「法律婚」神話と「戸籍」の物神化

(弁護士 後藤富士子)

1 「選択的夫婦別姓」や「同性婚」の主張は、「事実婚」の不利益を甘受したくないとして、あくまで「法律婚」の待遇を求めている。それは、自己のアイデンティティーを国家の保護の下に置こうとする一方、「事実婚」差別を置き去りにする。まるで「名誉白人」になろうとするように。
そこで、「法律婚」と「事実婚」に共通する「婚姻」とは何か?を検討してみよう。
民法第739条1項は「婚姻は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる。」とし、第2項は「前項の届出は、当事者双方及び成年の証人2人以上が署名した書面で、又はこれらの者から口頭で、しなければならない。」と定め、第740条は「婚姻の届出は、第731条から第737条まで及び前条第2項の規定その他の法令の規定に違反しないことを認めた後でなければ、受理することができない。」としている。これが「法律婚」の成立に必要な要件である。但し、婚姻の「効力」として定められている「夫婦同姓の強制」(第750条)も「婚姻届出の受理」(その他の法令の規定に違反しないこと)というゲートの前に「要件」に転化する。考えてみれば、まことに奇怪な法律である。要件と効果がトートロジーで、まるで「山手線」ではないか。
一方、憲法第24条1項は「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」と定めている。すなわち、成立要件は「両性の合意のみ」である。「合意」により成立することは当たり前であるが、「合意のみ」としていることに重大な意味がある。この点で、「戸籍法の定める届出」と「受理」を婚姻の効力発生要件とする民法の規定は、そもそも「合意のみに基いて成立」という憲法の規定に明らかに反している。しかも、「婚姻適齢」「再婚禁止期間」などの「要件」に加え、「その他の法令の規定に違反しないこと」が受理の要件とされることによって、婚姻の成立要件は「合意のみ」とはかけ離れたものになっている。また、「婚姻」の中身については、「同等の権利を有する」という関係であり、「相互の協力により維持する」というものである。
このように、憲法第24条1項に基づけば、民法も「事実婚」でいいのではないか? 現に「事実婚主義」の法制を採用している国もある(たとえば中国?)。
そうすると、「法律婚」は、もはや神話というほかない。ちなみに、「大辞林」で「神話」を引くと、「人間の思惟や行動を非合理的に拘束し、左右する理念や固定観念」とある。

2 戸籍制度についても、いろいろあって、もはや国家のフィクションと成り下がっている。
たとえば、他人に勝手に婚姻届出されて受理されると、婚姻無効確認訴訟によらなければ是正できないうえ、訴訟係属中に原告が死亡した場合、訴訟は当然終了となり、戸籍上の夫婦関係を覆すことはできない(最高裁平成元年10月13日判決)。
また、「嫡出推定」(民法第772条)の関係で、夫だけが嫡出否認権をもち(第774条)、それは訴えによって1年以内に行使しなければならないから(第775条、第777条)、それを怠ると、嘘でも戸籍上は「嫡出子」が確定する。一方、非嫡出子については「その父又は母がこれを認知することができる」と定められているが(第779条)、母子関係は、原則として母の認知を待たず分娩の事実により当然に発生するというのが確立した判例であり、父は、認知しなければ父子関係は発生しない。しかも、子からの認知の訴えは、父の死亡日から3年を経過すると提起できなくなる(第787条)。そのうえ、認知によらないで父子関係存在確認の訴えを提起することはできないとされている(最高裁平成2年7月19日判決)。
「AID=非配偶者間人工授精」で生まれた子は、民法第772条により嫡出子として戸籍に掲載される。しかも、「特別養子」の場合と異なり、精子提供者が誰か分からない。母の夫が戸籍上の「父」となり、生物学上の父は不明である。なお、2020年12月に成立した「卵子・精子提供の親子関係特例法」では、当事者の真摯な訴えにもかかわらず、子の「出自を知る権利」が置き去りにされている。
2003年に成立した「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」により性別変更して異性婚として法律婚をした夫婦がいる。妻が人工授精で出産したとき、その子は「嫡出子」かが争われた。戸籍上の父が子の実父でないことは明らかである。当初、法務省は嫡出子と認めなかったが、「AID」で生まれた子が嫡出子とされていることとの比較で、嫡出子と認めるに至った。
こうしてみると、戸籍制度は必ずしも「血統」を重視せず、場合によってはそれを隠蔽したり反するものとなったりしていることが分かる。それにもかかわらず、「法律婚」神話とセットになって、「戸籍」は物神化(偶像崇拝)されている。ちなみに、「大辞林」で「物神崇拝」を引くと、「人間みずからがつくりだした商品や貨幣がかえって人間を支配し、人間がそれらを神のように崇めること」とある。

(2021年5月19日)

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