柳澤 修
今年1月9日、陸上自衛隊の小林弘樹・陸上幕僚副長(陸将)が東京・九段の靖国神社を陸自幹部らと集団で参拝したことが分かった。その後昨年5月17日に、海上自衛隊の練習艦隊司令官・今野泰樹海将補はじめ、一般幹部候補生課程を修了した初級幹部ら165人が集団参拝したことも判明した。
1974年の事務次官通達では「神祠(しんし)、仏堂、その他宗教上の礼拝所に対して部隊参拝すること」などを「厳に慎むべきである」としている。
しかし、防衛省は陸自の集団参拝について調査結果を発表し、「おのおのの自由意思に基づき私人として行った私的参拝」と認定。上記の次官通達に違反しないとした。同じく海自の集団参拝について酒井良海・海上幕僚長は、「研修の合間に個人が自由意思のもとで私的に参拝した」とし、「問題視することもなく、調査する方針もない」と会見で述べた。
結果的に、陸自幹部が公用車を使って参拝したことが問題視され、参拝した幹部3人が訓戒の処分を受けたが、集団参拝自体は事務次官通達違反とはしていないのだ。
最も強力な暴力装置としての自衛隊幹部の思考に恐ろしさを禁じ得ない。事務次官通達以前に、日本国憲法20条を何ら理解していないことに恐ろしさを感じる。
憲法20条
信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。 いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政 治上の権力を行使してはならない。
2 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
3 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。
防衛省や制服組幕僚幹部は、「私人」を強調するが、上意下達が最も徹底された組織である自衛隊にあって、上からの命令や計画は至上であり、自由意思が許される範囲は極めて少ない。現にいずれの集団参拝も厳密な計画があったのだ。それにも関わらず、正々堂々と「私人」だの「自由意思」だのと都合のいい言葉を持ち出して、参拝を正当化するのはもってのほかである。
こうした防衛省・自衛隊の傲慢さは、安倍政権以降の、集団的自衛権の容認や敵基地攻撃能力の保有など、憲法無視の政治が大いに影響を与えている。アメリカ一辺倒の外交・軍事政策により台湾有事などを盛んに煽り、「新しい戦前」に対処するには、軍国主義の精神的支柱として国民を戦争に動員する役割を果たした靖国神社がもってこいの存在なのだ。
また、靖国神社と自衛隊の緊密な関係は、4月1日から第14代宮司に元海将であった大塚海夫氏が就任することからも証明された。
前記したように、自衛隊は現在の日本で最も強力な暴力装置である。「文民統制が徹底されているから心配ない」と考えるのは、もしかしたら甘い考えかもしれない。制服組の幹部がこうした憲法認識しか持っていない組織には、大いなる危険が存在するのではないか。
こんな考えが杞憂であってくれればそれに越したことはないのだが。
(2024年3月21日)