1月11日、緊迫する中東海域に向けて、海上自衛隊のP3C哨戒機2機が第1陣(60人)として派遣された。第2陣の護衛艦「たかなみ」(200人)は2月2日に派遣される。
トランプ大統領の命により米軍がイラン革命防衛隊のソレイマニ司令官を空爆によって殺害、これに対する報復としてイランがイラクの米軍基地への弾道ミサイル攻撃を行うなど、全面的な戦争に発展しかねない緊迫した情勢下での自衛隊の海外派遣である。
安倍政権の安保法制強行により自衛隊の海外派遣が常態化する危険が危惧されていたとは言え、よりによって遠く7000キロも離れた中東に、それも一触即発の危機をはらむ中東海域への派遣である。まさに危惧が現実化し始めたのである。
一体何を根拠に、何を目的としてこのような暴挙が行なわれ、開始されようとしているのか。安倍政権は昨年12月、防衛省設置法第4条(所掌事務規定)に基づく「調査及び研究」を法的根拠として海上自衛隊中東派遣の閣議決定を行った。
トランプ政権による一方的な「イラン核合意」離脱から始まったイラン敵視政策が今回の危機の原因であるにもかかわらず、この危機を根拠としてイラン包囲網としての「有志連合」を形成し、日本もこれに参加すべしとの圧力をかけてきた。これに応えたのが先の安倍内閣の「閣議決定」である。
石油の大半をイランからの輸入に頼っている日本は、この「有志連合」には参加しないとしつつも、「調査及び研究」を名目として自衛隊を現地に派遣し、かつ、「有志連合」司令部には自衛官を派遣し緊密に連携を取るとしていることからして、これは事実上の「有志連合」への参加と言わなければならない。安倍政権得意の言い換え、二枚舌である。
問題は、事実上の軍隊である自衛隊の、場合によっては戦闘に巻き込まれるかも知れない緊迫した地域への海外派遣を、国権の最高機関である国会の審議にもかけず、一内閣の閣議決定で行っていることである。国民はこれを黙認し放置してはなるまい。
アメリカ軍を中心とする「有志連合」によるイラン包囲網は、明らかな「武力による威嚇」であり、これに事実上の一員として参加する自衛隊中東派遣は、憲法前文の平和主義と「……武力による威嚇又は武力の行使は国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」とした憲法9条に明確に違反するものと言わなければならない。
また、今回の自衛隊中東派遣の法的根拠を、防衛省設置法第4条に基づく「調査及び研究」とすることも間違っている。と言うより、意図的な悪用である。
日本弁護士連合会会長声明(「中東海域への自衛隊派遣に反対する会長声明」2019年12月27日)https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2019/191227.html
が指摘するように、防衛省設置法第5条は、「自衛隊の任務、自衛隊の部隊及び機関の組織及び編成、自衛隊に関する指揮監督、自衛隊の行動及び権限等は、自衛隊法(これに基づく命令を含む。)の定めるところによる」と定めているのであり、その運用は「自衛隊法」に基かなければならない。それを自衛隊法に基づかず、防衛省設置法4条の「調査及び研究」を根拠に行うのは、明らかな法律違反である。
そしてこの4条の「調査及び研究」が根拠法として適用可能とするならば、「自衛隊の活動に対する歯止めがなくなり、憲法で国家機関を縛るという立憲主義の趣旨に反する危険性がある」(同会長声明)とも指摘している。
イランのイラク米軍基地へのミサイル報復攻撃に対して、トランプ大統領がいったん抑制的な対応をとったことによって、全面戦争への危機が一時的に回避されたとは言え、偶発的な戦闘がいつ起きてもおかしくないのが現地の情勢である。とりわけ、イスラエルがアメリカ軍の背後でどのような動きをするのかが懸念される。そして日本がこの戦闘に巻き込まれるとするならば、「集団的自衛権」の行使という事態(それは安倍政権にとって望むところかも知れないが)にまで発展しかねないのである。
専守防衛に徹し、中東への自衛隊派遣は即時中止すべきである。(2020年1月13日)