憲法改正案に対して国民が直接その賛否を問われる「国民投票」が現実味をおびてきている。来る7月参議院選において、自公与党と大阪維新の会などの改憲勢力が3分の2以上の議席を獲得するようなことになれば、すでに衆議院において自公の与党だけで3分の2以上の議席を有していることからして、憲法「改正」の発議は現実のものとなり、発議がなされれば、一気に「国民投票」が現実のものとなるからである。
国民投票は、主権者である国民が自ら改憲案に対して決着をつけるものであり、極めて重要な主権行使である。例え国会における3分の2以上の発議よるものであっても、この国民投票によって過半数の賛成(憲法第96条)を得られなければ、改憲案は否決されるのである。
それゆえ、この国民投票こそは改憲か護憲かの闘いの分岐点なのであり、護憲派が最も重視しなければならない闘いの天王山なのである。しかしながら、これほど重要な国民投票が、どのような法律に基づいて実施されるのかについて十分な関心が払われてきたとは言い難い現実がある。
「国民投票法」(正式名称:日本国憲法の改正手続きに関する法律)は2007年5月、第一次安倍内閣によって、民主党の修正案を否決したうえ、強行成立させられた法律である。この「国民投票法」がいかにずさんな、かつ、国民の主権行使を制限する違憲性を内包するものであったかは、18項目もの附帯決議が付けられたことに示されている。
その後、2014年6月に「国民投票法」の一部改正(選挙権年齢の満18歳への引き下げ、公務員の政治的行為の制限に関する特例等)がなされたが、「国民投票法」の持つ、本質的な問題性は残されたままである。
第一の問題点は、憲法改正という最重要問題において現「国民投票法」が最低投票率の規定を設けていないことである。
憲法第96条は、憲法改正の発議は衆参「各議院の総議員の三分の二以上の賛成」を要すると定めており、これを踏まえれば、憲法改正の正当性に疑義が生じないためには、国民投票は最低限、国民有権者の過半数が投票参加するものでなくてはならず、その重要性に鑑みれば、せめて60パーセント以上の投票率でなければならないはずである。2007年制定時附帯決議、2014年一部改正時附帯決議が共に低投票率により「憲法改正の正当性に疑義が生じないよう」最低投票率制度の検討を求めていることからも明らかである。
この最低投票率制度については、憲法にその明文規定がないことから不要との主張があるが、現憲法の趣旨に照らせば、憲法改正国民投票の実施に当たっては、最低投票率の定めは不可欠と言わねばならない。
第二の問題は、現「国民投票法」が国民の主権行使を制限し、基本的人権を侵害する条項を盛り込んでいることである。
「国民投票法」第103条1項は「国若しくは地方公共団体の公務員……は、その地位にあるために特に国民投票運動を効果的に行い得る影響力または便益を利用して、国民投票運動をすることができない」とし、2項は「教育者(学校教育法に規定する学校の長及び教員をいう)は、学校の児童、生徒及び学生に対する教育上の地位にあるために特に国民投票運動を効果的に行い得る影響力または便益を利用して、国民投票運動をすることができない」としている。
「その地位にあるために」という表現は、公務中における活動とは限定しておらず、一般職の公務員含め及びすべての教員は国民投票運動をしてはならない、とするもので、公務員や教員に対する基本的人権の侵害であり、主権行使の政治活動を制限するもので違憲である。すべての警察官への一律禁止規定(第102条6項)も同様である。
まして公務員は、憲法の「尊重・擁護義務」(第99条)を負っているのであり、この「尊重・擁護義務」に基づく現憲法擁護の国民投票運動を禁止するのは、二重の意味で違憲と言わなければならない。
「国民投票法」の一部改正において、第100条の2として、「公務員は……国会が憲法改正を発議した日から国民投票の期日までの間、国民投票運動(……)及び憲法改正に関する意見の表明をすることができる。ただし、政治的行為禁止規定により禁止されている他の政治的行為を伴う場合は、この限りでない」との条項が追加されたことによって、公務員の国民投票運動に対する禁止規定がなくなったかのような報道がなされた。確かにこの条項が一定の歯止めの役割を果たすことはあり得るが、103条1項、2項が削除されたわけではなく、依然として残っていることは指摘しておかねばならない。
第三の問題は、「国民投票の期日」の問題である。第2条は「国民投票は、国会が憲法改正を発議した日から起算して60日以後180日以内において、国会の議決した期日に行う」としている。問題なのは60日という短期間の設定である。憲法改正という重要問題について、全国民的な議論を重ねる期間としてはあまりに短すぎると言わなければならない。
第四の問題は、憲法改正案成立要件の問題である。第82条は白票を無効投票とした上、第98条2項において投票総数を「憲法改正案に対する賛成の投票の数及び反対の投票の数を合計したもの」として、白票と無効投票を投票総数に加えず、意図的に賛成過半数のハードルを引き下げていることである。実施にあたっては、この規定の改正も不可欠である。
その他、細かくはあるが重要な問題点が数多くあるのだが、国民投票法の一部改定時の附則4については、労働組合を対象にしたものとして注目しておかなければならない。
附則4は「法制上の措置」として、「国はこの法律の施行後速やかに、公務員の政治的中立性及び公務の公正性を確保する等の観点から、国民投票運動に関し、組織により行われる勧誘運動、署名運動及び示威運動の公務員による企画、主宰及び指導並びにこれらに類する行為に対する規制の在り方について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとする」としている。このような反民主主義的規制を許してはならない。
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