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違憲性に対する緊急警告

緊急警告072号  最高裁は生活保護費引き下げの違法性を早期に判断せよ

国が2013~15年に生活保護基準額を減らしたのは生存権を保障した憲法25条などに違反するとして、受給者らが減額決定の取り消しなどを求めた訴訟で、東京高裁は3月27日、決定を取り消した一審・東京地裁判決を支持する判決を言い渡した。

国は物価変動率に合わせて支給額を変動する「デフレ調整」を踏まえ、食費や光熱費など「生活扶助」の基準額を最大10%引き下げ、約670億円を削減していた。

同種の訴訟は全国29地裁で提起され、高裁判決は9件目で、27日東京高裁を含めて5件が減額決定を取り消し、4件は減額決定を認めている。

訴訟の争点は、物価下落状況下、保護費を調整したことの是非が問われた。

減額決定を取り消した判決では、調整が一般世帯を対象にした家計調査に基づいている点について、「一般世帯と受給世帯では食事などの支出割合の違いが顕著」であり、「生活保護を受給している世帯の消費実態とは異なるデータを用いていて、統計などの客観的数値との合理的な関連性や専門的な知見との整合性を欠いている」という極めて真っ当な判断を行っている。

これに対して、減額決定を認めている判決では、国の言い分をそのまま認めているだけで、受給者の生活実態を全く把握していないと言わざるを得ない。

受給者世帯の生活実態とは、最低限の衣食住を満たすものであり、電化製品等の耐久消費財や娯楽に供するサービスの値段が下がろうと、関係性がないにもかかわらず、そういった物品・サービスの下落データを含める合理性は全くないのだ。

2013年~15年のこうした国の政策等が、地方自治体への圧力となり、群馬県桐生市では10年間に利用者が半減し、かつ満額支給されない等の不適正事例(市の第三者委員会が調査し、3月28日、市に不適切な対応があったという報告書が提出される)も見られた。

桐生市第三者委員会報告書

https://www.city.kiryu.lg.jp/shisei/jinji/1023559/1023560/index.html

憲法25条は次の通り定めている。

①  すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

②  国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

この25条に基づき、生活保護法が定められ、第1条で「国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障する」としている。

憲法25条は、国民の生存権と、国の生存権保障義務を明確に定めており、生活保護法も憲法に基づき規定されている。この憲法を軽んじる国や自治体の対応は許されるものではない。

地裁・高裁で審理が続くが、三審制の原則はあるものの、こうした憲法に抵触する同種の訴訟が多数ある場合は、適切なタイミングで最高裁が判例となる判決を出すべきものである。ようやく最高裁も重い腰をあげ、統一的判断が示される見通しとなり、5月27日に弁論を開くことが決定された。

最高裁は憲法25条の大原則を尊重した、人権の最後の砦としての判断を下すべきである。

2025年3月26日

緊急警告071号  「大崎事件」再審の扉を閉じる最高裁に問う

1979年に発生した「大崎事件」の再審請求審で、2025年2月26日、最高裁は請求を棄却。殺人の主犯として10年間服役した原口アヤ子さん(現在97歳)の再審への扉が四度最高裁によって閉ざされた。

事件の概要は、アヤ子さんの義弟が酒に酔って自転車で道路の側溝に転落し、通行人から連絡を受けた近所の人によって自宅に運び込まれ、翌々日遺体が牛小屋で発見された。解剖した医師は、死因を窒息死と推定し、他殺ではないかと鑑定した。(この医師は後に、義弟が自転車で側溝に転落した事実を聞かずに鑑定したとして、「鑑定は間違いだった。他殺か事故かわからない」と証言している)

事件を捜査した鹿児島県警は、当初から「面識のある者、あるいは、近親者による殺人事件」という見立てのもと、アヤ子さんが、いずれも軽度の知的障碍があり共犯者とされたアヤ子さんの夫(長男)、義弟(次男)、甥(次男の息子)に指示して、酒乱の義弟(四男)を保険金目的で殺害・遺棄したとして捜査。知的障碍という供述弱者3人を誘導して証言をとり自供させた。これに対して知的障碍のないアヤ子さんは終始関与を否定。しか し、それは認められず、4人の懲役刑が確定し服役した。

服役した4人は犯行を否定。アヤ子さんは再審請求し、次のような経過をたどる。

1995年:アヤ子さんが鹿児島地裁に第一次再審請求

2002年:鹿児島地裁が再審開始決定。検察が不服申立し即時抗告

2004年:福岡高裁宮崎支部が再審開始決定取り消し。2006年:最高裁が特別抗告棄却

2010年:アヤ子さんが第二次再審請求

2013年~2015年:地裁、高裁、最高裁が請求棄却

2017年:第三次再審請求で地裁が再審開始決定。検察が不服申立し即時抗告

2018年:高裁が検察の即時抗告を棄却し再審開始決定。検察が不服申立し特別抗告

2019年:最高裁が再審決定取り消し

2020年:第四次再審請求

2022年~2025年:地裁、高裁、最高裁が請求棄却

上記下線部分の通り、大崎事件の再審請求においては、3度の再審開始決定判決が出ている。特に第三次請求審においては、新証拠の信用性を高く評価し、地裁・高裁が再審決定したにもかかわらず、最高裁は書面審理のみで下級審の決定を無視して取り消しているのである。少なくとも地裁・高裁が再審決定したということは、「疑わしきは被告人の利益」にすべき合理的な理由があるはずであり、人権救済の最後の砦とも言うべき最高裁の存在価値が問われてもおかしくない。何か政治的圧力があったとも勘繰られる。

今回の最高裁第三小法廷の判決では、5人中4人が賛成し、ただ一人、学者出身の宇賀克也裁判官は再審決定を支持した。彼の反対意見は非常に的を射ている。宇賀氏は第四次再審請求審に提出された証拠のみならず、これまでの再審請求審に提出された証拠も含めて総合評価を行って結論を導いているのである。

最高裁のホームページには、15人の裁判官が最高裁判事としての心構えを記している。そこには中立・公正な判断、広い視野、誠実等々、一般的なことを謳っているが、「疑わしきは被告人の利益に」や、「冤罪を生まない」などの言葉はない。司法が求めるのは「証拠を精査し、真実を追求する」ことであり、冤罪は晴らさなければならない。

袴田事件の再審無罪判決以降、再審法の改正議論が高まり、超党派の議員立法の動きと、法務省主体の法制審議会の動きがあるが、法制審議会のコースでは時間がかかり、かつ骨抜き改正の可能性も大きい。「検察の不服申し立て禁止」と「全面的な証拠開示」を盛り込むために、議員立法を期待したい。

大崎事件にあっては、3度の再審決定がいずれも検察に不服申し立てられ、最高裁が四度にわたって再審請求を棄却し、未だ冤罪が晴らされていないことの罪は重いと言わざるを得ない。

2025年3月22日

緊急警告070号  石破政権は日米地位協定の改定に本気で取り組め

10月27日投開票の衆議院選挙で、与党自民党、公明党は大きく議席を減らして、過半数割れとなった。石破政権は議席を4倍増とした国民民主党に協力を要請し、これに応えて国民民主党は連携する意向を示しており、政権の性格が変わりつつある。裏金問題の責任をとって総裁選出馬を断念した岸田文雄前首相の20%前後の支持率から、ご祝儀相場と言われる50%前後の支持率を頼みに衆議院解散に打って出たものの、裏金問題への国民の不信の大きさを見誤ったのが、この結果につながった最大の要因である。 (さらに…)

緊急警告069号  組織優先の刑事司法から脱却せよ

静岡地裁の再審裁判で無罪判決を受けた袴田巌さんについて、2024年10月8日、畝本直美検事総長は控訴断念を発表し、完全無罪が確定した。しかし、同検事総長はその発表の中で、判決が「(証拠の)5点の衣類が捜査機関のねつ造であると断定した上で、検察官もそれを承知で関与していた」との部分に対して、「到底承服できず、控訴して上級審に判断を仰ぐべき内容だ」と、大きな不満を表明したのである。唯一謝罪らしき言葉が「相当な長期間にわたり、その法的地位が不安定な状況に置かれてしまうこととなりました。この点につき、刑事司法の一翼を担う検察としても申し訳なく思っております」だった。 (さらに…)