岡しげる著 花伝社 1月27日刊)だ。第1章の冒頭にはこう書かれている。
「自民党や9条改憲を支持する人たちは、二言目には『野党は改憲反対と言うばかりだ。もし改憲に反対ならばきちんとした対案を出すべきである』と言います。……

そこで本書では、第9条の自民党改憲案への対案として、現行憲法と全く矛盾しない安全保障政策を提案します。」と。
そして「第5章 外国から攻められたらどうする? の心配は無用」では、その(1)「日本は国境を天然の要塞でまもられている」とあり、四方を海に囲まれている利点を挙げ、しかし空襲や宇宙からの不意の攻撃は防ぎようがなく、つまるところ、友好的な話し合いしかないことを示している。「話し合いで解決しないから戦争が起きる」と反論する人には、「話し合いで解決しない問題が、武力で解決できるのか」と再反論。そして、「時間をかけて最後まで話し合いで……折り合うしかないのです。」ときっぱり断言する。

本書の最大の特色は「第7章 防災平和省と『災害救助即応隊(ジャイロ)』実現のロードマップ」である。その(1)「国会で実現させるためには」では、「①新党の立ち上げ」と「②『護憲連合会派』の結成」を挙げ、政策実現の具体的な段取りを示しているところが注目される。
非常に説得力のある、読みやすい本だ。

表紙の帯には、東京新聞の望月衣塑子記者が推薦文をこう書いている。
「9条の理念をいかに守り、体現していけるのか、本書にはそのエッセンスが詰まっている。」
著者の花岡さんには「平和創造研究会」(宇井さん主催)でお目にかかったことがあり、その容姿から音楽関係の方と思っていたが、実は東大法学部卒、カリフォルニア大学バークレー校経営学修士で、国内外で働いた実務家であることを初めて知った。

花岡さんのこの貴重な構想を、みんなで話し合い、肉付けし、伝え、そして広げていこうではありませんか。まずは図書館にリクエストなどして、読んでいただければ幸いです。
福田玲三

2020年2月9日 | カテゴリー : ⑤図書紹介 | 投稿者 : 管理人

徴用工問題を考える

草野好文(完全護憲の会会員)

常軌を逸した日本政府の対応
元徴用工問題に対する韓国大法院(最高裁)の日本企業に対する「慰謝料」支払命令判決(2018年10月30日)以降、日本政府(安倍政権)の韓国文在寅政権に対する対応は常軌を逸しているとしか思えない。
居丈高に「国際法違反」、「国と国との約束を守らない韓国・文政権」、との非難を浴びせ、はなからけんか腰なのである。
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「消費税廃止」が発信する「格差是正」―― 経済にデモクラシーを!

(弁護士 後藤富士子)

1 私は、昨年話題になった『そろそろ左派は〈経済〉を語ろう』を発刊の早い時期に大変興味深く読んだ。
 まず本の表帯の「アイデンティティ政治を超えて『経済にデモクラシーを』求めよう」に同感だ。裏帯はブレイディみかこさんの「『誰もがきちんと経済について語ることができるようにするということは、 続きを読む