「元は、すべて、佐川理財局長の指示です。……謝っても、気が狂うほどの怖さと、辛さこんな人生って何?……」(赤木氏手記より)
森友問題で文書改竄(ざん)を命じられて自殺した故赤木俊夫氏(元近畿財務局職員)の妻が、故人の遺書と手記を公表し、財務省と当時理財局長であった佐川宣寿氏を損害賠償で提訴した。
今の司法自体が権力寄りで、国の大組織との戦いは極めて困難が伴うことは間違いないが、この訴訟を通して、改竄が行われた本当の理由が明らかになることを多くの国民が期待している。
安倍政権は、既に財務省内で調査し報告書を公開しているとして、再調査を拒否している。しかし、その後も「加計・桜・定年延長」など、政治の私物化と違法な文書管理が横行している現政権での内部調査結果を信じろと言われても、納得する人がどれだけいるか。しかも麻生財務相がトップという財務省内の調査が信じられる訳がない。
この財務省の調査報告書は全体的にトーンが甘く、赤木氏が記しているような、改竄への怒りや深い反省が感じられず、お手盛り感がぬぐえない。赤木氏の手記と比較して、以下のような相違や違和感がある。
① この案件は政治家などの各種干渉が多い特殊案件だったため、国有地売却交渉の主体が本省にあったことが明記されていない。
② 佐川局長が国会追及を気にして「改竄の方向性を決めた」としているが、これだけの改竄を行うためには強い権力による指示・命令があることは当然であり、その指示・命令が行われた根本原因が何ら記載されていない。
③ 本省担当者の疲弊を強調するが、最も迷惑をこうむった現場である近畿財務局担当者への謝罪がない。(赤木氏はこのために犠牲になった)
④ 赤木氏等、現場の改竄への抵抗と反発に対して、本省と近畿財務局幹部が「伝達」「相談」したとあるが、実際には本省の強い「指示」が行われていたことを赤木氏は記している。
⑤ 売却に至る応接記録の保存期間が1年未満文書で、契約完了後速やかに廃棄することがあたかも適正な処理であるかのような文言が並ぶが、こうした特殊取引ではむしろ廃棄してはならないという反省が見られない。
⑥ 決裁文書には政治家関与など特殊事項は本来書くべきでないというような姿勢がう
かがえる。
⑦ 佐川局長以下改竄にかかわった役人の懲戒処分が極めて甘く、公文書改ざんが犯罪で
あることの認識を欠いている。
⑧ 組織のトップが何ら責任を取っていない(安倍首相、麻生財務相など)。
ちなみに、お手盛りの調査で懲戒処分を受けた幹部役人の、現在の役職は次の通りである。
・佐川元理財局長 :停職3か月 →(処分前に国税局長官)処分後辞職
・中尾理財局次長 :戒告 →横浜税関長
・中村総務課長 :停職1か月 →駐イギリス公使
・富安国有財産企画課長:減給20%3か月→内閣官房内閣参事官
・田村国有財産審理室長:減給20%2か月→福岡財務支局理財部長
・太田前理財局長 :戒告 →主計局長
・美並近畿財務局長 :戒告 →東京国税局長
驚くべきことに、本省と近畿財務局トップはみんな栄転している。これは何を意味するのか。すべて安倍首相を守る為に頑張ったキャリア官僚に対する論巧行賞人事ではないか。これでは赤木氏が浮かばれない。
赤木氏は日頃、「僕の契約相手は国民です」と友人に話していたとのこと。これは憲法15条が定めた「公務員は全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」という公務員職務の基本中の基本だ。彼は憲法の実践者そのものだったからこそ、命令とは言え改竄に手を染めたという罪の意識にとらわれ、自ら責任をとったのだ。
森友問題に関わった政治家、公務員は赤木氏の訴えに真摯に答える責務がある。
調査報告書では「新たな事実が明らかになったら更に必要な対応を行う」旨記されている。政府は第三者による再調査をするべきであり、国会もまた追及を緩めず、国政調査権を行使していかなければならない。
(2020年3月23日)