緊急警告074号  政府は違法な生活保護費減額を謝罪し、被害の回復を図れ

2025年6月27日、最高裁判所は2013年から2015年にかけて実施された生活保護費の最大10%減額措置について、「裁量権の逸脱・濫用」として違法と判断した。この判決は、生活保護制度の根幹に関わる歴史的な意義を持つものであり、憲法第25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の理念を再確認するものである。

しかしながら、政府および厚生労働省は原告に対する謝罪も補償も行っておらず、被害回復の道筋は未だ不透明である。このような行政の姿勢は、生活保護受給者に対する社会的バッシング感情と、それを政治的に利用した当時の政権の政策構造と密接に関係している。

生活保護費減額の背景と違法性

2012年の衆院選において、自民党は生活保護費の10%削減を公約に掲げて政権復帰を果たした。安倍政権はこれを実行に移し、厚労省は「デフレ調整」や「ゆがみ調整」と称して、生活扶助(*1)基準を平均6.5%、最大10%引き下げ、3年間で約670億円の削減を実施した。しかし、これらの算定根拠は物価下落率を過大に見積もったものであり、生活保護世帯の実態を反映していない統計操作が行われていたことが判明している。

最高裁は、厚労省が専門的知見を欠いたまま、審議会にも諮らずに「2分の1処理」(*2)などの非合理的な手法を用いたことを問題視し、政策決定過程の透明性と合理性の欠如を厳しく批判した。この判決は、行政裁量の限界を示すとともに、生活保護制度の運用において専門性と説明責任が不可欠であることを明確にした。

(*1);生活保護には生活扶助、住宅扶助など8種類あるが、生活扶助費は「衣食その他日常生活の需要を満たすために必要な費用」で生活保護の根幹をなすもの。

(*2);世帯類型ごとの調整の程度を、統計データに基づかず一律半分にしたこと。

バッシング感情の形成とメディアの役割

生活保護費削減の政治的正当化には、生活保護受給者に対する社会的偏見の存在が不可欠であった。2012年には、人気芸能人の親族が生活保護を受給していたことが報道され、ワイドショーや週刊誌が「不正受給」キャンペーンを展開した。この報道は、生活保護制度に対する「ずるい」「甘えている」といった感情を煽り、制度利用者に対する差別と偏見を拡大させた。

こうしたバッシングは、実際には不正受給が全体の1%未満であるという事実を無視し、生活保護制度全体を否定する言説へと発展した。メディアは、生活保護受給者の生活実態を報じることなく、断片的な事例をセンセーショナルに取り上げることで、制度への不信と偏見を助長した。

政治的利用と制度改悪

生活保護バッシングの世論を背景に、2013年には生活保護法が改悪され、扶養義務の強化や申請時の調査権限の拡大が行われた。この改正は、制度の利用をさらに困難にし、申請を躊躇させる要因となった。一部自治体では「水際作戦」と呼ばれる申請妨害が常態化(*3)し、生活保護を必要とする人々が制度から排除される事態が発生した。

このような政策は、生活保護制度を「恩恵」ではなく「自己責任」の延長として位置づけるものであり、憲法が保障する生存権の理念に反する。生活保護制度は、社会保障の最後の砦であるにもかかわらず、政治的には財政削減の手段として利用され、弱者の権利が犠牲にされた。

(*3)寝屋川市「生活保護適正化ホットライン」設置、桐生市「生活保護利用者半減」等

政府の対応と制度の信頼性

最高裁判決後も、政府は原告に対する謝罪や補償を行っておらず、厚労省は審議会の設置を発表したものの、制度利用者への説明責任を果たしていない。このような対応は、行政の非誠実さを示すものであり、制度の信頼性を著しく損なう。

生活保護制度は、単なる救貧策ではなく、国民の権利として位置づけられるべきである。制度の運用においては、透明性と説明責任が不可欠であり、政策決定は生活実態に即したものでなければならない。今回の判決は、その原則を司法が明確に示したものであり、行政はこれを真摯に受け止めるべきである。

 

2013年から2015年にかけて行われた生活保護費の減額措置は、政治的意図に基づく恣意的な政策であり、社会的偏見を利用した制度改悪の典型例である。最高裁判決は、その違法性を明確に認定したが、政府の対応は依然として不誠実であり、制度の信頼回復には程遠い。

生活保護制度は、すべての人が人間らしく生きるための権利を保障するものである。バッシング感情に迎合する政治ではなく、権利としての社会保障を再構築するための制度改革が求められている。

政府は利用者の訴えと最高裁の判断を真摯に受け止め、過ちを謝罪し、200万人と言われる被害者の被害の回復を図れ。

(2025年7月30日)

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