緊急警告064号 「安保三文書」改定は軍事国家化と戦争への道

岸田政権が「安保三文書」(「国家安全保障戦略」「防衛大綱」「中期防衛力整備計画」)の改定作業を本格化させている。

10年前、2013年版「国家安全保障戦略」が策定された時の最大の特徴は、安全保障をめぐる東アジアの環境が、中国の急速な政治・経済・軍事的台頭によるパワーバランスの変化と、北朝鮮の軍事力増強への脅威などから厳しくなり、それらへの対応の必要性を理由に、改憲して戦争のできる国にしたいという安倍首相(当時)をはじめとする自民党右派の意向を反映したものであった。

これ以降、今日までの東アジアにおける環境変化として、①中国の更なる台頭と海洋進出、台湾有事の顕在化、②米韓軍事演習に対抗した北朝鮮の核・ミサイルの質的向上と頻繁な挑発行為、③ロシアのウクライナ侵攻と核の脅威、国連の無力化などが盛んに報じられている。

これらの情報に触れると、確かに日本への脅威が迫ってきているかのようであるが、いずれの事象についても、その脅威を軽減させる外交的努力が真剣になされてきたのかを、逆に、私たちは見極めなければならない。歴代自民党政権は、安全保障の危機を盛んに喧伝し、それに乗じた大手メディアが対外脅威を煽り、国民に信じ込ませるという側面があることを認識しなければならない。

このような状況下、「安保三文書」改定に関して、政権が選定した10名のメンバーによる有識者会議の報告書が2022年11月22日に岸田首相に提出され、今後与党内の協議が本格化する。

有識者会議報告書は、岸田首相が従来から主張する内容をほぼ是認するものであり、改定の大きな焦点は以下の通りである。

1.「防衛力の抜本的強化」について、防衛費を5年以内にGDPの2%に引き上げるという、軍事大国化への選択である。これは、従来の「必要最小限度の防衛力」を保持するという、歴代政権の防衛政策さえ踏み越える歴史的な転換点で、到底許されるものではない。

更に財源は、報告書では増税で賄(まかな)うべきとしているが、自民党内には赤字国債を前提とするべきとの意見も多く、まさに戦前の軍事国家への回帰と言わざるを得ず、許容できない。現在の日本の経済状況や膨大な国債残高を鑑(かんが)みれば、増税も赤字国債も選択肢にならず、国防費増大は困難なのである。

2.「敵基地攻撃能力」について、政府は「反撃能力」と言い換えているが、これは国際法違反となる「先制攻撃」の言い訳でしかない。

更に、「反撃能力」の限界は、極超音速ミサイルの時代、移動する発射基地も含め、相手国の攻撃を事前に察知するのは実際上不可能なことである。

3.自公政権与党の国会軽視が、旧安倍政権同様に甚だしい。国会論議をないがしろにし、5年間で現行の1.5倍の40兆円以上という次期中期防の数字が公然と流れ、政権寄りの有識者や自公与党の限られたメンバーによるお墨付きを得ればそれでいいという政治のあり方は、三権分立を踏みにじるものである。政権与党のこうした進め方に対し、今年6月の参院予算委員会で立憲民主党の福山哲郎氏が、「国民に何にも開示しないで議論を勝手にやるのか。まるでブラックボックスではないか」と批判したのは当然である。

ロシアのウクライナ侵攻によって今、世界は再び東西の分断と戦争の危機の中にある。

日本はこれまで、アメリカ主軸の外交や軍事同盟に依存してきたが、2015年9月の集団的自衛権を容認する安保法案成立後、世界の戦争に最も関与してきたアメリカへの傾倒は、日本が戦争への関与を高め、「安保三文書」の改定はより強く日本の軍事国家への道を突き進む危険性を孕(はら)んでいる。

日本は、中国・北朝鮮敵視政策の旧安倍政治を継承するのではなく、東アジアの緊張を激化させ軍事国家をめざす政治から根本的に脱却し、平和なアジア太平洋を築くための外交努力を強化し、平和国家をめざす時である。それが憲法9条で交戦権を放棄した日本のとるべき唯一の選択なのである。

(2022年11月23日)

緊急警告063号 安倍晋三元首相の違憲の国葬に反対する

「共同通信社が7月30、31両日に実施した全国電話世論調査によると、安倍晋三元首相の国葬に「反対」「どちらかといえば反対」が計53.3%を占め、「賛成」「どちらかといえば賛成」の計45.1%を上回った。国葬に関する国会審議が「必要」との回答は61・9%に上った。回答は固定電話425人、携帯電話625人」(2022年8月2日 北海道新聞)

2022年7月8日、奈良市で参院選の応援演説中に銃撃され死亡した安倍晋三元首相の葬儀を9月27日に「国葬」で執り行うことが、7月22日閣議決定された。政治家の国葬は1967年の吉田茂元首相以来55年ぶりとなり、極めて異例なことである。

岸田首相は、閣議に先んじて行った7月14日の記者会見で、既に国葬にすることを表明しており、事件から1週間も経たないうちに政府内で国葬が決定していたのである。この判断の裏に何があったかは想像するしかないが、自民党内の安倍派や右派の力が大きく働いたと考えられる。その後に出てきた安倍氏や自民党を中心とした国会議員と世界平和統一家庭連合(以下旧統一教会)との関係が明らかになっていることなどが、冒頭の世論調査結果に影響していることが伺え、極めて党略的な決定と言わざるを得ない。

岸田首相が会見で国葬とする理由としてあげたのは、概ね次の通りである。

①憲政史上最長8年8ヶ月、首相の重責を担って、内政・外交で多大な功績があった

②選挙中の蛮行に対し、暴力に屈せず民主主義を守り抜くという決意を示す

③国内外から多くの哀悼・追悼の意が寄せられている

④内閣府設置法に、国の儀式に関する事務が明記され、内閣法制局と調整済み

当会は、岸田首相があげた国葬とする理由へ、下記の通り反論したい。

①内政への功績であるが、アベノミクスと自賛した経済政策で確かに雇用の回復と株式等資産価値は増加したが、非正規労働の増加により国民の平均賃金は上がらず、先進国中最低の経済成長が続き、国民の経済格差が拡大した。

その他の政策では、これまでの憲法解釈を強引に変えた安保法制や、特定秘密保護法、共謀罪法を強行採決で成立させ、戦前回帰的国家体制に近づけ、この結果、国民の分断を大きくしたのである。

外交面では、トランプ前大統領、プーチン大統領と個人的な関係を築いただけで、実質的な成果はなく、逆に極東の隣人である中国・韓国・北朝鮮との関係は改善することなく、韓国に至っては戦後最悪の関係が現出している。

そして何より、長期政権故の驕りから、モリ・カケ・サクラなど、いわゆる「政治の私物化」問題が発覚し、何ら説明責任を果たすことなく、あげくに「桜を見る会前夜祭」問題では、国会で118回の虚偽答弁を行うなど、道徳的に問題のある行為が数多く見られた。

②「民主主義を守り抜く」という理由には、違和感を抱かざるを得ない。容疑者の銃撃理由が次第に明らかになっているが、旧統一教会によって家族と自分の人生が破壊され、同教会と関係が深い安倍元首相を狙った私怨が犯行の動機であるといわれ、たまたま選挙期間中になっただけである。旧統一教会については、宗教団体の名を借りたカルト教団=反社会的集団であり、その実態を隠すために行われた「家庭連合」への名称変更の経緯にも、当時の下村文科大臣の関与が取りざたされている。また、自民党を中心に多くの国会議員が選挙応援を受ける代わりに、広告塔や守護神になっていた事実も浮かび上がっている。何より、多数の国民が国葬に反対している状況で、国民の分断を招く行為が民主主義を守ることになるのか疑問である。

③国内外から多くの哀悼・追悼の意が寄せられているのは、8年8カ月の長期にわたって首相をつとめ、80か国以上の外国訪問を行ったこと、かつ銃撃というショッキングな死を遂げたことによるところが大きいからで、安倍氏の業績や人格を偲んでいるとは限らない。むしろ多くは外交辞令だ。

④戦前~1947年までは「国葬令」が存在し、国葬の法的根拠があったが、現在法的根拠は全くない実情である。政府の言いなりになった内閣法制局が「内閣府設置法4条3項33号」を根拠に、内閣府の所掌事務として「国の儀式に関する事務」を持ち出して、国葬の決定・執行が行政権に属するとしているが、憲法学者の小林節氏によれば、

「内閣府設置法4条3項33号は、皇室典範(法律)25条で決まっている国葬などの儀式を内閣が執行する規定であって、内閣が元首相の国葬という新しい儀式類型を創出して良いという規定ではない。だから、今回の閣議決定は明らかに違憲」

その上で小林氏は、

「国葬なら、国権の最高機関である国会の議決が必要。国会には、そのような大きな権力行使を根拠づける立法権と国費の支出を根拠づける財政処分権があるが、内閣にはそれらの権限はない。安倍政権時に、首相が内閣法制局長官人事に介入して以来、事前の違憲審査機関としての法制局は死んでしまった」(2022年7月27日 AERA dot.)

と述べている。多額の費用が掛かる国葬については、国会の審議と議決が最低限必要なのである。

以上の通り、今回の国葬決定理由には、政治的・社会的・法的に疑問があり、憲法にも抵触する極めて党略的な決定なのである。

政府は「無宗教形式、簡素、厳粛に行い、国民に服喪を強制しない」というが、国や自治体、学校などの公的機関は、それぞれの長の判断で黙とうや反旗の掲揚などを行うことが考えられ、それに倣う民間企業も当然現れる。これにより憲法19条の国民の「内心の自由」が制約され、13条の「個人の尊重」が脅かされる恐れがある。それが結果として、数々の疑惑を残して亡くなった安倍元首相を神格化し、多くの負の側面を消し去る効果は絶大となる。

したがって、このような違憲の国葬は絶対に許してはならない。

2022年8月4日

緊急警告062号 軍備拡大路線は戦争を招く

さる5月23日に発表された日米首脳の共同声明で、「岸田文雄首相はミサイルの脅威に対抗する能力を含め、国家に必要なあらゆる選択肢を検討し、防衛力の抜本的強化に向けた防衛費の相当な増額を確保する決意を表明。バイデン氏は強く支持」(東京新聞5月24日)した。

だがこの軍備拡大の合意には強い批判がある。「首相が目指す防衛力強化は、自衛隊による相手国領域内への攻撃も選択肢から排除しないなど、戦後堅持してきた抑制的な安保政策の転換につながる内容だ。……自民党内にも慎重論は残り、野党の反発や世論の懸念は根強い。早い段階でバイデン氏の支持を取り付けることで議論の流れを決定付け、既成事実化する狙いも透ける。……だが、両国そろって力に力で対抗することに傾倒すれば、周辺国に疑心暗鬼を招く恐れを否定できず、もろ刃の剣ともいえる。」(東京新聞5月24日)

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緊急警告061号  防衛費倍増による軍事大国への道を許すな

「岸田文雄首相は27日、自民党安全保障調査会長の小野寺五典元防衛相と官邸で会い、敵基地攻撃能力の保有などを求める党提言を受け取った。政府として結論を出す年末に向けて『与党の考え方を受け止めた上で、議論を進めていきたい』と述べ、公明党との調整を促した。提言は、日本を攻撃する相手国のミサイル発射拠点に加えて『指揮統制機能等』への攻撃を可能とする敵基地攻撃能力保有や、対国内総生産(GDP)比2%を念頭に置いた5年以内の防衛費増額などが柱。外交・防衛政策の長期指針『国家安全保障戦略』など3文書改定に合わせて、党がまとめた。」(2022年4月27日、東京新聞電子版)

ロシアのウクライナ侵攻を受け、欧米各国が軍事力こそ自国の安全保障にとって最も重要であるかのごとく、競ってその強化を叫んでいるなか、日本もその例外ではなく、特に政権を握る自民党内において、これに乗じた動きが盛り上がり、冒頭の記事はその典型的な危惧すべき事例である。

提言の主な内容は、次の通りである。 続きを読む

緊急警告060号 ロシアのウクライナ侵攻を日本の核武装に結び付けるな

自民党の安倍晋三元首相は2月27日の民法テレビ番組で、「北大西洋条約機構(NATO)加盟国の一部が採用している、米国の核兵器を自国領土内に配備して共同運用する“核共有”政策について、日本でも議論すべきだ」との考えを示し、ロシアのウクライナ侵攻を踏まえ「世界の安全がどのように守られているのか。現実の議論をタブー視してはならない」と述べた。(2022.02.27共同通信)

ロシアのウクライナ侵攻は、主権国家を武力で圧殺する蛮行である。しかも、自国の核兵器使用も辞さない脅しをかけ、国際社会を威嚇する行為は、ロシアにとって危惧すべきNATOの「東方拡大」という要因があったにせよ、国連憲章、国際法破壊への挑戦であり、決して許容できるものではない。

すでにウクライナの民間人死者が2千人(ウクライナ非常事態庁発表、日テレNEWS 3月3日)、ウクライナ・ロシア軍双方の兵士の死者3千人超(共同通信 3月3日)、近隣諸国への避難民は136万人 続きを読む

緊急警告059号 公文書改竄の国家賠償請求訴訟 国の「認諾」で幕を閉じてはならない

「ふざけんなと思う、夫がなぜ死んだのかを知りたい、また国に殺された」

森友学園問題での財務省による公文書改竄事件で、改竄を強要され、追い詰められ自死した赤木俊夫さんの妻雅子さんが、事件の真相を知るために国を相手どり、損害賠償を求めている訴訟。証人尋問等、今後の裁判の進め方について、非公開で開催された2021年12月15日の進行協議の場で、国は突如請求を「認諾」し、賠償金を全額支払うことを明らかにした。雅子さんは、刑事事件として捜査していた大阪地検が、値引きによる背任行為と公文書改竄行為をいずれも不起訴とし、更に財務省に再調査を依頼しても拒否され続けたため、「真相の解明」の最後の手段として、国家賠償請求訴訟に訴えたが、国は賠償請求金額1億700万円全額を支払うことで、真相を闇に葬る選択をしたのである。冒頭の言葉は、国の「認諾」に対する雅子さんの無念の叫びである。

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緊急警告058号  日中国交回復50周年を迎え、初心を忘れるな

去る12月6日に開会された臨時国会の所信表明で岸田文雄首相は「国民の命と暮らしを守るため、いわゆる敵基地攻撃能力を含め、あらゆる選択肢を排除せず現実的に検討し、スピード感をもって防衛力を抜本的に強化していきます」と述べた。

当会は先に緊急警告044号(2021年8月15日)で「専守防衛を否定する敵基地攻撃能力の保有は許されない」と批判したが、今回改めて首相のこの所信表明に抗議する。

この「敵」というのが中国か北朝鮮か明言を避けているが、この「攻撃能力」は常識的に先制攻撃と解されており、わが国の憲法上決して許されるものではない。

与党の公明党は否定的な立場を取っており(朝日12月7日)、自民党内でも第2次安倍政権 続きを読む

緊急警告057号 安倍元首相の「台湾有事」発言は許されない

安倍晋三元首相は去る12月1日、台湾で開かれたシンポジウムに日本からオンライン参加し、緊張が高まる中台関係で、「台湾への武力侵攻は日本に対する重大な危険を引き起こす。台湾有事は日本の有事であり、日米同盟の有事でもある。この点の認識を習近平主席は断じて見誤るべきではない」と語った。(朝日11月2日)

これに対して中国外務省は「中国内政に粗暴に干渉するものであり、日本は歴史を反省し台湾独立勢力に誤ったシグナルを送ってはならない」と強く抗議した。

日本は1895年に、清国内の不統一に乗じて日清戦争に勝利し、台湾を割譲させた。その 続きを読む

緊急警告056号 教科書への政府介入を許すな

文部科学省は9月8日、慰安婦問題や第2次大戦中の朝鮮半島からの徴用を巡る教科書の記述について、教科書会社5社から「従軍慰安婦」「強制連行」との記述の削除や変更の訂正申請があり、同日付で承認したと明らかにした。政府は4月、「従軍慰安婦」という表現は誤解を招く恐れがあるとして、単に「慰安婦」とするのが適切とする答弁書を閣議決定。朝鮮半島から日本本土への労働者の動員を「強制連行」とひとくくりにする表現も適切でないとした。(2021.09.08日経新聞電子版)

 菅内閣は、2021年4月27日の定例閣議において、日本維新の会、馬場伸幸議員の「従軍慰安婦」や「強制連行」「強制労働」という表現の不適切性を訴えた質問主意書をそのまま是認した答弁書で、「従軍慰安婦」は単に「慰安婦」、「強制連行」は「徴用」の 続きを読む

緊急警告055号「旧優生保護法」による人権侵害被害者への国家賠償を実施せよ

 2021年8月3日、神戸地裁は旧優生保護法(以下「旧法」)の下で、障碍を理由に不妊手術(以下「優生手術」)を強制的に実施された5人の国家賠償(以下「国賠」)訴訟の判決で、旧法を違憲(憲法13条、14条、24条違反)と指摘し、国会議員が速やかに優生条項を改廃しなかった「立法不作為」を違法とする初めての判断を示し、原告に憲法17条で保障された国賠請求の権利があることを認めた。ただし、不法行為から20年が経過すれば請求権が消滅するという民法の除斥期間が経過していることを理由に国賠は却下した。(2021.08.04朝日新聞)

 旧法は、らい予防法と同じく、国家による人権侵害を正当化してきた悪法である。旧法が施行されたのは1948年であり、「基本的人権の尊重」を高らかに謳った日本国憲法が施行された1947年の翌年であ 続きを読む