緊急警告078号 生活保護費違法減額補償、政府は厚労省方針を再考せよ

当会「緊急警告074号」で発信した通り、2013年から2015年にかけて行われた生活保護費の大幅減額は、最高裁により違法と断じられた。社会保障の根幹である最低生活保障を損なった政策判断が司法により是正されたことは当然である。しかし、それを受けた厚生労働省の補償方針は、司法判断の重みを真摯に受け止めたものとは言いがたい。

厚労省は、当時の引き下げの根拠となった「ゆがみ調整」については、最高裁も違法ではないと判断したためそのまま維持し、「デフレ調整」部分のみ引き下げ幅を見直す。新たに算出される減額された基準額に“足りない部分”(当時のデフレ調整額の半額程度)だけを受給者に支払うというもの。加えて、訴訟に名を連ねた原告に対してのみ、デフレ調整分の全額を「特別給付金」として支給するというのである。
これでは、違法とされた政策を根本から是正したとは到底言えない。

補償の本旨は何か。国の違法な行政処分によって、弱者の生活が脅かされ、権利が侵害されたことを回復することである。にもかかわらず、新たな試算基準を設けて補償額を圧縮し、全面的な差額補填を避ける今回の対応は、「必要最小限だけ支払う」という姿勢が透けて見える。政策判断の誤りに対する反省よりも、財政的影響の抑制が優先されたと疑われても仕方がない。

さらに看過できないのは、原告とそれ以外の受給者を分断する制度設計である。原告には全額、その他の受給者には一部のみ──。同じ違法処分にさらされた人々の間に明確な線引きを持ち込むことで、連帯を損ない、当事者同士の不信を生みかねない。原告にならなくても、訴訟を積極的に支援した受給者は数知れない。弱い立場にある人々のあいだに“自己責任”の視線を持ち込むことは、政策としても倫理としても不適切である。

こうした対応の背後に、社会に根強く存在する生活保護への偏見が影を落としてはいないか。「受給者にはできるだけ支給を抑えるべきだ」「努力不足の者を甘やかすべきではない」。こうした世論を意識した行政運営が、過度な引き下げを正当化し、今回の補償の消極性にもつながったとすれば、それは社会保障制度の土台そのものを揺るがす。

生活保護は憲法が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を支える最後のセーフティネットである。これは国民への“慈善”ではなく“権利”である。本来行政は、その権利が侵害されたとき、最も徹底して回復を図らねばならない立場であるはずだ。違法判断を受けてもなお補償を限定し、受給者間に格差を設ける今回の決定は、制度への信頼を失わせ、困窮者に声を上げることさえためらわせる。

司法が示した判断の重みを真に受け止めるなら、まず必要なのは、違法な引き下げによって失われた生活水準を全面的に回復させることである。次に求められるのは、政策立案における生活保護バッシングの影響を排し、生活困窮者の人権を中心に据える行政運営への転換である。

国の政策が誤ったとき、その誤りを覆い隠すか、正すか。その姿勢は国の成熟を映し出す鏡でもある。政府は今回の厚労省の方針を再考し、司法判断の意味と、最も弱い立場の人々を守る制度の責任を改めて見つめ直すべきだ。

(2025年11月26日)

緊急警告077号 「台湾有事は存立危機事態」発言、高市首相は直ちに撤回せよ

2025年11月7日の衆議院予算委員会で、高市早苗首相が「台湾有事は存立危機事態になり得る」と言及したことから、内政問題に言及したとして、中国が強く反発し、日本への渡航自粛を呼びかけるなど、日中の外交的緊張が一気に高まった。事態は、単なる発言の是非を超え、日中関係の今後を左右しかねない局面に差し掛かっている。

2015年安倍政権の下、安保関連法制によって憲法違反の疑いがある「集団的自衛権」が一部容認された。しかし、その一部とは極めて限定的で、「存立危機事態」即ち、「他国が武力攻撃を受け、日本の存立と国民の基本的権利が根底から覆される明白な危険がある場合」にのみ武力行使できるというのが、従来の集団的自衛権の行使を容認する枠組みだ。したがって、「存立危機事態」の認定は極めて例外的措置であり、政治の判断には最大限の抑制が求められてきた。 続きを読む

緊急警告076号  自民・維新連立を選択した高市政権の右傾化を危惧する

2025年10月21日、臨時国会が召集され、高市早苗自民党総裁が首相に選出された。

10月4日に自民党総裁選で選出されてから2週間の政局を経ての首班指名にようやくたどり着く。

2025年10月4日、自民党総裁選で、党内最右派と目される高市早苗氏が総裁に選出された。安倍晋三氏の後継者を自認し、日頃から右派的な言動を繰り返してきたことから、護憲・リベラル派からは最も警戒される人物であるが、早速党の幹部人事でその傾向が現われる。 続きを読む

緊急警告075号   政府と国会は早急な再審法の改正を図り、冤罪被害者を救済せよ

2024年9月、静岡地裁は袴田巌氏に対し、58年ぶりとなる再審無罪判決を言い渡した。さらに2025年7月には、福井女子中学生殺人事件において、前川彰司氏が再審無罪判決を受けた(8月1日、検察は上告せず再審無罪が確定)。

いずれも、警察・検察による証拠の捏造や隠蔽、そして裁判所による警察・検察を無批判的に追認する判決が長期の冤罪を生んだ典型例である。これらの事件は、刑事司法制度の構造的欠陥を浮き彫りにし、再審制度の抜本的な見直しを迫るものである。

冤罪の構造と再審制度の限界

袴田事件では、捜査機関が「みそタンクから発見された衣類」を犯行着衣と断定し、死刑判決の根拠とした。しかし後年の再現実験により、血痕の色や衣類のサイズに不自然な点が多く、捏造の可能性が極めて高いと判断された。福井事件でも、 続きを読む

緊急警告074号  政府は違法な生活保護費減額を謝罪し、被害の回復を図れ

2025年6月27日、最高裁判所は2013年から2015年にかけて実施された生活保護費の最大10%減額措置について、「裁量権の逸脱・濫用」として違法と判断した。この判決は、生活保護制度の根幹に関わる歴史的な意義を持つものであり、憲法第25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の理念を再確認するものである。

しかしながら、政府および厚生労働省は原告に対する謝罪も補償も行っておらず、被害回復の道筋は未だ不透明である。このような行政の姿勢は、生活保護受給者に対する社会的バッシング感情と、それを政治的に利用した当時の政権の政策構造と密接に関係している。

生活保護費減額の背景と違法性

2012年の衆院選において、自民党は生活保護費の10%削減を公約に掲げて政権復帰を果たした。安倍政権はこれを実行に移し、厚労省は「デフレ調整」や「ゆがみ調整」と称して、生活扶助(*1)基準を平均6.5%、最大10%引き下げ、3年間で 続きを読む

緊急警告073号  拉致問題の解決には、まず痛切に反省せよ

年明けには拉致被害者家族の高齢化や死亡にともない、テレにはほとんど連日のように、加害者である朝鮮を難詰する家族の姿を映した。その被害者家族の心情は理解されるものの、冷静に考えなければならぬことがある。

戦時中、内地の労働者不足を補うために数十万人の朝鮮人が、「強制的」「拉致同然」(外村大『朝鮮人強制連行』岩波新書p.213)に、内地へ強制連行され、彼らは鉱山や土木事業などの危険な職場で牛馬のように働かされ、そのあげく、かなりの人々は異郷で非業の最期をとげた。

そのあまりにも哀れな身の上に同情して、彼らに接した地域住民がせめてもの慰霊として作った追悼の施設が、群馬の森におけるように、今つぎつぎと、破壊されている。日本の拉致被害者家族の悲しみが深いとしても、朝鮮半島の強制連行被害者家族数十万人の悲嘆はさらに切ないはずだ。

ふりかえれば、村山内閣時代の1995年に「植民地支配と侵略」について、さらに2002年、小泉総理と金委員長による日朝平壌宣言でも「過去の植民地支配によって、朝鮮の人々に多大の損害と苦痛を与えたという歴史の事実を謙虚に受け止め、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明し」ていた。 続きを読む

緊急警告072号  最高裁は生活保護費引き下げの違法性を早期に判断せよ

国が2013~15年に生活保護基準額を減らしたのは生存権を保障した憲法25条などに違反するとして、受給者らが減額決定の取り消しなどを求めた訴訟で、東京高裁は3月27日、決定を取り消した一審・東京地裁判決を支持する判決を言い渡した。

国は物価変動率に合わせて支給額を変動する「デフレ調整」を踏まえ、食費や光熱費など「生活扶助」の基準額を最大10%引き下げ、約670億円を削減していた。

同種の訴訟は全国29地裁で提起され、高裁判決は9件目で、27日東京高裁を含めて5件が減額決定を取り消し、4件は減額決定を認めている。

訴訟の争点は、物価下落状況下、保護費を調整したことの是非が問われた。

減額決定を取り消した判決では、調整が一般世帯を対象にした家計調査に基づいている点について、「一般世帯と受給世帯では食事などの支出割合の違いが顕著」であり、「生活保護を受給している世帯の消費実態とは異なるデータを用いていて、統計などの客観的数値との合理的な関連性や専門的な知見との整合性を欠いている」という極めて真っ当な判断を行っている。 続きを読む

緊急警告071号  「大崎事件」再審の扉を閉じる最高裁に問う

1979年に発生した「大崎事件」の再審請求審で、2025年2月26日、最高裁は請求を棄却。殺人の主犯として10年間服役した原口アヤ子さん(現在97歳)の再審への扉が四度最高裁によって閉ざされた。

事件の概要は、アヤ子さんの義弟が酒に酔って自転車で道路の側溝に転落し、通行人から連絡を受けた近所の人によって自宅に運び込まれ、翌々日遺体が牛小屋で発見された。解剖した医師は、死因を窒息死と推定し、他殺ではないかと鑑定した。(この医師は後に、義弟が自転車で側溝に転落した事実を聞かずに鑑定したとして、「鑑定は間違いだった。他殺か事故かわからない」と証言している)

事件を捜査した鹿児島県警は、当初から「面識のある者、あるいは、近親者による殺人事件」という見立てのもと、アヤ子さんが、いずれも軽度の知的障碍があり共犯者とされたアヤ子さんの夫(長男)、義弟(次男)、甥(次男の息子)に指示して、酒乱の義弟(四男)を保険金目的で殺害・遺棄したとして捜査。知的障碍という供述弱者3人を誘導して証言をとり自供させた。これに対して知的障碍のないアヤ子さんは終始関与を否定。しか し、それは認められず、4人の懲役刑が確定し服役した。 続きを読む

緊急警告070号  石破政権は日米地位協定の改定に本気で取り組め

10月27日投開票の衆議院選挙で、与党自民党、公明党は大きく議席を減らして、過半数割れとなった。石破政権は議席を4倍増とした国民民主党に協力を要請し、これに応えて国民民主党は連携する意向を示しており、政権の性格が変わりつつある。裏金問題の責任をとって総裁選出馬を断念した岸田文雄前首相の20%前後の支持率から、ご祝儀相場と言われる50%前後の支持率を頼みに衆議院解散に打って出たものの、裏金問題への国民の不信の大きさを見誤ったのが、この結果につながった最大の要因である。 続きを読む

緊急警告069号  組織優先の刑事司法から脱却せよ

静岡地裁の再審裁判で無罪判決を受けた袴田巌さんについて、2024年10月8日、畝本直美検事総長は控訴断念を発表し、完全無罪が確定した。しかし、同検事総長はその発表の中で、判決が「(証拠の)5点の衣類が捜査機関のねつ造であると断定した上で、検察官もそれを承知で関与していた」との部分に対して、「到底承服できず、控訴して上級審に判断を仰ぐべき内容だ」と、大きな不満を表明したのである。唯一謝罪らしき言葉が「相当な長期間にわたり、その法的地位が不安定な状況に置かれてしまうこととなりました。この点につき、刑事司法の一翼を担う検察としても申し訳なく思っております」だった。 続きを読む