緊急警告061号  防衛費倍増による軍事大国への道を許すな

「岸田文雄首相は27日、自民党安全保障調査会長の小野寺五典元防衛相と官邸で会い、敵基地攻撃能力の保有などを求める党提言を受け取った。政府として結論を出す年末に向けて『与党の考え方を受け止めた上で、議論を進めていきたい』と述べ、公明党との調整を促した。提言は、日本を攻撃する相手国のミサイル発射拠点に加えて『指揮統制機能等』への攻撃を可能とする敵基地攻撃能力保有や、対国内総生産(GDP)比2%を念頭に置いた5年以内の防衛費増額などが柱。外交・防衛政策の長期指針『国家安全保障戦略』など3文書改定に合わせて、党がまとめた。」(2022年4月27日、東京新聞電子版)

ロシアのウクライナ侵攻を受け、欧米各国が軍事力こそ自国の安全保障にとって最も重要であるかのごとく、競ってその強化を叫んでいるなか、日本もその例外ではなく、特に政権を握る自民党内において、これに乗じた動きが盛り上がり、冒頭の記事はその典型的な危惧すべき事例である。

提言の主な内容は、次の通りである。

1.先制攻撃のイメージがある「敵基地攻撃能力」を、単に「反撃能力」という表現に変えて、敵基地や指揮統制機能を持つ施設を攻撃できる軍事能力を保有すること。

2.防衛費をGDPの2%以上まで引き上げ、5年以内に防衛力を抜本的に強化すること。

3.他国への武器供与に関する防衛装備品移転3原則を見直し、対象を拡大すること。

いずれも専守防衛に限られてきた防衛力の抜本的な転換を図る内容であるが、特にロシアのウクライナ侵攻以降に新たに出てきたのが、防衛費の倍増提案である。GDPの2%なら米国、中国に次ぐ世界第3位の防衛費となり、最早政府が今まで言っていた専守防衛のための「必要最低限の防衛力」から大きく逸脱し、世界的に見ても軍事大国とみなされる。ロシアのウクライナ侵攻以降、盛んにマスコミ等に登場する安倍晋三元首相などは、「日本が(防衛)予算を増やさないとなったら笑いものになる」(4月21日、日本戦略研究フォーラム主催シンポジウム)とまで言う始末だ。

防衛費(軍事費)を倍増すると言うが、一体その増額分はどこから捻出するのか、その根拠も示していない。結局こうした軍事費の増額分は、少子高齢化が進む日本において一層強化されなければならない社会保障費や教育費などの予算を削って捻出することになり、国民の生活をさらに圧迫することに直結するのである。

ロシアのウクライナ軍事侵攻による世界情勢の緊迫化を前に、日本は今重大な岐路にさしかかっている。一触即発の危機を煽りながら防衛費倍増の道に進むか、隣国との相互理解を深めて平和の道に進むかだ。

前者の道に進めば、絶えず隣国への敵意と憎悪をあおり、仮想敵国との軍備拡大競争に走らざるを得ない。軍備の拡大は、抑止力の確保を口実にして行われるが、常に相手の出方を伺いながら、戦々恐々として暮らしつつ、必ず戦争の暴発を招いたことは、歴史の教えるとおりだ。

戦争になれば、交戦両国は、甚大な人的物的な加害を競い、非人道的な惨状を眼前に展開しつつも、もはや後戻りできない。戦争に敗北すればもちろん、勝利しても、莫大な犠牲を払い、核戦争を予測すれば、交戦両国民は生き残れないかもしれない。

後者の道を選択する場合には、日本は過去におかした加害の歴史を反省することから始まるだろう。日本は中国の全土を侵略し、膨大な犠牲を強いた。そしてまた朝鮮を植民地支配したあげく、無謀な太平洋戦争に敗北し、その結果、朝鮮半島は南北に分断され、同胞相争う禍根をまねいている。その罪を償うためには、長い年月にわたり誠意を示さなければならない。それは日本の次世代へ、負担ではなく、幸福をもたらすものだ。

すなわち、二度とアジアの隣国と戦争をしないという幸福をまねくのだ。絶対に、戦争を開始してはならない。それがこの度のウクライナ戦争の教訓だ。日々のニュースは交戦両国の被害をなまなましく伝えている。この戦争は両国に何も利益を与えていない。戦争しないで平和に話し合う可能性はあったはずだ。

日中国交回復50周年を今秋むかえるに当り、中国、韓国、北朝鮮と相互理解を深めることを提案したい。かつて、アジアの共産化を防ぐためとして米国の開始したベトナム戦争は、米国の敗北に終わった。その後、両国は平和に共存している。何も戦争をする必要はなかったのだ。

敵意を煽って戦争を開始し、人殺しに血道をあげる努力に代えて、相互理解を図り、平和を守る努力こそ、最も人類に相応しい選択だ。我々は日本国憲法前文に書かれた崇高な精神を忘れてはならない。

日本国憲法前文(抄)

「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。

われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。」

(2022年5月1日)

 

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