参政党の台頭とその危険性:排外主義的ポピュリズムと憲法否定の構造

2025年7月の参議院選挙において、参政党が「日本人ファースト」を掲げて大幅に議席を伸ばし、比例区では野党で2番目の得票するまで躍進した。この結果は、日本の政治における排外主義的ポピュリズムの台頭を象徴するものであり、同党の政策・主張には民主主義の根幹を揺るがす危険性が潜んでいる。特に、外国人排斥的な言説の拡散、憲法の基本理念の否定、そして事実に基づかないフェイク的主張による世論操作は、批判的検討を要する。本稿では、参政党の主張の具体的内容を分析し、その問題点を憲法的・社会的観点から論じる。

  1. 「日本人ファースト」政策の排外主義的構造

参政党は「日本人ファースト」をスローガンに掲げ、外国人労働者や移民・難民の受け入れに強く反対する姿勢を示している。彼らの主張によれば、「外国人が優遇されている」「外国人による犯罪が増加している」といった懸念があるとされるが、これらは統計的根拠に乏しく、むしろフェイクに近い言説である。

法務省の統計によれば、外国人による刑法犯の検挙件数は全体の数パーセントに過ぎず、近年は減少傾向にある。

技能実習制度により来日する外国人は、厳しい労働環境に置かれ、しばしば人権侵害の対象となっている。彼らが「優遇」されているという主張は、実態と著しく乖離している。

政府が政策と推進するインバウンドについて、一部の観光地で住民に不便が生じているとされるが、観光業や周辺産業に多大な貢献をしており、外国人はあくまでお客様である。

こうして冷静に見れば、参政党の言説は事実に基づかない、不安や恐怖を煽ることで支持を集める典型的な排外主義的ポピュリズムであり、社会的分断を助長する危険性がある。

  1. 憲法観と民主主義の否定

参政党が公表した新憲法草案(創憲案)には、現行憲法の根幹を否定する内容が含まれている。特に問題となるのは、以下の点である。

・国民主権の否定:草案では「国家の主権は天皇にある」とする記述があり、現行憲法第1条の「主権が国民に存する」との理念を否定している。

・基本的人権の制限:草案では「人権は国家の秩序を乱さない範囲で保障される」とされ、現行憲法第11条・第97条の「侵すことのできない永久の権利」との理念と矛盾する。

・表現の自由の制限:草案では「国家の名誉を傷つける表現は禁止される」とされ、現行憲法第21条の表現の自由を著しく制限する可能性がある。

これらの創憲案は、戦後日本が築いてきた立憲民主主義の根幹を否定するものであり、極めて危険な思想的背景を持つ。参政党は「日本の伝統を取り戻す」と称しているが、その実態は近代憲法の理念を否定し、国家主義的統制を強化する方向にある。

(参政党憲法草案https://sanseito.jp/new_japanese_constitution/

  1. 科学・教育政策における反知性主義

参政党は教育政策においても独自の主張を展開しており、「自国の歴史を誇りに思える教育」「グローバリズムに対抗する教育」などを掲げている。しかし、その内容はしばしば歴史修正主義的であり、科学的根拠に基づかない主張が散見される。ワクチンや医療に関する陰謀論的言説を拡散し、科学的コンセンサスを否定する姿勢が見られる。歴史教育においては、戦前の日本の行為を正当化するような記述が推奨されており、国際的な歴史認識と乖離している。教育勅語まで明記されており、あきれるしかない。

このような反知性主義的傾向は、民主社会における合理的議論の基盤を損ない、教育の政治的利用による思想統制の危険性を孕んでいる。

  1. 支持拡大の背景とメディア戦略

参政党の支持拡大には、巧妙なメディア戦略がある。YouTubeやSNSを活用し、感情に訴える短い動画やキャッチコピーで若年層や政治的無関心層にアプローチしている。特に以下の点が注目される。

・「既存政党は信用できない」「真実を隠している」といった陰謀論的言説により、既存政治への不信感を煽る。

・「日本を守る」「子どもたちの未来を守る」といった抽象的で感情的なメッセージにより、政策の具体性を欠いたまま支持を集める。

このような手法は、政治的内容の検証を困難にし、感情的同調による支持を生み出す。民主主義においては、政策の内容とその実現可能性に基づく理性的判断が求められるが、参政党の戦略はその逆を行っている。

  1. 参政党の台頭が示す民主主義の危機への対応

参政党の躍進は、日本社会における政治的不満や不安の受け皿として機能した結果である。しかし、その主張には事実に基づかないフェイク的言説、憲法理念の否定、排外主義的ポピュリズム、反知性主義的傾向が含まれており、民主主義の根幹を揺るがす危険性がある。

今後、参政党の主張に対しては、メディア・教育・市民社会が連携して事実に基づく批判的検証を行い、理性的な政治的議論を回復する必要がある。民主主義は、単なる多数決ではなく、人権・法の支配・理性に基づく公共的討議によって支えられる制度である。参政党の台頭は、その制度の脆弱性を示す警鐘であり、私たち一人ひとりがその意味を深く考えるべき時に来ている。

2025年8月7日  栁澤 修

 

2025年8月7日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : o-yanagisawa