2021年6月23日、最高裁大法廷は、夫婦同姓を強要する民法750条及び戸籍法74条1号が、憲法24条に違反するものではないとして、原告らの訴えを退けた。
原告である事実婚カップル3組の訴えは、それぞれが同意して別姓で婚姻届けを提出したが、役所が民法750条及び戸籍法74条により受理しなかったことから、憲法24条で保障された「婚姻の自由」及び「法の下の平等」を定めた憲法14条に反するとして、憲法判断を求めた訴訟である。
憲法24条は、第1項で「婚姻は両性の合意のみで成立し、夫婦が同等の権利を有する」とし、第2項で「婚姻に関する法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならない」としている。
しかしながら、民法750条は「夫または妻の氏を称する」ことを強要し、戸籍法74条は、「夫婦が称する氏の届出」を、法律婚の絶対条件としているのである。
民法及び戸籍法のこの規定は、明治憲法下で施行された法制度をそのまま継承しており、現憲法に違反する条文であることは明らかである。司法の最高機関である最高裁が、明治憲法下の家の思想から依然として脱却できず、現憲法に則った「婚姻の自由」を認めない民法及び戸籍法を「合憲」と判断するなど、あってはならないことである。
今や先進国で別姓の結婚を認めないのは日本だけと言われ、男女平等ランキングでも、世界で120位前後の低位にあり、ジェンダーギャップの解消が官・民のあらゆる分野で社会的課題となっている。にもかかわらず、日本の男女平等への動きは鈍いと言わざるを得ない。一例が1980年に日本も締結した国連の「女子差別撤廃条約」遵守への取り組みである。同条約は「姓を選択する権利」を明記し、締約国に夫と妻が個人的権利を確保するための適当な措置をとる義務を定めている。日本政府は、女子差別撤廃委員会により2016年、この義務の履行を要請する3度目の正式勧告を受けたが、これを全く無視し続けており、憲法24条2項の両性の平等の理念に反した行動をとり続けているのである。
政権保守層に代表される夫婦別姓否定派の主張する反対理由は、次の通りである。
いずれの理由も説得力に欠けるが、特に「伝統的な家族の絆」などは極めて曖昧である。
離婚率(年間の離婚数/婚姻数)は35%前後と、戦後一貫して増加傾向にあり、少子家族や子を持たない夫婦の増加、老親との別居など、夫婦・親子関係の構造的変化が続き、「伝統的な家族の絆」なるものの実態は極めて曖昧で、その定義すらはっきりしない。
また、「同意の上での同姓の選択」についても、現実問題として男性の姓を選ぶ割合が96%(2015年厚労省調査)という現状は、女性が男性に服従する関係が想起され、実体として男女平等ではなく、通称使用による公的手続等の支障は解消されない。
唯一、子供への影響について世論調査上最も憂慮されているが、これも法的に確立され、定着化していけば解消される問題である。
以上の通り、同姓支持派の主張には、選択的夫婦別姓の世論調査上の支持率が60~70%である事実や、現代社会の構造変化を何ら考慮されていないにもかかわらず、最高裁はこれを是認しているのである。
今回の大法廷判決は、裁判官15名中4名が違憲判断したものの、11名の多数意見は合憲。多数意見の内容は2015年の大法廷判決をほぼ引用したもので、6年間の社会の変化、具体的には女性の就業率の上昇、ジェンダーギャップ縮小に向けての官民の職場での女性管理職増や女性政治家比率向上などの動きに逆行して、違憲判断した裁判官は1名減少したという結果であった。
2015年の大法廷判決があったとは言え、これを覆すことができたはずである。しかし、最高裁は2015年判決を形式的に容認したのみで、2015年と同じく、国会にその議論を求めたのである。もちろん国会が立法機関として議論せねばならないのは当然であり、それを怠っていたという非はあるが、最高裁として自信をもって合憲判決を出すのであれば、三権分立の一角であり、憲法81条で与えられた最高裁判所の「違憲立法審査権」という、極めて大きく重要な権限・責務があるのであるから、国会に下駄(げた)を預けるような判決を出すべきではない。憲法81条は「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」と定めているからである。
国会はいわば政争の場であり、特に首相など政権与党の実力者の意向に強く影響される傾向が強い。現に安倍政権下においては、首相の戦前回帰的価値観から、議論の進展には限界があった。その意味で、こうした基本的人権にかかわる問題について、最高裁は国会に判断をゆだねてはならないのである。
夫婦の姓の問題は、個人のアイデンティーだけの問題ではなく、未だに日本社会に根強く存在する男女差別、特に所得格差による女性の生活権侵害にも通じる、極めて重要な要素を含んでいる。事実婚という法的に不安定な状態を選ばざるを得ないカップルの人権侵害解消はもとより、根本的な男女差別解消への大きな一歩と捉(とら)え、最高裁は「夫婦同姓」強要という人権侵害撤廃の責任を果たすべきであった。今回の不当判決に強く抗議する。
(2021年7月10日)