緊急警告068号  武器輸出のなし崩しの緩和を許すな

岸田政権は2024年3月26日、イギリス、イタリアと共同開発する次期戦闘機の日本から第三国への輸出を解禁する方針を閣議決定した。高い殺傷能力を持つ戦闘機の輸出解禁は、武器輸出を抑制してきた従来の日本の安全保障政策を、憲法論議もないまま大きく変質させてしまった。

戦後日本は憲法第9条の平和主義原則を踏まえ、武器輸出を抑制してきた。それが「武器輸出三原則等」であり、これが長らく守られてきた。その歴史を紐解くと、

1967年:佐藤栄作首相が「武器輸出三原則」を表明。

三原則とは、次の①~③に該当する国には輸出しないというもの。

  • 共産圏諸国向け
  • 国連決議で禁止されている国向け
  • 国際紛争の当事国又は恐れのある国向け

1976年:三木武夫首相が武器輸出三原則の追加として加えた政府統一見解を表明。

・三原則対象地域には「武器」の輸出を認めない

・三原則対象地域以外の地域については、憲法及び外国為替及び外国貿易管理法の精神にのっとり、「武器」の輸出を慎むものとする。

・武器製造関連設備の輸出については、「武器」に準じて取り扱うものとする。

「武器輸出三原則等」とは、三木首相が追加した項目が含まれるものであり、注目すべきは、そこに“憲法の精神”にのっとり輸出禁止対象国以外への輸出も“慎む”とされた。この“慎む”は、「原則としてだめ」と解釈されてきており、歴代政権は輸出規制の基本原則として、一部例外を除き守ってきた。

ちなみに、「武器輸出三原則等」における「武器」を次の通り定義している。

・軍隊が使用するものであって直接戦闘の用に供されるもの

・本来的に、火器等を搭載し、そのもの自体が直接人の殺傷又は武力闘争の手段として

物の破壊を目的として行動する護衛艦、戦闘機、戦車のようなもの

したがって、日本においては政府も民間企業も、自衛隊以外には他国を含めて武器供給を行わないというのがルールだったのである。

このルールを根本から破壊したのが、安倍晋三政権が2014年4月に閣議決定した「防衛装備移転三原則」である。これは前年2013年12月に外交・安保政策の基本方針として閣議決定した「国家安全保障戦略」において、防衛装備品の海外移転についても新たな原則を定めるとしており、それを受けたもので、要旨は次の通りである。

①移転を禁止する場合の明確化

:海外移転(輸出)が条約や国連決議などに違反する場合

②移転を認める場合の限定と厳格審査・情報公開

:①以外の移転についても限定し、透明性の確保と厳格審査で対応

③目的外使用及び第三国移転に関わる適正管理の確保

:②を満たした場合でも、使用目的を確認し、第三国に再移転する場合は我が国の事前同意を義務付け

なぜ従来の「武器輸出三原則等」を破壊しているのか。それは以下の通り明確である。

・②と③の表現でわかる通り、輸出を前提にしている原則であること。

・海外移転が、あたかも平和貢献や国際協力に資するという論理のすり替えがあること。

・平和憲法の精神に関する記述が一切ないこと。

おまけに「武器」を「防衛装備品」というソフトな単語に置き換えて、戦争を想起させない姑息な表現までしている。(敵基地攻撃能力を反撃能力に置き換える手法に類似)

したがって、「防衛装備移転三原則」は、従来の「武器輸出三原則等」とは似て非なるもので、第三国への再移転までも想定した大きな緩和原則である。国会の議論もないままに、閣僚を主要メンバーとした国家安全保障会議で議論し、閣議決定という手続きだけで決めてしまったのだ。

そして現在の岸田政権は、2022年12月に「国家安全保障戦略」を改定し、より踏み込んだ武器輸出の検討をうたい、それを受けて2024年3月に閣議決定したのが、戦闘機の輸出解禁である。(末尾添付資料1 閣議決定文書参照)

新たな戦闘機開発には膨大な費用と時間、そして最新の知見と技術が必要とされ、同盟国や同志国との共同開発が主流となり、日本が今取り組んでいるイギリス・イタリアとの共同開発にあたり、両国の理解を得るためという理由付けをしているが、戦闘機は最も典型的な殺傷能力を持つ武器である。それが国会の議論もないまま決められているのだ。しかも、今回の共同開発の戦闘機限りという保証も全くない。国家安全保障会議と閣議決定で全て決められてしまうシステムであるため、なし崩し的に日本製の武器が第三国に輸出される可能性は十分考えられる。現に政府は、供給先が自衛隊に限られている国内防衛産業の国際競争力向上を課題にあげており、輸出拡大を防衛産業の拡大・充実に資する好機と考えてもいる。

輸出された武器が世界中のどこかで戦闘に使われることは、憲法9条で「武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄」した日本に許されるはずがない。

今我々は、ウクライナとパレスチナでの戦争を、メディアを通じて毎日見聞きし、戦争の恐ろしさと悲惨さを痛感している。ウクライナはアメリカを中心としたNATOから、ロシアはイランや北朝鮮から、イスラエルはアメリカから、パレスチナ(ハマス)はイランなどから武器を供給されていると言われる。武器供給国は戦争当事国ではなくても、準当事国なのである。そこに日本も加わっていいのか。

戦争は始めるのは簡単だが、止めるのは極めて難しい。なぜなら、人間と国の憎悪が増幅するからだ。その間、武器はより多く必要となり、人的・物的損害は増大する。戦争当事国に武器供給している国は、自国が攻められないために抑止力あるいは防衛力と称して武器生産を増やし、軍備増強のスパイラルは止まらなくなる。それが戦争の本質なのだ。

日本は現憲法の平和主義の精神をもう一度取り戻し、なし崩しの武器輸出にストップをかけねばならない。

添付資料1 閣議決定文書

 

グローバル戦闘航空プログラムに係る完成品の我が国からパートナー国以外の国に対する移転について

 

令和6年3月26日

国家安全保障会議決定

閣議決定

 

政府は、「防衛力整備計画について」(令和4年 12 月 16 日国家安全保障会議決定及び閣議決定)に基づき、我が国の安全を確保する上で中核となる次期戦闘機の英国及びイタリアとの共同開発(以下「グローバル戦闘航空プログラム」という。)を推進する中で、我が国の安全保障環境にとって必要な性能を満たした戦闘機を実現し、我が国防衛に支障を来さないようにするためには、我が国からパートナー国以外の国に完成品を移転し得る仕組みを持ち、英国及びイタリアと同等にグローバル戦闘航空プログラムに貢献し得る立場を確保する必要があるとの認識に至った。

このため、グローバル戦闘航空プログラムに係る完成品の我が国からパートナー国以外の国に対する移転を認め得ることとし、「防衛装備移転三原則の運用指針」(平成26 年4月1日国家安全保障会議決定。以下「運用指針」という。)を改正する。また、今後、実際にグローバル戦闘航空プログラムに係る完成品を我が国からパートナー国以外の国に移転する際には、「防衛装備移転三原則」(平成 26 年4月1日国家安全保障会議決定及び閣議決定)及び運用指針に基づいて移転の可否を判断することとなるが、通常の審議に加え、個別案件ごとに閣議で決定することとする。

 

 

緊急警告067号 福島第1事故原発トリチウム汚染水の海洋投棄をやめよ!

下記のPDF→緊急警告067号

 政府は、3・11東日本大震災でメルトダウン事故を起こした福島第1原発の放射能汚染水を「処理水」と言い換え、今夏、地元漁協を始め、国内外の反対を押し切ってでも海洋放出する構えである。

 政府・東電は、ALPS(多核種除去設備)によってトリチウム以外の大半の放射性物質を除去した上、海水で薄め「国際基準」を満たして放出するので安全である、と主張する。そして、「風評被害」だけが問題なのだと言う。

 こうした政府・東電の主張を後押しし、お墨付きを与えているのが国際原子力機関(IAEA)であり、原子力発電を推進する学者・専門家たちである。IAEAは「包括的報告書」において、ALPS処理水の放出は、「国際安全基準」に合致し、「人及び環境に対する放射線影響は無視できるほどである」と結論付けている。(但し、IAEAは用心深く、「処理水」の放出は「推奨するものでも、支持するものでもない」と付け加えている。日本の「原子力規制委員会」が原発の再稼働をめぐって合格判定を出しながら、「安全を保証するものではない」と言っていることとよく似ている。) 続きを読む

緊急警告066号  岸田政権は放送行政の歪みを正し、表現の自由を回復せよ

2023年3月2日、立憲民主党の小西洋之参議院議員が、放送法が定める放送局の政治的公平性を巡る総務省の内部文書を公表した。この文書は総務省の勇気ある官僚が「放送法を国民の手に取り戻して下さい」との必死の思いで、総務省出身の小西議員に託したもの。文書によれば、第二次安倍政権下の2014〜15年にかけて、当時の磯崎陽輔首相補佐官が総務省に強引な働きかけを行い、「一つの番組でも政治的な公平性が問われる」という解釈を求めていたことが赤裸々に記されており、結果的に当時の高市早苗総務大臣が、総務委員会で文書の筋書き通りに 続きを読む

緊急警告065号  反社会的団体の宗教法人解散と政治家の責任を明らかにせよ

2022年7月4日、安倍晋三元首相が銃撃され、その容疑者が統一教会(2015年に名称変更しているが、実態は変わらないため本稿では統一教会とする)に恨みを持ち、深い関係にあった安倍元首相が狙われたことが発覚。その後、統一教会への多額の寄付が原因で信者や家族が悲惨な状況に追い込まれた実態が多数明らかになった。

統一教会の悪質性は、オウム真理教事件が起こる前に既に社会問題化していたが、オウム事件以降はオウム真理教に関心が集中し、統一教会及び傘下団体の活 続きを読む

緊急警告064号 「安保三文書」改定は軍事国家化と戦争への道

岸田政権が「安保三文書」(「国家安全保障戦略」「防衛大綱」「中期防衛力整備計画」)の改定作業を本格化させている。

10年前、2013年版「国家安全保障戦略」が策定された時の最大の特徴は、安全保障をめぐる東アジアの環境が、中国の急速な政治・経済・軍事的台頭によるパワーバランスの変化と、北朝鮮の軍事力増強への脅威などから厳しくなり、それらへの対応の必要性を理由に、改憲して戦争のできる国にしたいという安倍首相(当時)をはじめとする自民党右派の意向を反映したものであった。 続きを読む

緊急警告063号 安倍晋三元首相の違憲の国葬に反対する

「共同通信社が7月30、31両日に実施した全国電話世論調査によると、安倍晋三元首相の国葬に「反対」「どちらかといえば反対」が計53.3%を占め、「賛成」「どちらかといえば賛成」の計45.1%を上回った。国葬に関する国会審議が「必要」との回答は61・9%に上った。回答は固定電話425人、携帯電話625人」(2022年8月2日 北海道新聞)

2022年7月8日、奈良市で参院選の応援演説中に銃撃され死亡した安倍晋三元首相の葬儀を9月27日に 続きを読む

緊急警告062号 軍備拡大路線は戦争を招く

さる5月23日に発表された日米首脳の共同声明で、「岸田文雄首相はミサイルの脅威に対抗する能力を含め、国家に必要なあらゆる選択肢を検討し、防衛力の抜本的強化に向けた防衛費の相当な増額を確保する決意を表明。バイデン氏は強く支持」(東京新聞5月24日)した。

だがこの軍備拡大の合意には強い批判がある。「首相が目指す防衛力強化は、自衛隊による相手国領域内への攻撃も選択肢から排除しないなど、戦後堅持してきた抑制的な安保政策の転換につながる内容だ。……自民党内にも慎重論は残り、野党の反発や世論の懸念は根強い。早い段階でバイデン氏の支持を取り付けることで議論の流れを決定付け、既成事実化する狙いも透ける。……だが、両国そろって力に力で対抗することに傾倒すれば、周辺国に疑心暗鬼を招く恐れを否定できず、もろ刃の剣ともいえる。」(東京新聞5月24日)

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緊急警告061号  防衛費倍増による軍事大国への道を許すな

「岸田文雄首相は27日、自民党安全保障調査会長の小野寺五典元防衛相と官邸で会い、敵基地攻撃能力の保有などを求める党提言を受け取った。政府として結論を出す年末に向けて『与党の考え方を受け止めた上で、議論を進めていきたい』と述べ、公明党との調整を促した。提言は、日本を攻撃する相手国のミサイル発射拠点に加えて『指揮統制機能等』への攻撃を可能とする敵基地攻撃能力保有や、対国内総生産(GDP)比2%を念頭に置いた5年以内の防衛費増額などが柱。外交・防衛政策の長期指針『国家安全保障戦略』など3文書改定に合わせて、党がまとめた。」(2022年4月27日、東京新聞電子版)

ロシアのウクライナ侵攻を受け、欧米各国が軍事力こそ自国の安全保障にとって最も重要であるかのごとく、競ってその強化を叫んでいるなか、日本もその例外ではなく、特に政権を握る自民党内において、これに乗じた動きが盛り上がり、冒頭の記事はその典型的な危惧すべき事例である。

提言の主な内容は、次の通りである。 続きを読む

緊急警告060号 ロシアのウクライナ侵攻を日本の核武装に結び付けるな

自民党の安倍晋三元首相は2月27日の民法テレビ番組で、「北大西洋条約機構(NATO)加盟国の一部が採用している、米国の核兵器を自国領土内に配備して共同運用する“核共有”政策について、日本でも議論すべきだ」との考えを示し、ロシアのウクライナ侵攻を踏まえ「世界の安全がどのように守られているのか。現実の議論をタブー視してはならない」と述べた。(2022.02.27共同通信)

ロシアのウクライナ侵攻は、主権国家を武力で圧殺する蛮行である。しかも、自国の核兵器使用も辞さない脅しをかけ、国際社会を威嚇する行為は、ロシアにとって危惧すべきNATOの「東方拡大」という要因があったにせよ、国連憲章、国際法破壊への挑戦であり、決して許容できるものではない。

すでにウクライナの民間人死者が2千人(ウクライナ非常事態庁発表、日テレNEWS 3月3日)、ウクライナ・ロシア軍双方の兵士の死者3千人超(共同通信 3月3日)、近隣諸国への避難民は136万人 続きを読む

緊急警告059号 公文書改竄の国家賠償請求訴訟 国の「認諾」で幕を閉じてはならない

「ふざけんなと思う、夫がなぜ死んだのかを知りたい、また国に殺された」

森友学園問題での財務省による公文書改竄事件で、改竄を強要され、追い詰められ自死した赤木俊夫さんの妻雅子さんが、事件の真相を知るために国を相手どり、損害賠償を求めている訴訟。証人尋問等、今後の裁判の進め方について、非公開で開催された2021年12月15日の進行協議の場で、国は突如請求を「認諾」し、賠償金を全額支払うことを明らかにした。雅子さんは、刑事事件として捜査していた大阪地検が、値引きによる背任行為と公文書改竄行為をいずれも不起訴とし、更に財務省に再調査を依頼しても拒否され続けたため、「真相の解明」の最後の手段として、国家賠償請求訴訟に訴えたが、国は賠償請求金額1億700万円全額を支払うことで、真相を闇に葬る選択をしたのである。冒頭の言葉は、国の「認諾」に対する雅子さんの無念の叫びである。

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