昨年12月に予定されていた「表現の自由」に関する国連特別報告者による訪日調査が、日本政府の要請により、直前になって延期された。デービッド・ケイ氏は国連人権理事会で「表現の自由」問題を担当する特別報告者で、2013年12月6日に成立した特定秘密保護法の現状などについて調査するため、昨年12月1日から8日まで日本を公式訪問することが決まっていた。ところが、訪日予定日直前の11月13日になって日本政府が突然ケイ氏に訪問延期を申し入れたのである。政府は表向き、「ケイ氏の受け入れ準備が整っていない」ことを延期の理由に挙げているが、藤田早苗・英エセックス大学人権センターフェローによると、国連の公式訪問を政府が承諾した後でドタキャンするというのは極めてまれであり、「まるで途上国の独裁国家。民主国家ではありえない」と批判した。しかも政府は今秋以降の日程を提案したとされ、参院選前に批判的な勧告を受けたくないという意図が見え見えである。しかし、ケイ氏の訪日調査をドタキャンしたことで、「表現の自由」に問題性があることを日本政府が自ら告白したのも同然である。
そもそも、特定秘密保護法の成立前後には、情報公開に関する国際原則を定めた米オープン・ソサエティー財団が、同法を「21世紀の民主主義国家で最悪レベル」と批判声明を出すなど、国内外の人権団体や法律家団体・学者・作家・地方議会・国際機関等から「報道の自由を制約し、国民の『知る権利』を阻害する」といった無数の抗議声明が出されていた。ケイ氏の前任者であるフランク・ラ・ルー氏も同法案成立前の13年11月、「情報を秘密と特定する根拠が極めて広範囲で曖昧。内部告発者やジャーナリストに対して重大な懸念をはらんでいる」との声明を発表している。国連人権高等弁務官ナビ・ピレイ氏も翌12月2日、記者会見で「政府がどんな不都合な情報でも秘密として認定できてしまう」との懸念を表明、日本政府との対話を要望したが、結局、ピレイ氏と日本政府との対話は実現していない。
また、国際ジャーナリスト団体「国境なき記者団」が毎年発表する「報道の自由度ランキング」では、日本の順位は安倍政権になってから急降下を続けており、(民主党政権下の2010年の11位から)2013年には53位、2014年に59位、さらに2015年には過去最低の61位にまで低落した。同記者団は特定秘密保護法によって報道の自由が奪われたと指摘している。あらためて「特定秘密保護法」の違憲性を指摘しなければならない。
安倍政権下では、数々の報道圧力問題が明るみに出ているほか、言論・集会など「表現の自由」に関わる自主規制などの委縮現象が起きている。こうした中で明るみに出た今回の日本政府による「表現の自由」特別報告者の訪日延期要請は、安倍政権が、「表現の自由」(憲法21条)の「尊重擁護義務」(同99条)を果たしていないことを自己暴露したのみならず、国連憲章に定められた協力義務という「締結した条約」の「誠実遵守義務」(同98条2項)に違反していることも意味している。