2023年3月2日、立憲民主党の小西洋之参議院議員が、放送法が定める放送局の政治的公平性を巡る総務省の内部文書を公表した。この文書は総務省の勇気ある官僚が「放送法を国民の手に取り戻して下さい」との必死の思いで、総務省出身の小西議員に託したもの。文書によれば、第二次安倍政権下の2014〜15年にかけて、当時の磯崎陽輔首相補佐官が総務省に強引な働きかけを行い、「一つの番組でも政治的な公平性が問われる」という解釈を求めていたことが赤裸々に記されており、結果的に当時の高市早苗総務大臣が、総務委員会で文書の筋書き通りに答弁を行っていたのだ。総務省が抵抗していたことも伺われるが、最終的には安倍首相が高市大臣に国会答弁を指示していたことも記されている。
磯崎氏は文書の中で、「この件は俺と総理が二人で決める話」などと語り、安倍政権下の官邸独裁、首相独裁の一端が垣間見える文書である。
松本剛明総務大臣はこの文書を行政文書であることを認めたが、一部についてはその正確性が確認できていないという苦しい言い訳を行なっている。その理由は、78枚の文書中4枚に高市氏に関するレク(説明)記録と電話記録が含まれ、高市氏が「文書は捏造(ねつぞう)」と公言し、捏造でなかったら「大臣も議員も辞める」と答弁しているからだ。森友問題の安倍氏の答弁「私や妻が関係していたら総理大臣も議員も辞める」を思い出す。安倍氏の言葉が、その後の文書改竄(かいざん)に繋がったことを忘れたかのような政府の対応には憤りしかない。行政文書であることを認めながら、「正確性が確認できない」としたら、総務省の行政文書は全て信用できないことになり、総務行政の崩壊を自ら招くことになる。間違っても高市氏を守るために文書の真実性を歪めてはならない。岸田首相はこの問題に対して、一貫して「総務省が対応する問題」と、他人事のような答弁を繰り返している。行政の総責任者としての自覚がまるで見受けられない。
毎年「国境なき記者団」が発表している「報道の自由度ランキング」の最新2022年ランキングによれば、日本は恥ずかしいかな71位という危機的状況にある。民主党政権だった2010年~2012は11位~22位だったが、第二次安倍政権以降50位以下となり、順位を下げ続け、先進国では最低レベルにある。記者クラブという閉鎖的制度がいまだにあり、権力側からの情報をたれ流すだけという報道姿勢も一つの要因ではあるが、最も大きな要因は、権力による有形無形の恫喝(どうかつ)と、それによる自己抑制である。この文書で明らかになった、首相とその取り巻きが勝手に法解釈を変更し、テレビ局にとっては生命線である電波停止などの恫喝を受ければ、どのテレビ局も委縮し、政権批判を抑制する作用が働くのは当然である。
1950年にできた放送法は、戦前・戦中の反省から、政府が検閲、監督を一切行わないこととしてきたが、テレビの影響力が大きくなるに従い、次第に政府の干渉が多くなり、行政指導が度々行われることになる。その中で「政治的公平性」については、「放送事業者の番組全体を見て判断する」という解釈をとってきたが、2015年5月の高市総務大臣答弁で「一つの番組でも極端な場合は政治的公平が侵されたと判断する」という解釈に変更され、それが現在も政府の統一見解として生きている。これも問題ではあるが、最も大きな問題は、番組全体にせよ、個々の番組にせよ、誰が政治的公平を「判断」するかということである。放送法の原点は憲法21条の「表現の自由の保障」であり、それをうけて放送法1条の「放送による表現の自由の確保」と、3条の「何人からも干渉され、規律されない」があるのである。したがって「判断」は放送事業者自身が自主的に行うべきもののはずである。しかし、これらを全て無視あるいは曲解した安倍政権以降は、政府が個々の番組内容にまで介入し、実質的な検閲が行われているのだ。時の政権が政治的公平を「判断」できるとしたら、安倍政権のような独裁色の強い政府の下では、政権批判報道は封殺されるか、自主規制せざるを得ない状況になり、国民の知る権利も失われ、言論の自由も圧殺されてしまうのだ。
岸田政権はこの放送法問題に正面から向き合い、現在の歪んだ放送法の解釈を正し、権力の監視機能を持つ報道機関の表現の自由を回復せよ!
(2023年3月12日)
2022年7月4日、安倍晋三元首相が銃撃され、その容疑者が統一教会(2015年に名称変更しているが、実態は変わらないため本稿では統一教会とする)に恨みを持ち、深い関係にあった安倍元首相が狙われたことが発覚。その後、統一教会への多額の寄付が原因で信者や家族が悲惨な状況に追い込まれた実態が多数明らかになった。
統一教会の悪質性は、オウム真理教事件が起こる前に既に社会問題化していたが、オウム事件以降はオウム真理教に関心が集中し、統一教会及び傘下団体の活動への社会の目が離れてしまった感がある。その間に統一教会は政治家への接触を強め、その実態の一部が、銃撃事件を端緒に次々に明らかになっている。
統一教会問題は、憲法20条に抵触する明白な憲法違反事例と言えるが、具体的には次の二点に集約される。
1.正体隠しの勧誘や、マインドコントロールにより高額寄付を募るなど、悪質な不法行為を繰り返し、生活困窮・家庭崩壊などの被害者を多数出していたこと。
2.国や地方の議員が統一教会の広告塔となり、その悪質性を隠蔽・助長し、統一教会の教義に基づく政策実現にも関与したこと。
憲法20条第1項は、信教の自由と政教分離について、次の通りうたっている。
「信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。」
上記統一教会問題の「1」について、憲法20条は「信教の自由」を保障しているが、それはあくまで13条の「公共の福祉に反しない限り」を前提としている。マインドコントロール下における恐怖心をあおっての多額寄付の強要や高額商品の購入強要は犯罪行為であり、数多くの裁判で不法行為に対する損害賠償と使用者責任が認定されている。また、宗教二世や合同結婚式問題は「個人の尊重、幸福追求の権利、婚姻の自由」という憲法で保障された人権を侵害し、明らかに公共の福祉に反する団体である。現在文科省が「質問権」を行使しているが、このような反社会的団体は、即刻宗教法人解散命令を行使すべきである。そして被害者救済を迅速に行うべきである。
上記「2」については、政権党である自民党との深刻な癒着構造が顕在化した。統一教会は傘下に多くの政治団体を作り、自民党議員に接触。選挙支援の見返りに統一教会の悪質性の隠蔽を図ってきた。多くの議員は危険組織というリスクを承知しながら、己の当選あるいは党議員当選を第一に考え、関係を継続。その結果、統一教会という反社会的団体にお墨付きを与え、その教義に基づく政策実現に協力してきたのである。その代表が歴代最長政権を維持した安倍晋三元首相に他ならない。統一教会は、憲法20条第1項後段の「国から特権」を受けていたと言えるのではないか。この問題は、通常国会でも掘り下げて、徹底的に追求しなければならない。
芸能人やアスリートが反社会的団体と関係していたことが判明すると、引退を余儀なくされることが多い。それは社会への影響力が大きいためである。同じく影響力の大きいとされる「政治家」も、潔(いさぎよ)く政界を退出すべきであるが、残念ながらそんな政治家は見当たらない。したがって、私たちは次の選挙で関係議員に対して厳しい判断を下すべきである。
(2023年1月6日)
岸田政権が「安保三文書」(「国家安全保障戦略」「防衛大綱」「中期防衛力整備計画」)の改定作業を本格化させている。
10年前、2013年版「国家安全保障戦略」が策定された時の最大の特徴は、安全保障をめぐる東アジアの環境が、中国の急速な政治・経済・軍事的台頭によるパワーバランスの変化と、北朝鮮の軍事力増強への脅威などから厳しくなり、それらへの対応の必要性を理由に、改憲して戦争のできる国にしたいという安倍首相(当時)をはじめとする自民党右派の意向を反映したものであった。 続きを読む →
「共同通信社が7月30、31両日に実施した全国電話世論調査によると、安倍晋三元首相の国葬に「反対」「どちらかといえば反対」が計53.3%を占め、「賛成」「どちらかといえば賛成」の計45.1%を上回った。国葬に関する国会審議が「必要」との回答は61・9%に上った。回答は固定電話425人、携帯電話625人」(2022年8月2日 北海道新聞)
2022年7月8日、奈良市で参院選の応援演説中に銃撃され死亡した安倍晋三元首相の葬儀を9月27日に 続きを読む →
さる5月23日に発表された日米首脳の共同声明で、「岸田文雄首相はミサイルの脅威に対抗する能力を含め、国家に必要なあらゆる選択肢を検討し、防衛力の抜本的強化に向けた防衛費の相当な増額を確保する決意を表明。バイデン氏は強く支持」(東京新聞5月24日)した。
だがこの軍備拡大の合意には強い批判がある。「首相が目指す防衛力強化は、自衛隊による相手国領域内への攻撃も選択肢から排除しないなど、戦後堅持してきた抑制的な安保政策の転換につながる内容だ。……自民党内にも慎重論は残り、野党の反発や世論の懸念は根強い。早い段階でバイデン氏の支持を取り付けることで議論の流れを決定付け、既成事実化する狙いも透ける。……だが、両国そろって力に力で対抗することに傾倒すれば、周辺国に疑心暗鬼を招く恐れを否定できず、もろ刃の剣ともいえる。」(東京新聞5月24日)
続きを読む →
「岸田文雄首相は27日、自民党安全保障調査会長の小野寺五典元防衛相と官邸で会い、敵基地攻撃能力の保有などを求める党提言を受け取った。政府として結論を出す年末に向けて『与党の考え方を受け止めた上で、議論を進めていきたい』と述べ、公明党との調整を促した。提言は、日本を攻撃する相手国のミサイル発射拠点に加えて『指揮統制機能等』への攻撃を可能とする敵基地攻撃能力保有や、対国内総生産(GDP)比2%を念頭に置いた5年以内の防衛費増額などが柱。外交・防衛政策の長期指針『国家安全保障戦略』など3文書改定に合わせて、党がまとめた。」(2022年4月27日、東京新聞電子版)
ロシアのウクライナ侵攻を受け、欧米各国が軍事力こそ自国の安全保障にとって最も重要であるかのごとく、競ってその強化を叫んでいるなか、日本もその例外ではなく、特に政権を握る自民党内において、これに乗じた動きが盛り上がり、冒頭の記事はその典型的な危惧すべき事例である。
提言の主な内容は、次の通りである。 続きを読む →
自民党の安倍晋三元首相は2月27日の民法テレビ番組で、「北大西洋条約機構(NATO)加盟国の一部が採用している、米国の核兵器を自国領土内に配備して共同運用する“核共有”政策について、日本でも議論すべきだ」との考えを示し、ロシアのウクライナ侵攻を踏まえ「世界の安全がどのように守られているのか。現実の議論をタブー視してはならない」と述べた。(2022.02.27共同通信)
ロシアのウクライナ侵攻は、主権国家を武力で圧殺する蛮行である。しかも、自国の核兵器使用も辞さない脅しをかけ、国際社会を威嚇する行為は、ロシアにとって危惧すべきNATOの「東方拡大」という要因があったにせよ、国連憲章、国際法破壊への挑戦であり、決して許容できるものではない。
すでにウクライナの民間人死者が2千人(ウクライナ非常事態庁発表、日テレNEWS 3月3日)、ウクライナ・ロシア軍双方の兵士の死者3千人超(共同通信 3月3日)、近隣諸国への避難民は136万人 続きを読む →
「ふざけんなと思う、夫がなぜ死んだのかを知りたい、また国に殺された」
森友学園問題での財務省による公文書改竄事件で、改竄を強要され、追い詰められ自死した赤木俊夫さんの妻雅子さんが、事件の真相を知るために国を相手どり、損害賠償を求めている訴訟。証人尋問等、今後の裁判の進め方について、非公開で開催された2021年12月15日の進行協議の場で、国は突如請求を「認諾」し、賠償金を全額支払うことを明らかにした。雅子さんは、刑事事件として捜査していた大阪地検が、値引きによる背任行為と公文書改竄行為をいずれも不起訴とし、更に財務省に再調査を依頼しても拒否され続けたため、「真相の解明」の最後の手段として、国家賠償請求訴訟に訴えたが、国は賠償請求金額1億700万円全額を支払うことで、真相を闇に葬る選択をしたのである。冒頭の言葉は、国の「認諾」に対する雅子さんの無念の叫びである。
続きを読む →
去る12月6日に開会された臨時国会の所信表明で岸田文雄首相は「国民の命と暮らしを守るため、いわゆる敵基地攻撃能力を含め、あらゆる選択肢を排除せず現実的に検討し、スピード感をもって防衛力を抜本的に強化していきます」と述べた。
当会は先に緊急警告044号(2021年8月15日)で「専守防衛を否定する敵基地攻撃能力の保有は許されない」と批判したが、今回改めて首相のこの所信表明に抗議する。
この「敵」というのが中国か北朝鮮か明言を避けているが、この「攻撃能力」は常識的に先制攻撃と解されており、わが国の憲法上決して許されるものではない。
与党の公明党は否定的な立場を取っており(朝日12月7日)、自民党内でも第2次安倍政権 続きを読む →
安倍晋三元首相は去る12月1日、台湾で開かれたシンポジウムに日本からオンライン参加し、緊張が高まる中台関係で、「台湾への武力侵攻は日本に対する重大な危険を引き起こす。台湾有事は日本の有事であり、日米同盟の有事でもある。この点の認識を習近平主席は断じて見誤るべきではない」と語った。(朝日11月2日)
これに対して中国外務省は「中国内政に粗暴に干渉するものであり、日本は歴史を反省し台湾独立勢力に誤ったシグナルを送ってはならない」と強く抗議した。
日本は1895年に、清国内の不統一に乗じて日清戦争に勝利し、台湾を割譲させた。その 続きを読む →