緊急警告052号「出入国管理及び難民認定法」改悪案の成立を許すな

今年3月に名古屋出入国在留管理局の収容施設でスリランカ人女性が亡くなり、その死亡経緯に不審な点があることから支援団体が法務省に報告を求め、中間報告が公表された際の記事である。頻繁に面会していた支援団体は、面会のたびに体調が悪くなっていることから、「点滴を打ってほしい」と訴えていたとの記事もあった。(2021.4.8朝日新聞)

収容施設が適切な医療処置をとっていなかった疑いが出ており、国会でも問題になっている。今国会で法務省は、「出入国管理及び難民認定法」(入管法)改悪案を提出し、会期中の成立を目指しているが、外国人を含めた人権擁護を所管する省庁である法務省及び出入国在留管理庁(入管庁)の人権に対する姿勢が問われている。

「難民の地位に関する条約」(以下「難民条約」)は、1951年に国連で採択された国際条約で、1954年に発効したが、日本が加入し発効したのは1982年と約30年遅い。日本が条約に加入したきっかけは、ベトナム戦争終結に伴うボートピープル等のインドシナ難民の受入れであった。難民認定条項が入管法に設けられたのも1982年であり、それまで日本においては、そもそも難民問題は存在しなかったと言えよう。従って、政府も国民も難民問題には極めて無関心であった。こうした歴史的背景はあるものの、冷戦終了以降の世界的な地域紛争の頻発による難民の増加に対して、日本としてもハード(受入施設、教育施設等)、ソフト(日本語・職業教育環境、国民の受入れ感情等)両面での受入れ態勢の整備・拡充は、国家の責任としての急務である。だが、現状は極めてお粗末な状況と言わざるを得ず、加えて現状を更に悪くする法案が提出されたのである。

難民条約において、「難民」は次の通り定義されている。
「人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に属するなどの理由で、
自国にいると迫害を受けるかあるいは迫害を受けるおそれがあるために他国に逃れ
た人々」

更に今日的には、次のような広範囲な解釈が一般的である。
「政治的な迫害のほか、武力紛争や人権侵害などを逃れるために、国境を越えて他国に
庇護を求めた人々」(UNHCR 国連難民高等弁務官事務所)

今回の法案提出の端緒となったのは、退去強制処分を受けたものの、母国からも受入れを拒否され、3年7カ月の長期間外国人収容施設(大村入国管理センター)に収容されていたナイジェリア人男性が、仮放免が許可されないことから抗議のハンストを行い、飢餓死した事件である。以前から日本の入管収容や難民認定制度に人権上問題がある旨、国連の人権条約機関から勧告を受けていたが、この事件をきっかけに問題点が大きく世間にさらされたのである。

さて、今回の提出案が改悪なのはなぜか。それは難民条約締約国に遵守が義務付けられたノン・ルフールマン原則(難民を迫害が予想される地域に追いやってはならないという原則で、難民条約第33条に明記されている)を脅かす変更がなされているからである。

改定案にもノン・ルフールマン原則を規定した第53条はあるが、現行法の第61条2の6第3項、「送還停止効条項」(難民申請が何度でもでき、その間は強制送還が停止される)が削除され、申請を3回以上すると、原則として強制送還できる条項に改悪されようとしているのである。現在の入管行政における最大の人権侵害と言われる「長期収容」問題を、強制送還の促進という手段で解消しようとする法案は、ノン・ルフールマン原則の遵守という難民条約上の義務違反の疑いが極めて強いもので、断じて許してはならない。

その他の改定項目として、

・在留特別許可手続きの創設による判断基準の明確化
・難民に準じた補完的保護対象者の認定
・収容に代わる監理措置の下での社会生活拡大
・収容施設の処遇改善

などが盛り込まれ、難民に準じた滞在許可者の増加や、収容施設での処遇改善を図るような改定案になってはいるが、政府・法務省の外国人人権擁護と難民受入れ拡大に否定的な方針が変わらない限り、有名無実の改定案でしかない。(資料1、資料2参照)

安倍・菅政権は、経済界の人手不足解消要請に基づき技能実習制度の改定を行い、更にはビザなし渡航拡大により外国人観光客の大幅受入れ政策をとってきたが、いずれも自国経済活性化のための、正にインバウンド(国内向け)の政策であり、外国の困難な状況に置かれている人々のための政策には冷淡であった。

アジアでは、ミャンマーをはじめ生命の危険にさらされている人々が多数発生している状況下、今こそ日本は、憲法前文が掲げる「……われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。…」という宣言にふさわしい国際社会の責任ある国家として、そして全ての人の基本的人権を保障する日本国憲法の精神の下、平和的・人道的見地から難民受入れ政策の転換が求められている。

入管法改定については、ノン・ルフールマン原則の遵守が危うくなる安易な送還規定を削除し、更には難民認定基準の柔軟化による受入れ拡大と、それによる長期収容の解消を図る、真に基本的人権を重視した法改正でなければならない。

(2021年4月29日)

 

 

 

 

緊急警告52資料2

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 緊急警告052号「出入国管理及び難民認定法」改悪案の成立を許すな」への1件のフィードバック

  1. 難民の強制送還に関して、東京高裁が9月22日、画期的な憲法違反判決を出した。
    難民不認定の処分を通知された翌日に強制送還されたため、処分取り消しを求める訴訟が起こせなかったとして、スリランカ国籍の男性2人が1千万円の賠償を国に求めた訴訟の控訴審判決が22日、東京高裁(平田豊裁判長)であった。判決は出入国在留管理庁側の対応について「憲法32条で保障する裁判を受ける権利を侵害した」と認め、計60万円の支払いを命じた。(2021.09.23朝日新聞)
    当会緊急警告052号では、主に入管法がノン・ルフールマン原則を骨抜きにし、基本的人権に反する改悪案であることを訴えたが、東京高裁判決は、更に踏み込んで、憲法32条の裁判を受ける権利の侵害という違憲判決であり、その意味で画期的判決である。
    同じスリランカ人で、名古屋入管の収容施設でウィシュマ・サンダマリさんが亡くなったことで入管行政への批判が高まり、この判決に繋がったことは間違いない。裁判を受ける権利を奪うような行政措置への判決だけに、法務省は上告しにくいのではないか。否、上告することなど、あってはならないのではないか。

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