緊急警告075号   政府と国会は早急な再審法の改正を図り、冤罪被害者を救済せよ

2024年9月、静岡地裁は袴田巌氏に対し、58年ぶりとなる再審無罪判決を言い渡した。さらに2025年7月には、福井女子中学生殺人事件において、前川彰司氏が再審無罪判決を受けた(8月1日、検察は上告せず再審無罪が確定)。

いずれも、警察・検察による証拠の捏造や隠蔽、そして裁判所による警察・検察を無批判的に追認する判決が長期の冤罪を生んだ典型例である。これらの事件は、刑事司法制度の構造的欠陥を浮き彫りにし、再審制度の抜本的な見直しを迫るものである。

冤罪の構造と再審制度の限界

袴田事件では、捜査機関が「みそタンクから発見された衣類」を犯行着衣と断定し、死刑判決の根拠とした。しかし後年の再現実験により、血痕の色や衣類のサイズに不自然な点が多く、捏造の可能性が極めて高いと判断された。福井事件でも、証人供述の信用性が再審で否定され、警察官による証人への金銭供与や検察官による証拠隠しが判決文で厳しく批判された。

これらの事件に共通するのは、捜査機関の「無謬性神話」に基づく証拠操作と、それを無批判に受け入れる裁判所の姿勢である。再審制度は本来、確定判決の誤りを是正するための救済手段であるが、現行法では証拠開示義務が明文化されておらず、検察が有利な証拠のみを選別して提出することが可能となっている。また、再審開始決定に対して検察が異議申立てできる制度も、再審の長期化と冤罪被害者の苦痛を助長している。

証拠開示の制度化の必要性

再審請求審において、検察が保管する証拠の全面開示は不可欠である。福井事件では、検察が「夜のヒットスタジオ」の放映日を誤認していたことを知りながら、それを隠して有罪主張を続けた事実が判決文で「不誠実で罪深い不正の所為」と断罪された。このような証拠隠しが再審の妨げとなる以上、証拠開示を裁判所が命令できる制度が必要である。

法務省は現在、法制審議会刑事法(再審関係)部会において、再審制度の見直しを進めている。7月15日の第4回会議では、証拠開示のルール化が主要論点として議論された。しかし、警察・検察は証拠開示に否定的な姿勢を示しており、制度化には強い抵抗が予想される。

検察の異議申立て禁止と迅速な救済

袴田事件では、再審開始決定が東京高裁で取り消され、さらに最高裁で差し戻されるなど、再審開始までに約10年を要した。この遅延の主因は、検察による異議申立て(即時抗告・特別抗告)の存在である。再審開始決定は、確定判決の誤りを是認する重大な判断であり、検察がこれに対して異議申立てを行うことは、冤罪被害者の救済を著しく妨げる。

福井事件でも、第一審の再審開始決定が検察の異議申立てにより覆され、再審公判に至るまで13年以上を要した。このような事例は、再審制度が本来の目的を果たしていないことを示している。再審開始決定に対する検察の不服申立てを禁止する法改正が急務である。

再審法改正に向けた展望

現在、法務省主導の法制審議会とは別に、超党派の議員連盟による再審法改正案(*1)も国会に提出されている。この改正案では、証拠開示の制度化、異議申立ての禁止、裁判官の除斥・忌避制度の整備などが盛り込まれており、冤罪救済に資する内容となっている。

しかし、法制審議会では14項目もの論点が提示されており、議論の長期化が懸念される。冤罪被害者の救済は一刻を争う課題であり、議論の先延ばしは許されない。法務省は来春にも法案提出を目指しているが、国会は臨時国会での速やかな審議と成立を図るべきである。

(*1)超党派議員連盟には与党を含む国会議員の半数超が参加し、刑事訴訟法改正案をまとめたが、自民党は党内の意見がまとまらず、維新を除く野党6党が法案提出。

 

袴田事件と福井事件は、刑事司法制度の根本的な欠陥を示す象徴的な事例である。捜査機関による証拠の捏造・隠蔽、裁判所の無批判な追認、そして再審制度の不備が、冤罪を長期化させた。これらの教訓を踏まえ、再審請求審における証拠開示の制度化と、再審開始決定に対する異議申立ての禁止を柱とする再審法改正が不可欠である。

刑事司法の信頼回復と冤罪被害者の救済のために、今こそ政府、国会が責任を果たすべき時である。

(2025年8月1日)

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