緊急警告070号  石破政権は日米地位協定の改定に本気で取り組め

10月27日投開票の衆議院選挙で、与党自民党、公明党は大きく議席を減らして、過半数割れとなった。石破政権は議席を4倍増とした国民民主党に協力を要請し、これに応えて国民民主党は連携する意向を示しており、政権の性格が変わりつつある。裏金問題の責任をとって総裁選出馬を断念した岸田文雄首相の20%前後の支持率から、ご祝儀相場と言われる50%前後の支持率を頼みに衆議院解散に打って出たものの、裏金問題への国民の不信の大きさを見誤ったのが、この結果につながった最大の要因である。

そしてもう一つの要因が、安倍・菅・岸田政権時代の与党内野党的な、ある意味政権に批判的な主張を早々に引っ込めて、アベノミクスや岸田外交にも高評価を示すようになり、早期解散を否定したにもかかわらず、それを貫けなかった石破氏の弱腰な姿勢にもあるのではないかと考えられる。

石破氏が総裁選で訴えた課題の一つに、日米地位協定の改定問題がある。首相になったとたんに早々と「簡単ではない」と後ろ向きの態度をとったが、新内閣発足を機に、もう一度総裁選での自らの主張を貫いてほしい大きな課題である。

現在の「地位協定」は、1951年のサンフランシスコ講和条約調印と同日に結ばれた旧日米安保条約とセットの、日本における米軍基地と米軍関係者の権利を定めた「行政協定」を前身とする。旧安保条約、行政協定とも講和条約の陰に隠れてその実態が国民に知らされていなかったが、次第にその不平等性が明らかになり、1960年の安保反対闘争に結びついていく。講和条約により独立を回復した日本が、未だに米軍駐留により米国に占領され、東西冷戦下で戦争に巻き込まれる懸念が強いこと、米軍基地及び軍関係者の特権が大きく、治外法権的になっていることへの国民の反発から大規模な闘争になるが、岸信介政権の下、新安保条約と地位協定が国会で承認される。この安保改定の際、日本政府は行政協定の不平等性の解消を訴えた形跡はあるが、米国側にほとんどは拒否され、行政協定の内容がほぼ引き継がれ、現在に至っている。

では何故地位協定の改定が必要なのか、そして何故地位協定が改定されないのかを述べていきたい。

1.地位協定は全28条からなるが、条項毎の主な問題点は次の通りであり、極めて不平等な内容が含まれており、改定が必要である。

第1条(軍隊構成員等の定義)

・よく「軍属」という言葉が、米軍関係の犯罪で聞くことがある。軍属の定義は「米国民で軍隊に雇用され、勤務し、又はこれに随伴する者」とされるが、実際は民間企業に雇われ、又は請負契約した人間も拡大解釈されている実態があり、非常に曖昧な取扱いになっている。

第2条(基地の提供と返還)

・基地の提供と返還は日米の合意に基づくとされ、一見対等な関係とも取れるが、実際は行政協定終了時の基地で米国が必要とするものは、その使用が合意されたとみなしている。自治体がいくら返還を希望しても、実現できない。沖縄の普天間基地が典型で、都市の真ん中の危険な基地の返還を望んでも、米軍の満足する代替地を用意しなければ返還されない。また、米国は日本の何処にでも米軍基地を作れることになっている。これは「全土基地方式」と呼ばれる。

ちなみに日本の米軍基地は、1952年:2,824件・1,351㎢ → 2020年:78件・263㎢

263㎢のうち沖縄県の基地面積は186㎢で、全体の約70%を占める。

第3条(基地内外の管理)

・基地内の管理は全て米軍が必要な措置を執り、基地外で米軍の要請があったときは、日本政府は必要な措置を執ることが定められている。要は基地内では治外法権、基地外にあっても日本は米軍の活動の支障のならないよう考慮せよとの内容。米軍基地から発がん物質PFOSが流出したため基地内での立入調査を求めても拒否されたり、夜間飛行の騒音被害があっても補償は日本政府がするが、飛行を止められないなどの理不尽な事例が発生している。

第4条(返還、原状回復、補償)

・米軍基地は上記したように確かに減ってきたのは事実だが、60年安保闘争時の241件・335㎢からは、面積的な減少はほんのわずか。これは米軍の集約が進んだことを意味する。返還の際、例えば演習場であれば不発弾が残り、基地では汚染物質が残り、使い道のない施設も残るが、原状回復義務を米国は負わないという取り決め。除去作業には多大な費用が発生するがすべて日本が負担することになっている。

第5条(出入と移動)

・米軍の航空機や船舶は、基地以外の空港・港に着陸・入港できることになっていて、着陸料や入港料は免除され、航空法特例法(米軍のために特例法)によって米軍機は低空飛行も認められている。

第6条(航空交通等の協力)

・本条の文言は米軍機と日本の航空機の安全のために、航空管制を協調する云々の表現だが、25条で定義している合同委員会での合意により、横田空域と岩国空域については、米軍が管制を行うことになっている。これは世界的に見ても非常識なことで、屈辱的である。横田空域で言えば、東京、神奈川、静岡、山梨、長野、新潟にまたがる高さ7,000メートルに達する空域で、日本の航空機は米軍の許可がなければ飛行できない状況が続いている。

第9条(米軍人等の出入国)

・通常外国人の出入国管理は旅券・査証で日本が審査しますが、米軍の軍人・軍属・家族は基地に直接入って来て、全くノーチェック状態。基地関係の在日米国人が今現在何人いるか把握できない状況である。コロナ禍時に沖縄の米国人感染者が相当数に上っているニュースもあったが、感染者を特定できないのが実態だった。

第11条(関税と税関検査)~第13条(国税と地方税の支払い)

・広く税金が免除される特権を与えている。

第16条 日本国法令尊重義務

・この条項ほど有名無実な取り決めはない。地位協定自体が米軍の広範囲な特権や免除を定めており、日本国法令を「守らなくてもよい」と言っているのだ。したがって「遵守」ではなく、あくまで「尊重」で逃げているのである。

第17条(刑事裁判権)

・米軍関係者による事件・事故が発生した場合に、どちらに裁判権があるかを定めたもので、実際に発生すると、地位協定改定への訴えが高まる条項。過去の多くの事件・事故での理不尽な対応への抗議活動により、公務外の事件・事故については第一次裁判権が日本になっているが、公務中の事件・事故は米国側に第一次裁判権がある。公務中か否かの判断は米国側がするしかなく、多くが「公務中証明書」が出され、日本の当局はほとんど反論できない。公務中の事件・事故については実際に裁判が行われているかもわからず、公務外事件においても、殺人や性暴力などの重大事件以外は、日本側が起訴しないケースが多いのが実態。重大犯罪であっても、日本の当局が米国人を拘禁することができず、充分な取り調べができないケースもある。但し、拘禁については日本の「人質司法」問題があることも影響している。いずれにせよ、日本政府が米軍に強く抗議できない土壌が定着していることが最も大きな問題である。

第18条(民事請求権)

・民事についても公務中か公務外かで取り扱いが異なり、公務中か否かの判断は米国が行うこと、100%米国側に非があっても25%は日本が負担することになっている。更に騒音被害については100%日本側の負担となっている。米国側の言い分は「日米安保条約目的達成のための訓練であり、賠償すべきものではない」と拒否し、日本側も是認している。公務外の賠償についても、米国人の被告に補償能力がなければ米国が一部負担することもあるが、足りなければ日本側が負担する構図になっている。

第21条(経費の分担)

・地位協定ができた1960年代は、日米の圧倒的な経済格差を背景に、地位協定の文言通り、日本の分担は土地代(民公有地の賃借料)と各種補償料だけだったが、1970年代以降、おもいやり予算として分担範囲が広がり、1987年には「特別協定」を結び、日本人従業員の労務費や施設の光熱水費などが日本負担となり、更には特別協定を5年ごとに更新して、日本側の負担がますます大きくなっている。

第25条(合同委員会)

・地位協定でブラックボックスになっているのが日米合同委員会。地位協定の運用に関しての協議機関として存在するが、協議の中で合意されたこと、あるいは合意されなかったことが何なのかを記した議事録は非開示とされている。したがって、協議内容が開示されることがなく、密約の温床になっているのである。地位協定には膨大の数の密約(3,000~4,000)があると言われるが、それが国会の承認もなく、密室で決定されているのだ。例えていえば、国会の上に合同委員会があるのだ。合同委員会の日本側の代表は外務省北米局長で、米国側は駐留米軍幹部。官僚と軍人で密室の協議が行われ、政治家は蚊帳の外という組織。地位協定本文だけでなく、密約にも縛られた日本側にとっては、米国の要望を聞く機関となり下がっている可能性も大いにある。

以上、地位協定における問題点を記してきたが、このような実態を、2018年の沖縄県議会で翁長雄志知事(当時)は「日米地位協定が憲法の上にあって、日米合同委員会が国会の上にある」と語ったことがある。これは決して大げさではなく、実体として米国・米軍にものが言えない日本の姿を端的に表現したもので、未だに米国に植民地支配されているようなものである。理不尽ではなく屈辱である。

2.なぜ屈辱的な日米地位協定を改定できないのか。その理由として、次の事項がある。

  • 難解で不可解な条文、密約も多いので実態が不明
  • 日米合同委員会の合意内容が開示されず、改定のしようがない
  • 恣意的な運用が可能となっている
  • 改定に意欲を持つ外務官僚や政治家がいない、人材不足
  • 国民が無関心
  • 日米安保の揺らぎへの不安とリスク
  • アメリカが応じるはずがないというあきらめ

上記7項目のうち、特に大きな理由は「国民の無関心」と「日米安保の揺らぎへの不安とリスク」ではないかと考える。冒頭で取り上げたが、1960年安保闘争時は、独立を回復した日本には、特権を持つ米軍駐留への強い抵抗があったが、今は「米軍に守られている」という意識が浸透してしまい、「米軍がいなくなったら日本は危ない、米軍に守ってほしい」、「沖縄の人には悪いけど、我慢して」といった感情が定着してしまったのではないか。こうした国民感情が政治・外交にも影響を与え、米国追従外交に走り、独自外交が取れなくなっている。尖閣諸島が日米安保の対象地域であることを再三確認して一喜一憂するなどの恥ずべき外交がそれを証明している。そんな日本の弱味を米国は承知の上で、同盟国として遇する一方、他方では強硬な姿勢を示すのだ。

アメリカの国力が相対的に低下する今日、世界の警察官的役割を担えなくなっていることは、ウクライナ戦争やパレスチナ戦争が終結しないことが証明している。しかも、11月6日、次期米大統領がトランプ氏に確定した。アメリカファーストを掲げ、かつてNATO脱退まで口にし、自国優先思考が極めて強いトランプ氏は、日米同盟そのものの見直しを言ってくる可能性さえある。これまで通り対米追従オンリーでいったら、日本はとんでもない立場、即ち完全な対中防波堤にされてしまう。

地位協定の改定が「簡単ではない」ことは衆人が認めるところだが、その簡単ではないことに取り組むのが政権を担う者の責任でもある。過半数割れで、かつ党内基盤が弱い石破首相だが、だからこそ野党も巻き込んで、地位協定改定を内閣の使命として取り組まなければならない。

(2024年11月7日)

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