韓国の文在寅大統領は、さる1月10日、年頭の記者会見で慰安婦問題に関する日韓合意について、「被害者を排除して政府間で条件をやりとりする方式では問題を解決できない」と、憲法裁判所によって弾劾され罷免された朴槿恵前政権を批判したうえで、日本に再交渉は求めないものの、「日本が真実を認め、心を尽くして謝罪し、教訓とするときに元慰安婦も日本を許すことができ、それが完全な慰安婦問題の解決だ」との見解を示した。
これに対し、安倍晋三首相は「韓国側が一方的にさらなる措置を求めることは全く受け入れられない。日本側は約束についてすべて誠意をもって実行している」と強く反発した。
だが2015年12月に日韓合意が結ばれた直後の16年1月、自民党の桜田義孝元文科副大臣が「(慰安婦は)職業としての売春婦だった」と発言し、党内でも問題とされた。翌2月の国連女性差別撤廃委員会で、外務省の審議官が「軍や官憲による強制連行を確認できるものはない」と述べ、委員から批判された。合意に基づいて設立された支援団体は安倍首相に元慰安婦へ謝罪の手紙を求めたが、首相は「毛頭考えていない」と拒否した。
国連女性差別撤廃委員会は翌3月、日本政府の取り組みはなお不十分と指摘。日韓合意を実行する際は、元慰安婦の意見に十分配慮するよう求めた。さらに翌17年5月、国連拷問禁止委員会は「被害者への補償や名誉回復、再発防止策が充分とはいえない」と指摘、合意の見直しを勧告した。
「慰安婦問題は、問題が浮上した90年代から一貫して人権問題だった。個人と国家の関係で問題が浮上したのに、国家と国家の関係で処理しようとした。これでは解決になるはずがない」という批判が日本の法学者から出ている。韓国政府の新しい方針は、国際的な人権保障の潮流を組み入れた形で慰安婦問題に取り組んでおり、国際人権法の流れに合致するものだ。
先の戦争中、米国で日系人が強制収容されるという人権侵害があったが、米国は日本政府でなく当事者を議会に呼んで謝罪した。日本政府が韓国政府を相手にして被害者個人を相手にしないこと自体、さらなる人権の侵害になる。
もともと謝罪する側が「最終的かつ不可逆的」とは、あまりにも傲慢で謝罪する姿勢とは到底言えない。たとえ補償金になどついて合意に達したとしても、謝罪する気持ちに終りがあってはならない。
安倍首相がBS朝日の番組収録で、慰安婦問題の日韓合意について「1ミリも動かすことはあり得ない」と述べたことについて、さる2月2日、自民党の二階俊博幹事長が、「国のトップが1ミリも動かさないと言ったら何も動かない……自分の主張だけで通るくらいなら、家の中で考えておればいい。そうはいかないところに外交の難しさがある」と批判した。
日本国憲法の3大原理の一つである「基本的人権の尊重(不可侵)」は隣国の被害者個人にも適用されなければならない。
安倍首相の加害者の立場を忘れたひとりよがりな態度は、日本国憲法前文の「われらは、いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」という戦前史の教訓を無視しており、最も近い隣国との友好を妨げ、重大な紛争の糸口になる恐れのあるものとして、強く警告する。