緊急警告067号 福島第1事故原発トリチウム汚染水の海洋投棄をやめよ!

下記のPDF→緊急警告067号

 政府は、3・11東日本大震災でメルトダウン事故を起こした福島第1原発の放射能汚染水を「処理水」と言い換え、今夏、地元漁協を始め、国内外の反対を押し切ってでも海洋放出する構えである。

 政府・東電は、ALPS(多核種除去設備)によってトリチウム以外の大半の放射性物質を除去した上、海水で薄め「国際基準」を満たして放出するので安全である、と主張する。そして、「風評被害」だけが問題なのだと言う。

 こうした政府・東電の主張を後押しし、お墨付きを与えているのが国際原子力機関(IAEA)であり、原子力発電を推進する学者・専門家たちである。IAEAは「包括的報告書」において、ALPS処理水の放出は、「国際安全基準」に合致し、「人及び環境に対する放射線影響は無視できるほどである」と結論付けている。(但し、IAEAは用心深く、「処理水」の放出は「推奨するものでも、支持するものでもない」と付け加えている。日本の「原子力規制委員会」が原発の再稼働をめぐって合格判定を出しながら、「安全を保証するものではない」と言っていることとよく似ている。)

 このようなIAEAや原発推進の学者・専門家たちの主張は、トリチウムという放射性物質を自然界にもある人体や環境にまったく無害な物質と見なしている、ということである。その上で、除去した大半の放射性物質はわずかに残存するが、それは「無視できるほどである」と言うのである。

 原発推進側としては、トリチウム水が無害であると主張する以外に選択肢はない。なぜなら、通常運転している世界中の原発から一瞬も止むことなく膨大なトリチウム汚染水を海や河川に垂れ流しているからである。これを安全とするのが「国際基準」だからである。

 その意味では、中国政府や韓国野党が福島第1原発汚染水の海洋放出に抗議し強く反対を表明しているが、日本報道の限りでは、自国の原発から排出している大量のトリチウム汚染水を棚上げしているかのような印象はぬぐえない。中国政府がトリチウム汚染水について、IAEAや日本政府と同じ見解に立っているとしたなら、「政治利用」のそしりはまぬがれない。とは言え、近年の日本の有り様は、官民含めて事実の隠蔽、データ改竄等の不正が横行しているのであるから、ALPSによって「大半の放射性物質を除去」したと言われても信用できない、「処理水」にはトリチウム以外の危険な放射性物質が含まれているのではないか、という疑念があって当然であろう。増して東電もIAEAも完全に除去出来ているとは言っておらず、その危険性は「無視できるレベル」と言っているからである。

 しかし、ここで問題としたいのは、トリチウムである。はたしてトリチウムは、日本政府や原子力発電推進の学者・専門家が言うような、人体にも環境にも無害な物質なのか、ということである。この「無害」という見地に立つ限り、「処理水」に対する危険視は、すべて「科学的根拠」のない、「風評」を生み出すものでしかない、ということになる。

マスコミの報道も、この「無害」という見地を受け入れ、もしくは忖度し、「風評被害」説一色である。だが、トリチウムの危険性については、少数とは言え、有力な学者・研究者がその危険性に警鐘を鳴らしている。

 例えば、分子生物学者の河田昌東氏は、「トリチウム汚染水の海洋放出 何が問題か――風評被害でなく実害をもたらす」との論文*1で「β線はエネルギーが小さく影響が小さい、というのが生物を知らない原子力村の専門家たちの主張である」、トリチウム水は「体内に入ると様々な生化学反応に関わる」、「DNAに結合したトリチウムがヘリウムに変わるとDNAが壊れる」と述べている。

 医師の西尾正道氏(北海道がんセンター名誉院長)は「トリチウムの健康被害について」の論文*2で、河田氏と同様、体内に取り込んだトリチウムの人体影響について詳しく解説している。さらに原発通常運転時の周辺住民への健康被害の実態について、疫学調査データに基づいて警鐘を鳴らしている。

 ノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊氏は、長谷川晃氏(マックスウエル賞受賞者)と共に、2003年、当時の小泉純一郎首相宛に、「良識ある専門知識を持つ物理学者として、トリチウムを燃料とする核融合は極めて危険で、中止してほしい」との「嘆願書」*3を出している。 

 政府やマスコミ、原子力学界もこうした学者・研究者の学説を知らないはずがない。しかしマスコミも原子力学界も政府も電力業界も、こうした学説を取り上げ検証することもなく、反論もせず、ひたすら無視を決め込んでいる。明らかに不都合な真実だからであろう。

 こうした良心的な科学者の警鐘に耳を貸さず、真実を国民に知らせず、人体にも環境にも被害をもたらす放射能汚染水を「処理水」と言い換え、あたかも無害であるかのように宣伝して海洋に放出するなど、許されることではない。

 こうして見ると、トリチウム汚染水の問題は、決してメルトダウン事故を起こした福島第1原発だけの問題ではなく、通常運転しているすべての原発汚染水に共通する問題であることがわかる。世界中の原発は稼働してはならない、ということである。それ故、政府も電力各社もIAEAも原子力発電推進の学界も、福島原発の「処理水」が有害な放射性物質を含んだものであるということを何があっても認めるわけにはいかないのである。

 それは現在の既得権益を護持することに汲々として、結果として、未来の地球環境がどうなろうと、人間を含む全ての生物の未来がどうなろうと知ったことではない、というきわめて無責任なものである。日本国憲法に照らして言えば、憲法25条の「生存権」に抵触する行為でもある。

 それでは福島第1原発の敷地に満杯となった汚染水タンクの処理をどうすべきか。前述の河田氏は同論文で、トリチウム水は処理できるとし、その方法は研究者や企業によって開発され提案もされているが、垂れ流しに比べて費用が大きくかかるため東電と国は無視している、と述べている。そうであるなら、まず海洋放出を止め、新たな敷地を確保しつつトリチウム水の分離に集中し容積の減少を図るべきである。そして、他の放射性核種と同様、陸上保管すべきである。メルトダウン事故を起こした原発だからこそ、世界に先駆けて実践すべきである。

 日本政府は、福島第1事故原発トリチウム汚染水の海洋投棄を絶対にしてはならない。

(2023年8月6日) 

*1 河田昌東 トリチウム汚染水の海洋放出  何が問題か~風評被害でなく実害をもたらす~

http://peacephilosophy.blogspot.com/2023/05/what-is-problem-with-release-of-tritium.html

*2 西尾正道 『トリチウムの健康被害について』

http://www.com-info.org/medical.php?ima_20181211_nishio

*3 小柴昌俊 「嘆願書」

http://kurionet.web.fc2.com/tangan20030310.html

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