完全護憲の会ニュースNo.45 2017年9月10日

        <例会参加の方は本ニュ―スをご持参ください>
        連絡先 〒140-0015 東京都品川区西大井4-21-10-312 完全護憲の会
        電話・FAX 03-3772-5095
        Eメール:kanzengoken@gmail.com
        ホームページ:https://kanzengoken.com/

  目次  第44回例会・勉強会の報告            P.1
      第41回運営・編集委員会の報告(略)       P.2
  別紙 1 政治現況報告                 P.3
  別紙 2 事務局報告                  P.3
  別紙 3「アピール 今、あらためて米国の
       原爆投下の責任を問う」他           P.4
      今、ふたたびアメリカの原爆投下の戦争責任を問う P.5
 <再掲> 緊急警告022号 「自衛隊明記は口実…」     P.13

       第44回例会・勉強会の報告

 8月20日(日)、港区・三田いきいきプラザ集会室で開催、参加者13名、会員56名。
 司会を大西運営委員が担当し、まず「政治現況報告」(別紙1)が代読されたのち、「事務局報告」が行われた。これらの報告をめぐる意見交換に先立ち、司会者が「今回は初参加者が多いので、完全護憲の会の紹介をしたらどうか」と提案し、事務局が次のように紹介した。
 「本会は2013年の年末に準備会を開き、14年1月に第1回例会を開き、以後毎月1回例会を開催し、ニュース(月報)を発行。本会設立の理由は、2013年の年末に誕生した第2次安倍政権が憲法改悪を公言したこと、現憲法がひろく国民に理解される前に解体される恐れがあったためだ。日本国憲法は、戦争放棄を定めた9条や生存の権利を保証した25条など、個々の条項がつまみ食い的に使われたが、この憲法の精髄である国民主権や基本的人権は十分に理解されぬまま、改廃される危険が迫っている。その危機感から、文字通り完全護憲を提唱したが、第1章天皇の諸条項は、第14条に定める法の下における平等に矛盾しているとの批判がある。だが、われわれが1章の改憲を主張すれば、現情勢下では極右の全面的改悪企図に便乗されるだけである。天皇の地位は『国民の総意に基づく』ものであるので、私たちは総意の熟するのを待つことにしている。入会金は1000円で、いまのところ会費は集めず、これまで発行した冊子の収入などで運営している。年末には道徳の教科化と教育問題についての冊子発行を準備している。会員は現在56名」
 ついで討議に移り、「天皇制はこのままでよい。戦跡慰霊や遺骨収集を行ってほしい。現憲法は悲惨な戦争体験から生まれている。この体験が継承されていない。学校教育に期待してもダメ。いまの先生に平和教育を期待するのは、ストーカー行為をやめさせろと警官に期待するのと同じだ」「友人が学び舎の歴史教科書に執筆している。良い本だが進学校以外ではあまり使われていない。実教出版の教科書は日の丸・君が代の強制を扱っているとして、東京都で禁止されている。主権者教育はあまりされていないが、そういうなかで努力している教員もいる。見限らず、応援してほしい」「区の教育委員会審議に立ち会ったが、学び舎の教科書が一番良かった。加害責任を十分取り上げている」「私の経験ではよい教師は教科書は使わず、人間対人間で教育している」「しかし若い教師は教科書を使う。神奈川県では育鵬社の教科書を使っている。恐ろしい状況だ」「私の父は戦場のことは一切話さなかった。伝承と云っても限りがある」「みんなの目指す頂上は同じで、登り口が違うだけだ。和気あいあいで話し合おう」……。

 ついで定刻になり、勉強会に移った。「米国の原爆投下の責任を問う会」の設立趣旨について、同会の共同代表・水澤寿郎氏から「アピール 今、あらためて米国の原爆投下の責任を問う」と「今、ふたたびアメリカの原爆投下の戦争責任を問う」の2文書(別紙3)の説明があった。
 これに対しては「責任を問うとは、だれに問うのか」など若干の質疑につづいて、原爆投下と、ポツダム宣言の発表、ソ連の進攻開始との関連、米国世論の動向、核兵器禁止条約の採択などについて熱心な討議があった。

当面の日程について
 1)第45回例会・勉強会    9月24日(日)13:30~ 三田いきいきプラザ
 2)第42回運営・編集委員会  9月27日(水)14:00~ 港区立勤労福祉会館
 3)第46回例会・勉強会   10月22日(日)13:30~ 三田いきいきプラザ
 4)第43回運営・編集委員会 10月25日(水)14:00~ 三田いきいきプラザ

<別紙 1>    政治現況報告      2017年8月27日

              岡部太郎(東京新聞元政治部長)

 加計学園問題や籠池問題、そして防衛省の公電隠蔽問題で揺れ続け、ダウン寸前だった安倍首相が、何とか8月3日の内閣改造までたどりついた。まさにゴングに救われたと云うところだろう。最後はよれよれだった前内閣の反省から、麻生財務副総理、菅官房長官そして党の高村副総裁、二階幹事長の骨格だけは残しながら、問題の文部科学相には林芳正、防衛相には小野寺五典、法相には上川陽子(いずれも岸田派)の経験者を当て、ほかにも茂木敏充(経済再生)加藤勝信(厚生労働)と要所に経験者を置いた。そして一本釣りで野田聖子(総務相)河野太郎(外相)とうるさ型を配置して堅実、守り主体の安倍第三次改造内閣を発足させた。そして最初から外相として首相を助けて来た岸田文雄氏が本人の希望もあって党の政調会長に岸田派の優遇と合せて、ポスト安倍の一番手につけた。ただ手堅さといっても副大臣新人五人、野田、河野の造反も不安だ。
 また文部科学相にと首相が懇願した伊吹元衆院議長は就任を固辞するなど、安倍一強体制はかなり変化していると見られる。そのへんは首相自身もわかっているようで、組閣後の初会見でも「国民に十分説明してゆく」と述べ、また改憲についても「秋の提出など、スケジュールには、こだわらない」と軌道修正。党側も高村副総裁が「憲法は党に任せ、政府は経済に全力を」と注文。岸田政調会長も「とにかく改憲論議は国民に丁寧に話すこと」と慎重な構えをみせた。また公明党の山口委員長も「憲法改正は政府の仕事ではない」とバッサリ。少なくとも、ゆけゆけではなくなりそうだ。
 一方、野党の民進党も都議選の敗戦の責任をとって蓮舫委員長が突然辞任した。8月20日公示、9月1日党員投票で委員長選出を行う。前原元外相と枝野元官房長官の一騎打ちだ。
 共産党との選挙野党共闘を狙う枝野氏と野合反対。都民ファーストとの共闘で政界再編狙いの前原氏どちらが勝っても党の完全一本化は難しく、秋から来年衆院解散までの政局は、民進党を中心に離合集散が繰り広げられる可能性がある。
 他方、次の選挙の台風の目となりそうな小池都知事の都民ファーストの会だが、小池氏がいち早く、都知事専任を打ち出し、国政レベルの活動は同志の若狭勝衆院議員に一任した。若狭氏は8月7日、記者会見で全国組織の政治団体、日本ファーストの会を設立、同会が運営する政治塾「輝照塾」を9月に開講、希望者を募集するほか、年内に国政新党を目指すことを明らかにした。同会は小池都知事と連動、9月16日に開講、塾生から今後の国政選挙の候補者を選ぶと云う、全く都民ファーストと同じ手口。民進党を離党した細野豪志元環境相とも新党について意見交換した。民進党を離れた長島昭久氏や渡辺喜美、松沢成文の両参院議員のほか、民進党や自民党から多くの議員が参加することも考えられ、目が離せない。
 もう一つのアキレス腱、南スーダン国連平和維持活動(PKO)の日報隠蔽(ぺい)問題は、7月28日に防衛省が特別防衛観察の結果を発表した。しかし、その焦点である陸自の隠蔽を稲田大臣が知っていたかどうかについては陸自が今年の二月に会議で稲田氏に報告した“可能性”はあるが、稲田氏が「報告された認識はない」と否定し、事実認定には至らなかった。データ不公表は黒江事務次官が2月16日の会議で岡部陸上幕僚長に指示。保管しているのは隊員の個人的データで、情報公開の対象となる行政文書には当たらないとした。
 結局、稲田大臣の責任には踏み込まなかったが、稲田氏は混乱の責任をとって、同日防衛相を辞任。黒江・岡部両氏も辞任した。
 安倍首相は稲田氏をポスト安倍の有力馬に育てようと、失言やミスの続いた稲田氏を最後までかばい続けたが、最後には自ら辞任する以外に道がなかった。当然これらは首相の任命責任が問われる事項である。

<別紙 2>    第44回例会 事務局報告

               福田玲三(事務局)2017.8.27

1)例会・勉強会の案内掲載

① 『東京新聞』8月16日朝刊「カルチャーインフォメーション」
② 『週刊金曜日』1148号(8月18日付け)「きんようびのはらっぱで」  
③ 「レイバーネット」イベントカレンダー(告知サイト labornetjp.org/EventItem)

2)勉強会の講師

勉強会:「『米国の原爆投下の責任を問う会』設立趣旨について」の講師について、同会の共同代表・水澤寿郎氏に依頼、快諾。

3)集会の案内

① 第8回平和学習会――報告・花岡蔚氏
 「2020年までに自衛隊を廃止する―コスタリカとアメリカの実情に触れながら」
  9月9日(土)13:30~16:30
  東京ボランティア市民活動センター 会議室 (JR飯田橋駅隣・セントラルプラザ)
② 第22回「7・1閣議決定」違憲訴訟勉強・相談会
  9月22日(金) 13:30~16:30 神明いきいきプラザ(JR浜松町駅徒歩5分) 
  参加費:200円
③ 『週刊金曜日』東京南部読者会
  9月22日(金)18:30~20:30 大田区生活センター 会議室(JR蒲田駅徒歩5分)
④ 「米国の原爆投下の責任を問う会」第1回拡大呼びかけ人会議
  9月23日(土)14:00~17:00 基督友会東京月会3451-7002 港区三田4-8-19
  資料代1000円 連絡先:090-1769-6565 水澤

<別紙 3> アピール 今、あらためて米国の原爆投下の責任を問う
 
 米国は1945年8月6日広島に、8月9日長崎に原爆を投下し、計34人余の民間人、軍人、外国人(15か国、4万人)、連合国軍捕虜を殺害した。この無差別大量虐殺は人道上決して許されるべきものではなく、明白な国際法違反である。だが、米国政府は一貫して原爆投下を正当化してきた。原爆を投下したのは、日本がポツダム宣言受託を拒否して降伏しなかったからであり、原爆投下が日本の降伏を早めたというのがその主な理由である。
 原爆を投下せず米軍が日本本土上陸作戦を決行したならば、米兵100万人の犠牲が予測され、従って原爆投下は多数の米兵(と日本人)の命を救い、戦争を終結させて平和をもたらしたという。米国政府は原爆投下以来70年余にわたりそう喧伝しつづけ、多くの米国国民もそう信じてきた。私たちはこの「原爆正当化論」を到底容認することはできず、改めて米国の無差別大量虐殺の責任を問うものである。
 ルーズベルト米国大統領が原爆開発予算6000ドルを議会で通過させた(1941・12・6)のは、真珠湾攻撃の2日前であった。また、原爆投下は日本を目標とすることは、「ハイドパーク覚書」(1944・9・18)でルーズベルトとチャーチルの間で秘密裡に決められていた。このように原爆は開発当初から日本に投下することが目途とされていたのであり、ナチス・ドイツが降伏したから投下目標をドイツから日本に変えたものではなかった。
 さらに、原爆投下指令はポツダム宣言(1945・7・26)の一日前に出されている。そもそもポツダム宣言は日本に対する正式な文書ではなく、回答期限もないものであり、さらに当初宣言草案にあった降伏条件の「国体護持」を日本の降伏を引き延ばすためにあえて宣言から外している。それは日本が降伏する以前に原爆を投下したいという思惑があったからであった。
 日本の降伏は8月9日のソ連参戦が決定的な要因であった。原爆の開発には20億ドルという莫大な予算をかけた米国政府は、その物理的破壊力と人体にたいする放射線などの「効果」を確認するために原爆を投下することに追い込まれた。それは原爆の威力を全世界に誇示することによって、戦後ソ連に対し絶対的優位性を示そうにする戦略でもあった。原爆投下は又、ルメイ指揮下の日本の諸都市への無差別空爆の延長線上でなされたことも見落としてはならない。
 日本本土上陸作戦になれば100万人の犠牲が出るというのも虚偽の数字である。マッカーサー他各軍指導者は犠牲者は最大で6万6千人(戦死者はその4分の1)と推定していた。トルーマン大統領は犠牲者数を次々と増やしていき、最後の「100万人」が独り歩きしはじめた。そう言わなければ正当化できないほど原爆投下の被害は悲惨だった。
 原爆投下に対する戦争責任が問われてこなかった原因の一つに、日本のアジアに対する侵略戦争のなかで行なった野蛮で非人道的な戦争犯罪がある。日本軍による上海や重慶爆撃も長期間行われた。日本の良心的市民には、日本が加害国だったから、米国による日本の諸都市への空爆も広島・長崎への原爆投下を批判できないと考えがちであった。だが、原爆投下の被害国国民として米国政府を告発してこなかったことが、戦後、米国の南太平洋上の核実験の継続を許し、「核抑止論」の名の下に各国が核兵器を開発することを誘発した。原水爆禁止、核廃絶の運動が粘り強くなされてきたにもかかわらず、今なお新たな核開発が止まる兆しはない。広島・長崎への原爆投下を告発してこなかった私たちの反省を含め、今、改めて米国の原爆投下を戦争犯罪として告発する必要がある時点にきているのではないだろうか。
 それと併行して、日本の侵略戦争によりアジアで犯した数々の残虐な戦争犯罪を直視し、戦争責任の所在を明らかにし、日本政府に謝罪と補償を求める運動をいっそう強化する必要があることはいうまでもない。
 オバマ米国大統領は広島演説を「死が空から降ってきた」という文言で始めた。誰が死を空から降らせたかを隠すこの言葉は、欺瞞的である。私たちは速やかな核廃絶を願うものとして、今、原点に立ち戻って米国政府の広島・長崎への原爆投下の責任を問うものである。
   2017年1月10日
           米国の原爆投下の責任を問う会

      
   今、ふたたびアメリカの原爆投下の戦争責任を問う
                                          
1.原爆投下の正当化論のままでよいのか?

 アメリカは1945年8月6日に広島にウラン原爆を投下し、年内に14万人、5年以内に合計20万人を殺した。
 さらに3日後の8月9日に長崎にプルトニウム原爆を投下し、年内に9万人、5年以内に合計14万人を殺した。両都市で合計34万人を殺したのである。
 この無差別大量虐殺は国際法違反(ハーグの陸戦条約参照)であり、アメリカの原爆投下責任は厳しく問われなければならない。

オバマ大統領の広島訪問
 アメリカ政府は過去70年間広島・長崎への原爆投下を一度も公式に謝罪したことがなく、反対に、原爆投下「正当化論」を主張してきた。 ブッシュ・シニア大統領は1991年、「原爆投下は何百万もの米国民の命を救った」と述べたし、クリントン大統領は1995年、「トルーマン大統領が下した原爆投下の決断は正しかった」と述べている。
 プラハ宣言(2009年4月)で「核兵器なき世界」を提唱しノーベル平和賞を受賞したオバマ大統領も、原爆投下を公式に謝罪したことはない。
 オバマ大統領の広島訪問に先立って来日したペリー元米国防長官は、2016年4月16日NHKのインタビューに応えて「(オバマの広島訪問は)すばらしい決断だ。世界に核兵器の危険性と二度と使われてはならないということを呼びかける又とない機会で、そのための具体的行動を提起することを望む」と述べた一方で、「原爆の犠牲がなければ本土決戦で何百万人の命が失なわれていただろう。原爆投下について謝罪する必要はない」と述べている。(2016年5月17日のNHKのニュースでは流れたが、19時のニュースでは後半の「謝罪する必要はない」の部分はカットされていた。)
5月27日のオバマ大統領の広島訪問の際の17分間の演説は、冒頭「空から死が降って、世界は変わった」death fell from the sky and the world was changed)ではじまったが、原爆投下がアメリカによるものであることは触れず、従って投下の責任にも触れず、謝罪の一言もなかった。
 核兵器廃絶を訴えたが、具体的政策は何も提案されていない。それどころかオバマ政権の下で進んだことは、核兵器の近代化に多額の予算をつぎこんだことである。また、オバマ大統領は広島に来る直前に岩国の米軍基地で日米同盟を賛美する演説を米兵に向けて行い、その足で広島に来て「平和」を訴えたのである。
 平岡敬・元広島市長は次のように述べている。「いまでも多くの人があのスピーチをそのまま受け止めて、『すごい演説だ』『素晴らしい』ともてはやして、『オバマ賛美』が続いています。アメリカ国内にある『原爆投下は正しかった』という声を振り切って、広島に来たこと自体は評価するという声もあります。/しかし、彼は何のために広島に来たのかということを思うと、私は結局、オバマ大統領は任期中に大した実績があげられなかったから最後の自分のレガシー(遺産)づくりに広島を利用したのではないかと思っています。/これは日本政府との共謀です。安倍政権もおそらく強烈に願ったでしょうね」(平岡敬「被爆者はアメリカの原爆投下で殺された―オバマ大統領の広島訪問/謝罪なく、口先だけの『核廃絶』に強烈な違和感」『日本の進路』2016年8月号、NO.288、17頁)。 
 オバマ大統領のスピーチのあと安倍首相も「日米同盟は世界に希望を生み出す同盟」といい、最近12月には真珠湾攻撃の慰霊に行くと発表したのである。ハワイ真珠湾訪問も日本のジャーナリズは賛美している。それならば安倍首相は何故日本が植民地支配した東アジアの国々を訪問しないのかという非難の声が起こるのは当然であろう。
 とまれ、米国政府が広島・長崎への原爆投下に謝罪しないのは、その背景に多数の米国民が依然として「原爆投下正当化論」に立っていることがあるといってよい。
 
「原爆正当化論」とは
 「原爆正当化論」とは、(1)原爆投下が戦争終結を早め(「早期日本降伏説」)、その結果(2)戦闘継続による人的被害(特にアメリカ軍人の)を減少させた「人道的行為」である、と主張するもの(「人命救済説」)である。その正当化論の出発点はトルーマン声明にある。
 アメリカでは正当化論批判はオリバー・ストーンやピーター・カズニックなど少数が主張しているにすぎない。ストーン(映画監督)とカズニックは2013年夏に来日し、8月8日、広島でシンポジウム「アメリカ史から見た原爆投下の真実」で報告した。ストーンは、「アメリカでは原爆投下が成功だと語られているが、それは神話に過ぎない。一般的なアメリカの高校生は、原爆投下が戦争を終らせた、と教えられている。1945年に起きた本当のことを教えられていない。戦争を終らせたのは原爆ではない。」と発言し、カズニックは、「アメリカは[日本が]降伏寸前だということを知っていた。アメリカはソ連への威嚇として原爆を投下したのだ」と指摘した。だが、このような見解を持つアメリカ人は依然として少数なのである。
 人命救済説についていえば、日本の本土上陸作戦により100万人以上の犠牲者がでるというのも虚偽の主張である。米軍犠牲者はマーシャル、キング、リーヒ、マッカーサー各元帥が推定した数字は上限6万人、細かくは31、000人から66、500人の間と見積もられ、そのうち戦死者は上の数字の4分の1とされている。トルーマンは戦闘犠牲者を25万人から100万人まで増やしていき、最後の100万人説が一人歩きしてきたのである。
 アメリカ人の意識も、最近(2015・4)のビュー・リサーチ・センター(米民間調査機関)によれば、原爆投下を正当とする者は56%、不当とする者は35%である。1945年のギャラップでは、85%が原爆投下を正当としていたので、正当とする者の比率は低下してきているが、投下70年を経てなお正当化論が過半数を占めている。
 このことが重要なのは、原爆投下正当化論が、核抑止論と表裏一体であるからである。このようなアメリカ世論のなかで、オバマ大統領も謝罪外交であると批判されることを恐れて、謝罪などできなかったのである。

日本がアメリカの原爆投下責任を問うてこなかった理由 
 日本は敗戦後今日に至るまで、原爆の被害を調査しその悲惨な被爆の実態を日本の国内外に示してきた。そして、そうすることの重要性はますます大きくなっているのは間違いないが、他方で、原爆投下という無差別大量虐殺を実施した戦争犯罪としてアメリカ政府を告発することがほとんどなされなかった。
 原爆碑の「安らかに眠ってください。過ちは繰り返しませぬから」に象徴されるように、主語は不明、批判対象も不明にしたまま、ひたすら「祈る」ことを推奨してきたのである。その祈りの原型の一つは長崎浦上天主堂の永井隆にある。
 これは原爆を製造した国家も、投下するに至った経緯も、投下したあとの対処も捨象し、言い換えれば歴史性を捨象することによって事実上アメリカ政府の責任を問わない方法が取られてきたということである。それは抽象的に反戦、平和を唱える・祈るという態度であるといってもよい。
 原爆投下したアメリカを厳しく告発してこなかったことが、戦後、アメリカの南太平洋上の核実験の継続を許し、さらに原発の日本への導入を容易にしたとするならば、2011年のフクシマ3・11以後5年余経った現時点において、遡って「原爆正当化論」を批判的に検討し、アメリカの戦争犯罪として告発することが、70年余過ぎて遅きに失した感があるとはいえ、必要不可欠なのではないだろうか。
 その際、原爆を抽象的に「平和の敵」として捉えるのではなく、原爆の歴史を具体的に辿ることによって初めて、アメリカの原爆投下の責任を問うことができると考える。
 原爆投下にたいする戦争責任が問われてこなかった原因の一つに、日本はアジアに対して侵略戦争を実行し野蛮で非人間的は殺戮を行なった加害国であったから、被害国として原爆投下を批判することなぞできないという心情が日本人のなかにあったことは否定できない。
 良心的日本の知識人の中でも、日本がアジア諸国に侵略し、細菌兵器や化学兵器を使用した加害国であるから、アメリカの原爆投下を被害国として批判する資格はないとする考えである。
 例えば、『戦争責任と核廃絶』(三一書房、1998年)の著者若松繁俊でさえ、『原子科学者評論』1982年2月号の論文「戦争犯罪の背景」で、「私自身、原爆被曝の体験をもつが、多くの被爆者が看過してきた重要な問題がある。原爆被害がどんなに悲惨であろうとも、日本の戦争責任をきびしく自己批判したあとでなければ、原爆の被害を世界に訴えるべきではない。原爆による死は日本帝国主義ファシストによる死と同じである」(180頁)と指摘している。
 ここには原爆投下をそれ自体切り離してアメリカの責任を問う視点はみられないが、私たちはそのような見解をとらない。
 私たちは原爆投下の責任を追及するさい、その前にではなく、それと同時併行して日本が侵略戦争によりアジアの人びとを残虐な方法で殺傷した事実を直視し、日本の戦争責任を確認し、日本政府に事実認定・謝罪と補償をもとめる被害者を支援し、そのための活動を引き続き推進しなければならないと考える。
 具体的には、重慶爆撃に見られる大量無差別爆撃、三光作戦などの焦土作戦による民間人虐殺、南京虐殺、731部隊による人体実験と生物兵器(細菌兵器)の使用、化学兵器(毒ガス兵器)の使用による大量虐殺、毒ガス遺棄、朝鮮人・中国人などの強制連行・強制労働、朝鮮・中国・その他のアジアの女性の「慰安婦」への強制、捕虜虐待などである。それと同時に併行してアメリカの原爆投下の責任を問い、その謝罪を求めなければならないと考えるものである。その歴史的根拠を以下で示したい。

2.マンハッタン計画と三発の原爆

原爆の製造
 ナチス・ドイツが原爆開発をしていることに危惧の念を抱いた理論物理学者たちはアメリカに亡命し、ドイツよりも早く原爆を製造することをめざした。「アインシュタイン=シラード」書簡が、ルーズベルト大統領に提出され、「ウラン諮問委員会」が設置された。
 核分裂と原爆製造については、1939年1月、理論物理学会でイタリア人エンリコ・フェルミが報告し、核分裂の仮説はウラン235の分裂により証明された。フェルミはアメリカへ亡命し原子炉をつくる。 ニールス・ボアもデンマークのコペンハーゲンで同様な核分裂の実験をしていたが、アメリカに亡命。
 ルーズベルト大統領が原爆開発の6000ドルの予算を議会通過させた(41・12・6)のは、真珠湾攻撃の直前。この予算により原爆製造が始動。その後マンハッタン計画には20億ドルが支払われ、20万人を雇用し、学者だけで2000人以上になるという大規模なものとなった。
 「マンハッタン・プロジェクト」と名づけたのは、総司令官になるレスリー・リチャード・グローブスである。1945年3月には3個の原爆を製造し、5月には兵器として完成した。1945年7月16日早朝午前5時29分、人類最初の核実験「トリニティー」がニューメキシコ州の砂漠で実行された。
 実験はオッペンハイマー(ロスアラモス研究所所長)の指揮のもと、グローブスの直属の部下であるトーマス・ファーレル准将(マンハッタン計画副責任者)が現地の責任者であった。
 ファーレルは爆心地から10キロ離れたコントロール・タワーからみていて、「効果は、まさに前代未聞。印象的で美しい。恐ろしいほどである。誰がこのような大規模な爆発を考えることができたであろうか。閃光のすさまじさは筆舌に尽くしがたい」と記している。
 製造された原爆は3個であるが、残り2個はトリニティー実験から21日後の8月6日に広島に、さらに3日後の8月9日に長崎に投下された。
 広島に投下されたリトル・ボーイは、ウラン型原爆であり、構造は砲身型で簡単であるが、濃縮ウラン製造が困難なため量産は困難である。
 長崎に投下されたファットマンは、プルトニウム型原爆であり、原子炉運転がプルトニウムを量産するため、量産が可能であるが、構造は爆縮型で複雑である。起爆装置が作動するか実験が必要であり、1945年7月16日のトリニティー実験はこのプルトニウム型原爆の実験だった。
 広島の原爆投下は実験なしで投下したもの。原爆投下の二発目を3日後に長崎に投下したのは、量産可能な原爆をアメリカが所有することを世界に向けて(特にソ連に向けて)誇示すことにあった。

原爆投下の目標は当初から日本だった
 日本への原爆投下を目標とすることは、ルーズベルトとチャーチルの間で1944年9月の「ハイドパーク覚書」で決まった。
 アメリカが原爆をドイツには落とさず、日本に落とすことを企図していたことには黄色人種にたいする人種差別が根底にあったとみてよい。
 ナチス・ドイツの原爆実験をおそれた物理学者たちがアメリカに亡命し原爆開発に取り組んだが、白人であるドイツ人には落とすことは当初から考えていなかった。アメリカ大統領や軍幹部は、ドイツへではなく日本への投下を当初から意図していたのである。それ故、原爆投下の問題は欧米のアジア人にたいする人種差別の問題としても捉えなければならない。
 ルーズベルト大統領は、1945年4月12日に死去。トルーマンが新大統領になる。真珠湾攻撃の復讐に燃えて、ルーズベルトは、「犬の飼い主が悪ければ、犬も罰しなければならない。日本の指導者の残虐で不法な行為の責任を、日本国民が受けるのは当たり前だ」と言った。
 広島への原爆投下18時間後に発表された「トルーマン声明」も真珠湾攻撃にたいする報復として原爆投下を正当化しているが、その下地はルーズベルトにより敷かれていたといえよう。
 1945年4月12日、突然副大統領から大統領になったトルーマン(1884年生まれ)は、政治力もなく、歴史観も世界観も持たない”small man”であった。ルーズベルトは歴代、自分に反抗することを恐れて副大統領には力量のない者を選んできたからである。
 トルーマンは「マンハッタン計画」も知らされていなかった。4月25日になって、スティムソンとグローブスが 原爆計画についてトルーマン新大統領に初めてその計画を説明した。以後、”small man”と言うコンプレックスを克服するために「何か大きなことをする」(トルーマンの日記)ことに向って突き進んでいった。 

ポツダム宣言
 早期降伏説も人命救済説も、歴史事実とは違っている。アメリカは原爆投下の以前から、日本が降伏を求めていたことを知っていたからである。日本がソ連に対してアメリカとの和平交渉の仲介を何度も打診していたことを、アメリカ陸軍省は日本外務省の暗号電報を傍受して掴んでいた(「マジック報告」)。
 事実、1944年8月11日の「マジック報告」で、「重光外相は、ロシアに和平交渉の仲介をする意思があるかどうかを確かめるように佐藤大使(在モスクワ)に指示している」ことをつかんでいた。打診の内容は、日本降伏のために「国体護持」、即ち戦後も天皇制を存続させることを認めるか否かにあった。この打診をアメリカは無視することになる。
 1944年7月9日サイパンで日本軍が全滅、東条内閣が7月18日総辞職して以降、米軍はサイパンの基地からB-29による本土空襲が可能となった。
 東京大空襲は1945年3月10日未明、米軍は334機のB29を投入し焼夷弾33万発を投下した。死者・行方不明者は10万人を超えた。東京以外にも名古屋、大阪、京都、神戸など主要都市への空爆がなされ、66都市で死者約40万、負傷者約百万人を生み出した。日本の敗戦は時間の問題になっていた。
 原爆以外での方法による戦争終結の可能性について、1945年6月29日の米統合参謀本部史料によると、「日本政府は完全に破壊される前に・・・・・直ぐにも条件付き降伏を申し出る可能性がある」と記されている。
 また、アイク、マッカーサー、リーヒ各元帥も日本の軍事的敗北は時間の問題と見ていたことが戦後に公表された記録や回顧録に明らかにされている。
 リーヒ元帥は回顧録のなかで「軍事的に見て完全にうちのめされた日本に地上軍を投入して侵攻する理由は全くないと考えていた」と述べている。
 ポツダム会談は、ナチスドイツの降伏後の1945年7月17日から8月2日までソ連占領地のベルリン郊外のポツダムで開かれた。
 米からトルーマン大統領、英からチャーチル首相、ソ連からスターリンが参加し、戦後占領をめぐって会談した。ポツダム会談開始の翌日、トリニティ実験が成功したとの報がトルーマンに届いた。チャーチルもトルーマンの態度が変わったのに気づいたほどだった。
 自信を深めたトルーマンは、「ソ連側に反論を許さぬきっぱりとした態度で対応するようになった。」(チャーチル) トルーマンの妻宛の手紙(7月20日)には、「昨日は厳しい会談になった。わたしは憤然と立ち上がって、この線で妥協しろといい、イギリスもソ連もその線で妥協した。」(ロナルド・タカキ、152頁)とある。
 原爆投下命令書は1945年7月25日、ポツダム宣言を発する1日前に、トーマス・ハンディ陸軍参謀総長代理が署名し、当時ポツダムにいたマーシャル将軍と陸軍参謀長官スティムソンに電話で伝えられ、カール・スパーツ将軍(マリアナ諸島駐屯の陸軍戦略航空司令官)に宛てて送られた。   
 そこにはトルーマン大統領の署名はない。そのため、8月10日広島の被害状況の報告を受けたトルーマンは、8月10日の閣議で大統領の許可なしに原爆の使用を停止することを決定させている。
 ポツダム宣言は7月26日に発表された。その宣言草案には国体護持が含まれていたが、宣言には「降伏条件の明確化」に国体護持は含めていない。米代表団がポツダムに出発する直前(7月2日)、スティムソン陸軍長官からトルーマン大統領宛に「対日宣言案」が提出され、その第12項に「現在の皇統の下での立憲君主制も含む」とあったが、実際のポツダム宣言ではそれを削除して、トルーマン大統領が発表したのである。
 それは日本が降伏する前に原爆を投下する必要があったからである。
 ポツダム宣言にはスターリンの署名がない。ソ連は日本と交戦状態にないとの理由で、トルーマンがスターリンを排除したのであった。チャーチルはイギリスの総選挙で予想に反して敗北し、ポツダム会談の途中でイギリスに戻らざるを得なかった。ポツダム宣言の署名者の蒋介石はポツダムには来ておらず、署名はトルーマンが代筆した。
 つまり、宣言の署名者にはスターリンの名はなく、トルーマン、チャーチル、蒋介石が記されているが、トルーマン以外の2人はトルーマンによる代筆なのである。それ故、トルーマン一人の意思が示された文書であり、「降伏条件の明確化」に国体護持を含めなかったのである。
 そのためポツダム宣言は、つぎのような問題点をもつことになった。
 1)ポツダム宣言は「対日本」が主題ではなく、戦後処理が主たる議題であった。ポツダム会議に参加した国と署名した国とが異なる。ソ連が署名していないことが、日本に日米の和平交渉に可能性があるかのごとき幻想を抱かせた。
 2)ポツダム宣言は日本に対する正式な文書ではなく、日本には短波放送で伝えられた。回答期限もない宣伝・広告の類であった。日本の鈴木貫太郎首相はこれを「黙殺」(ignore)したとみなされた。
 3)鈴木首相の発言前に原爆投下命令は出ていた。宣言は7月26日、命令書は7月25日付け。
   命令書によれば、日本時間で鈴木首相の「無視」発言の2日前に原爆投下は決定していたことになる。
 4)トルーマンは鈴木首相を日本の代表とは認識しておらず(彼らと複数形で表現している)、鈴木首相の発言により投下の決定を変える気はなかったと思われる。
   このポツダム宣言の約3週間後の8月6日に広島へ、9日に長崎の原爆が落とされたのであった。
   「ポツダム宣言」を受諾する意向を示した8月14・15日も大阪、岩国、奥山、伊勢崎、桐生、熊谷、小田原などが空爆されている。

広島・長崎への原爆投下
 広島・長崎が原爆投下の候補地として上がるのは、1945年4月27日の第1回目標選定委員会であり、その委員会(トーマス・ファーレルは委員)でグローブズ委員長は、広島・長崎の他に東京湾と、川崎、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸、呉、下関、山口、八幡、小倉、熊本、福岡、佐世保の計17都市を選定した。
 第2回委員会(5月10~11日)では、京都AA、広島AA、横浜A、小倉A、新潟Bの5箇所に絞られた。うち最有力候補地AAには、広島と心理的効果を目指すため京都が選ばれた。
 これらの5都市は通常の空襲から除外されたのは、原爆の効果を的確に測定するためであった。
 第3回暫定委員会(5月31日)では、横浜は占領政策に使うので除外され、京都もスティムソンの反対で除外された。彼は京都に投下すると、日本人の心情からして米国の占領政策が難しくなると主張し、トルーマンが賛同した。それに代わって長崎が加わった。
 7月25日までに広島、小倉、新潟、長崎が候補地に決まった。広島は第1候補であり、天候の条件が整った8月6日に投下され、2発目の第1目標は小倉だったが、8月9日当日小倉の空は視界不良だったため、長崎に変更された。3発目のプルトニウム型原爆は8月19日までに東京に投下される予定であった。
 長崎への原爆投下の翌8月10日に、「『天皇統治の大権を変更する』要求が含まれていないという了解の下に受諾する」との意向を伝えた日本に対し、アメリカは「バーンズ回答」で暗黙の了解を与え、8月14日、日本は降伏を伝えたのである。
 以上のことから、アメリカは原爆投下によって日本の降伏を早めたのではなく、日本の要求(国体護持)を受けいれるのを原爆投下まで引き伸ばしたことが明らかであろう。原爆投下する前に、日本が降伏しては、壮大な人体実験をする機会を失うからである。
 日本の降伏の決定打になる「ソ連の対日参戦」(8月9日午前0時)の以前に広島に、そしてその日に長崎に投下し、戦後の対ソ連に対して圧倒的な力を誇示することができたのである。

3.アメリカの原爆投下後の隠蔽工作ー放射線の影響を否定

日本の原爆調査とアメリカへの調査報告の提供
 1945年8月6日に広島に原爆が投下されると、直ちに日本軍と行政機関が大学・研究所の科学者の協力を得て広島に入った。
 第1の目的は、投下爆弾が原爆であるか否かを確定することであった。爆弾投下直後、ホワイトハウスはトルーマン大統領の「原子爆弾に関する声明」を公表し、原爆投下は真珠湾攻撃の復讐であると明言し、日本にポツダム宣言受諾を求めた。
 広島へは多くの調査団が入るが、大本営調査団は、参謀本部第二部長の有末精三を団長にして参謀本部から他に三名、陸軍省軍事課新妻清一以下三名、陸軍航空本部技術部片桐少佐、陸軍軍医学校から島田軍医中佐、それに理化学研究所の仁科芳雄という30人ほどの構成になった。
 仁科芳雄は陸軍から指示により原爆開発「二号」を一九四一年から行なっており、海軍は京都大学の荒勝文策にF研究を依頼していた。有末を団長とする陸軍大本営の調査団は、8月7日午後2時ごろ所沢基地に集合したが、「折から硫黄島を飛び立った敵機B29の爆撃機隊の一団がわが本州中部に向けて北上飛行中との情報が入った。仁科博士以下全員難を避けて」一日延期し8日に出発することになったが、有末精三と山田副官の2名は広島に向かって飛び立ち、午後5時半広島上空に着いた。
 広島到着後、有末は数人の軍指導者と会い宇品の船舶司令部に行き、翌8月8日の朝には総軍司令部の広島庁舎に行き、岡崎清三郎参謀長、真田譲一郎参謀副長、井本熊雄作戦主任参謀を見舞い、畑俊六元帥にも会っている。仁科や新妻らはその日の夕方6時半に広島に着いている。
 仁科らは8月7日離陸したがエンジン不調で所沢に引き返し、翌日8日に所沢を飛び立ち広島に着いたと言われてきたのは、1日広島行きが遅れたことからそれだけ原爆かどうかの確認が遅れたので、責任を取らされないように誰も明確にしてこなかったからだろう(この点は資料紹介「核とミサイルに関する新妻清一関連資料」(1)『戦争責任研究』87号、2016年冬季号を参照されたい)。
 広島に到着すると、仁科など6名は宇品の船舶司令部に向かった。広島の惨状から仁科が原子爆弾に違いないと確信し、夕刻そこから大本営に電報で第1報を送った。
 電報の内容は、一、特殊爆弾である。 二、熱傷に備える必要。三、詳細は仁科の今後の調査を待て、というものだった。そして、内閣書記官長・迫水久恒に、電話で「残念ながら原子爆弾に間違いない」と「涙を流して報告」した。迫水から報告を聞いた鈴木首相は翌朝閣議を開くことを迫水に指示した。
 8月9日朝、新妻は仁科などと共に高射砲隊本部を訪れ、加藤から爆発地点の方向と高度の情報を聞いた。その後仁科、片桐、新妻などは爆心地付近の調査を行い、爆心地が「細工町19番地」で高度が約580メートルであると結論し、また、中心から東西南北に500メートルおきに土などのサンプルを集めた。
 新妻は爆心地近くの写真やで未現像のフィルムを現像し灰色に感光していることを確認した。日赤病院のレントゲンフィルムが感光していたことが放射線の検出の決定的証拠になった。
 8月10日大本営調査団の陸海軍合同特殊爆弾研究会議が比治山町の陸軍兵器補給廠で開かれ「本爆弾ノ主体は・・・・原子爆弾ナリト認ム」とした。司会をした新妻がその報告書をまとめている。
 荒勝は前夜広島に来ていた。団長の有末は9日午前零時、ソ連軍がソ満国境を超えて南下した(ソ連参戦)ため、急遽東京に戻ったので,この合同会議には出席していない。広島平和記念館が所蔵する新妻ファイルに含まれる新妻メモには鉛筆で「人間ニタイスル損害ノ発表ハ絶対ニ避ケルコト、コレニ関連スル発表モ避ケルコト 中央ヨリ調査隊を派遣ノコト」と書かれている。新妻は原爆の被害を発表しないように強調している。ここでいわれている中央より調査隊ヲ派遣とは大本営の第2次調査団のことであり、8月14日広島に到着し、17日まで広島市内各所で放射能を測定した。この報告書は英訳される際、意図的に数ヶ所誤訳し、原爆の被害をできるだけ小さく見せようとしている。
 新妻は被害状況について次のような記録を残している。
「新妻メモ―損傷状況昭和二〇・八」によれば、「一一日迄、収容患者数 約一五〇〇〇不収容患者数推定 約七五〇〇〇、計約九万 
一一日迄 収容屍体数(埋没又は消失)約一万、計約二万、合計一一万」とある。
 極めて正確な数字を掴んでいたことがわかる。それを一般に知らせることを避けるよう指示したのである。
 8月13日には新妻は東京に戻り、2日後の8月15日敗戦の日には、陸軍省軍事課の名前で「特殊研究処理要領」をまとめ、原爆の被害の隠蔽に続いて陸軍の特殊研究を隠蔽するよう指示をだした。その指示の内容は「一 方針 敵に証拠ヲ得ラルル事ヲ不利とする特殊研究ハ全テ証拠ヲ陰滅スル如ク至急措置ス」とし、ふ号登戸関係(風船爆弾)、七三一部隊、一〇〇部隊など陸軍の秘密研究の隠蔽も図ったのである。
 原爆による被害の惨状は、9月3日に原爆逓信病院を訪れたウィリアム・バーチェット記者により打電され、『デイリー・エクスプレス』(1945年9月5日)に報道された。
 その記事の見出しは「原爆病(The Atomic Plague)とあり、「広島では、最初の原子爆弾が都市を破壊し世界を驚ろかせた30日後も、人々は、かの惨禍によって怪我をうけていない人々であっても、『原爆病』としか言いようのない未知の理由によって、未だに不可解かつ悲惨にも亡くなり続けている。」と残留放射線の恐ろしい影響についても記した。
 原爆の惨状が世界に知られ始めたその日(9月5日)マッカーサーは海外特派員に取材禁止命令をだし、広島に立ち入ることを禁じ、報道することも禁じた。この取材禁止令は45年12月まで続いた。
 
アメリカの広島調査報告
 アメリカは日本進駐と同時に「マンハッタン管区調査団」を来日させ、原爆の被害の調査を開始した。同調査団はトマス・ファーレル(マンハッタン計画の副指揮者)を指揮官とし、フォード・ウオレン(マンハッタン計画の医学部長)以下約30名で構成されていた。
 マンハッタン計画には当初から原爆投下後の「効果」の測定が含まれていたと見るべきだろう。彼らは8月31日に来日し、調査を準備した。ファーレルは9月6日、広島に現地調査に入る前に、東京帝国ホテルで記者会見し、「広島・長崎で原爆症で死ぬべきものは死んでしまい、9月上旬現在、原爆症で苦しんでいるものは皆無である」と声明した。
 同調査団が広島入りする2日前に、現地に行かずにこのような声明をだしたのは、アメリカが原爆の人的被害、とくに残存放射能による被害を過少にみせようとする戦後アメリカ政府が一貫して採った方針の開始を意味していた。
 この9月6日のファーレルの記者会見には、W.バーチェットが参加していた。それは9月3日に広島逓信病院で被爆者の患者の付添い人から、「アメリカは原爆を造ったのだから、原爆症の治療法はわかっているはずだ。アメリカから医師を派遣してもらわないことには、治療法がないのではないか」といわれ、バーチェットは東京に帰ってその旨GHQに訴え、記者会見にも参加していたのである。
 もちろんアメリカも原爆症の治療方法をもっていたわけではない。バーチェットは目撃した広島の惨状とファーレルの声明が余りにかけ離れていたので、そのことを問うたのに対し、ファーレルは次のように答えた。「残存放射能の危険を取り除くために、相当の高度で爆発させたため、広島には原子放射能が存在しえない。若し今現に亡くなっている人がいるとすれば、それは残留放射能によるものではなく、原爆投下時に受けた被害以外にはありえない。」 
 その後もアメリカは原爆投下後の残留放射能を否定するのである。
 この「ファーレル声明」(8月31日)は、日本政府が横浜に駐留していた米占領軍に自主的に提出した『原爆被害報告書』に依拠していた。その『報告書』の結論のひとつは、「爆心地の周辺には人体に被害を及ぼす程度の放射能は存在していない」というものだった。
 報告書には、陸軍軍医学校の軍医らによる被爆者の解剖結果が含まれていた。戦後日本のアメリカ追従の一例である。
 9月8日ファーレル以下13名の第1班は、厚木飛行場から米軍機6機で広島に向った。ファーレルの第2班は9月9日長崎に入ったが、ファーレル自身は9日に東京にもどり、12日に再度記者会見をおこなった。
 今回は、原爆の爆風・熱戦による破壊が予想以上のものであったことは認めざるを得なかったが、それと対照的に放射線の効果は限定的であったと発表した。ここでも一貫して、原爆の爆風・熱戦による被害は認めるが、放射能による被害は否定したのである。
 これはマンハッタン計画の医学部門責任者スタッフォード・ヴォレン(マンハッタン工兵管区調査団の団長として広島・長崎を調査)が、戦後放射線医学の権威として広島の残留放射能の存在を否定し、ファーレルに伝達したことによる。
 ヴォレンはマンハッタン計画のなかで兵器としての放射線の有効性を最も主張していた科学者だったのが、戦後は正反対の見解を述べているのである。
 アメリカは広島・長崎の原爆被害が日本国内外に漏れることを恐れて、1945年9月19日にGHQはプレスコードを指令し、言論・報道・出版などを規制したが、同年11月30日の「原子爆弾災害調査研究特別委員会」(10月24日発足)の第1回報告会の席上、GHQ経済科学部の担当官は、日本人による原爆災害研究はGHQの許可を要すること、またその結果の公表を禁止する旨通告している。
 1945年9月14日には学術研究会議(会長林春雄)は「原子爆弾災害調査研究特別委員会」を設置することを決定した。これは文部省科学教育局、学術研究会議、理研の仁科芳雄が検討してきた結果であった。
 アメリカと日本側の打ち合わせ会議は9月22日東京帝国大学医学部で開かれ、「日本に於ける原子爆弾の影響に関する日米合同調査団」が設立された。
 この「合同調査団」は日本側の命名であって、アメリカの正式な名称は「日本における原子爆弾の効果を調査するための軍合同委員会(The Armed Forces Joint Commission)」であり、アメリカの国益のための調査であった。
 事実それはオターソンが全権代表者であり、彼の指揮下のGHQ軍医団、ファーレル指揮下のマンハッタン管区調査団、都築正男東大教授指揮下の日本人研究者からなっていた。
 都築正男を初めとする原爆調査をおこなった日本人科学者は、戦争中の自身の行動から戦犯免責されることを願ってアメリカに積極的に協力し、調査報告は大部分がアメリカに提供されることになった。
 翌年にはABCCが組織され、原爆の「効果」を示すデータをアメリカが取得した。「原爆乙女」は治療と称して渡米するが、治療は行われず、原爆の影響のデータを取得されるだけであった。
 原爆投下は大規模な人体実験であったから、アメリカは投下後そのデータを組織的に収集したのであり、それでも不十分であったから、広島・長崎への原爆投下後1年を経ないうちに、日本への原爆投下と同じ米軍スタッフが南太平洋で核実験(クロス・ロード作戦)をやり、被爆した島民からデータをとるのである。
 その数年後、ビキニ環礁での水爆実験が第五福龍丸事件を起こすが、現在では福竜丸以外にも数百隻の日本漁船が被爆していることが分かっている。
 久保山氏死去をきっかけに原水爆反対運動が起こり、それを恐れた米国は、原子力の平和利用なるものを喧伝し、正力や中曽根や物理学者たちにより、原子力発電がはじまったことは周知のことであろう。
 2011年3月11日の福島の第1原発の爆発のときも、直ちに米艦を福島沖に派遣し、無人機を飛ばして放射線の拡大と人体への影響などを調査した。その艦隊の米兵が帰国後米国で被曝の補償を求めて裁判を起こしている。

 以上のべたように、アメリカの広島・長崎の原爆投下による無差別大量虐殺の責任は、いかなる理由を示そうが、免れるわけにはいかない。
 その戦争責任を問わなかったことが、アメリカが原水爆の実験を続行することを許し、「核抑止論」の名の下に各国が核兵器を開発することを誘発した。
 そしてアメリカの原爆投下の責任を問うことは、現実の世界の核状況に無知だからであると冷笑し、核兵器の速やかな廃絶なぞは夢物語だと冷笑する者には、人っ子ひとりいないすべてが破壊された放射能に包み込まれた地球の光景を想像はできないのだ。

 そんな政治学が経済学が歴史学に何の意味があるのだろうか。

 「核兵器は人類の罪だ」というほど欺瞞的な言葉はない。誰が落とした原爆かが問題なのである。「死が空から降ってきた」というほど欺瞞的な言葉はない。誰が空から死を降らせたかが問題なのである。
    2017年1月10日

<再掲> 緊急警告022号

 自衛隊明記は口実、9条全面改悪の突破口とするもの

 5月3日の憲法記念日、安倍首相は日本会議が主導する「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の改憲集会にビデオメッセージを寄せ、憲法9条に関して「9条1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込む、という考え方、これは国民的な議論に値する」「夏季のオリンピック・パラリンピックが開催される2020年を……新しい憲法が施行される年にしたい」とのべ、具体的改憲項目として、憲法9条改憲に踏み込んだ提起を行った。(憲法尊重擁護義務を負う首相がこのような改憲提起を行うこと自体の違憲性については緊急警告021号で指摘。安倍首相と安倍自民党総裁は不離一体であり、改憲提起に関する限り使い分けはできない。)
 これは9条3項に自衛隊を明記する加憲論として論じられているが、一部報道によれば、自民党は安倍首相の提起を受けて9条現行条文を維持したまま、新たに「9条の2」の別条を設け、ここに自衛隊を明記する方向で検討に入ったとのことである。
 「9条3項」加憲にせよ、「9条の2」加憲にせよ、具体的に案文が示されたわけではないので案文に沿った検討はできないが、いきなり本丸の9条改憲に手を付けてくることはないだろうとの大方の予想に反しての、安倍首相ならではの極めて危険な「クセダマ」である。案文が示されてからでは遅いので、その危険性について警告を発しておかなければならない。
 安倍首相はビデオメッセージで「例えば憲法9条です。今日、災害救助を含め命懸けで、24時間365日、領土、領海、領空、日本人の命を守り抜く、その任務を果たしている自衛隊の姿に対して、国民の信頼は9割を超えています。しかし、多くの憲法学者や政党の中には、自衛隊を違憲とする議論が今なお存在しています。『自衛隊は、違憲かもしれないけれども、何かあれば、命を張って守ってくれ』というのは、あまりにも無責任です。私は、少なくとも私たちの世代のうちに、自衛隊の存在を憲法上にしっかりと位置付け、『自衛隊が違憲かもしれない』などの議論が生まれる余地をなくすべきであると考えます。」と述べた。
 このメッセージは、自衛隊に対する国民の信頼が「9割を超えている」という現状を踏まえた、自衛隊を合憲と考えている多くの国民(9条護憲派も含めた)の心に届く言葉である。
 これまでのところ、安倍首相の自衛隊明記改憲についての世論は「9条をいじるべきではない」とする国民の根強い反対もあって、「朝日」が賛成41%、反対44%、「毎日」賛成28%、反対31%、32%(わからない)、と賛否拮抗しているが、「読売」賛成53%、反対35%、「時事通信」賛成52%、反対35%と過半数が自衛隊明記賛成となっている。
 しかしこのままでは、具体的に改憲文案が提示され、大々的なキャンペーンが行われるならば、国民投票において賛成多数となる可能性は大きいと見ておかなければならない。
 それゆえ、この自衛隊明記の安倍9条加憲に賛成する国民の選択は極めて危険な間違った選択になるということを訴えたい。
 その理由の第一は、安倍9条加憲「自衛隊明記」は単なる口実であり、憲法9条全面改悪の突破口に過ぎないからである。自民党改憲草案に明記されているように、現行9条2項「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これをみとめない。」を全文削除し、自衛隊を軍隊としての「国防軍」(「草案」第九条の二)とするための突破口なのである。自衛隊を大切に思う国民の自衛隊明記の選択が、自衛隊とは異なる「国防軍」という軍隊を選択することになるのである。
 第二は、これはこれまでの自衛隊(集団的自衛権行使を容認した安保法制成立以前の)を合憲と考える大多数の国民の見解に立っての立論であるが、現行憲法第9条に明記されようとしている自衛隊は、安倍内閣によって集団的自衛権容認の7・1閣議決定がなされ、安保法制強行成立によって集団的自衛権行使を付与された自衛隊なのであり、「専守防衛」の「戦力」ではない自衛隊であることによってかろうじて維持されてきた合憲の自衛隊が、あらためて憲法違反の自衛隊となってしまったのである。このあらためて憲法違反となってしまった自衛隊を9条3項として(あるいは九条の二として)書き加えることなど不可能なことである。
 何故ならそれは、「専守防衛」を破り集団的自衛権行使によって他国の戦争にまで参加する自衛隊は、明白に現行9条1項(戦争の放棄)、2項(戦力及び交戦権の否認)と対立し、相反するからである。
 第三は、しかし論理の矛盾など意に介さない安倍政権はこれを強引に遂行するであろう。その時、現行憲法9条1項、2項は完全に無効化され、憲法に明記された集団的自衛権行使の「自衛隊」が独り歩きを開始することになる。
 独り歩きを開始した「自衛隊」は、「集団的自衛権」行使の戦争参加により限りなく軍隊としての性格を強め、軍隊としての扱いを要求してくる。結果は第二、第三の9条改憲をもたらし、自民党改憲草案がめざす「国防軍」に行き着く。
 第四は、「集団的自衛権」行使容認の安保法制が成立させられ、南スーダンに派遣された自衛隊に「駆けつけ警護」が付与されたことなどによってその兆候が現れはじめたのであるが、ひとたび「集団的自衛権」行使の戦争参加が行われるならば、「自衛隊」に応募する青年は激減する可能性がある。その結果もたらされるのは「徴兵制」である。
 第五は、「自衛隊」が「集団的自衛権」行使によって他国の戦争にまで参加するということは、国内が戦争体制下となるということなのであり、その結果、国民の基本的人権がさらに制約され、自由と民主主義が失われるということである。
 すでに安倍政権下で教育基本法改悪、盗聴法改悪、特定秘密保護法制定、安保関連法制定、「共謀罪」制定と、国民の基本的人権を制約する悪法が次々と成立させられてきたが、すべてはこの戦争体制構築のためと言わなければならない。そして今また、「大規模な自然災害」への対処を口実とした「緊急事態条項」(自民党改憲草案第98条、99条)の制定が着手されようとしている。これはナチスが全権を掌握した「全権委任法」と同質のもので、国民の自由と民主主義を圧殺し、政権の独裁を招くものである。

 自民党は安倍首相の9条自衛隊明記の提起を受けて6月6日、「憲法改正推進本部」会議を開き、年内をめどに(後に秋の臨時国会までと前倒しされた)党としての改憲案を取りまとめることを確認するとともに、具体的な改憲項目として、①9条に自衛隊の根拠規定を追加、②大規模災害時に国会議員の任期を延長する緊急事態条項の創設、③幼児教育から高等教育までの無償化、④参院選挙区の「合区」解消の4項目をかかげた。ここにはしっかりと最も恐ろしい「緊急事態条項」の創設が取り上げられているのであり、9条加憲に目を奪われて見過ごしてはならないものである。

完全護憲の会ニュースNo.44 2017年8月10日

             <例会参加の方は本ニュ―スをご持参ください>

          連絡先 〒140-0015 東京都品川区西大井4-21-10-312 完全護憲の会
          電話・FAX 03-3772-5095
          Eメール:kanzengoken@gmail.com
          ホームページ:https://kanzengoken.com/
            
     目次  第43回例会・勉強会の報告          P.1
         第40回運営・編集委員会の報告(略)     P.1
         別紙 1 政治現況報告            P.2
         別紙 2 事務局報告             P.3
         緊急警告022号 自衛隊明記は口実、
              9条全面改悪の突破口とするもの(案) P.6
         勉強会 日本の核政策をめぐる「虚像」と「実像」(略)            
            
            
         第43回 例会・勉強会の報告

 7月23日(日)、港区・三田いきいきプラザ集会室で開催、参加者11名、会員56名。
 司会を草野編集長が担当し、まず「政治現況報告」(別紙1)が代読されたのち、「事務局報告」が行われ、これらの報告をめぐり次のような意見が交わされた。
 「『事務局報告』に最高裁で上告を棄却された珍道世直氏と訴訟代理人弁護士代表・辻公雄氏の『最高裁決定に対する共同意見表明』が掲載されている。これは上告棄却に際し、原告側より司法記者クラブ各社に配布され、並行して大手6社宛にファックス送信されたものだが、この『意見表明』はどの社にも掲載されなかった。これこそ原告が最も訴えたかった問題であるのに。その内容は、最高裁が『違憲審査権』を現在放棄しているが、憲法にもとづき、憲法裁判所型『抽象的違憲審査制』を裁判所が今後行使することを訴え、裁判所法の改正などによる、その具体的な道筋を明示しているものだ。この『意見表明』はわが会の今後の活動にたいする貴重な指針になろう」「具体的な争訟制を持つ違憲については、保育所から人権の問題に至るまですべてが憲法裁判になっている」……

 「今回の『政治状況報告』は明快で、岡部氏に感謝したい」「都議会選挙のあと都民ファーストの代表に復帰した極右の野田数が六本木で豪遊したという記事がある」「民進党の野田(佳彦)幹事長が辞任するとのうわさがある。彼は民主党をつぶした戦犯だ」「蓮舫代表は原発を30年代になくす方針を取り下げて評判を落とした」「東電役員を訴える裁判がやっと始まった」「石原慎太郎を選んだ都民を当てにしていなかったが、都議会自民党は大敗した」「安倍を切る動きが自民党でも始まった」「歴史的チャンスだ」「前川前文科省次官の発言がきっかけになった」「私たちが憲法違反と考える共謀罪が法律になり、その法律に私たちが縛られるのか」「憲法を日本の最高法規として行動し続ける必要がある」「野田数氏は明治帝国憲法の復活を図っている」「安倍政権を打倒した後、日本とアジアの平和をどう作ってゆくのか」「岸信介のような戦犯の亡霊(孫)を、主権者である国民が許しているところに問題がある」「小沢自由党首の唱えるオリーブの木連合は護憲を軸に展望を開くべきだ」……

 ついで15:00から勉強会に入り、「日本の核政策をめぐる『虚像』と『実像』」について、飯島滋明・明治学院大学教授からパワーポイントを使った報告があり(添付ファイル)、核兵器禁止をめぐる日本政府の二心ある恥ずべき態度と、国連における核兵器を持たない国々による真摯な条約への取り組みが報告され、その後の質疑応答では、この条約の効力について、その実効をさらに広げる展望が示された。
         
当面の日程について
 1)第44回例会・勉強会   8月27日(日)13:30~ 三田いきいきプラザ
 2)第41回運営・編集委員会 8月30日(水)14:00~ 三田いきいきプラザ
 3)第45回例会・勉強会   9月24日(日)13:30~ 三田いきいきプラザ
 4)第42回運営・編集委員会 9月27日(水)14:00~ 港区立勤労福祉会館

<別紙 1>
            政治現況報告
                   岡部太郎(共同代表) 2017年7月23日

 7月2日投開票の東京都議会議員選挙の驚きの結果は、津波のように全国へ広がっていった。国会では安倍政権の一強、都議会では第一党57議席の自民党はマイナス34議席の23議席の歴史的惨敗。小池都知事の新党・都民ファーストは55人(無所属6人を含む)で、選挙協力を組んで23人全員当選の公明党などと合わせ、過半数の64を越える79議席という圧勝だった。また共産党は1議席増やして19議席。民進党は現有7議席を2議席減らす5議席と壊滅的だった。なぜ都議会自民党は惨敗したのか。原因は①小池都知事への期待と圧倒的な集票力、②自民党との選挙協力を解消した公明党と都民ファーストの選挙協力、③一強の力に頼った安倍政権の強引な国会運営と、おごる自民党の数々のミス。特に選挙後半に集中した加計学園問題や「共謀罪」の採決強行、豊田真由子衆院議員の秘書殴打事件、稲田防衛相の憲法違反とも云える自衛隊の名を使った投票依頼、自民都連会長の下村幹事長代行の加計学園からの寄付などの暴露に国民の怒りが集中した――ことなどであろう。恐らくこの三つの要因のどれが突出したと云うのではなく、この三つがからみ合って、こんな大差になったと思う。特に選挙の応援演説の要請がなかった安倍首相が、初めて応援に立った投票前日の秋葉原で、聴衆から「帰れ!」「安倍辞めろ!」の怒号で迎えられたシーンは、今選挙の象徴だった。国民は怒っていたのだ。
 2月の千代田区長選で、都民ファーストの候補が、自民党候補の7倍も票を獲得して圧勝したものの、7月時点では小池ブームも少し下火になっていると思われていたが、全くの杞(き)憂だった。国民は、主権者である国民や国会をバカにするように無視し続けた安倍首相と自民党への反撃の機会を狙っていたのだ。別に小池知事や都民ファーストでなくても良く、逆転の受け皿となるものであれば、何でも良かった。自民党が獲得議席だけでなく、得票率でも、当選率でも過去最悪だったことが、それを物語っている。
 2009年都議選で自民145万8千票(25.87%)→今回126万票(22.52%)当選率65.52%→38.33%。
 また自民党は公明党との選挙協力によって衆参両院でも地方議会でも過半数を維持してきた。自公の選挙協力がなくなれば自民が一挙に過半数を割るとの試算もあった。それが現実となった今、公明党の今後が、政局で一番注目されることになろう。山口那津男党首は衆参両院選挙の自公選挙協力は別としながらも安倍首相の主張する臨時国会での憲法改正には「内閣が改憲を云うのは筋が違う」と少し距離を取り始めた。都民ファーストも都議選での大勝をテコに、国政選挙や他の地方選挙にも関心を示し始めた。何しろ出口調査で3人に1人が都民ファーストに投票しており、これを衆院の東京選挙区に当てはめると小選挙区では都民13、自民11、比例区では都民7、自民4で、合計都民20、自民15で都民がリードする(自公選挙協力の場合)。もちろん、自公選挙協力が解消すれば、結果はこんな数ではすまなくなる。
 安倍首相は選挙結果を自民におごりがあったとし、「大いに反省」と云っているが、選挙後の世論調査では、内閣支持率がいずれも先月より10%程度下降し、朝日で支持33%女性では 27%(不支持47%)、特に加計問題の政権の解明姿勢では「評価せず」が74%になった。安倍政権はこれに危機感を持ち、前川前文科省次官を参考人とする閉会中審査を11日に開いたほか、今月中に安倍首相も出席する予算委員会で加計集中審議を開くほか、8月初めには党・内閣改造をして反転攻勢に転じたいとしている。
 しかし、これまでは一度下がった内閣支持率が「他よりまし」と、しばらくすれば回復したのに対し、今回は不支持の理由が「首相が信用できない」が61%でトップになっており、加計問題も森友問題も安倍首相夫妻自身のスキャンダルで、回復は難しいとの見方も強い。
 このように都議選自民大敗の政局への影響は目を離せないが、これまでの都議選でも、大敗のあとの国政選挙では、いずれも与野党が逆転。政局転換が行われている。1993年の都議選では巨額脱税事件や党分裂で42議席の現状維持にとどまり、2議席から20議席へと大幅に議席を伸ばした日本新党が、その後の参院選でも35議席を獲得、8党連立の細川内閣が誕生した。前々回の2009年の都議選では自民が38議席と惨敗。民主党は54議席で第一党となり、直後の衆院選で圧勝して民主党政権を実現した。現在の衆院議員の任期は来年の末で、それまでに解散・総選挙がある。安倍自民党は野党の選挙体制が整わぬうちと、今年中に解散する手もなきにしもあらずだが、小手先のことに走るとシッペ返しを受ける可能性も高い。やはり来年に向けて党への信頼を回復することしか無さそうだ。

<別紙 2>
          第43回例会 事務局報告
                    福田玲三(事務局長) 2017年7月23日
1) 来信より

① 私の「閣議決定・安保法制違憲訴訟」につきましては、いつも大きなお励ましとアドバイスを賜り心から感謝いたしております。
 昨日30日午後2時ごろ、「最高裁決定」(本件上告を棄却する)が突然送達されました。東京司法記者クラブに情報提供するため、送り文を作成すると共に、弁護士代表と協議した「意見表明」と「最高裁決定文」を整えて、別添のとおり、午後4時ごろ、司法記者クラブ各社に配布していただくよう、幹事社にFAXで依頼いたしました。
 並行して大手6社宛にも、こちらからFAX送信いたしました。
 昨日は、東京地裁で東電会長らの福島事故初公判など、大きな裁判があったのと、資料提供が遅かったため、本日の朝刊には貼付の2社のみの掲載となりました。意見表明は、掲載には至りませんでした。
 今回の「最高裁決定」の理由は、全く意味不明で、理解することも承服することも出来ません。
憲法審査について裁判所は、機能不全に陥っているように私には思われます。
 これで、私の裁判闘争は終わりでございます。後は、全国19地裁に提訴されている「集団訴訟」で、最高裁が違憲審査権を行使するかどうかです。司法が歴史的使命を果されるよう心から希求致しております。
 完全護憲の会の皆様には、今日まで大変なお励ましとご指導にあずかり、心から感謝いたしております。本当にありがとうございました。
 先ずは、取り急ぎご報告申上げます。   珍道世直

<別添:「意見表明」>

最高裁決定に対する上告人珍道世直、訴訟代理人弁護士
代表 辻 公雄共同意見表明 (平成29年6月30日)

最高裁は「違憲審査権」を放棄
憲法の条規に基づき、憲法裁判所型「抽象的違憲審査性」の行使を

1. 国是(集団的自衛権の禁止・専守防衛)の大転換をもたらす本件「閣議決定」「安全保障法制」について、国会の内外・国民の間に「違憲」「合憲」が対立して国家的大問題となっている時、最高裁が、地裁・高裁が判断して却下した「具体的争訟性」に固執して、上告を棄却し、「憲法適合性」を審査されない決定を下されたことは、正に、「違憲審査権」を放棄したに等しい。

2.裁判所は、憲法の条規により「一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する」とされており、司法裁判所型違憲審査制(付随的違憲審査制)のみならず、憲法裁判所型違憲審査制(抽象的違憲審査制)を含め、一切の憲法判断を行う権限が与えられている。
 同時に、裁判所の「裁判」する権限は、国民の「裁判所において裁判を受ける権利」と表裏の関係にあり、国民の訴えに応えて、これをすべき職責を負っている。

 (参考)関係法令
・憲法第32条(裁判を受ける権利)何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。

・憲法第76条(司法権・裁判所)①すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。②特別裁判所は、これを設置することができない。③すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。

・憲法第81条(法令審査権と最高裁判所)最高裁判所は、一切の法律、命令規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。

・憲法第98条(最高法規)この憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する法律、
命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部 は、その効力を有しない。

・憲法第99条(憲法尊重擁護の義務)天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、
裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
・裁判所法第3条(裁判所の権限)裁判所は、日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する。

3.しかし、裁判所は今日まで、警察予備隊違憲訴訟に係る昭和27年10月8日最高裁大法廷判決に基づき、「裁判所は、具体的事件を離れて抽象的に法律命令などの合憲性を判断する権限を有するものではない」(具体的争訟性がなければ裁判の対象とならない)として、裁判所の実務において、「付随的違憲審査制」のみがとられ、憲法裁判の大部分が「具体的争訟性」がないとして却下、棄却されてきた。

4.「具体的争訟性」については、先に挙げた憲法及び法律に条規されていない。警察予備隊違憲訴訟に係る最高裁大法廷判決が、憲法及び法律の上位に位置づけられ、以来64年間、当該判例が踏襲されてきた。
 これは法理の逆転であり、憲法に違背する。
 裁判所は、この法理の逆転を正し、憲法の条規に基づき、裁判所の実務において、抽象的違憲審査制の行使に取組むべきである。

5.現憲法及び現裁判所法のままでも、その意思さえあれば、「抽象的違憲審査制」を行使することが出来るが、現状、上告件数の膨大さから、実務において行使する事が困難であるなら、裁判所法及び最高裁判所裁判事務処理規則を改正し、最高裁判所の組織及び裁判官の定員を拡充するなどして、可能な限り早期に「抽象的違憲審査制」の行使に取組むべきである。

6.裁判所法等改正(案)提言
(1)裁判所法改正(案)
  ・(現行第5条一部改正)最高裁判所判事の員数(除最高裁判所長官)を14人から18人にする。
  ・(新設)最高裁判所に、通常の上告事件を審査する「上告部」と憲法適合性
を審査する「憲法部」を設ける。
(その下に、現行第9条の大法廷・小法廷を置く)

(2)最高裁判所裁判事務処理規則改正(案)
 ・(新設)「上告部」の判事は9人、「憲法部」の判事は9人とする。
 ・(現行第8条一部改正)各部大法廷では、最高裁判所長官を裁判長とする。
 ・「上告部」「憲法部」の小法廷の裁判官の員数、必要出席者数などについて必要な規則改正を行う。

② 都議選自民党の大敗(について)、護憲派としては都民ファーストの大勝を喜んではいられません。
 小池さんが日本会議メンバーなのはもちろんですが、7月3日に都民ファーストの代表に戻った野田数は極めつけの右翼です。
 都民ファーストが都政に専念しているならいいけれど、憲法改正の動きが具体的になれば、小池-野田がマスコミと組み、改憲の流れを加速しかねません。完全護憲の会は都民ファーストを改憲勢力として監視していくべきでしょう。
 以下、朝日新聞やリテラから野田数情報の要旨をまとめました。 (川本久美恵)

 野田氏は2012年、「戦勝国におしつけられた」日本国憲法を無効とし、大日本帝国憲法の復活を求める請願を紹介議員として提出。請願書には、「交戦権のない占領憲法ではなく、帝國憲法に基づく正当な防衛であることを認識し」て領土を防衛し、占領された場合は「速やかに奪還」するべきとあるほか、「我々臣民としては、国民主権といふ傲慢な思想を直ちに放棄して、速やかに占領典範と占領憲法の無効確認を行つて正統典範と正統憲法の現存確認を」する必要があるなどと書いてある。
 彼は早稲田大学を卒業し教科書を作る出版社に就職するも、歴史教科書のあり方に同意できず1ヶ月で辞め政治の道に進む。2000年の衆院選で保守党から立候補し落選、保守党の花形議員小池百合子の秘書を経て出身地の東村山市議を2期、09年には自民党公認で都議に初当選した。
 一貫して歴史修正主義で、「従軍慰安婦問題は存在しない」、「日本の戦争は侵略ではなく、自衛のための戦争だった」、「南京虐殺を歴史教科書から削除」すべきなどと主張。新しい歴史教科書をつくる会から分派した日本教育再生機構の常任理事も務めた。12年衆院選には「日本維新の会」公認で立候補したが落選。同年には石原都知事の尖閣諸島購入に賛成し国会議員の「尖閣視察団」に参加した。「北朝鮮および在日朝鮮人組織への一切の支援を断ち、圧力を強めるべき」とも主張する。
 最近はアントニオ猪木から公金1100万円の横領疑惑や六本木ハレンチ豪遊が話題になっている。
 (http://www.asahi.com/articles/ASK5D4VSGK5DUTIL01L.html、
  http://lite-ra.com/2017/07/post-3291.html)

③ 今回は、シリーズ4『明治帝國憲法下のくらし』、美しい小冊子にまとめられ、……濱口さんのすばらしい詩など、それに、明治憲法下での貴重で、親しみのある資料、旧憲法、教育勅語、軍人勅諭、戦陣訓など、手近かに見ることができて重宝です。是非多くの人たちに見ていただきたいと存じます。シリーズNo.4の美しい小冊子をみて、小生も、いつかこのようなものをつくりたいとの気持ちになり、大いに励まされました。(大阪府・S氏)

④ お送りくださった「明治帝國憲法下のくらし」は「戦陣訓」や、今はなかなか見ることもできない法律など掲載されていて、勉強になります。「教育勅語」など学校で暗記させられたものでした。(静岡県・U氏)

⑤ うそつき官邸 (「もしもし亀よ」のメロディーで)

うそつき うそつき 安部首相 うそつき うそつき 空恵さん
鹿児池 加気さん 親友で 森友学園 大好きで
国のお金を横流し ポンと寄付金百万円
口を拭って知らぬ顔 子供はパクパク御名御璽

夫婦そろって うそつきで うそを言わない前河さん
菅原官房長官と 文科省の元次官
密室ひそかに口合わせ ないとは言わない男伊達
厚さ何寸 面の皮 首相になってほしい人
(ゆき・ゆきえ)

2)勉強会の講師

 第39回運営・編集委員会できまった勉強会:「国連・核兵器禁止条約」の講師は、先に「国連・平和への権利宣言」の講師、飯島滋明先生に再度お願いできることになった。

3)集会の案内
(ご参考:イベント告知サイト、レイバーネットのイベントカレンダー labornetjp.org/EventItem)

1.第7回平和学習会――報告・宇井宙「9条3項加憲論を考える」
   8月12日(土)13:30~16:30
   東京ボランティア市民活動センター 会議室C  (JR飯田橋駅隣・セントラルプラザ)
2.第21回「7・1閣議決定」違憲訴訟勉強・相談会――第1回口頭弁論に向けて
   8月25日(金) 13:30~16:30 神明いきいきプラザ(JR浜松町駅徒歩5分)
   参加費:200円
3.『週刊金曜日』東京南部読者会
   8月25日(金)18:30~20:30 大田区生活センター 会議室(JR蒲田駅徒歩5分)

緊急警告022号 自衛隊明記は口実、9条全面改悪の突破口とするもの(案)

 5月3日の憲法記念日、安倍首相は日本会議が主導する「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の改憲集会にビデオメッセージを寄せ、憲法9条に関して「9条1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込む、という考え方、これは国民的な議論に値する」「夏季のオリンピック・パラリンピックが開催される2020年を……新しい憲法が施行される年にしたい」と述べ、具体的改憲項目として、憲法9条改憲に踏み込んだ提起を行った。(憲法尊重擁護義務を負う首相がこのような改憲提起を行うこと自体の違憲性については緊急警告021号で指摘。安倍首相と安倍自民党総裁は不離一体であり、改憲提起に関する限り使い分けはできない。)
 これは9条3項に自衛隊を明記する加憲論として論じられているが、一部報道によれば、自民党は安倍首相の提起を受けて9条現行条文を維持したまま、新たに「9条の2」の別条を設け、ここに自衛隊を明記する方向で検討に入ったとのことである。
 「9条3項」加憲にせよ、「9条の2」加憲にせよ、具体的に案文が示されたわけではないので案文に沿った検討はできないが、いきなり本丸の9条改憲に手を付けてくることはないだろうとの大方の予想に反しての、安倍首相ならではの極めて危険な「クセダマ」である。案文が示されてからでは遅いので、その危険性について警告を発しておかなければならない。
 安倍首相はビデオメッセージで「例えば憲法9条です。今日、災害救助を含め命懸けで、24時間365日、領土、領海、領空、日本人の命を守り抜く、その任務を果たしている自衛隊の姿に対して、国民の信頼は9割を超えています。しかし、多くの憲法学者や政党の中には、自衛隊を違憲とする議論が今なお存在しています。『自衛隊は、違憲かもしれないけれども、何かあれば、命を張って守ってくれ』というのは、あまりにも無責任です。
 私は、少なくとも私たちの世代のうちに、自衛隊の存在を憲法上にしっかりと位置付け、『自衛隊が違憲かもしれない』などの議論が生まれる余地をなくすべきであると考えます。」と述べた。
 このメッセージは、自衛隊に対する国民の信頼が「9割を超えている」という現状を踏まえた、自衛隊を合憲と考えている多くの国民(9条護憲派も含めた)の心に届く言葉である。
 これまでのところ、安倍首相の自衛隊明記改憲についての世論は「9条をいじるべきではない」とする国民の根強い反対もあって、「朝日」が賛成41%、反対44%、「毎日」賛成28%、反対31%、32%(わからない)、と賛否拮抗しているが、「読売」は賛成53%、反対35%、「時事通信」賛成52%、反対35%と過半数が自衛隊明記賛成となっている。
 しかしこのままでは、具体的に改憲文案が提示され、大々的なキャンペーンが行われるならば、国民投票において賛成多数となる可能性は大きいと見ておかなければならない。
 それゆえ、この自衛隊明記の安倍9条加憲に賛成する国民の選択は極めて危険な間違った選択になるということを訴えたい。
 その理由の第一は、安倍9条加憲「自衛隊明記」は単なる口実であり、憲法9条全面改悪の突破口に過ぎないからである。自民党改憲草案に明記されているように、現行9条2項「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」を全文削除し、自衛隊を軍隊としての「国防軍」(「草案」第九条の二)とするための突破口なのである。自衛隊を大切に思う国民の自衛隊明記の選択が、自衛隊とは異なる「国防軍」という軍隊を選択することになるのである。
 第二は、これはこれまでの自衛隊(集団的自衛権行使を容認した安保法制成立以前の)を合憲と考える大多数の国民の見解に立っての立論であるが、現行憲法第9条に明記されようとしている自衛隊は、安倍内閣によって集団的自衛権容認の7・1閣議決定がなされ、安保法制強行成立によって集団的自衛権行使を付与された自衛隊なのであり、「専守防衛」の「戦力」ではない自衛隊であることによってかろうじて維持されてきた合憲の自衛隊が、あらためて憲法違反の自衛隊となってしまったのである。このあらためて憲法違反となってしまった自衛隊を9条3項として(あるいは九条の二として)書き加えることなど不可能なことである。
 何故ならそれは、「専守防衛」を破り集団的自衛権行使によって他国の戦争にまで参加する自衛隊は、明白に現行9条1項(戦争の放棄)、2項(戦力及び交戦権の否認)と対立し、相反するからである。
 第三は、しかし論理の矛盾など意に介さない安倍政権はこれを強引に遂行するであろう。その時、現行憲法9条1項、2項は完全に無効化され、憲法に明記された集団的自衛権行使の「自衛隊」が独り歩きを開始することになる。
 独り歩きを開始した「自衛隊」は、「集団的自衛権」行使の戦争参加により限りなく軍隊としての性格を強め、軍隊としての扱いを要求してくる。結果は第二、第三の9条改憲をもたらし、自民党改憲草案がめざす「国防軍」に行き着く。
 第四は、「集団的自衛権」行使容認の安保法制が成立させられ、南スーダンに派遣された自衛隊に「駆けつけ警護」が付与されたことなどによってその兆候が現れはじめたのであるが、ひとたび「集団的自衛権」行使の戦争参加が行われるならば、「自衛隊」に応募する青年は激減する可能性がある。その結果もたらされるのは「徴兵制」である。
 第五は、「自衛隊」が「集団的自衛権」行使によって他国の戦争にまで参加するということは、国内が戦争体制下となるということなのであり、その結果、国民の基本的人権がさらに制約され、自由と民主主義が失われるということである。
 すでに安倍政権下で教育基本法改悪、盗聴法改悪、特定秘密保護法制定、安保関連法制定、「共謀罪」制定と、国民の基本的人権を制約する悪法が次々と成立させられてきたが、すべてはこの戦争体制構築のためと言わなければならない。そして今また、「大規模な自然災害」への対処を口実とした「緊急事態条項」(自民党改憲草案第98条、99条)の制定が着手されようとしている。これはナチスが全権を掌握した「全権委任法」と同質のもので、国民の自由と民主主義を圧殺し、政権の独裁を招くものである。

 自民党は安倍首相の9条自衛隊明記の提起を受けて6月6日、「憲法改正推進本部」会議を開き、年内をめどに(後に秋の臨時国会までと前倒しされた)党としての改憲案を取りまとめることを確認するとともに、具体的な改憲項目として、①9条に自衛隊の根拠規定を追加、②大規模災害時に国会議員の任期を延長する緊急事態条項の創設、③幼児教育から高等教育までの無償化、④参院選挙区の「合区」解消の4項目をかかげた。ここにはしっかりと最も恐ろしい「緊急事態条項」の創設が取り上げられているのであり、9条加憲に目を奪われて見過ごしてはならないものである。

完全護憲の会ニュースNo.43 2017年7月10日

            <例会参加の方は本ニュ―スをご持参ください>

         連絡先 〒140-0015 東京都品川区西大井4-21-10-312 完全護憲の会
             電話・FAX 03-3772-5095
             Eメール:kanzengoken@gmail.com
             ホームページ:https://kanzengoken.com/

      目次  第42回例会・勉強会の報告         P1
          第39回運営・編集委員会の報告(略)
          別紙 1 政治現況報告          P2
          別紙 2 事務局報告           P3

          第42回 例会・勉強会の報告

 6月25日(日)、港区・三田いきいきプラザ集会室で開催、参加者7名、会員58名。
 司会を草野編集長が担当し、まず「政治現況報告」(別紙1)が代読され、この報告をめぐり次のような意見が交わされた。
 「印刷されている『政治現況報告』は読みやすい。冊子シリーズNo.4は余白が少なくて読みにくい。読んでいて疲れる」「都議会議員選挙では、都政について、生活に密着している問題について訴えるべきだ。国政問題だけでは票をさらわれる」「若者の間に自民党支持が多いし、棄権も多い」「若者も様々で、レッテル貼りをしない方がいい。無関心の人をどう取り込むか。危険を訴えてもオオカミ少年として遠ざけられ、声を荒げても伝わらない。ゆっくりと地味に話すしかない」「小池ブームの行き先を考えると絶望的だ。共産票が小池に流れて減るとの話もある」「前川前文部次官の二度目の記者会見報道が、市川海老蔵夫人死亡のニュースに一斉に切り替えられた」「官僚が官邸に反旗をひるがえし始めた」「自民党石破氏の発言が特異だ」「9条加憲問題を政治状況報告に入れてほしかった。なぜ自衛隊を憲法に書き込まなければならないのか。大蔵省が財務省になっても憲法に書き込むわけではない」など。
 次いで事務局報告(別紙2)が福田事務局長から行われた。その後の勉強会は、9条加憲その他、当面の課題について、次のような意見交換が行われた。
 「いずれ国連軍を創設し、各国の紛争に介入し、平和維持にあたらせるべきだ」「自衛隊を合憲と云い切れる人がどれだけいるだろうか」「自衛隊を災害救助隊と国境警備隊に分けるべきだ」「9条の加憲提案は安倍首相の厚顔無恥を象徴している。その2項と自衛隊が背反していることは一目瞭然だ。臨時国会を召集させ、加計問題を追及し、政府に加憲を提起できなくさせることだ」「風待ちではなく、9条加憲に論理的に反論し、また感情的な説得の方法を探るべきだ」「北朝鮮問題では、南北連邦国家を目指し、米朝平和条約を結ばせることが大切。野党はこぞってアジア諸国を歴訪し、東アジア共同体を実現させたい。安倍を理論的に批判したい。たとえば『われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を廃止する』(前文)を活用すべきだ」「韓国の朴槿恵が弾劾されたのも便宜供与と憲法を守らないことからだ。安倍は憲法秩序から浮いている」など。

<別紙 1 >      政治現況報告

                     岡部太郎(共同代表) 2017年6月25日

 平成28年度の通常国会は会期の延長もなく、6月18日150日間の会期を終了した。強引な安倍内閣は、今国会に成立させる重要法案として、戦前の治安維持法の再現とされる「共謀罪」(組織的犯罪処罰法改正案)の成立を目指していたが、衆議院の強行採決に続き、参議院では、委員会での採決を省略、本会議で中間報告を求め、全く違法づくめの中で、14日、自民・公明・維新の会の賛成多数で可決成立した。この法案は提出の当初から、金田法相の答弁が二転三転した上、内容そのものも「心の中の自由を侵害するもの」「準備段階で逮捕するのは、実行刑の日本刑法の原則に合わない」「対象が不明確」など多くの不安があり、それに全く答えていない。安倍首相は「一般人は対象にならない」と力説するが、治安維持法も初めは「庶民が対象になることはない」と云いながら、最後は左翼系の本やパンフレットを持っているだけで、逮捕され、拷問まで受けた。官憲とはそう云うものだ。
 この法案では日本が「監視社会」「密告社会」になる可能性がある。
 委員会採決でなく、本会議での中間報告になったのは、参院の法務委員長が公明党で強行採決に慎重だったためで、戦前、治安維持法で弾圧された創価学会が共謀罪成立に手を貸したのは不可解である。また国連の人権委員会のケナタッチ氏が首相に対し、同法にプライバシー保護の規定がないと修正を迫ったのに対し、日本政府は黙殺したまま。安倍首相は閉会の翌日の記者会見で、形だけは反省して見せ、「国民には今後十分説明する」と語った。しかし、集団的自衛権でも安保法制でも、強行採決のあとは国民に納得のゆく説明は一切ない。安倍氏には民主政治家としての資質が全く欠如しているようだ。
 政府・自民党が大あわてで国会の幕をおろしたもう一つの要因は、安倍さんのお友達の学校、岡山の加計学園の獣医学部新設問題だ。昭恵夫人の大阪・森友学園スキャンダルもまだ結論が出ないが、加計問題は文部科学省の前川前次官が、文書の存在を確認しただけだが影響は大きかった。最初は「問題の文書は見つからなかった」と云っていた。しかし同省内部で前川同調者が出るなどして、シラを切ることができなくなり、再調査の結果、16日、松野博一文科相が「総理のご意向」「官邸の最高レベルが云っている」などの内容のある文書14点が見つかったと発表した。
 また官邸側・内閣府のこの問題の担当者は首相の最側近、萩生田光一官房副長官で、首相の強い意向を示したものだった。これを受けて内閣府担当の山本幸三地方創生担当相も同省に文書の所在確認を指示。こちらも8点を確認したが、「総理の意向を示すものはなかった」と否定。二つの省の調査結果が大きく食い違った。野党はこのため関係者の証人喚問や予算委員会での集中審議を求めている。
 このように安倍一強の自民党も思わぬほころびが見られ、誰が見ても不自然な強弁だけに世論の反感も強い。19日に発表された各紙の世論調査でも、内閣支持率はいずれも10ポイント以上も落ち込んでいる。東京新聞加盟の共同通信の調査では内閣支持率は44・9%(前回55・5%)不支持率43・1%(34・5%)。朝日新聞は支持率41%(前回47%)不支持率37%(31%)また毎日新聞は支持率が33%まで下がっている。その他、東京新聞では加計学園の安倍説明は「納得できない」は73・8%。共謀罪の採択は「よくなかった」67・7%。「政府は十分説明したか」そうは思わない81・3% 思う12・5%。朝日新聞も加計問題の首相説明に「納得できない」(66%)「納得」(18%)。週刊誌はもっと激しく、文春は前川証人喚問賛成86%反対18% 安倍内閣支持率22%不支持78%だった。
 そのほか今国会では現天皇の老齢退位の意向を受け、国会は天皇退位特例法を成立させた。3年以内に退位、200年ぶりに上皇が誕生する。天皇は皇室典範改正で恒久的に退位できることを希望されていたが、安倍首相は一世一代の皇室にこだわり、特例法にした。昔なら不忠の臣だ。実際は来年末で退位。元号も変わり、皇太子が正月に即位する。
 政府与党が通常国会をいち早く店仕舞いしたいもう一つの理由は、東京都議選が23日告示、7月2日投票で実施されるからだ。都議会の自民党は過半数はないものの第一党であるが、昨年の都知事選で小池百合子氏が無所属で当選して以来、少し情勢が変わって来た。小池知事は「都民ファースト」を旗印に、自民党のボス政治を攻撃。特に築地市場を豊洲市場へ移転する計画が汚染など計画通りに出来ていないことを追及。石原元都知事の計画を白紙に戻すなど、改革を進めた。特に2月に行われた千代田区長選では、小池氏が押した現職の石川雅己氏が、自民党の推す新人に7倍もの大差で圧勝。小池旋風が巻き起こった。市場問題の決定が遅れるなど、少し勢いは下火になったものの、それでも東京新聞の都内調査では「都民ファースト」22%、自民党17%の支持で小池新党がリードを保っている。
 特に大きいのは、これまで自民党と選挙協力をしてきた公明党が、都議選に限るとはいえ、都民ファーストと選挙協力の約束を交わしたこと。民進党の候補の半数近くが小池新党に流れたことなど、都民ファーストが都議会の過半数を握ることも十分考えられる。
 小池新党への自民からの移籍が11人、民進から5人(選挙協力8人)、政治経験のないものも11人おり、実力は未知数。投票の結果が待たれる。

<別紙 2 >     第42回例会 事務局報告

  福田玲三(事務局) 2017年 6月25日
1)来信より

1 先日護憲の会からシリーズNo.4、「明治帝國憲法下のくらし」頂きました。私はこのところ関係している事件(中国人強制連行事件、原発避難者事件、各種じん肺事件)などが山積しており、ご返事が遅くなりましたが、このパンフ10冊戴きたいと思います。……
皆さんが書かれた内容にも感動しましたが、明治憲法の外、教育勅語なども掲載されているのが何よりです。若い弁護士などは何も知らないのが実情です。このパンフを身近な若い弁護士に渡して、反応を見ると同時に、更に広く普及したいものと考えています。(M弁護士)
2 このたびは『明治帝國憲法下のくらし』をご恵送に預かり、誠にありがとうございます。解説は的確でたいへんわかりやすく、また資料も充実しております。さすが「完全護憲の会」の錚々たる方々が手がけていらっしゃるだけあります。……
 「幼にしては親に従い、嫁しては夫に従い、老いては子に従え」という儒教に基づく三従の教えに縛られた社会で、お母様が悩み、苦しまれた姿が、リアルに伝わりました。そんな中でもお母様の子どもを思う気持ち「5人の子5本の指になぞらえて母の願いは落ちなき幸ぞ」は宝石のように輝いて見えます。
 過去の話というよりも、どこかで自分に繋っていると感じられ……(お母様が手紙を書いては泣き、泣いては書きしているときの……お母様とのやりとりは何よりも印象的です)。それとも、いまの女性たちに、程度の差は違いはあるにせよ同様の葛藤があるからでしょうか。
 14条、あるいは24条についての普遍的な価値を、いまさらながらかみしめる次第です。(雑誌編集者・K氏)
3 活動に敬意を表します。(京都府・k氏)
4 大変良い資料を送っていただき有難う。教育勅語は現代語訳を併記していただけたらもっと良かったのに残念です(H氏・埼玉県)
5 最近よく若い人たちから聞くことなのですが、今の憲法は米国から押し付けられたものだから日本人の憲法ではないというのです。父から聞いていた話では当時……何らかの考えを持っていた人々はことごとく追いやられていた……大学に入った時には教授も憲法もなかった。そんな中で今の憲法の主権在民などどいう考えが自主的に作れる環境にはなかったのではないかと思うのですがどうなのでしょうか。この憲法のおけげでこんな疑問も自由に言えるのだと思うのです。(K氏・千葉県)

3)集会の案内 (敬称略)

1 2017憲法講演会「憲法『改正』に向き合う」
  (主催) 法学館憲法研究所・日本評論社
  リレートーク   http://www.jicl.jp/jimukyoku/backnumber/20170613.html
  浦部法穂(法学館憲法研究所顧問、神戸大学名誉教授) 白取祐司(神奈川大学教授)
  村井敏邦(法学館憲法研究所客員研究員、一橋大学名誉教授) 白藤博行(専修大学教授)
  木下智史(関西大学教授) 伊藤 真(法学館憲法研究所所長、伊藤塾塾長)
  7月16日(日)  14:30~17:00 伊藤塾 東京校(JR渋谷駅南改札西口徒歩5分)
  参加費 一般 500円(事前予約の場合400円) 定員100名 当日参加可
2 第20回「7・1閣議決定」違憲訴訟勉強・相談会――第1回口頭弁論に向けて
  7月21日(金) 13:30~16:30 神明いきいきプラザ(JR浜松町駅徒歩5分) 参加費:200円
3 講演会「共謀罪後の闘いの方向 萎縮しない市民運動 知恵・方針を出し合う」
  ○安倍改憲反対!安倍政権打倒を目指して 福山真劫(総がかり行動実行委員会共同代表)
  ○加計学園問題を追及する 浅野健一(ジャーナリスト)
  7月23日(日)  18:00開場 18:30~21:00 資料代:800円
  スペースたんぽぽ(JR水道橋駅徒歩5分)http://vpress.la.coocan.jp/tanpopotizu.html
4 『週刊金曜日』東京南部読者会
  7月28日(金) 18:30~20:30 大田区生活センター(JR蒲田駅徒歩5分)
5 第7回平和学習会――「9条3項加憲論を考える」 報告者:宇井宙
  8月12日(土)  13:30~16:30 資料代:200円
  東京ボランティア市民センター 会議室C (JR飯田橋駅隣・セントラルプラザ10階)

(以上、例会後の加除を含む)

完全護憲の会ニュース№42 2017年6月20日

                 <例会参加の方は本ニュ―スをご持参ください>

         連絡先 〒140-0015 東京都品川区西大井4-21-10-312 完全護憲の会
             電話・FAX 03-3772-5095
             Eメール:kanzengoken@gmail.com
             ホームページ:https://kanzengoken.com/

      目次 第41回例会・勉強会の報告        P1
         第38回運営・編集委員会の報告      P1
         別紙 1 政治現況報告          P2
         別紙 2 事務局報告           P3
              緊急警告020号案        P4       
              緊急警告021号案        P4
         別紙 3-1 改正前後の教育基本法の比較  P5
         別紙 3-2 愛知弁護士会長声明      P9

      第41回 例会・勉強会の報告

 5月28日(日)、港区・三田いきいきプラザ集会室で開催、参加者7名、会員57名。
 司会を草野編集委員長が担当し、まず「政治現況報告」(別紙1)が代読され、この報告をめぐり次のような意見が交わされた。
 「岡部氏が前川・前文科省事務次官の『週刊文春』インタビューとケナタッチ・国連人権理事会特別報告者の安倍首相宛て勧告を取上げたことに感謝したい。その上で、安倍首相の5月3日付読売インタビュー記事の件や、緊急事態条項の追加提起を取上げてほしい。第9条はすでに解釈が変更されてしまったが、この新たな緊急事態条項の追加にも首相の重要な狙いがある」「首相は易しい言葉を使って庶民の気持ちをあおっている」「緊急事態条項については『シンポジウム・大規模災害と法制度・記録集』(日弁連編集)が参考になる」「国民は安倍首相提起を受け入れるのではないだろうか。提起の最終的狙いは9条の廃棄だが」「自衛隊の存在は国民に認知されているが、自衛隊を縮小する方向で考えるべきだ。国民が認知しているから、と容認すべきではない」「ヨーロッパのリヒテンシュタイン侯国は35000人の人口、一人当たり年収は1000万円で、軍隊を持っていない」「前川前次官を国会に証人として呼ぶべきだ」「鳥インフルエンザは国境を越えて広がるので、研究レベルを上げる必要があり、加計学園の獣医学部新設は、そのためだと一部のメディアは言っている」「共謀法を阻止するためには、安倍首相を退陣させるのが筋だ」「忖度と云われているが、安倍首相の直接の命令ではないか。前川氏が出会い系バーに行ったと非難しているが、国はこうしたバーを容認している。こうした非難が横行すれば公務員は何も言えなくなる。安保法制は戦時に適用されるが、共謀罪は常時ついてまわる。かつて毎日の西山太吉記者が沖縄返還協定にかかわる密約を報道した際、『ひそかに情を通じて』というスキャンダルがばらまかれ密約への視線がそらされた。『それがどうした』と居直るべきだ。共謀罪は警察にさらに仕事を与える」「民進党の山尾議員の共謀法批判は見事だ。法務大臣には彼女が適任だ。岩波ブックレット『共謀罪の何が問題か』(高山加奈子・著)は良書だ」など。
 次いで事務局報告(別紙2)が福田事務局長から行われ、緊急警告020号案では金田法相の答弁能力欠如を加筆すること、021号案では、国会が「国権の最高機関」である以上、行政府・内閣はその下位にあって国会に従属するものであり、「行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負う」(憲法66条3項)ことなどを加筆するよう要望された。
 その後の勉強会は前月に引き続き、安立きくこ氏から「道徳の教科化と教育基本法」について別紙3の資料2点に基づき、明快な報告が行われた。

      第38回運営・編集委員会の報告

 5月31日に予定されていた運営・編集委員会は、当日、福田共同代表が慢性硬膜下血腫で大森日赤に入院し手術が行われたため、延期された。なお手術後の経過は順調で、福田共同代表は6月13日に無事退院した。

<別紙 1 > 政治現況報告
             
                  岡部太郎(共同代表) 2017年5月28日

 5月3日、施行70周年の憲法記念日、安倍首相はビデオ・メッセージで、憲法改正の段取りについて①第9条の1項、2項は現行のままに残し、第3項に自衛隊の存在を明記する②高等教育の無償化を明記する③改憲施行時期を東京オリンピック開催の2020年とする――との具体論を初めて明らかにした。首相は就任以来、機会あるごとに憲法改正への期待を表明していたが、改憲の具体案と時期を明らかにしたのは初めて。国会の憲法審査会の論議が進まぬのに、しびれを切らして、まず自民党に総裁として促進を指示したものと見られている。もちろん自民党総裁の立場とはいえ、安倍氏は現実に内閣総理大臣。憲法を守る特別公務員としては、まさに憲法違反の行動である。これまで、自民党の改憲論は第9条2項の「(第1項の戦争放棄を受けた)陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない。国の交戦権はこれを認めない」を削除し、自衛隊保持を明記することであった。
 それを9条1項2項を温存したのは、9条改正に慎重な公明党への配慮であり、授業料免除は日本維新の会への配慮と思われる。しかし、どう考えても、2項の「戦力不保持」と自衛隊の「存在の明記」は両立しない。さらに問題は、2020年の東京オリンピックに合わせて施行するという改憲時期。いうまでもなく、オリンピックは世界のスポーツの平和の祭典。それに合わせて平和憲法を後ろ向きに改正すると云うのは、集まる世界のスポーツマンに失礼な話。特にアジアでは日本の軍事力台頭に不満もあり、国内の安倍反対勢力にも五輪ボイコット論なども出かねない。
 野党の民進党や共産党の反対はもとより、自民党にも反対論や慎重論が出ている。高村副総裁は、国民への説得や野党との協議なしに自民が一方的に改憲へ走るのは危険とし、次期総裁選を狙う宏池会の岸田外相も「9条の改憲は必要ない。保守本流の私たちには、現憲法に対する愛着は特別なものがある」と述べた。石破茂氏は「勢いで改正して良いはずがない」船田元自民党憲法改正推進本部長は「野党の反発を招くのは必至で急ぐべきでない」。
 また民放の番組で枝野幸男・民進党憲法調査会長が「国論が二分され、国民投票で圧倒的に可決される状況でもないのに、自衛隊明記を国民投票にかけるのは無責任」と指摘し、公明党憲法調査会長も「野党第一党の民進党とも理解できる形にもってゆかねばならない」と語った。また各社の世論調査でも改正可、不可は41%、44%(朝日)、32%、20%(NHK)などだが、2020年に施行については「時期にこだわるべきでない」56%、20年実施20%で慎重派が圧倒的に多かった。
 その安倍首相に降ってわいたのが、ごく親しい友人が理事長を務める岡山加計学園の今治・獣医学部新設の忖度問題だ。昭恵夫人の森友学園の口きき疑惑と瓜二つで、今治の国家戦略特区諮問会議(議長-安倍首相)が昨年11月9日に「今治の加計学園の構想が適当」としたことだ。共産党の小池晃氏は入手した内部文書で、内閣府が文科省に対し「官邸の最高レベルが言っている」「総理の意向だ」との文言で、加計学園を指名したことを明らかにした。安倍首相は「覚えがない」と否定。松野文科相も「文書の存在を確認できない」と逃げた。
 しかし、25日発売の週刊文春が、この一月に再就職あっせんで辞任した文科省前次官の前川喜平氏(62)のインタビューで「私が去年10月、報告を受けた。総理の意向の文書は本物です」と証言。野党は前川氏の国会での証言を求める構えだ。
 安倍首相は「何か働きかけた証拠があれば、私は直ちに止める」と森友問題と同じ大見得を切っているだけに、事件の発展によって首相辞任という大政変に発展する可能性もある。
昭恵夫人の森友学園の成功に、安倍首相も同じ方法で、昨年末、文科省に忖度を強いたものと見られ、婦唱夫随も極まれりというところ。
 また治安維持法の再来として反対の強かった「共謀罪」は、19日、衆院法務委で自民・公明・維新の三党が強行可決。23日の衆院本会議でも三党が可決して参議院に送った。金田法務大臣のあいまいな答弁や不信任案否決の後、十分な説明や審議ができないままだった。
 折も折、国連の人権理事会の特別報告者のジョゼフ・ケナタッチ氏から安倍首相あてに、日本の「共謀罪」法案が①「計画」「準備行為」の文言が抽象的で恣意的に運用されかねない②対象犯罪が幅広く、テロや組織犯罪と無関係のものも含む③令状主義など、プライバシー保護の適切な仕組みがないと指摘。日本政府はいったん立ち止まって熟考し、必要な保護措置を導入すべきだ、と勧告した。政府は「共謀罪」の法案作成に当たって「国際犯罪防止条約」を批准のために必要としてきた。ケナタッチ氏は「プライバシーを守る適当な措置を取ることなく、法案を通過させることにはならない」と述べた。実際、国際条約加盟のためテロ対策の国内法を法案化したのは、ノルウエーとマルタの二ヵ国だけという。
 そのほか、今月はフランス大統領選で中道のマクロン氏(39)が当選。EU のワク組みに変化がなかったことと、お隣韓国の大統領選で北朝鮮と話し合うとした革新系の文在寅(ムンジェイン)氏(64)が大統領に選ばれた。

<別紙 2 > 第41回例会 事務局報告

                  福田玲三(事務局)  2017年5月28日

1)来信

1 濱口國雄作「地獄の話」をノンフィクションとしてではなく、作品として読んで欲しいと言うご意見に全く賛成です。(清林保:国鉄詩人連盟)
2 早々の対応、恐れ入ります。兄をはじめ、職場の友人等に配布し護憲の思いを広めたいと思います。立派な冊子となったことうれしいです。(濱口順二:濱口国雄氏次男)
3 貴重なパンフ有難うございます。濱口國雄の詩が載っているのが嬉しく、布施辰治は知っていましたが、その子杜生さんのこと、初耳でした。(I.I)
4 シリーズ4お送りくださり、杜生についての歳枝の文章をご紹介くださり有難うございました。あの逮捕は、歳枝には不意打ちでしたが、杜生は予期していたと思います。そのことは、妻には語っていなかったと思います。少し前に、京大時代の仲間、西田勲が逮捕されていて、その対策を有楽町にあったなんとかパーラーで話し合ったという事実があるからです。政治的な背景ゼロの勲の弟を呼び出して、丸の内署だかに話を聞きに行かせたという事実があります。
 今日秋篠宮眞子の婚約が報じられました。女性宮家問題に光が当てられると思います。天皇家と安倍一族との十年戦争を思わずにはおれません。(S.O)
5 今、流布することが増々重要になっているすばらしいパンフです。(T.M)
6 ニュースNo41をお送りいただき有難うございました。事務局報告の中で、「来信」として私のこともお取上げいただき恐縮いたしております。……どうか、あまりお気遣い下さいませんようお願いいたします。(珍道世直)

2)訃報

 当会創立時からの会員、鹿野淳二氏(87歳)が亡くなられた旨、5月18日ご遺族からご連絡をいただきました。

3)シリーズNo.4 『明治帝國憲法下のくらし』

 今回は記者会見を設定せず、4社の記者に仮綴じ本を4月24日に送り紙上での紹介を依頼。うち1社は部内で相談中。別の1社には岡部共同代表の仲介を依頼、残る2社からはまだ返信なし。
 ニュース発信アドレス(郵送及びEメール送信)に次の挨拶文を付けて郵送。(約400部)

 みなさま
 安倍内閣は、明2018年を明治維新150周年として華々しく祝おうとしています。11月3日の「文化の日」を、「明治の日」に改めようとする動きさえあります。
 明治帝國憲法下の日々が庶民にとって、現憲法下の日々よりもよかったでしょうか。
 明治維新後の新政権は天皇を絶対君主とする体制を作り、軍事大国に驀進しました。憲法発布からわずか5年後に日清戦争、その後10数年ごとに侵略戦争を繰り返し、その原点が明治帝國憲法でした。
明治維新への賛美は、国民主権を定めた現憲法を、国家主権に戻そうとする自民党改憲草案の意図と重なっています。
 私たちは、戦争に明け暮れた明治憲法下のくらしが、どれほど悲しく苦しいものであったかを示すために、小冊子『明治帝國憲法下のくらし』をまとめました。
 ご一見下さいますようお願いします。
 なお恐縮ですが、当活動の資金として、本冊子原価と夏季カンパを、同封の振替用紙でお送りいただければ幸いです。
   2017年5月1日 完全護憲の会
         
4)緊急警告020号案 「共謀罪」法案は違憲! 採決強行は許されない。

 安倍政権は本年3月21日、「共謀罪」の趣旨をふくむ組織犯罪処罰法改正案を閣議決定し、国会に提出した。今回政府はこの法案を「テロ等準備罪」法案などと呼称し、あたかもテロ対策法案であるかのごとく偽って国民に受け入れさせようとしているが、実態は「共謀罪」法案そのものである。(当初の法案にはテロの文言がまったくなく、批判されてあわてて挿入した経過からも明らかである。)
 「共謀罪」法案は過去3回にわたって国会に提出された。この法案の眼目は、犯罪実行の合意をもって、処罰対象にしようというもので、「刑罰の対象は外部に客観的に表れた行為に限られる(行為原理)」「どのような行為が犯罪になるかをあらかじめ法律で明確に定めなければならない(罪刑法定主義)」といった近代刑法の大原則を根本からくつがえし、ひいては、個人の尊重(憲法第13条)、内心の自由(憲法第19条)、表現の自由(憲法第21条)、法定手続きの保障(憲法第31条)など憲法で定められた人権保障と真っ向から対立する本質から、過去3回の法案はいずれも廃案となった。
 そして、以下に見るとおり、この度の組織犯罪処罰法改正案には重大な違憲性がなお指摘される。
 すなわち、この法案が成立すれば、
1 共謀を立証するために捜査機関が電話やメールなどの通信傍受を拡大する可能性があり、これは憲法第13条「(個人の尊重と公共の福祉)すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」(個人情報を守る「プライバシー権」の根拠とされる)に抵触する。
2 犯罪が実行される前に、合意しただけで処罰でき、人の内心を罰することが可能になる。安倍首相は準備行為があって初めて処罰対象とすると説明しているが、何が準備行為なのかはあいまいで、これは憲法第19条「(思想及び良心の自由) 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。」に真っ向から違反する。
3 米軍基地反対や反原発など、自らの主張を表現する市民団体の行動が捜査対象になり、その活動を委縮させるものであり、これは憲法第21条「(集会・結社・表現の自由) 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」に違反する。
4 何が準備行為と判断されるか分からず、これは憲法第31条「(法定の手続きの保障)何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない。)に違反する。

さらに安倍首相は「一般人には全く関係ない」と強調するが、戦前の治安維持法も、当初は、国体を変革する共産主義者が取り締まりの対象とされたが、後に政府の政策を批判する人、戦争に懐疑的な人まで、警察は容赦なく逮捕した。

与党は、この「共謀罪」法案について、現国会の会期末である6月18日から逆算して、5月17日衆院法務委で審議、採決、18日衆院本会議で採決、衆院通過、22日参院本会議で審議入り、23日参院法務委で審議入り、6月中旬での参院で採決、成立を狙っている。
しかし、法務委員会での審議を通じて、本法案への理解は深まるどころか、国民の懸念はいっそう広がるばかりだ。憲法違反の「共謀罪」法案の強行採決は許されない。

5)緊急警告021号案 安倍首相の改憲発言は違憲、首相は即時退陣せよ!

 安倍首相はさる5月3日、憲法記念日の改憲派集会に寄せたビデオメッセージで、憲法第9条1、2項を残し、自衛隊の存在を明記した条文を追加するなどの改憲案を示したうえで、2020年に改正憲法を施行する考えを表明。
 ついで5月8日、衆院の予算委員会で野党の質問に答え、首相は改憲発言の真意は読売新聞のインタビューを読めと云い捨て、委員会室を騒然とさせた。
 この後、11日に開かれた衆院憲法審査会の幹事懇談会で、野党に追及された自民党は、一連の安倍首相による発言は「党に向けて示したものと理解している」との法外な言い逃れに追いこまれ、さらに「2020年施行」と年限を切った発言に審査会は「縛られるものではない」と釈明して、ようやく18日に審査会の開催を取り付けた。
 18日に開かれた同審査会では、野党からの批判が噴出、審査会の森英介会長(自民党)は「憲法改正の発議権を有しているのは国会で、与野党で丁寧な議論を積み重ねていかなければならない」となだめたが、野党の反発は収まらず、「国会の立法権を侵害すると同時に議事の混乱を引き起こす行為だ」、首相の提起は「憲法を根底から覆すことにほかならない」と民進、共産、社民の各議員がこもごも批判した。
 さらに安倍首相は21日、ニッポン放送のラジオ収録番組で自衛隊の存在を明記する自民党の憲法改正原案を「年内にまとめて、お示しできればなと思う」と、自民党の改憲原案作りの期限まで明言した。
 首相の改憲提起に対する野党の「立憲主義に反する」との批判に、首相は「まったく理解できない。私は内閣総理大臣であると同時に自民党総裁だ。第1党のリーダーとして、国民に訴えていく責任がある」と反論している。
 裏を返せば安倍首相は自民党総裁であると同時に、総理大臣であり、憲法第99条により、公務員・行政府の長として憲法尊重、擁護の重責を担っている。首相の役割は、憲法に従って政治をすることだ。行政府の長が憲法審査会という立法府の審議に介入する権限はない。首相は越権を謝罪し、即時退陣せよ。

6)集会の案内

 1 第5回平和学習会――憲法原文を忠実に読み直す
    6月3日(金)13:30~16:30
    東京ボランティア市民センター 会議室C  (飯田橋駅)
 2 6.10 国会大包囲 止めよう!辺野古埋め立て 共謀罪法案は廃案に!
    6月10日(土) 14:00~15:30 国会周辺
    主催・戦争させない・9条壊すな! 総がかり行動実行委員会、他
 3 第19回「7・1閣議決定」違憲訴訟勉強・相談会
    6月16日(金) 14:00~16:30 神明いきいきプラザ(JR浜松町駅徒歩5分) 
    参加費:200円
 4 週刊金曜日』東京南部読者会
    6月23日(金)18:30~20:30 大田区生活センター(JR蒲田駅徒歩5分)

<別紙 3-1 >     改正前後の教育基本法の比較(略)

<別紙 3-2 >     愛知県弁護士会会長声明 (2006年5月)

教育基本法「改正」法案並びに日本国教育基本法案に反対する会長声明 -愛知県弁護士会-

 政府は、本年4月28日、教育基本法「改正」法案を閣議決定し国会に上程した。衆議院に特別委員会が設置され、また、同年5月23日には、民主党からも「日本国教育基本法案」が提出され、本日、両法案ともに実質審議に入った。
 しかし、愛知県弁護士会は、以下の理由により、この両法案に反対し、この両法案をいずれも廃案とすることを求める。

1 教育基本法の改正は、国民に十分な情報を提供し、国民的論議をふまえて十分な審議をつくした上で行われるべきである。
 教育基本法は、前文で、「われらは、さきに、日本国憲法を確定し、民主的で文化的な国家を建設して、世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示した。この理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである。」と謳っているように、憲法施行を控えた1947年3月に憲法と一体のものとして公布・施行された準憲法的性格を持つ。その準憲法的性格と「教育」の役割の重要性は現在も何ら変わってはいない。それは、一人ひとりが自由に学び、人間らしく成長する権利の保障を謳う基本法として、1989年国連で採択された子どもの権利条約とも調和している。その改正は、後述するとおり憲法の理念や基本原理にもかかわる重要な問題であり、改正の是非を含め、憲法の改正に準じた十分な国民的な論議が不可欠である。
 しかるに、政府「改正」法案は、非公開の与党協議会において論議されたに過ぎず、その議事録さえ公開されていない。また民主党案についても、非公開の「教育基本法に関する検討会」において議論されたに過ぎない。このように、国民に十分な情報が提供されておらず、議論されてもいない状況のもとで、政府及び民主党が今国会に両法案を提出したこと自体が問題である。

2 なぜ今教育基本法の改正なのか不明である。
 文部科学省は、子どものモラルの低下、学ぶ意欲の低下、家庭や地域の教育力の低下等の問題があることから、教育基本法を改める必要があるとしている(文部科学省「教育基本法案について」平成18年5月説明資料)。しかし、これらの問題が教育基本法の不備や欠陥によるものではないことは明らかである。むしろ、偏差値教育などと評される知育偏重の選別的、競争的教育や教員による体罰等も含む管理教育の弊害、平和教育や社会参加のための教育の不足など、教育基本法の理念に反する教育現場の問題が容易に改善されない現状に対する認識と具体策が必要とされている。しかし、両法案では、現行法のどこに問題があり、どこを変えれば、どのような問題が克服されるのかもまったく不明である。このように現実的な立法事実に基づかない法改正は不要であるばかりか、有害であり、真に国民のための教育の実現とは別の政治的意図があるとの疑いを抱かせるものである。

3 両法案は、教育基本法を180度転換するものである。
 教育基本法は、教育に対する国家支配が不幸な戦争に国民を導いたことへの深い反省から、子どもをはじめ国民一人ひとりが学び、成長する権利主体として教育への権利を有することを基本として、国家権力-とりわけ教育行政の権力の濫用を戒めた。すなわち、現行教育基本法第10条第2項は、「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接責任を負って行われるべきものである。」との同条第1項を受けて、教育行政の役割を、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立に限定している。
 しかるに、両法案は、現行法第10条第2項の規定をあえて削除した。これは教育行政の役割を「条件整備」を超えて、教育内容の決定にまで拡大させる意図があるからとしか考えられない。
 さらに、政府「改正」法案第2条は、第1号から第5号までの5項目の「教育目標」を定め、それぞれに「態度を養う」と規定している。要するに、国が法の名の下において教育目標を定め、子どもをはじめ国民に対してその目標に添う「態度」を求めるのである。達成することを目指す教育目標である以上、学校教育においては、その達成度が評価されることが前提となる(政府「改正」法案第6条第2項参照)。
 政府「改正」法案は、教育基本法を、子どもをはじめ国民一人ひとりが求める教育の実現をめざすものから、国民に対し国が定めた教育目標に従う「態度」を求める法律へと180度理念を転換させるものである。それは、国民を不幸な戦争に導いた国家主義の教育が新たな装いをして再現することを強く懸念させるものである。

4 両法案は、憲法第19条「思想および良心の自由」の保障に反する。
 政府「改正」法案前文第2段は、「公共の精神を尊び」「伝統を継承」する教育を推進するとし、第2条において、「道徳心を培う」「伝統と文化を尊重し、」「我が国と郷土を愛する」という「態度を養う」ことを教育の目標として掲げている。また、民主党案前文は、「我々が目指す教育」を「美しいものを美しいと感ずる心を育」むこと、「個人や社会に起こる不条理な出来事に対して、連帯して取り組む豊かな人間性と、公共の精神を大切にする人間の育成」、「日本を愛する心を涵養し、祖先を敬い、子孫に想いをいたし、伝統、文化、芸術を尊」ぶこと等とし、「国政の中心に教育を据え」「新たな理念に基づく教育に日本の明日を託す決意」を謳い、第7条第2項において、「道徳心の育成、文化的素養の醸成」を義務教育の旨として掲げている。
 しかし、両法案は、何が「公共の精神」で、何を継承すべき「伝統」とするのかを、国が定めて国民にそれに従う「態度」を求めることになる。そして、教育の現場においては、これに従って指導し、かつ、その達成度を評価することになるから、国が求める一定の価値観を国民に押しつけることになる。
 さらに、「我が国と郷土を愛する」という「態度を養う」こと、また「日本を愛する心を涵養す」ることを教育の目標とすることは、たとえば、君が代・日の丸に対し起立・礼・唱和などの「態度」を求めるというような指導によって、国の権力を持つ者が求める愛国心を国民に強制することを許す道を開くものである。国旗及び国歌に関する法律について、当時の内閣総理大臣が「強制は考えていない」と国会答弁をしたにもかかわらず、実際には学校教育現場では起立・礼・唱和などの「態度」の強制が広がっている現実を見れば、国が個人の心の自由に強制を加えることが強く懸念されるのは当然である。したがって、「改正」法案は、前文において「憲法の精神にのっとり」と記述しているにもかかわらず、憲法第19条「思想および良心の自由の保障」に反しており、法律として自己矛盾を犯している。

5 結語
 両法案は、教育基本法の基本理念を逆転させ、憲法第19条「思想および良心の自由」、第23条「学問の自由」、第26条「教育を受ける権利」などの人権保障規定と整合しない重大な問題点をはらむものである。
 よって、当会は、両法案に強く反対するとともに、両法案をいずれも廃案にするよう求めるものである。

  2006年5月24日
                     愛知県弁護士会 会長 山田 靖典

完全護憲の会ニュースNo.41 2017年5月10日

             <例会参加の方は本ニュ―スをご持参ください>
             連絡先 〒140-0015 東京都品川区西大井4-21-10-312 完全護憲の会
             電話・FAX 03-3772-5095 Eメール:kanzengoken@gmail.com
             ホームページ:https://kanzengoken.com/

      目次  第40回 例会・勉強会の報告       P.1
          第37回 運営・編集委員会の報告(略)  P.1
          別紙 1 政治現況報告        P.2
          別紙 2 事務局報告         P.3
          別紙 3 緊急警告019号        P.4
          別紙 4 道徳の教科化と教育基本法  P.5

        第40回 例会・勉強会の報告

 4月23日(日)、港区・三田いきいきプラザ集会室で開催、参加者8名、会員57名。
 司会を草野委員が担当し、まず「政治現況報告」(別紙1)が代読され、この報告をめぐり次のような意見が交わされた。
 「報告では極東地域の緊張について、『必要以上に声高に危機を叫んでいるフシもある』となっているが、万一米朝交戦になれば日本が必然的に巻き込まれる危険が軽視されている」「安倍首相は危機をあおりながら観桜会に出ている。危機をあおっているが、はったりだ」「『対話と圧力』とよくいわれるが、『圧力』という言葉は嫌だ。本当に、誠実に語るべきだ」「北朝鮮の扱いを中国に任せるべきではなく、日本が最大限、自力で努力すべきだが、安倍首相の外交能力には信用がおけない。日ロ首脳会談は成果なし、韓国駐在大使引き上げは意味がなかった」「情けない内閣だ。よく自民党が黙って見ているものだ。末期的症状だ。自民党にもまともな人がいるはずだ。反抗すれば昔のスキャンダルが持ちだされる。小選挙区制だけのせいではない。清廉潔白な議員がいなくなっているのではないか」「報告に『シリア政府軍が反政府軍にサリン攻撃を仕掛け』とあるが、このように断定できるか?」「断定はまずい、『と伝えられる』位にすべきだ」「ジュバからのPKO撤退は安倍の大敗北だ。安保法にもとづく『駆け付け警護』の派遣を閣議決定しながら、目的を達成できぬままの引き上げだ。これは憲法の画期的な勝利だ。トランプ、朴槿恵とも憲法裁判で敗れた。この教訓に学ぶべきだ」「高度成長期が終わり、自分に不安な人々が中国や北朝鮮を見下して自分を慰め、安倍政権を支えている」など。
 ついで事務局報告(別紙2)が福田共同代表から行われ、「緊急報告019号 過去の亡霊、教育勅語の復活は違憲」案の字句について修正意見があり、それにもとづいて一部書き直すこととした。
 そのあと都内で家庭教師をしている初参加者1名の自己紹介があり、休憩の後、勉強会にうつり「道徳の教科化と教育基本法」(別紙4)について、安立きくこ氏から報告があった。この報告をめぐり、東京都の教育委員会が試験の模範解答で愛国心や忠誠心を賛美する事例が参加者から出された。安立報告の多面的で秩序だった報告については、次回に引き続き討議することとして勉強会を終えた。

 当面の日程について
1)第41回例会 5月28日(日)13:30~ 三田いきいきプラザ
2)第38回運営・編集委員会 5月31日(水)14:00~ 三田いきいきプラザ
3)第42回例会 6月25日(日)13:30~ 三田いきいきプラザ
4)第39回運営・編集委員会 6月28日(水)14:00~ 三田いきいきプラザ

<別紙1>
         政治現況報告
                  岡部太郎(共同代表) 2017年4月23日

 4月も内外共に重要な政治ニュースがあったが、その中でも太平洋を中にはさんだ超大国の米国・中国の両首脳が初めて顔を合わせたことであろう。中国の習近平国家主席は12日、米国のトランプ大統領をフロリダに訪問、2日間にわたって会談した。最大の懸案だった北朝鮮問題では「中国が傘下にある北朝鮮の横暴を止めないなら、米国一国で(軍事的に)対処する」とトランプ氏が最大の圧力をかけたのに対し、習氏は「努力する」と答えただけで、実質、平行線に終わった。しかし、この会談期間にシリア政府軍が反政府軍にサリン攻撃を仕掛け、トランプは人道上許せないと直ちにシリア空軍基地を海上からミサイル攻撃をした。しかも首脳会談で、この事実を習氏に伝え、習氏も受け入れざるを得なかった。
 ロシアのプーチン大統領はシリア政府を支援するだけに直ちに米国を非難。安倍首相はトランプを支持、EU諸国も支持したため、膠着状態が続いている。
 一方、北朝鮮は五年ぶりに金日成生誕祭を軍事パレードで飾り、ICBM(大陸間弾道弾)や潜水艦発射のミサイルなど新兵器の示威運動を展開。習訪米やペンス米副大統領の訪中、訪韓に向けてミサイル発射実験(失敗)などで挑発した。これに対し、トランプもインド洋にあった原子力空母カールビンソンを北朝鮮海域へ送り込み「北朝鮮に対する全ての選択肢はテーブルの上にある」と対抗。ペンスも日本で「平和は力のみで達成される」と大見得を切った。またトランプはアフガンに〝全ての爆弾の母″という名の大型爆弾を使ってみせた。
 そんなことで、極東地域の緊張はこれまでになく高まっているが、安倍首相ら政府・自民党が必要以上に声高に危機を叫んでいるフシもある。と云うのも、トランプは会談後は習近平を大いに持ち上げ、対米輸出第一位も攻撃しなかった。また口先では強いが、北朝鮮のことは、しばらく中国の説得に任せよう、との空気が強い。当然北朝鮮も余り派手な火遊びは控えるだろう。ただ当分は極東地域から目が放せない。
 一方、国内では安倍政権が戦前の〝治安維持法″の再来「組織犯罪処罰法改正案」(テロ等準備罪)を閣議決定の上、6日衆院で審議入りした。
 政府は03年~05年三度にわたって「共謀罪」を新設する改正案を国会に提出したが、いずれも適用範囲があいまいで廃案となっている。
 今回は2020年の東京オリンピックに向けて「テロなどの組織犯罪を未然に防ぐ」という鳴りもの入りで、適用は「組織的犯罪集団が、計画・実行段階に入った時」としているが、治安維持法もどんどん拡大し、本を持っているだけでも逮捕された。 しかも「テロ等」とあるものの、あくまで集団で、個人のテロは逮捕されない(これは治安維持法も最初は集団だけだった)。対象は一応277にしぼられたが、まだあいまいな部分が多く、政府・与党は数だけを頼りに五月連休までに衆院を通過させ、今国会での成立を図る。民進や共産は「思想の自由を侵す」と言論界、法曹界の反対を支えに廃案を目指す。ただ担当大臣の金田勝年法相は、これまでも数々あいまい答弁や失言で野党から追及されており、このへんが波乱要因か。
 そう云えば一強と云われた安倍首相も、絶対多数のおごりから、閣僚の失言や取り消しが相次いでいる。金田法相(テロ法案は国会提出後に議論せよ)、稲田防衛相(森友学園の問題で裁判所に出ていた)、務台復興政務官(台風被害で長靴業界はもうかった=辞任)、今村復興相(原発自主避難者は本人の責任。自己判断だ)、山本地方創成担当相(一番のガンは文化学芸員)そして安倍首相(妻昭恵は云われたようなことは絶対やっていない)。
 昔ならみな辞任もので野党もだらしない。
 森友学園の説明 不十分 75% 十分 12%  首相夫人国会で説明 必要 53% 不要39%(朝日新聞)
 これから三カ月、フランス大統領選、韓国大統領選、イギリス総選挙、東京都議選……重要選挙が目白押しです。

<別紙2>
        第40回例会事務局報告
                    福田玲三(事務局)2017.4.2

1)来信

①最新ニュース受信いたしました。毎号の記事のなかで特に「政治現況報告」(岡部さんレポート)が楽しみです。
 つきましてはニュース6ページの集会案内中『週刊金曜日』東京南部読者会 4月28日(金) 18:30~20:30 大田区生活センター第6集会室(JR蒲田駅徒歩5分)の場所は「正」第3集会室(誤・第6集会室)です。案内訂正方よろしくお願い致します。 週刊金曜日東京南部読者会・事務方(松島)

②新年度も4月半ばになりましたが、お元気でお取組みのことと拝察いたしております。
 ニュースNo40号頂戴いたしました。すべての内容が価値あるもので、私にとって貴重なものとなっております。
「平和への権利宣言」国連総会採択についての中で、日本が「平和への権利」の国際法典化に反対していることを知り驚いております。(核実験禁止条約に反対した日本が情けないですが、それと同根ですね。)ありがとうございました。 (珍道)

2)訃報

当会創立時から編集委員を務めていただきました榊山今日児氏(87歳)が去る3月30日闘病の末、逝去されました。

3)新しい冊子の発行

『 明治帝國憲法下のくらし――自民党改憲草案のめざすもの/羽毛よりも軽かった人のいのち 』
2017年5月/完全護憲の会
3月29日入稿/ 4月7日初校/ 4月13日再校 /4月21日校了 /5月1日納本(予定)

目次
まえがき
自民党改憲草案のめざすもの
戦前の我が家と憲法――三従の教え
死を奨励した異常な世界――露営の歌
死の五段活用と総立ち拍手の光景――第192臨時国会
布施杜生――人間を解体する治安維持法
地獄の話――西部ニューギニア戦場の飢餓
天皇の「生前退位」問題――護憲派は積極的な関与を

資料:大日本帝国憲法/教育勅語/軍人勅諭/戦陣訓/自民党改憲草案

4)集会の案内

1.5・3憲法集会
  5月3日(水・祝)11:30 開場 12:00 開会 有明防災公園5月19日(金) 
2.戦争と共謀罪に反対する大集会
  5月19日(金) 18:30 東京・霞が関 弁護士会館2階講堂 クレオ
  主催・憲法と人権の日弁連をめざす会、他 入場無料
3.第18回「7・1閣議決定」違憲訴訟勉強・相談会
  5月20日(土) 14:00~16:30 神明いきいきプラザ(JR浜松町駅徒歩5分) 
  違憲訴訟 出発式  参加費:200円
4.『週刊金曜日』東京南部読者会
  5月26日(金)18:30~20:30 大田区生活センター(JR蒲田駅徒歩5分)
5.第5回平和学習会~憲法原文を忠実に読み返す
  6月3日(土)13:30~16:30 東京ボランティア市民活動センター 会議室C(飯田橋駅に隣接)
6.6.10国会大包囲 止めよう!辺野古埋め立て 共謀罪法案は廃案に!
  6月10日(土) 14:00~15:30 国会周辺
  主催・戦争させない・9条壊すな! 総がかり行動実行委員会、他

<別紙3>
      緊急警告019号 「過去の亡霊、教育勅語の復活は違憲」

 さる3月31日、安倍内閣は教育勅語について「憲法や教育基本法等に反しないような形で教育勅語を教材として用いることまでは否定されることではない」との政府答弁書を閣議決定した。
 しかし、教育勅語をめぐっては、すでに1948年に衆院が「根本理念が主権在君並びに神話的国体観に基づいている。基本的人権を損ない、国際信義に疑点を残す」としてその排除を決議し、参院も「われらは日本国憲法にのっとり、教育基本法を制定し、わが国とわが民族を中心とする教育の誤りを払拭し、真理と平和を希求する人間を育成する民主主義的教育理念を宣言した。教育勅語がすでに効力を失った事実を明確にし、政府は勅語の謄本をもれなく回収せよ」と、その失効を決議した。
 教育勅語について「日本が道義国家を目指すというその精神は今も取り戻すべきだと考えている」(参院予算委員会、3月8日)と述べた稲田防衛相を、その後で擁護するために作られたこの政府答弁書は、持って回った文面にかかわらず、この勅語を復活させる意図は明らかだ。
 国会は、国権の最高機関、国の唯一の立法機関であり、内閣は国会に対して責任を負う行政府に過ぎない。国会の決議に反する閣議決定は明らかに違憲だ。
 衆参両院の決議が示しているように、教育勅語は絶対的天皇主権を定めた明治帝國憲法下で発布され、そこで天皇は臣下、つまり従僕に守るべき徳目を列挙した。現日本国憲法になって状況は一変した。臣下は国の主権者となり、天皇は主権を失い、お上は国民につかえる公務員になった。この場合、天皇がかつて下付した勅語を、国務大臣や内閣がふたたび徳目として持ちだすことは、主権者国民を侮辱する越権行為だ。いくつかの徳目の結びとして「一旦緩急あれば義勇公に奉じ、以て天壌無窮の皇運を扶翼すべし」と、天皇家を守るために命を差し出せと指示しているのであるから、なおさらだ。
 「すべて国民は、個人として尊重される」(現憲法第13条)ことを教えるべき学校で、個性を否定するいじめが広がっている現状では、上下の厳格な秩序と画一化を狙う教育勅語の復活は百害あって一利もない。
 稲田防衛相が教育勅語を「全体として」肯定し、安倍内閣がその教材としての使用を否定しないと閣議決定したのは、彼らの公務員としての自覚の欠如であるとともに、現憲法を彼らが敵視している表れだ。
 だが、敗戦時の時勢に助けられてこの憲法を手にした私たちの多くが、その至宝の価値を十分には認識せず、そこに彼らの付け入る隙を与えている。私たちはこの弱点を痛感し、その主権者意識を高める長期的な運動を行っている。
 この緊急警告は現政権に対する告発であると同時に、私たち自身の反省を深めるための呼びかけでもある。

<別紙4>
       道徳の教科化と教育基本法
                    安立きくこ  2017年4月23日                               

【 最近の社会状況 】
2012  中学校で武道必修
2015.3  文科省、道徳を小学校で「特別な教科」 に格上げすることを告示
2017.2.19 子多いほど税軽減「N分N乗(世帯課税)方式」検討、自民有志
2017.2  憲法改正のテーマに教育の無償化を据えようとする動き
2017.3.15 ベア前年割れ続出
2017.3.17 大卒内定率90.6% 今春卒業予定 6年連続で改善
2017.3.21 稲田防衛相、教育勅語について「戦前のように教育の唯一の根本理念として復活させるべきだとは全く考えていない」
2017.3.23 森友学園の籠池理事長、証人喚問(大阪の国有地売却問題について)
     (森友学園の塚本幼稚園では園児達に教育勅語を暗唱させる指導を行っていた)
2017.3.24 道徳教科書 初検定(小学校で2018年度に正式教科)結果公表
 「伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度」を学ぶ題材中の「パン屋」を、和菓子を扱う「お菓子屋」に変更。文部科学省の審議会において「学習指導要領に示す内容に照らして扱いが不適切」「『我が国や郷土の文化と生活に親しみ、愛着を持つこと』という内容項目について考えさせる内容になっていない」との検定意見がついたため。
 これに対して、パン業界憤慨「郷土 愛してるのに」
 〔道徳の教科化: 2011年の大津市の中学二年生のいじめによる自殺をきっかけに、道徳教育の大切さが注目され、2013年に政府の「教育再生実行会議」が道徳の教科化を提言、2014年に中央教育審議会が小中学校の道徳の教科化を答申。数値ではない成績がつく。小学校は2018年度から、中学校は2019年度から教科化される。中学の教科書検定は2017 年度に実施〕
2017.3.31 保育所で「国旗国歌」 に「親しむ」
      厚生労働省、保育所の運営指針を正式決定、2018年度に施行
2017.3.31 新学習指導要領(中学)に、「銃剣道」明記
2018(平成30)年度から移行期間、2021(平成33)年度から全面実施
2017.4.1 教材に教育勅語 否定せず、答弁書を閣議決定
 「わが国の教育の唯一の根本とするような指導を行うことは不適切だ」とする一方
 「憲法や教育基本法などに反しないような形で教材として用いることまでは否定されない」
2017.4.3 「教材に教育勅語」 菅官房長官、記者会見発言
 「戦後の諸改革の中で唯一の教育の根本として取り扱うことは禁止され、その後の教育基本法の制定で、政治的、法的な効力は失っている」とする一方で、「親を大切にする、兄弟仲良くする、友達を信じ合うことまで否定すべきでない」として道徳の教材としては否定しない考えを示した。(安倍内閣、答弁書を閣議で決定)
2017.4.4 「生涯未婚」男性23%、女性14%(2015年)、 厚生労働省調査
2017.4.18 稲田防衛相、女性自衛官の配置制限撤廃を発表
2018年度~ 小学校で、教科書に基づく教科としての「道徳」の授業開始
2019年度~ 中学校で、教科書に基づく教科としての「道徳」の授業開始

【 歴史 】
1890年10月 明治天皇の名で教育勅語発布(起草は井上毅・元田永孚ら)
1891年 9月 教育勅語の解説書「勅語衍義」刊行
1945年10月以降
     (GHQ)軍国主義的教職員の追放、国家神道の禁止、修身・日本史・地理教育の停止など
1946年3月 アメリカ教育使節団来日
      民主主義教育の理念、教育内容への文部省の介入排除など
      日本教育委員会(南原繁委員長)
1946年10月 文部次官通牒で教育勅語を教育の唯一の根本とする考え方や奉読を廃止
1947年3月  教育基本法の公布
1947年5月  日本国憲法の施行
1948年6月 「主権在君や神話的国体感に基づき、基本的人権を損なう」として衆院で排除、参院で失効確認の決議採択
2006年12月 教育基本法改正(第一次安倍内閣)、教育目標に愛国心が盛り込まれる

【 教育基本法改正の流れ 】
1.制定当時からの強い不満
  占領下における制定、日本国憲法を補完する性格、教育勅語の代替物としての役割、政治的な “主義”の文言(平和主義、民主主義、平等主義などの政治的イデオロギー)
2.類型
  「復古的・国家主義的改正論」
   基本法の内容を教育勅語のようなものにする
  「未来思考型改正論」
新しい時代に対応した内容に変えようとする
3.1951年、吉田内閣、天野貞祐文部大臣「国民実践要領」(国家の道義、愛国心など41の徳目)
  「国家の道義的中心は天皇にある」と発言し、反対論強まり白紙撤回
4.1956年、鳩山内閣、臨時教育制度審議会設置法案、廃案
5.1963年、池田内閣、荒木文相「 期待される人間像について」中央教育審議会に諮問
  1966年、中教審による答申(16の徳目)
 ◎個人として(ア)自由であること(イ)個性を伸ばすこと(ウ)自己を大切にすること(エ)強い意思をもつこと(オ)畏敬の念をもつこと
 ◎家庭人として(ア)家庭を愛の場所とすること(イ)家庭をいこいの場とすること(ウ)家庭を教育の場とすること(エ)開かれた家庭とすること
 ◎社会人として(ア)仕事に打ち込むこと(イ)社会福祉に寄与すること(ウ)創造的であること(エ)社会規範を重んずること
 ◎国民として(ア)正しい愛国心を持つこと(イ)象徴に敬愛の念を持つこと(ウ)すぐれた国民性を伸ばすこと
 作成の趣旨(高坂正顕主査):「教育基本法の内容はあれでけっこう」「教育基本法は抽象的であり、世界のどこにも適用する普遍性」「日本人の精神的風土に定着させるためには、もっと具体化する必要がある」
6.1984年、中曽根内閣、臨時教育審議会設置(基本法の解釈変更)
  1986年、答申 「教育基本法の精神をさらに深く根付かせ、21世紀に向けてこの精神をさらに創
造的に継承、発展させ、実践的に具体化」するうえで、「平和国家、文化国家、民主主義の成熟を目指す正しい国家意識の涵養(略)、個性ゆたかな文化や伝統の継承…」の必要性から、「公共のために尽くす心、他者への思いやり、社会奉仕の心、郷土・地域、そして国を愛する心、(略)異質性・多様性への寛容の心などを育成することが必要」
7.1990年代、グローバリゼーションの進展、新自由主義による社会の変化
8.1999 年、小渕内閣、教育基本法の見直し着手を明言
  2000年、教育改革国民会議の設置
9.2000 年 、森内閣、「教育を変える十七の提案」において改正を提言「新しい時代にふさわしい教育基本法を」
  2001年、小泉内閣の遠山敦子文科大臣「1 教育振興基本計画の策定について 2 新しい時代にふさわしい教育基本法の在り方について」中教審に諮問
  2003年3月20日、中教審の答申「新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について」[注]
10.2006年4月28日、小泉内閣、改正法案を閣議決定、同日政府法案として国会提出
「我が国と郷土を愛する」という場合の国とは何かについて、「歴史的に形成されてきた国民、国土、伝統、文化などから成る、歴史的、文化的な共同体としての我が国を愛するという趣旨であり」、「統治機構、すなわちそのときどきの政府や内閣等を愛するという趣旨ではない」と答弁
11.2006年12月、安倍内閣、改定教育基本法施行

[注] 中央教育審議会答申 2003.3.20
 「2 具体的な改正の方向」
 (社会の形成に主体的に参画する「公共」の精神、道徳心、自律心の涵養)
 「…国民が国家・社会の一員として、法や社会の規範の意義や役割について学び、自ら考え、自由で公正な社会の形成に主体的に参画する「公共」の精神を涵養することが重要である。」

 (日本の伝統・文化の尊重、郷土や国を愛する心と国際社会の一員としての意識の涵養)
 「…なお、国を愛する心を大切にすることや我が国の伝統・文化を理解し尊重することが、国家至上主義的考え方や全体主義的なものになってはならないことは言うまでもない。」

 (参考)学習院大学法科大学院教授、野坂泰司氏 2016 岩波書店『世界』8月号
 安倍内閣が七・一閣議決定により、憲法九条の下でも集団的自衛権の行使は容認されると憲法解釈の変更をしたことに対し、従来の政府解釈を変更すること自体は許されないことではないとした上で、「 問題は、その解釈変更(変更後の新たな解釈)が当該条項の解釈として妥当なものであるかどうか、すなわち、制憲者の意図=当該条項の趣旨・目的に反することなく、その枠内で、本来の意味(原意)を具体化し、補充するものであるかどうかの一点に尽きる。このような観点から見るとき、今回の安倍内閣による憲法九条解釈の変更が解釈として許される限度を超えた不当なものであることは明白である。」

【 改正の理由 】
①押しつけ論:今の教育の荒廃の原因は今の教育基本法からきている
②規定不備論:第10条、誰が教育の責任者かわからない、法文の表現に恣意的解釈が入りこみ不要な混乱を招く
③規範欠落論:一連の教育荒廃現象は、教育勅語にあったような徳目が規定されていないため
④原理的見直し論:教育荒廃の背景は、病める近代文明と近代学校システム。アジア型道徳教育、教育勅語、日本人のアイデンティティー
⑤時代対応論:生涯学習、男女参画、国際化・情報化
⑥改正派の改正不要論批判:「愛国心に反対の人、今の日本が嫌いなら自分が愛せる国にすべく、国づくりに積極参加すればいい。それが主権在民の理念だ。」「国家と国民を対立したものと見るのは主権在民の制度を無視した空論」「理念と徳目は何が違うのか」→ 理念は名宛人が国家、徳目は名宛人が国民個々人

* 徳目を基本法に規定する必要性
参考1)森喜朗元首相、2002 年
「やはり根拠法をつくって初めて、円滑に学校に国歌が響き、国旗が掲揚される」ということを「国旗・国歌法案の経験から知っている」
 憲法改正への布石「憲法改正を視野に入れつつ、国民レベルの幅広い議論の中に教育基本法改正を積極果敢に推し進めるべき」
参考2)民主党 西村真悟衆院議員、2004 年「 教育基本法改正促進委員会」
「お国のために命を投げ出しても構わない日本人を生み出す。お国のために命をささげた人があって、今ここに祖国があるということを子どもたちに教える。これに尽きる。」

* 統治行為としての教育

* 優生思想
三浦朱門「平均学力が下がらないようでは、これからの日本はどうにもならん…できる者を限りなく伸ばす…“ゆとり教育”の本当の目的。エリート教育とは言いにくい時代だから、回りくどく言っただけの話だ」
江崎玲於奈「ある種の能力が備わっていない者が、いくらやってもねえ。いずれは就学時に遺伝子検査を行い、それぞれの子供の遺伝子情報に見合った教育をしていく形になりますよ。」

【 小学校学習指導要領 】
① 小6社会
 大日本帝国憲法の発布、日清、日露戦争、条約改正、科学の発展などを手掛かりに、我が国の国力が充実し国際的地位が向上したことを理解すること。
「天皇の地位」について、天皇についての理解と敬愛の念を深めるようにすること。
② 音楽
 国歌「君が代」は、いずれの学年においても歌えるよう指導すること。
③ 指導計画の作成と内容の取扱い 1 指導計画の作成に当たっての配慮
第1章「総則」の第1の2の(2)に示す道徳教育の目標に基づき、道徳科などとの関連を考慮しながら、第3章「特別の教科道徳」の第2に示す内容について、算数科の特質に応じて適切な指導をすること。
(上記「算数科」の箇所に、国語科、理科、社会科、生活科、音楽科、図画工作科、家庭科、体育科、外国語科、外国語活動、特別活動と、すべての科目が入れられている。)
(愛国心、歴史や伝統、文化の尊重などすべて旧法に含まれているというのが旧法制定以来の一貫した文部省解釈で、学習指導要領はこれらの徳目を明文化してきた)

【 教育勅語の時代(1890年~1948年失効) 】
1. 出来事
(1)文部省設置、1871 年

(2)学制を公布、兵部省設置、徴兵の詔、1872年

(3)徴兵令、1873年
 およそ95%の庶民を兵士に仕立て上げる

(4)伊藤博文、憲法制定の根本精神について所信を披瀝、1888 年
 「今憲法ノ制定セラルゝニ方テハ先ツ我国ノ機軸ヲ求メ、我国ノ機軸ハ何ナリヤト云フ事ヲ確定セサルヘカラス。機軸ナクシテ政治ヲ人民ノ妄議ニ任ス時ハ、政其統紀ヲ失ヒ、国家亦タ随テ廃亡ス……抑、欧州ニ於テハ…宗教ナル者アリテ之カ機軸ヲ為シ、…然ルニ我国ニ在テハ宗教ナル者其力微弱ニシテ一モ国家ノ機軸タルヘキモノナシ。仏教ハ…傾キタリ。神道ハ…宗教トシテ人心ヲ帰向セシムルノ力ニ乏シ…我国ニ在テ機軸トスヘキハ、独リ皇室アルノミ。…専ラ意ヲ此点ニ用ヒ君権ヲ尊重シテナルヘク之ヲ束縛セサラン事ヲ勉メリ。…君権ヲ機軸トシ、偏ニ之ヲ毀損セサランコトヲ期シ、敢テ彼ノ欧州ノ主権分割ノ精神ニ拠ラス。固ヨリ欧州数国ノ制度ニ於テ君権民権共同スルト其揆ヲ異ニセリ。是レ起案ノ大綱トス」
  新しい国家体制の精神的機軸としての皇室 ; 国體「将来如何の事変に遭遇するも…上元首の位を保ち、決して主権の民衆に移らざる」1889年
⇒「家族国家」:「国體」 の最終の「細胞」

(5)日清戦争(1894年7月~95年11月) 「疫病との戦争」決して文明的な戦争ではなかった
* すもうと愛国
力士も軍夫として戦争協力
 「報国の志」を示すため。当時、“裸体踊(はだかおどり)”と軽蔑され廃止論まで出ていた相撲の地位を向上させるため。
* 福沢諭吉〈 日清の戦争は文野の戦争 〉 ※文野:文明と野蛮
⇔ 討清軍歌 “膺(う)てや懲らせや清国を”
* 実物教育としての戦利品の公開(天皇→大阪の博物館→靖国神社→全国巡回)
* 旅順虐殺事件、1894年
 司令官、山地元治中将による指令「婦女老幼を除き皆殺しにしてもかまわない」
 実際は「老爺は嬰児と共に斃(たお)れ老婆は嫁娘と共に横たわる、惨状名状すべからず」(輜(し)重輸卒、小野六蔵)という状況
「大抵の人家二三人より五六人死者のなき家はなし…実に愉快極りなし」(長野出身、窪田仲蔵、11/21日記)
 世界中に報道され苦境に立たされた日本政府は、通信社のロイターを買収し事件のもみ消しをはかる。(伊藤博文首相、「不問に付」すことを指示)
* 台湾領有戦争(1895年)
 台湾民衆のゲリラ的抵抗は1902(明治35)年まで続く。

(6) 全国青年大会 1910年
 「青年団規十二則」採択
一、教育勅語並に戊申詔書の御趣旨を奉体すべきこと。 一、忠君愛国の精神を養ふべきこと。 一、国体を重んじ祖先を尊ぶべきこと。……

(7) 石橋湛山の小国主義
 『大日本主義の幻想』1921年 (「東洋経済新報」1895年創刊)
  朝鮮、台湾、樺太も棄てる覚悟、軍備の縮小、平和主義

(8) 関東大震災 1923年
 死者の最大のものは焼死者。悲劇は、避難者の持ち出した家財によるものであった。
 江戸時代には持ち出し禁止の通告があった。江戸時代に防火のための火除原と称された広場や広い道路も、無駄な場所として民家で埋まる。(火災に対する処置などは、むしろ江戸時代よりも後退 ――中村清二、 寺田寅彦)
* 1882年、太政官布告第36号「戒厳令」を規定

(9) * 国民学校令公布 1941年
 小学校が国民学校に改められる
 国民学校の教育目的は「個人の発展完成」を目指すものではなく、教育勅語を奉じ「皇国の道に則りて国民を錬成し皇運を無窮に扶翼」するにある、とした。(文部省)
 教育勅語の暗唱と奉安殿への敬礼
 但し、戦前の軍国主義教育はイデオロギーそれ自体を直接注入するようなものばかりではなく、子どもたちが好きな歌、物語、お芝居、映像、画像など当時あったあらゆるメディアで子どもの欲望に答えるかのような巧妙なやりかたで行われた。
 **『臣民の道』文部省発行、1941年
 「我等は私生活の間にも天皇に帰一し国家に奉仕するの念を忘れてはならぬ」天皇と国家への忠誠を国民に要求

(10)第二次世界大戦、1945年終結
  戦死者約2000 万人(日本人 約300 万人)

2.体験
(1)むのたけじ(1915年生まれ)
  隣組は、隣近所で互いに監視するためのもの。軍事訓練を怠けると「あいつは非国民だ」と非難。それが家庭にも入りこみ親子、夫婦も信じ合えなくなる。だから家族がバラバラになった。

(2)山口 彊(1916年生まれ)
 1925年から、中学校での軍事教練
「陸軍現役将校学校配属令」教練指導として現役将校が配属され、授業の一環として週3~5時間ほど実施
「軍人がそうやって威張り出したのは、昭和になってからだという感じがどうもある。いまからすれば、戦前は軍国主義一辺倒で、ひたすら暗い時代であったようなイメージがあるかもしれないが、大正時代は、少なくともそうではなかった。」
「何が善くて何が悪いかは国家が決める。自分独自で物事を考え表現する人は、権力によって殺害される時代になっていた。…心に思ったことを言っては罰せられる。それは何も特定の思想に限ったことだけではなかった。やがては素直に感情を表すことすら禁じられるようになっていった。…学校教育そのものが、ますます天皇至上主義に傾いていった。」

(3)大島孝一(1916年生まれ)
 当時は「神社は宗教でない」という理屈で、他にどのような宗教を信じていようといまいと、日本人である以上、神社参拝を拒むことは許されなかった。…靖国神社の前を走っていた都電に乗る乗客は車掌の指示でいっせいに拝礼しなければならなかった。

(4)福島菊次郎(1921年生まれ)
小学校時代、早く兵隊になって天皇陛下に忠義をして死ぬのが最高の名誉。毎日、「 国民は天皇陛下の赤子で、天皇陛下からもらった命は天皇陛下にお返しすべきである」「天皇のために手柄を立てて名誉の戦死をせよ」
満州事変後には小学校高学年に軍事教練を義務づけ。銃剣術、匍匐前進。卒業すると少年志願兵の道も。
「名誉の戦死」は国家に強制された無惨な死にすぎなかった。それでも男たちが戦場に引かれて行ったのは、「卑怯者、非国民」呼ばわりされる人の目を恐れていたからだった。

* 植民地支配(朝鮮)
1925年7月 朝鮮神社完成(10余年の歳月)
10月、朝鮮神宮に改称(朝鮮全土の神社の総鎮守に据えるため)
1935年 神社参拝強要
1937年10 月 「皇国臣民の誓詞」
一、私共ハ、大日本帝国臣民デアリマス
二、私共ハ、心ヲ合ワセテ天皇陛下ニ忠義ヲ尽シマス
三、私共ハ、忍苦鍛錬シテ立派ナ強イ国民トナリマス
(小学生は毎朝、学校で唱える。怠れば学校ではびんた。)
1937年12月 朝鮮中の学校などに御真影を配布、奉安殿に安置
1940年 創氏改名

* メディアの役割
 ( 新聞 )
 各府県にあった二つの有力紙を一県一紙という政府の政策で統合
→ライバル紙の批判、自分たちの方が国策に協力しているという嘆願書を情報局へ送付
 ( ラジオ )
 日本の優越性を強調。「天皇」に関するキー・シンボルの多用。この戦いは「聖旨」すなわち天皇の意思、天皇の命令によるものだと強調し、その大命にしたがうことが臣民の道であると国民に訴える。

【 その他の視点 】
◇愛子さんの卒業文集 平和について
 「…唯一の被爆国に生まれた私たち日本人は、自分の目で見て、感じたことを世界に広く発信していく必要があると思う。『平和』は、人任せにするのではなく、一人ひとりの思いや責任ある行動で築きあげていくものだから。」

◇「共にある」(2016年8月の天皇のお言葉) ⇔ 為に死ぬ(教育勅語)の大きな隔たり

◇籠池町浪(ちなみ)新理事長のメッセージ(抜粋)
 (塚本幼稚園ホームぺージ「新理事長より皆様へ」2017.3.30より)
…教育基本法が平成18年に改正された際に新たに設定された「我が国と郷土を愛する態度を養う」との教育目標を、幼児教育の現場で生かそうとした前理事長なりの努力と工夫の結果であると理解しております。
…今後は、教育基本法が昭和22(1947)年に制定された際に示された「われらは、個人の尊重を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成を期するとともに、普遍的にしてしかも個性ゆたかな文化の創造をめざす教育を普及徹底しなければならない。」との指針を常に念頭におきつつ、内容、カリキュラムを柔軟に見直して参ります。

◇「外国人教員から見た日本の大学の奇妙なグローバル化」
 『中央公論 』2015.7 エドワード・ヴィッカーズ、ジェルミー・ラプリー
 「日本の生徒たちに学校で日本の「伝統、文化、歴史」を学ぶようさらに強要することは、世界と疎遠になることに拍車をかけるだけであろう。そして日本が国際的役割を担う舞台への参加をいっそう難しくする。日本人と外国人という単純な線引きをし続けることにより、現政権は日本の若者の内向き思考を助長する恐れがある。」
 「改革は教育全ての段階で、教室の若者たちが「日本人」の概念に疑問を持ち批判的になれる場にするべきであろう。」
 「内向き志向(ママ)は、国家体制側の価値を教えることを過度に強調してきた必然の結果である。」

参考文献
市川昭午『教育基本法改正論争史』2009年、教育開発研究所
大内裕和『 教育基本法改正論批判』2003年、現代書館
小森陽一 大原穣子『読んでみませんか 教育基本法』2005 年、新日本出版社
杉田敦 編『丸山眞男セレクション』2010 年、平凡社ライブラリー
由井正臣『大日本帝国の時代』2000 年、岩波ジュニア新書338
大島孝一『戦争のなかの青年』1985 年、岩波ジュニア新書103
吉村昭『関東大震災』2004 年、文春文庫
山口彊『ヒロシマ・ナガサキ 二重被爆』2009年、朝日文庫
福島菊次郎『ヒロシマの嘘』2003年、現代人文社
片野次雄『日韓併合』2010 年、彩流社
NHKスペシャル取材班 編著『 日本人はなぜ戦争へと向かったのか』2015年、新潮文庫
『日本の歴史14 「いのち」と帝国日本』小学館
毎日新聞など

完全護憲の会ニュースNo.40 2017年4月10日

               <例会参加の方は本ニュ―スをご持参ください>
             連絡先 〒140-0015 東京都品川区西大井4-21-10-312 完全護憲の会
                 電話・FAX 03-3772-5095
                 Eメール:kanzengoken@gmail.com
                 ホームページ:https://kanzengoken.com/

    目次  第39回例会・勉強会の報告           P1
        第36回編集・運営委員会の報告(略)
        別紙1 政治現況報告             P2            
        別紙2 事務局報告              P3
        別紙3 「平和への権利宣言」国連総会採択について P6

    第39回 例会・勉強会の報告

 3月26日(日)、港区・三田いきいきプラザ集会室で開催、参加者12名、会員57名。
 司会を草野が担当し、まず政治現況報告(別紙1)が代読され、ついで事務局報告(別紙2)を福田が行った。
 質疑・意見に入り、「岡部さんの『政治現況報告』にあるように、安倍首相が『わたしも妻も関係したということになれば総理大臣も国会議員もやめる』と断言した以上、内閣総辞職の可能性がある。この件を第一義的に追及すべきではないか」「与党が多数で、総辞職は無理だろ」「籠池問題は、教育勅語賛成という思想的に近い人々の間で起きている。2006年に教育基本法が改訂されて、2018年度に小学校で道徳が教科化されることになった。こうした思想の危険を指摘したい」「マスコミは籠池問題を派手に扱っているが政権交代まで行くかどうか。共謀罪を通すための策謀との見方もある。
 「南スーダンからのPKO撤収を政府は決めたが、薄氷を踏む思いの派遣だったのではないか」「駆けつけ警護の実績を作りたかったのだろうが、死者が出ると大変だ」「自衛隊の死者を靖国にまつる先例にしたい思惑を指摘する人もいる」「死者を無駄にするのかと戦意を煽るのが過去の例だ。撤収は秘密裏に行うのが普通。公表は危険を招く愚行だ」「18歳まで選挙権が与えられたが、彼らはほとんど自民党に投票したという。憲法の改正を彼らは当然と予想している。『地獄の話』に衝撃を受けた。この詩を若者たちに読んでもらいたい」などの発言があった。なお冊子の「まえがき案」は了承された。
ついで15:00~16:00、「『平和への権利宣言』国連総会採択について」飯島滋明氏より報告(別紙3参照)があり、その後、この宣言の意義について意見を交換した。この報告は飯島氏の了解で録音し、その成文化を検討中。

<別紙1>
         政治現況報告

                岡部太郎(共同代表) 2017年3月26日
                     
 3月は内外共に大きなニュースがテレビや新聞に踊った。国際では、お隣の韓国で、朴槿恵(パククネ)大統領が、国会の弾劾訴追を審理していた憲法裁判所によって10日、8人の裁判官の全員一致で罷免された。大統領の罷免は初めてで、朴氏は同日失職。2日後には青瓦台の官邸を出て、私邸に帰った。朴氏は長年の友人の崔順実(チエスンシル)被告による国政介入事件をめぐる職権乱用と、サムスン・グループによる贈賄罪の収賄共犯など、13の憲法違反で訴追されていた。
 朴氏は21日に検察で2日にまたがる事情聴取を受けたが、起訴は確実。韓国では5月8日に次期大統領選がおこなわれるが、野党の文在寅(ムンジェイン)候補が圧倒的に有利。北朝鮮がミサイルを連発し、東アジア情勢が緊迫するなか、日本外交にとっても、北朝鮮との融和に向く韓国野党の新大統領と、どう向き合うかは難しい問題だ。
 「政界とは一天にわかにかき曇り、何がおこるか解らない所」と云ったのは、故川島正次郎自民党副総裁だが、まさに台風の目となったのが、大阪・森友学園の安倍首相夫妻や稲田防衛大臣を巻き込んだ豊中での小学校設立をめぐる籠池騒動だ。園長の籠池泰典氏の望む国有地取得のための国との折衝が、親交のあった安倍首相夫人昭恵さんとの関係により、例外的に安く、しかも異例の特典を与えて払い下げられたと云う疑惑だ。それはついには23日の籠池氏の国会証言にまで発展したが、その中で昭恵さんが「安倍からです」と100万円の束を学園側に渡した、との爆弾発言があり、さらに混迷が深まった。
 塚本幼稚園は、教育勅語を児童に毎朝朗唱させたり、運動会で「安倍首相頑張れ」「安保法案成立よかった」「中国や北朝鮮は心を入れ換えよ」などと声をそろえさせるなど、時代錯誤の右寄り教育で有名な籠池園長や、安倍首相、稲田防衛大臣は、いずれも右派団体「日本会議」の同人で、そのため4月から開校予定の小学校には「安倍晋三小学校」とネーミングすることを打診していた。そして昭恵夫人は新小学校の名誉校長に就任していた。
 そんなことから安倍首相は当初、籠池氏のことを「明確な主張をもった有為な人物で、妻(昭恵さん)もその教育理念に心酔している」と持ち上げていたが、事件が表面化してくると「強引でしっこい人。時代錯誤である」と一転。森友土地取得問題にも「私も妻も土地取得には一切かかわっていない。もし関係があるなら、首相も国会議員もやめる」と大見得まで切った。
 それだけに証言で籠池爆弾が破裂すると、内閣・自民党あげて献金問題など、全ての否定に大わらわ。昭恵夫人は三回も幼稚園に講演にいっているが「謝礼は一切もらっていない」とブログで否定。(籠池氏は「100万円受け取った時、菓子折と共に10万円謝礼した」と証言)両者の主張は全て真っ向から対立。真相を知るには昭恵夫人からの証言が不可欠だ。
 首相が国会の場で「一切関係がない」と云い切っているだけに、対応を誤れば内閣総辞職もありうるので、政府・自民党も必死だろう。
 一方、稲田防衛相は南スーダンの現地情勢で数々の失言や、あとから取り消す失態を演じていたが、森友問題でも虚言癖が出た。議員になる前、弁護士として森友幼稚園と拘わりがあったのに、「一切関係がない」、籠池氏とも「10年以上も前に会っただけ」と断言。これも2年前に会ったことが分かり、「記憶に自信を持って」いたが、「どうやら間違っていたようだ」と全面的に訂正、国会で謝った。
 稲田大臣は、昨年PKOで南スーダンに派遣されている自衛隊が、隣接地で戦闘が起こり、危険が迫っているにも拘わらず、昨年末には、「PKOの日報は廃棄された」と報告せず、その後見つかったのに、防衛省が稲田氏に報告したのは1カ月後の?27日だった。完全な隠蔽で、稲田氏はバカにされたわけで、シビリアン・コントロールにも反する。何度も国会で訂正したり、謝ったりの上、〝戦闘″を〝武力衝突″と云い替えたり、何度も野党から辞任を突きつけられた。そして政府は11日に、陸上PKO部隊の5月末撤収を発表した。
 ほかに都議会の百条委の石原喚問や、テロ共謀罪の閣議決定もあったが、途中経過なので4月に回す。

<別紙2>
        事務局報告

                 福田玲三(事務局) 2017.3.26

1)集会の報告
● 重慶大爆撃裁判
 さる3月17日午後2時から、東京高裁101号室で重慶大爆撃裁判の控訴審・第2回口頭弁論が開催された。中国から来日した控訴人や学者のほか、定席80余名を埋め尽くした傍聴者の前で弁護団は10人の専門家証人(医師、歴史学者、法学者)の人証調べの必要なことを力説したが、永野厚郎裁判長は審理の打ち切りを告げ、抗議の声の中を退席した。
そのあと、傍聴者は参議院議員会館101会議室に移り、今後の活動の展望を語り、また鑑定意見書を提出した聶莉莉さん(東京女子大教授)前田哲男さん(軍事ジャーナリスト)の講演などを聞いた。
重慶大爆撃は昭和13~18年に、当時の中国の首都に日本が行った無差別戦略爆撃で、その後の世界の戦略爆撃の走りとなり、ついには米空軍による東京爆撃を招いた。

● 第4回平和学習会
 3月18日午後6時15分から、飯田橋・セントラルプラザ10階会議室で平和創造研究会・第4回平和学習会(主催・宇井宙)が開かれ、「ガンディーと非暴力主義」について高橋静香氏(ガンディー研究会員)の報告に基づき、主として戦争と平和の問題をめぐって質疑・討議が交され、当会から4人が参加した。

2)新しい冊子の発行について
本年度活動計画で決められた新たな冊子(「明治帝國憲法下のくらし――自民党改憲草案のめざすもの」)発行について、次の日程案と冊子冒頭の「ごあいさつ」案が提出された。

1.冊子発行日程案
3月29日 原稿取り揃え入稿
4月 5日 初校校正
4月12日 校了
4月20日 納本、配布

2.まえがき案
 安倍政権は、明治維新150年に合わせた記念行事の実施を2016年10月に発表した。菅官房長官は記者会見で「わが国にとって大きな節目。明治の精神に学び、日本の強みを再認識することは重要。明治以降の歩みを次世代に残す」と強調した。(『東京新聞』2017・1・12「こちら特報部」)
 これに符節を合わせるかのように、「明治の日推進協議会」は2011年結成以来、11月3日の文化の日を、明治の日に改める運動をしている。
 同協議会参与の大原康男・国学院大名誉教授は「11月3日はもともとは明治節なんです。日本が欧米列強の侵略の脅威に遭いながら、天皇も国民も一丸となり、日清・日露戦争にも耐えた。今からみればいろいろな批判があるかもしれないが、近代的な国民国家が建設された背景として、父祖たちの国民的団結の中心に明治天皇がおられた。であれば、本来の意義に沿う明治の日に改めるのがいいではないか」と主張している。これがこの運動の趣旨だ。(同上)
 だが、この主張は明治憲法時代の言い分だ。現日本国憲法下の現状には全くそぐわない。
 明治の初期、「民権是れ至理也、自由平等是れ大義也」(中江兆民著『一年有半』)を旨とし、「対外政略よりも内治の改良が先決である」(色川大吉著『自由民権』岩波新書87頁)ことを要求した自由民権運動を、明治維新政府は非道過酷に弾圧し、欽定憲法を下付して絶対的天皇主権を押し付け、日清・日露の侵略戦争に国民の目をそらした。
この伝統は明治以後に受け継がれ、昭和初年、「満州は日本の生命線」がスローガンにされ、これが中国侵略の導火線になった。明治以来の侵略政策は結局決定的敗北によって素寒貧になっただけだった。日本は海外侵略をすることなく生存できることが、この敗戦によって実証された。それまで、天皇権力は対外侵略を正当化するウソをつき続けた。
 大原教授がいうように、「天皇も国民も一丸」となったのではない。天皇権力のもとで、臣民は従僕であり、ある種の奴隷だった。「父祖たち国民的団結の中心に明治天皇がおられた」のではない。ありもしない大逆事件によって無実の人々を死刑にして国民を戦慄させ、天皇を守るために命を捧げることを命じた。300万人の兵隊が、大半は飢えで、戦死させられた。親類・縁者をふくめて戦死者を出さなかった一家があっただろうか。
 内外2000万人の戦争犠牲者を生んだ大きな悲劇の果て、幸いにして世界の民主主義勢力の援助を得て、日本国民は国民主権の憲法を手にした。明治帝國憲法と、きっぱりと異なる民主憲法の意味について、残念ながら、国民の多くにまだその自覚が及ばず、その間隙をついて、自民党は改憲をねらい、明年に迫った明治維新150年を利用し、明治ブームを演出しようとしている。
 私たちは、明治政府をたたえる反動的な現政権の意図を究明するとともに、明治帝國憲法下の国民の暮らしがどれほど屈辱的であり苦しみに満ちていたかを本冊子で明らかにしたい。

 添付した資料を簡単に紹介すれば
1 「大日本帝国憲法」の「第3条 天皇は神聖にして侵すべからず」「第4条 天皇は国の元首にして統治権を総攬し此の憲法の条規に依り之を行ふ」は、明治憲法が絶対的天皇主権であることを明示している。「第18条 日本臣民たるの要件は法律の定むる所に依る」は国民が生まれながらにして臣下であることを明記している。
2 「教育勅語」の3段目「爾(なんじ)臣民、父母に孝に兄弟に友に夫婦相和し、朋友相信じ……一旦緩急あれば義勇公に奉じ以て天壌無窮の皇運を扶翼すべし」は、臣民、すなわち従僕に対する説諭であり、さまざまな徳目の結びは、天皇家を守るために命を差し出せと命令している。文字通り、このことが明治、大正を通じ、昭和の敗戦まで国民に強制され続けた。敗戦による降伏の際の、唯一の条件は国体の護持であり、国民の生命の保全ではなかった。この思考はこんにちまで及び、自衛隊の主たる任務が「わが国を防衛すること」であり、国民を守ることではない。
 敗戦時、満州移民が関東軍によって放棄され、沖縄戦で県民が軍によって自決させられたように。
3 『軍人勅諭』の前文「朕(ちん)は汝等軍人の大元帥なるぞ。されば朕は汝らを股肱(ここう)と頼み、汝等は朕を頭首と仰ぎてぞ、其親(したしみ)は特に深かるべき」は、国民皆兵の制度の下、男子はすべて生まれながら天皇の手下であり、それは死ぬまで変わらないことを宣言している。そしてその第1項目「軍人は忠節を尽くすを本分とすべし」では「義は山嶽よりも重く、死は鴻毛よりも軽しと覚悟せよ」と、お前たちの生命は羽毛よりも軽いと公言している。
 その第2項目「軍人は礼儀を正しくすべし」では、「下級のものは上官の命を承ること実は直に朕が命を承る義と心得よ」と述べ、これが軍隊で下級者に絶対的服従を求める根拠になっていた。
4 「戦陣訓」の「(其の一)第3 軍紀」では「命令一下欣然として死地に投じ、黙々として献身服行の実を挙ぐるもの、実に我が軍人精神の精華なり」と奴隷的服従を要求している。また「(其の二)第8 名を惜しむ」では「生きて虜囚の辱を受けず、死して罪禍の汚名を残すこと勿れ」と、捕虜の口から機密の漏れることを恐れて、死を強要している。

3)集会の案内
1 韓国・朝鮮人BC級戦犯者「同進会」――早期立法解決を求めて――
    4月1日(土) 14:00~ 岩波セミナールーム(神保町)
    お話:李鶴来さん、内海愛子さんほか
2 第17回「7・1閣議決定」違憲訴訟勉強・相談会
    4月21日(金) 14:00~16:30 神明いきいきプラザ(JR浜松町駅徒歩5分) 
    講演:「トランプと中東・世界――今、平和憲法革命が求められるとき――」
    講師:栗田禎子・千葉大教授
    報告:長坂伝八  参加費:500円
3 STOP! 沖縄ヘイト
    4月23日(日) 14:00~16:30 東京しごとセンター・地下講堂(飯田橋) 
    パネルディスカッション:香山リカ/木村朗/前田朗/安田浩一
    発言:新垣毅(琉球新報)/宮城栄作(沖縄タイムス)
4 安倍政権に退陣を迫ろう!4/25緊急労働者集会
    4月25日(火) 18:30~ 文京区民センター・2A会議室
    講演:「森友問題からみる日本会議の正体」木村真氏(大阪府豊中市会議員)
    会場費:500円
    主催:壊憲NO!96条改悪反対連絡会議
5 3.11から6年 福島を忘れない4/27「神田香織一門世直し講談会」
    4月27日(木) 19:00~ 高円寺グレイン(JR高円寺駅北口中通り商店街2分)
    出演:高橋織丸「人を喰う魚-豊洲移転騒動の巻」
       神田伊織「三方ヶ原戦記」
       神田香織「ルポ母子避難-消されていく原発事故被害者」
    主催:オルタナミーティング 定員:40名
    料金:前売 2500円 当日3000円(いずれも1ドリンク500円別)
6 『週刊金曜日』東京南部読者会
    4月28日(金) 18:30~20:30 大田区生活センター第6集会室(JR蒲田駅徒歩5分)

<別紙3>

   「平和への権利宣言」国連総会採択について (資料より抜粋)

             2017年3月26日 飯島 滋明

2016年12月19日(現地時間)には「平和への権利宣言」は国連総会で採択(賛成131ヵ国、反対34ヶ国、棄権19ヵ国)。

【4】「平和への権利」の内容
(1)前文
「武力不行使原則」
「平和的手段による紛争解決」
「内政不干渉原則」
「民族自決」
「平和の文化の十分な発展」
「宗教的多様性の尊重」 など
(2)1条
すべての人は、すべての人権が促進及び保障され、並びに、発展が十分に実現されるような平和を享受する権利を有する。
(3)2条
国家は、平等及び無差別、正義及び法の支配を尊重、実施及び促進し、社会内及び社会間の平和を構築する手段として、恐怖と欠乏からの自由を保障すべきである。
(4)3条
国家、国際連合及び専門機関、特に国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)は、この宣言を実施するために適切で持続可能な手段を取るべきである。国際機関、地域機関、国家機関、地方機関及び市民社会は、この宣言の実施において支援し、援助することを奨励される。
(5)4条
平和のための教育の国際及び国家機関は、寛容、対話、協力及び連帯の精神をすべての人間の間で強化するために促進されるものである。このため平和大学は、教育、研究、卒後研修及び知識の普及に取り組むことにより、平和のために教育するという重大で普遍的な任務に貢献すべきである。
(6)5条
この宣言のいかなる内容も、国連の目的及び原則に反すると解釈してはならないものとする。この宣言の諸規定は、国連憲章、世界人権宣言及び諸国によって批准される関係する国際及び地域文書に沿って理解される。

【5】国際社会の対応
アフリカ諸国、ASEAN、南米諸国は「平和への権利」の国際法典化に賛成
・アメリカ、EU諸国、オーストラリア、カナダ、韓国、そして日本が「平和への権利」の国際法典化に反対!

【6】平和への権利の効力
(1)国際社会レベル
「平和への権利宣言」は条約ではないため、加盟国に対する直接的な法的拘束力はない
「平和への権利が採択されれば、それを完全に無視することはできなくなる」(新倉修青山大学教授の指摘)。
「平和への権利宣言」に法的な拘束力はないとはいえ、事実上の拘束力が働く。

(2)国内的レベル
宣言が採択されれば、すべての国家に宣言を履行する義務が発生
「国際協調主義」(憲法前文、98条)が基本原理とされている日本国憲法では、国連総会で採択された「平和への権利宣言」を遵守する憲法的な要請

(3)市民活動の場面で
「平和への権利宣言」は、市民が平和を求めるさまざまな活動をする際にも根拠。
・「安保法制違憲訴訟」のさまざまな文書でも引用。
・地域の平和を作るために平和運動が連帯し、各国政府に平和のための協調を求める根拠
たとえば、隣国との紛争の平和的解決をったり、非核地帯条約や非武装地帯の設定を追及したりすること
「平和への権利宣言」では、教育について多くの規定。
堀尾輝久東京大学名誉教授が指摘するように、「平和への権利が国際法になれば、日本の平
和教育への取り組みにとって大きな力となるでしょう」

【7】市民社会の役割
・憲法で措定されているのは、「国際平和」実現のために積極的行動を行なう個人。

・平和への権利が骨抜きにされそうになった2014年、市民社会に呼びかけ、再び平和への権利の内容を充実させたのは、笹本弁護士をはじめとする日本のNGO!
大きな政治的成果を実現させるためには、多くの人々に「平和への権利」の重要性を周知させ、支持させる取り組みが必要。

・「平和への権利宣言」だが、「宣言」であって条約ではないことから法的拘束力がない。

・多彩な権利が明記されていた、「サンチアゴ宣言」を土台とした「平和への権利国連宣言草案」(諮問委員会案)に対し、12月19日に採択された「平和への権利宣言」ではそうした権利がそぎ落とされ、前文と5条からなる宣言にとどまった。

・スペインのNGO「スペイン国際人権法協会」自体が2016年12月に採択された案では不十分として賛成していない。

ただ、平和が国家間の政策の問題ではなく、個人や集団の「権利」とされたことの意義は小さくない。

国際社会では「武力行使の違法化」にむけた動きがあるが、「平和への権利宣言」採択は、そうした「武力行使の違法化」にむけた流れの中での重要なステップ。

「武力行使の違法化」の流れをさらに強化するためには、「平和への権利宣言」を法的拘束力のある「条約」にすることなどが、今後目指されることになる。

「平和への権利宣言」の条約化など、武力行使の違法化の流れをさらに強化する動きの中では、NGOなどの活動が重要。

飯島滋明(いいじま しげあき)
1969 年生まれ。名古屋学院大学経済学部教授 専門 憲法学・平和学・医事法。
【今日の内容に関連する主な文献】
 本文中に入れたもののほか、「平和への権利」に関する文献として、
・平和への権利国際キャンペーン・日本実行委員会編
『いまこそ知りたい 平和への権利 48のQ&A』(合同出版、2014年)
⇒目次に戻る

完全護憲の会ニュースNo.39 2017年3月10日

                <例会参加の方は本ニュ―スをご持参ください>
        連絡先 〒140-0015 東京都品川区西大井4-21-10-312 完全護憲の会
            電話・FAX 03-3772-5095
            Eメール:kanzengoken@gmail.com
            ホームページ:https://kanzengoken.com/

   目次 第38回例会・勉強会の報告          P1
      第35回運営・編集委員会の報告        P2
      別紙 1 政治現況報告           P3             
      別紙 2 事務局報告            P5
      別紙 3 緊急警告018号           P6
      別紙 4 自民党改憲草案がめざすもの    P7

   第38回例会・勉強会の報告

 2月26日(日)、港区・三田いきいきプラザ集会室で開催 参加者7名、会員57名
 司会を草野委員が担当し、まず政治現況報告(別紙1)を代読した。次いで事務局報告(別紙2)を福田委員が行った。
 質疑に入り、「『政治現況報告』の日米首脳会談評価は良すぎるのではないか」、「数字には出ていないが米国に武器購入を約束しているはずだ」、「首相は防衛力強化を錦の御旗にしている。その危険性を表現して欲しかった」、「岡部さんの早期のご回復を願っている。トランプ新大統領の就任演説はすばらしかった。権力は国民のものだとか、問題の平和的解決などが力説された。戦争と貧困への不満がトランプを生んだ。だが、新大統領に480万人のも女性が反対デモをしている。今後を見守りたい」、「トランプの言う労働の創出と右傾化はヒトラーを思わせる」、「トランプには良いところもある。パレスチナ人民を無視したり、水責めの拷問を肯定したのは良くないが、メキシコとの国境に壁をつくり密入国を防ぐのは当然ではないか」、「トランプへの評価は揺れている。メディアの選別には反対だが、メディアにも信頼が置けない」、「国境に壁を作らなくても、就労ビザ監視を強化すれば密入国は防げるだろう。メキシコでの自動車製造を制限すれば、両国の経済格差はさらに広がるだろう」などの意見が交換された。
 次いで緊急警告018号(別紙3)の検討に入り、「安倍首相が『新しい国造り』を強調している。このことへの警戒を加筆すべきだ」、「『新しい』の中身は復古だが、この言葉に多くのひとが騙されている、加筆は慎重に」などの意見があり、編集委員会で字句の調整することになった。
  ほかにも憲法解釈で第24条「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立」について、「これは日本社会の実情を反映していないのではないか」との提起があり、これに対しては、「両親や親族に対する配慮と、国民の権利とは、別次元の問題だろう」との見解が出された。
次いで、昨年末に国連総会で多数によって採択された「平和への権利宣言」の条文が紹介され、日本の実行委員会へ講師派遣を要請し、勉強会を開くこととした。

   第35回 運営・編集委員会の報告

 2017年2月28日(月)14時00分~16時15分 三田いきいきプラザで開催
 出席者は大西、草野、福田。

1.運営・編集委員会分担について
 ・運営・編集委員長を草野委員が担当する。
2.第38回例会・勉強会の結果を受けて
 1)緊急警告018号(「行政府の長」が国会に改憲論議促すは憲法違反!)への修正意見について
  ・例会で、「安倍首相の施政方針演説には『新しい国創り』との表現が強調されている。この『新しい国創り』とは何かを指摘する必要があるのでは」との提起がなされた。
  ・あらためて安倍首相の施政方針演説全文を検討してみると、確かに、「はじめに」のところで、「『戦後』の、その先の時代を拓くため、新しいスタートを切る時」、「新しい国創りに挑戦」、「共に、新しい国創りを進め」などの言葉が目立つ。意図するところは、現行憲法を改正し、自民党憲法改正草案に示された「新しい国創り」をめざす、ということなのであろう。
  ・発言の内容は大きな問題を含んでいるが、これらの言葉が「はじめに」のところでなされていて、直接に憲法改正をめざすとは言っておらず、「憲法改正」については演説の締めくくりのところで触れている。
  ・緊急警告018号は、「行政府の長」が国権の最高機関たる国会において改憲議論促進を提起することの越権性と違憲性を指摘することが目的ゆえ、改正の内容には踏み込んでいない。
  ・よって運営・編集委員会としては、冒頭の「新しい国創り」が直接憲法改正に触れていないこと、緊急警告が越権性と違憲性を指摘することが主目的であることから、ここではあえて取り上げない方がよいのではないかと判断する。
 2)長坂氏提起問題について(トランプ米大統領イスラム圏7カ国「入国禁止」大統領令と連邦地裁・高裁「差し止め」判決)
  ・「7・1閣議決定」違憲訴訟を準備している長坂氏は、上記連邦地裁・高裁判決の意義について触れ、「抽象的違憲訴訟は不可(アメリカ型)と聞いてきたが、当のアメリカで、大統領令そのもの(具体的争訟、国民の被害ではない)を「違憲」とし、その執行停止を司法が決定した。ということは、「アメリカ型」を金科玉条として、数々の違憲審査権の行使を回避、放棄してきた日本の戦後の裁判(の判例)は根本的に間違っていることになる」と指摘した。このアメリカの裁判例は、日本の法曹界にも影響を与えるものとして注目していきたい。  
  ・長坂氏はまた、最高裁砂川判決(1959年12月・裁判長は田中耕太郎)が「統治行為論」によって案件を違憲審査の対象外とした、その際の少数意見(小西、奥野、高橋、石坂裁判官)に注目をうながした。4裁判官による少数意見の概略は次の通りである。
「高度の政治性などの理由だけでは、『法の支配』を根本理念とする新憲法が、裁判所の本質に内在する固有の権能と認めて特に裁判所に付与した違憲審査権を否定する理由にはならない。多数意見のごとく、国の存立の基礎に重大な関係がある高度政治性の国家行為に対し違憲審査権を否定することは、国の重大事項と憲法との関係において憲法を軽視するものと言わざるをえない。また国会や政府の行為によって憲法が侵犯されることのないように配慮した憲法の精神に沿わないのみならず、憲法76条、99条により特に憲法擁護の義務を課せられた裁判官の職責を全うするゆえんでもない。本件安保条約についても、その国内法的効力が憲法9条その他の条章に反するか否かは、司法裁判所として純法律的に審査することが可能であり、特にいわゆる統治行為論として裁判所がその審査を回避すべき特段の理由はない」
   この少数意見こそ真の憲法解釈であり、田中耕太郎裁判長の罪は重大だと言わざるをえない。
 3)勉強会 国連「平和への権利宣言」について
  ・上記テーマについて講師を呼んでの勉強会を開催することを例会で決めた。
  ・「平和への権利国際キャンペーン・日本実行委員会」の事務局に問い合わせ、講師派遣を依頼する。具体的には福田委員が笹本弁護士事務所を訪ね、依頼する(笹本潤弁護士は日本実行委員会の事務局長)。その際、予算の関係上、薄謝のみとなることを伝える。
  ・講演が可能となったら、その日の例会には多くの参加者を募る。
3.「文集」掲載予定草野論文について
 ・「文集」掲載予定の草野論文「自民党憲法改正草案がめざすもの」(別紙4)について検討。
 ・一部追加修正をする方向で文案を練ることとした。
4.違憲「緊急警告」のテーマについて
 ・今後も違憲性に対する「緊急警告」を発信していくために、対象となるテーマを検討。
 ・共謀罪、マイナンバー制度、地方自治蹂躙(沖縄)、交付金などがあがった。
5.当面の日程について
 1)第39回例会 3月26日(日)13:30~ 三田いきいきプラザ
          当日、勉強会 「国連:平和への権利宣言」について
          講師:飯島滋明(名古屋学院大学)      
 2)第36回運営・編集委員会 3月29日(水)14:00~ 三田いきいきプラザ
 3)第40回例会 4月23日(日)13:30~ 三田いきいきプラザ
 4)第37回運営・編集委員会 4月26日(水)14:00~ 三田いきいきプラザ

<別紙1>
          政治現況報告

                   岡部太郎共同代表 2017.2.26

トランプ・安倍 初首脳会談

 安倍首相は2月10日、ワシントンでトランプ米大統領と初会談を行った。トランプにとって英国のメイ首相に次いで、政権発足後二人目の首脳会談で、安倍首相と日本を優遇した形の会談となった。ワシントンでの正式会談では、日米同盟の強化で一致。米国が安保条約第5条で日本と尖閣諸島を引き続き守る決意を示し、心配された経済問題では、日米2国間貿易のワク組みを含め、麻生副総理とペンス米副大統領をトップとする新しい対話の場を作った。日本側はトランプが広言していた在日米軍の撤退や駐留経費の負担増、自動車輸入の公平、円安誘導などを米側が会談で持ち出さず、むしろ日本が米軍を受け入れていることに感謝さえしていてホッと胸をなでおろした。しかし、これは安倍首相お得意の問題解決の先への引き延ばしにトランプが乗っただけで、本質的な解決にはなっておらず、むしろ米側は今後、あらゆる場面で日本に注文することが予想される。
 確かにトランプは共同声明のあとも、安倍夫妻をマイアミの別荘に招待、ゴルフを27ホールやったり、夕食を二日にわたって共にするなど、最大級の歓待をした。しかし、これは商売人の常で、歓待は何も持ち出さず、政治・外交でのマイナスはない。
 冷静に見れば、米側は今、何も懸案のない日本の首相を招いて、政権発足後、足元の全く固まっていない時期だけに、時間稼ぎと味方を増やすことにウエイトを置いたことがわかる。
 トランプ政権発足以来、大統領令を次々と発表。特にイラン・シリアなど中東7ヵ国の難民などの入国をストップしたことは、ワシントン連邦地裁がすぐに効力停止を決定、さらに連邦9控訴裁が、その停止を支持したことは、政権にとって痛いことだった。これは米世論を二分しているだけでなく、EUの中心であるドイツ、フランスなどヨーロッパ全体にも反対が強い。いわば四面楚歌の中で、安倍首相だけが反対せず、2国間貿易でもすり寄るなどトランプを支持していた。
 さらに云えば南太平洋でもメキシコ、オーストラリアと喧嘩別れだ。世界の中では北太平洋の日本とカナダがトランプと協調している。最初、中国に対して台湾を認め、二つの中国を主張していたトランプが習主席との初の電話会談で、掌を返すように“一つの中国”を認めたのは、やはり一個所ぐらいは安全・安定の場所が欲しかったからだろう。それはマティス国防相が来日した時から、すけて見えたものだが、日本はラッキーな立場にいた。
 そんな中で11日のゴルフが終わったところへ北朝鮮が、日米会談を狙ったように、日本海に新型の弾道ミサイルを発射した。夕食中だった安倍首相は直ちに記者会見をして非難しようとしたが、同席していたトランプも「オレも出る」といい、タイミングよく日米両首脳の会見になった。北朝鮮を非難する安倍首相に次いで、トランプも「アメリカは100%日本を支持する」と口をそえ、日米一体を視覚で世界に示した。くしくも、このシーンが今回の訪米で最大のハイライトになった。金正恩にとって、これは思わぬマイナスの判断材料になった。北朝鮮ではこのあと15日にクアラルンプルで正恩の異母兄が毒物で暗殺された。正恩の指示は確実で、金王国にもかげりがしのび寄っている。
 トランプ政権はこのあとも騒ぎは収まらず、最側近で安全保障関係の柱であるフリン大統領補佐官が、就任前にロシア駐米大使と対ロ制裁で協議、辞任に追い込まれた。またイスラエルの首相との会談で、世界の趨勢であるパレスチナとイスラエルの“二国両立”の世界世論を「一国だけでも良い」と発言。これもアラブだけでなく、世界的議論と混乱を招くこと確実だ。
 このようにトランプは政権発足3週間で、まだ政策も固まらぬうちに数々の問題を抱え、米共和党の中には「1年もたない」との声もあると云う。安倍首相も相手のふところに飛び込んだのはよいが、共倒れにならぬよう、気を引き締めねばなるまい。
 そのほか稲田防衛相の南スーダン“戦闘”問題、小池・石原都知事の豊洲市場汚染問題は次へ回す。

<別紙2>
          事務局報告

                    福田玲三(事務局)2017.2.26
1)来信
・珍道世直氏より
 ニュース38号お届けいただき有難うございました。
 岡部共同代表様がご退院されたとの御事、何よりと存じます大切なご使命を、お体をかばいながらお取組み賜れれば嬉しく存じます。
 事務局報告の中で、私の「違憲訴訟」について、多くの紙面をお取りいただきまた、「不屈の闘いを支持する」とのお言葉をいただき、恐縮に存じますと共に御礼申し上げます。何とか裁判所が違憲審査に入るよう、強く願っております。
 完全護憲の会の運営に大変ご苦労なことと存じますが、どうか継続した活動が出来ますよう、お元気でお取組みくださいませ。

・会員、T.W. 氏(神奈川県)より
 このところ、欠席が続きまして申し訳ありません。仕事が忙しかったこと、正直な所、町田と田町はそれなりに遠いこと、地元での活動に参加するようになったこと、参議院議員選挙が終わったこと等の理由により、欠席をしております。
 完全護憲の会ニュースは、毎回拝読させていただいています。今は、衆議院東京23区の民進党の候補者(浪人中)の後援会活動を中心に、市民連合にも参加しております。
 貴会の地道ですが、論理明快で分かりやすい理論構成を全面的に支持・信頼することにかわりはありません。アベの改憲のデタラメさ、アベクロコンビのとめどない量的緩和政策(いずれ必ず大インフレを起こし、国民に付けを回すことになるでしょう)に加えて、トランプという大かく乱要因が生起し、まことに将来が危ういと思います。
 私は全面的に「完全護憲の会」の憲法理論の賛同者です。町田の知人にも貴会の紹介もしております。会合に参加できることもあると思いますが、その時はよろしくお願い申しあげます。

2)「平和への権利宣言」
 「『平和への権利宣言』が国連総会で採択された。… 日本の非政府組織(NGO)も深く関与し、日本国憲法の理念も反映された。NGOは宣言を具体化する国際条約をつくるよう各国に働きかけていく。」(『東京新聞』2月19日朝刊)この宣言は、昨年12月19日の国連総会で131ヵ国の賛成、34ヵ国が反対(棄権9ヵ国)で採択された。日本は反対、中国、ロシアの賛成が注目される。日本の実行委員会(050-3395-8735)は「条約化を目指す。これからが本番」と呼びかけている。

3)ハフィントン・ポスト紙より取材申し入れ
 プレスセンターに事務所を置くフォーリン・プレスセンター(FPCJ)の招聘で来日したハフィントン・ポスト紙(ニューヨークに本社を置くインターネット新聞)ジェシカ・シュールバーグ記者の取材を受けた。日本の元兵士の安保法制を巡る問題で意見を聞きたいということだった。2月22日17:30~18:45にプレスセンター9Fラウンジで福田が取材を受け、加藤委員が同席して要所を補った。
 質問は①兵歴について、②完全護憲の会の趣旨について、③安保法制についての見解、④記者の感想が間違っているかもしれないがと前置きして、「この一両日の取材で、日本の元官僚や経済界は日本の若者たちが軍国化に反対していない、と考えているようだが、どうか」。
④については、大半の若者は社会問題に無関心で体制に順応しているが、学生たちの間に今の国の進路に反対する強力な運動があり、二極化していると答えた。
 シュールバーグ記者は小柄な若い女性で、目は灰色がかった緑、ルーツはドイツとハンガリーで、専門は中東問題ということだった。「記事になったら報告する」との追信があった。

4)集会の案内
 ①ビザ発給拒否集会妨害の第4回裁判
  3月2日(木)14:00 東京地裁415号法廷
  中国人戦争被害者への「ビザ発給拒否」で、戦争法廃止を求める「集会の自由」を侵害した安倍政権の責任を追及する
  連絡先:村山談話継承発展の会

 ②市民と野党をつなぐ会@東京
  3月13日(月)17:00開会 衆議院第一議員会館大会議室
  東京衆議院25小選挙区、市民と野党が大集合!
  主催:市民と野党をつなぐ会@東京 

 ③重慶大爆撃裁判 控訴審 第2回
  3月17日(金)14:00~ 東京高裁101号法廷

 ④第4回平和学習会 「ガンジーと非暴力主義」
  3月18日(土)18:30~20:45 東京ボランティアセンター会議室C
  (飯田橋駅隣 セントラルプラザ10階)

 ⑤週刊金曜日 東京南部読書会
  3月24日(金)18:30~20:30 大田区生活センター(蒲田駅徒歩3分)

<別紙3>

緊急警告018号 「行政府の長」が国会に改憲論議促すは憲法違反!

 第193通常国会が1月20日開かれた。安倍首相は衆参両院で施政方針演説を行ったが、この中で、「憲法施行70周年の節目に当たり、私たちの子や孫、未来を生きる世代のため、次なる70年に向かって、日本をどのような国にしていくのか。その案を国民に提示するため、憲法審査会で具体的な議論を深めようではありませんか」と述べたのである。
 「行政府の長」が、国権の最高機関たる国会において、国会議員に向かって現憲法の「改正」を促す演説を行ったのである。
 「行政府の長」がなすべきことは、ひたすら憲法に則り、国政を執行するべきものである。憲法第99条が「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」と定めるように、「国務大臣」の長たる首相には、憲法の尊重・擁護義務があるからである。
 安倍首相の施政方針演説における「改憲」促進発言は、明白な憲法違反と言わなければならない。
 しかしながら、この安倍首相の施政方針演説を、憲法違反と指摘する国会議員も野党もいないのである。マスコミの報道もこれを当然のごとく報じている。これは何んとしたことであろうか。
 ここには、明治帝国憲法下に培われた、元首である天皇の下で行政府が国権の最高機関であるとの認識が根付いているとしか言いようがない現実がある。
 憲法第41条が「国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である。」としているように、三権分立の頂点にあるのが国会であって、その下に内閣と司法があるのである。
 それゆえ、安倍首相の施政方針演説における「改憲」促進発言は、「行政府」としての立場をわきまえない国会に対する越権行為であり、憲法第99条の憲法「尊重・擁護」義務違反であると言わなければならない。

<別紙4>

 自民党改憲草案がめざすもの
 戦前「日本を取り戻す!」/ 国民主権から国家主権へ

主語の逆転が示す主権の逆転

 安倍自民党政権はこの国を一体どんな国にしたいのであろうか。どんな国民をつくりたいのであろうか。
 自民党の「日本国憲法改正草案」は明確にこの国と国民のありようを定めている。一言でいうなら、国民主権から国家主権の国にすることであり、国民はこの国家につき従うべきというものである。
 「草案」の前文の出だしはこうである。
 「日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家であって、国民主権の下、立法、行政及び司法の三権分立に基づいて統治される。」
 これに対して、現日本国憲法前文の出だしは、次の文章である。
 「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。」
 見てのとおり、「草案」の主語は「日本国」であり、現憲法の主語は「国民」である。
 「草案」が「国民主権」、「三権分立」の文言を残していたとしても、それはもはや本来の意味での国民主権ではなく、国家に従属した「国民主権」でしかない。そのことは「草案」全体が示しているが、とりわけ明瞭に示すのが現憲法第12条に付け加えられた、「国民の責務」の新設である。
「草案」の第12条は、「この憲法が保障する自由及び権利は……国民は、これを乱用してはならず、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない。」(傍点引用者)と言う。
 さらに「草案」第13条は、「全て国民は、人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない。」(傍点引用者)と述べる。(現行憲法第13条が、「全て国民は、個人として尊重される」とし、「人」一般ではなく、「個人」としていることの重要性は留意しなければならない。)
 ここに言う「公益及び公の秩序」とは、現憲法13条の「公共の福祉」を置き換えたものであるが、同じ公の字を使ってはいるが、全く意味の異なるものである。「公共の福祉」とは各人の自由や権利が、他の多くの人々の自由や権利と衝突した場合にこれを調整し、より多くの人々の自由や権利を優先しつつ共存を図っていこうとするものであるのに対して、「草案」の「公益及び公の秩序」は「国益及び国家の秩序」を意味しているからである。
 「公益及び公の秩序」の内実を決めるのは誰か、それは国家権力であり、その一部である時の行政権力にあることは自明であろう。
 こうして国民は、国家の許容する範囲で基本的人権が保障される、言い換えれば基本的人権が制約された「主権者」に降格させられるのである。国家権力によって基本的人権を制約された国民はもはや主権者とは言えないのであり、「国民主権」は名ばかりとなり「国家主権」に取って代わられるのである。
 その意味で自民党改憲「草案」は近代民主主義と立憲主義とは相いれない敵対物なのであり、憲法の構造としては、天皇に主権(即ち国家に主権)のあった明治帝国憲法と同質のものと言える。「草案」第1条が天皇を日本国の「元首」と規定していることも見事に一致している。
 まさに戦前「日本を取り戻す」、ということである。

 際立つ基本的人権の制約

 自民党改憲「草案」の際立つ特色は、現憲法が国民に保障している基本的人権を敵視しこれに制限を課していることである。
 それは前述した「草案」第12条、13条に明確に示されているが、第21条「表現の自由」においても、「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は保障する。」としながら、その2項において「前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社することは、認められない。」(傍点引用者)とする、1項の規定を完全に否定する恐るべきものである。
 さらに、「勤労者の団結権等」の第28条において、「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、保障する。」として、現行憲法第27条を踏襲していながら、その2項において「公務員については、全体の奉仕者であることに鑑み、法律の定めるところにより、前項に規定する権利の全部又は一部を制限することができる。この場合においては、公務員の勤労条件を改善するため、必要な措置が講じられなければならない。」として、現行憲法のもとでは憲法違反となる国家公務員法、地方公務員法及び人事院規則におけるスト権はく奪や政治活動の禁止規定を、憲法において正当化するものである。
 そして極めつけは、現行憲法が第10章「最高法規」として定めた第97条、98条、99条中、「草案」は第97条をまるごと削除しているのである。削除された第97条の文章を以下に示す。
 「この憲法が国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試練に堪へ、現在および将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。」
 現憲法があえて「最高法規」規定の中にこの97条の文章をおいたのは、いかに基本的人権が侵すことのできない一番大切な権利であるかということを強調し、現憲法がこれをまるごと体現したものであることを宣言したものと言える。
 基本的人権を国家権力の制約下に置こうとする自民党改憲「草案」は、敵意を込めてこれを全文削除したのである。
 さらに、現憲法第99条「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」に対応した「草案」第102条は「全て国民は、この憲法を尊重しなければならない。」とし、その2項において「国会議員、国務大臣、裁判官、その他の公務員はこの憲法を擁護する義務を負う。」とする。
 ここには驚くべき逆転がある。現憲法99条がこの憲法の尊重擁護義務を課しているのは、すべて国家権力側に立つ者に対してのみなのに対して、「草案」102条は「天皇」を除外した上で、国民に対してこの憲法を尊重する義務を課しているのである。
 憲法は「国家権力をしばるもの」とする立憲主義とは反対に、「草案」は憲法が「国民をしばる」ものとしているのである。まさに立憲主義とは正反対の「国家主義憲法」そのものである。国民主権と基本的人権不可侵を定めた現行「民主主義憲法」は、この「国家主義憲法」に取って代えられようとしているのである。
 そしてさらなる極めつけは、「草案」に新たに設けられた第9章「緊急事態」条項である。

 「緊急事態条項」の恐るべき危険性

 「大規模な自然災害」に対処することを名目として、内閣に絶大な権限を与えるこの「緊急事態」条項の恐るべき危険性については、当会のリーフレット第1集「安倍政権下の違憲に対する緊急警告」において、「『ナチスの手口』、緊急事態条項の危険性」において詳しく解説している。
 「大規模な自然災害」などへの緊急対応は現行法で十分対応可能であることは、東日本大震災の被害にあった地方自治体関係者や防災専門家が明確に指摘していることである。「大規模な自然災害」は国民を欺く口実である。
 「草案」第98条が「内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。」としていることからも、「大規模な自然災害」が口実として使われていることは明らかでする。
 そして「草案」第99条は、「緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。」とし、3項において「緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示にしたがわなければならない。この場合においても、第14条、第18条、第19条、第21条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。」としている。
 唯一の立法機関にして国権の最高機関である国会の議決を経ずして「法律と同等の効力を有する政令」を内閣の判断一つで制定できるとなれば、後段の「基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。」が単なる付け足しでしかないのは自明である。
 まさにこの「緊急事態条項」はナチスが全権を掌握した「国家授権法」(「全権委任法」)そのものであり、民主主義と基本的人権を圧殺する独裁政治を招くものと言わなければならない。

 再び戦争をする国へ、9条改憲

 現日本国憲法の3大原理である「国民主権」「基本的人権不可侵」「平和主義」のいずれもが、自民党改憲草案において否定されている。とりわけ、「平和主義」の放棄と言えるのが現行憲法第9条「戦争放棄」の改変である。
 「草案」ではまず、現行憲法第二章「戦争放棄」が「安全保障」の文言に変えられている。そして現行憲法第9条2項「前項の目的を達成するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」をまるごと削除し、「草案」第9条2項は「前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。」としている。
 過去の戦争が多くの場合、「自衛」と「平和」の名のもとに行われてきたこと、そして先の日本帝国が行った戦争も「自衛」の名のもとに行われた教訓を踏まえれば、「自衛権」や「自衛権の発動」については「戦争への道」へとつながっていると言わなければならない。増して「草案」は、現憲法前文にあった「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意」するという文言を消し去った上、前述した9条2項をまるごと削除した上で「自衛権の発動を妨げるものではない」と言うのである。
 「草案」が九条の二において「我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。」として、「国防軍」を規定していることは、「自衛」を名目としていながら「自衛隊」とは異なる「軍隊」を設けるということであり、再び「政府の行為」によって「戦争の惨禍」がもたらされる可能性が強まるということである。
 すでに先の安保関連法制の強行可決により、自衛権の発動としての「専守防衛」は破られ、「自衛」や「国際貢献」を名目として海外への自衛隊派遣が先行している状況にある中、「草案」の第九条の二の3項は「国防軍は、第一項に規定する任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。」としている。
 これは「国防軍」が世界のどこにでも出てゆくという宣言であり、もはや「自衛」を名目とした「専守防衛」を投げ捨てる、ということである。さらにこれは、「国防軍」が「公の秩序」の維持を名目に、自国民に対して出動することを公言しており、決して見過ごすことはできない。
 第1次安倍政権、第2次安倍政権が推し進めてきた自由と人権の抑圧、戦争準備の悪法の代表例を列挙して見る。
 教育基本法改悪(2006年)、盗聴法改悪(2016年)、特定秘密保護法制定(2013年)、安保関連法制定(2015年)である。そして今、戦前の治安維持法の再来とも言われる「共謀罪」制定へと突き進んでいる。国民を「見ざる、聞かざる、言わざる」という状況に追い込んでいる。
 この一連の流れはすべて新たな戦争遂行の準備作業と言えるであろう。
 過去の歴史の教訓を踏まえれば、いま、私たちのこの国は再び戦争をする国へと少しずつ接近していると言わなければならない。
 誰も戦争なんか望まないし、まして日本国民はそんなことを望んでいないのだから戦争なんて起こりっこない、と楽観している人も多いであろう。
 しかしながら、この人間の世界では、自己の既得権益を守るために適度な戦争(一旦戦争が起こったら適度で済んだためしはないが)を必要とし、望む者が現にいるのである。そしてこの者どもは、始末の悪いことに国家権力の中枢を握り動かすことができるのである。一般国民の意思など問題外なのである。
 わかりやすい例が原発問題である。国民の過半数が脱原発を望み、原発の再稼働に反対しているにもかかわらず、何故に安倍政権は原発を推進し外国にまで売り込むのか。「美しい国」日本を掲げる安倍政権の所業としては理解に苦しむが、これが現実である。

 以上見てきたように、自民党憲法改正草案は、現行憲法前文が「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基づくものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。」として排除の対象とした、もはや「改正草案」とは言えないまったく別の「憲法」そのものなのでる。
 自由も人権も抑圧され、戦争の惨禍に苦しめられ、女性の参政権すらなかった明治帝国憲法下のような暮らしに陥らないよう、私たち一人ひとりが自覚すべき時である。
 自民党と右翼保守派改憲勢力は、来年2018年を明治150年として祝賀行事を行うとのことである。

完全護憲の会ニュース No.38 2017年2月10日

        <例会参加の方は本ニュ―スをご持参ください>

     連絡先 〒140-0015 東京都品川区西大井4-21-10-312 完全護憲の会
     電話・FAX 03-3772-5095
     Eメール:kanzengoken@gmail.com
     ホームページ:https://kanzengoken.com/

  目次  1.第3回総会の報告  P.1
        別紙1 第3回総会 承認・決定事項  P.2
      2.第37回例会・勉強会の報告  P.6
        別紙2 政治現況報告  P.6
        別紙3 事務局報告 P.7
      3.第34回 運営・編集委員会の報告(略)

  1.第3回総会の報告

 さる1月29日(日)、港区・三田いきいきプラザ講習室で第3回総会を開催した。参加者7名。入会者 累計58名。
司会を草野編集委員長が担当し、議長に大西編集委員を選出し、以下の議案の審議に入った。
1)第1号議案 2016年度活動経過報告
2)第2号議案 2016年度決算報告
3)第3号議案 会計監査報告
4)審議(質疑応答・承認)
5)第4号議案 規約第7条の改訂と編集委員会の名称変更について
6)第5号議案 2017年度活動計画について
7)審議(質疑応答・決定)
8)第6号議案 新役員選出

 まず第1、2号議案を福田共同代表が報告したあと、第3号議案の会計監査報告書が代読された。質疑の後、いずれも異議なく承認された。
 ついで草野編集委員長から第4、5号議案が提案され、質疑と一部字句修正の後、異議なく決定された。
 最後に第6号議案が提出され、異議なく決定された。
 承認、決定された全議案は別紙1のとおり。

<別紙 1>
  第3回総会 承認・決定事項

● 第1号議案 2016年度活動経過報告

 昨年1月24日の第2回総会以後、野村共同代表は代表辞任を表明、2月22日に共同代表会議を開き、岡部、福田代表が慰留に努めたが遂に翻意に至らなかった。
 その後、4月30日にリーフレット第1集として「安倍政権下の違憲に対する緊急警告」を、緊急警告001号から013号までを収めて、2000部発行し、5月3日の憲法集会で1000部を配付。さらに岡部共同代表起草の「発表にあたってのごあいさつ」を追加した新版を4000部作成、6月5日の国会集会で会外の応援をお願いして1000部配付、6月8日には、この新版発表記者会見を開いた。
 この間、緊急警告の起草を担っていた加東遊民氏が用語の解釈をめぐる討議の際の誤解がもとで退会され、おもな起草者を失った当会は身の丈に合った活動を展開することとした。
 そして、7月24日の例会では結城祐弁護士を招いて「安保法制について」の勉強会を行った。
 7月13日に天皇の生前退位の意向が報道されたのに合わせては、「天皇陛下の『生前退位』に賛同を」(大西、8月3日)、ついで「護憲派は天皇の『生前退位』問題に見解表明を」(草野、8月17日)が当会ブログに投稿され、その後の例会で論議された。
 また朝日新聞(8月11日付)声欄に掲載された「改憲派から護憲派へ3点質問」に草野、福田がそれぞれ回答を投稿したが、掲載されなかった。
 この後、当会発足後3年にわたる毎例会の「政治現況報告」をまとめた『戦前の悪夢・戦争への急カーブ――政治現況報告集』の発行を計画し、八木雪雄氏のカットを添え、12月15日に500部納本、「年末カンパのお願い」とあわせて配本した。
 さらに、ブログに投稿された「私と憲法――三従の教え」「死を奨励した異常な社会――露営の歌」「天皇の『生前退位』問題――護憲派は積極的な関与を」「布施杜人――人間を解体する治安維持法」と「長編詩・地獄の話」に明治憲法、教育勅語、軍人勅諭、戦陣訓などの資料を添えた『明治帝國憲法下の日々――自民党改憲草案がめざすもの』(仮題)の冊子の発行を計画している。
 なおこの間、岡部共同代表が怪我のため入院、その後、壊疽を防ぐため足指の手術を受け、さらに12月6日には再手術もあったが無事終了した。自宅のバリアフリーが出来上がる1月中旬に退院の予定。入院中も11月、12月の「政治現況報告」や『政治現況報告集』の序文執筆など活動を継続した。

 なお2016年度の例会、編集委員会の開催状況は以下のとおり。
 総会: 1月 1回 (第2回) 参加総数 19名
 例会: 1月~12月 12回 (第25回~第36回) 参加総数139名
 編集委員会:2016年1月~17年1月 13回 (第21回~第33回)
  ※2016年末時点の会員数は57名。
  ※2016年末時点の月例ニュース郵送先は126名、メールによる送信先は235名。

● 第2号議案  2016年度決算報告

完全護憲の会  収支報告書 (2016月1月1日~12月31日)
    収入の部           支出の部
内  訳    金  額    内  訳    金  額
繰越金     282,123     会議費     20,982
入会金      8,000     通信費     246,944
寄付金     455,650     事務費      35,066
冊子売上     90,200     印刷費     389,256
会場費      38,200     交通費      4,440
                 会場費     41,766
                 振替料金    14,120
                 支出計     752,574
               繰り越し金
                 預金      13,828
                 現金      71,821
                 郵便振替    35,950
                繰越金計     121,599
収入計    874,173    支出および繰越金計 874,173

● 第3号議案 会計監査

会計監査報告書

2016年1月より12月まで振替用紙、通帳、領収書等を監査の結果、
決算報告書の通り相違ないことを認めましたので報告します。

               2017年1月19日
  完全護憲の会 代表殿
               会計監査  平川和恵

● 第4号議案  会則7条の改定と編集委員会の名称変更について

1.会則第7条の改訂
 現行会則
 (共同代表と事務局員)
 第7条 共同代表はそれぞれ、および共同で会を代表する。事務局員は事務を行う。委員と事務局員をそれぞれ若干名選出する。任期は1年とする。
を以下のように改定する。

 改定案 (下線部  を変更)
 (共同代表と運営・編集委員、事務局員)
 第7条 共同代表はそれぞれ、および共同で会を代表する。事務局員は事務を行う。運営・編集委員と事務局員をそれぞれ若干名選出する。任期は1年とする。

2.「編集委員会」を「運営・編集委員会」に改称する。

 [理由]
 完全護憲の会がパンフレット『日本国憲法が求める国の形』を編集・発行する作業から出発したために、会の運営・執行機関としての性格を持ちながら「編集委員会」という名称を用いてきました。
 しかし、この名称では、会の日常的運営・執行機関がどこにあるかが判然とせず、一部に越権行為との批判もあったことから、その性格を明確化するために「運営・編集委員会」とします。

● 第5号議案 2017年度活動計画について

1.例会・勉強会について
1)毎月1回、例会・勉強会を開催する。(基本として第4日曜日)
2)例会・勉強会の充実をはかる。
・憲法問題の議論の活発化(パンフ、リーフ、ホームページでの発信に向けて)
・講演・学習会の開催(講師料なしでの)
3)会場費・資料代として参加費300円をいただく。

2.運営・編集委員会につて
1)毎月1回開催する。会員は誰でも参加して意見を述べることができる。
2)運営・編集委員会は事務局と協力して会の運営全般に責任を持つ。
3)憲法問題の議論の活発化のために努力する。

3.他の護憲活動とのかかわりについて
1)会としてかかわるにふさわしい運動が提起された時は、その都度、運営・編集委員会、例会で検討し決定する。

4.インターネット上での発信について
1)日々生起する憲法の違憲状況について、会のホームページ上で違憲告発の発信を行う。
2)上記の内容は運営・編集委員会で検討し発信するが、例会に報告し、さらに検討を加えて、リーフレット第3集やパンフレット第2集につなげる。
3)ブログに投稿された文章のなかで、適切なものを運営・編集委員会で検討を加え、リーフレットなどに活用する。

5.文集の発行について
1)今年の春に文集を発行する。
2)文集のタイトル「明治帝国憲法下の暮らし――自民党改憲草案がめざすもの」(仮)
3)内容
①「私と憲法――三従の教え」
②「死を奨励した異常な社会――露営の歌」
③「布施杜生――人間を解体する治安維持法」
④ 濱口國雄「地獄の話」(西部ニューギニアにおける戦場の悲惨を画いた400行近い長詩)
⑤ 「天皇の『生前退位』問題――護憲派は積極的な関与を」
⑥ 資料
・大日本帝国憲法
・教育勅語
・軍人勅諭
・戦陣訓

6.3月パンフ、リーフ第1集、2集の普及・販売活動について
1)リーフレット第2集の配布活動を通じて、3月パンフレット、リーフレット第1集の普及・販売活動に取り組む

● 第6号議案  新役員選出
(任期1年 2017年1月総会~2018年1月総会)

1)共同代表
  岡部太郎、福田玲三
2)事務局員
  福田玲三、川本久美恵(HP担当)
3)運営・編集委員
  大西喜与志、加藤和香、草野好文、福田玲三
4)会計監査
  平川和恵

2.第37回例会・勉強会の報告

 ついで第37回例会・勉強会に移り、司会は草野委員が担当、まず岡部共同代表からの「政治現況報告」(別紙2)が加藤委員によって代読された。
 質疑・討論では、米国のトランプ新大統領誕生をめぐる日米マスコミの報道について、民主党政権時代に小沢一郎氏に向けたマスコミによる情報操作との関連を指摘する意見があった。
 そのあと、「事務局報告」(別紙3)が事務局から行われ、昨年末、名古屋高裁で棄却された違憲訴訟を最高裁に上告した珍道世直氏の不屈の闘いを支持する声が上がった。
 勉強会では、天皇の退位表明とのかかわりで、日本の左翼がかつて現憲法をブルジョア憲法と呼んで過小評価し、第1章天皇条項に反対し、第9条のみを評価する9条護憲にとどまっていた弊害も指摘された。

<別紙 2>

  政治現況報告

            岡部太郎共同代表 2017.1.29

安倍施政方針演説とトランプ就任演説
 2017年は正月早々、日米で重要な二つの首脳演説があった。一つは安倍首相の日本における今年の政治・外交・経済を展望した通常国会冒頭の施政方針演説であり、一つはアメリカ新大統領、共和党トランプ氏の就任、年頭教書(演説)である。特にアメリカ大統領選の間、云いたい放題を云っていたトランプ氏が、現実に、大統領になって、どのような政策、演説をするかであった。
 まず、1日早い19日に演説した安倍首相は、トランプ演説が翌20日に控えるだけに、難しい施政方針だったに違いない。大体、年頭の施政方針演説は、この一年間の内政問題の重要政策を語り、次いで外交政策を語るのが通例だが、今年は最初まず外交、それも日米同盟は外交・安全保障の基軸で「不変の原則」であると強調、「米国との同盟の絆」をさらに強化すると発言した。これはトランプ氏と米国をかなり意識したものと言える。
 安倍首相は最初、昨年末のオバマ大統領とのハワイ真珠湾訪問を取上げ、戦後70年の一つの区切りとして「次なる70年を見据え、新しい国造りを始めよう」と日本国民に訴えた。しかし、その国造りの具体的なものとして、首相は「どのような国にするかは、憲法審査会で具体的に議論を深めようではないか」と改めて改憲項目のしぼり込みを計りたいとし、改憲に意欲を示した。
 首相周辺は、このあたりの首相の強調は今国会での来年度予算案の成立にメドがついた3月末ごろから、憲法調査会で改憲論議に入りたいという願望であり、現在の衆参での改憲議員数が2/3議席を超えているのは絶好のチャンスだから、と見る。ただ今年の通常国会閉会後の6月には東京都議選があり、小池百合子都知事のグループ「都民ファーストの会」の都議選乱入なども予想され、そんなに首相の思惑通りにゆくかどうかは解らない。しかも現衆議院議員の任期は来年12月13日までで、残り任期1年になる今秋以降いつ解散になってもおかしくないだけに、まだ波乱要因はたくさんある。また首相は演説で、内政の柱として、小中校の無償化拡大や大学の奨学金の無利子化や給付型など、「教育の無償化」に力を入れていくものと注目される。
 さて一方のトランプ新大統領の初演説はどうであったか。選挙の広言とは違って実際はもっとマトモになるか、広言通りの政策で、世界の政治、経済、外交は混乱する、の二つの見方があった。結論はやはりトランプはトランプだった。
20日のワシントン就任式でのトランプ大統領の第一声は「米国第一主義」を強烈に打ち上げたあと、「イスラム過激派テロを根絶やしに」、「TPP脱退」、医療保険制度「オバマ・ケア」の見直しなど、オバマ民主党政権からの政策転換を明言した。
特に目の敵にしているメキシコに対しては、大統領令に署名し、「米国とメキシコの国境すべてにフェンスを建設する。建設費はメキシコ持ちだ」と強腰。メキシコが代金を払わないなら、メキシコからの全輸入品に20%の税金をかける、と追いうち。メキシコのペニャニエト大統領は直ちに31日のトップ会談をキャンセルした。なおメキシコの対外貿易は8割が米国向け。混乱は必至だ。
 これらはトランプが選挙中に国民に訴えていたものとほぼ一致している。さらに「NAFTA(北米自由貿易協定)」の見直し、再交渉、軍備増強、ミサイル防衛システムの開発、温室効果ガスの削減計画廃止と石炭、シェールガス生産の推進――など、ほとんどのオバマ政策を否定。アメリカ第一主義、超大国への変身を強調した。
また他国防衛のために米国が軍事費を多く支出していることに不満を示し、日本や韓国、ドイツ、メキシコなど同盟国に、 さらに軍備の負担を求めることも明言した。さらに貿易赤字解消では、日本を第一に名指しして、二国間貿易交渉に切り換えるよう要求。安倍首相もTPPにこだわらず、対応する構えを見せている。また中国の人民元高、日本の円高など他国の為替介入政策に反対してゆく姿勢を見せた。アメリカ第一主義に変更する結果、世界経済がこの後どう動くかも予測できず、アベノミクスに対する影響も困難を増すだろう。
 このトランプ演説と前後して、英国のメイ首相も正式にEU脱退を表明、米英が「自国第一」「反移民」で共同歩調を取ることになった。このようなトランプ流に対し、アメリカ民主党を中心に「トランプ政権NO!」の空前のワシントン大行進があり、さらに世界各地でも混乱が続くものとみられる。首相は正式の日米首脳会談を2月上旬にも求めているが、決して楽観はできまい。

<別紙 3>

 事務局報告

           福田玲三(事務局) 2017. 1.29

1)岡部太郎共同代表の退院

 岡部共同代表より1月18日、脚の手術を終え、無事退院の電話あり、20日のトランプ米新大統領の就任演説を待って「政治現況報告」を作成して届ける由。声が元気でした。

2)珍道氏の違憲訴訟に不当判決

「九条の会・津ニュース」は標題の件について以下のように伝えた。

12月22日名古屋高裁珍道氏に不当判決、最高裁へ上告!

司法が歴史的使命を全うされることを希求する
「閣議決定・安保法制違憲訴訟」の最高裁への上告
上告人 珍道世直
「九条の会・津」のご支援を得て、本人訴訟で、去る平成27年11月16日 津地裁に提訴いたしましたみだしの訴訟(正式名称―憲法違反及び無効確認等請求事件)につきましては、平成28年7月21日 津地裁において、「違憲無効確認請求については却下」「損害賠償請求については棄却」するとの判決が言渡されました。
平成28年7月29日 名古屋高裁へ控訴いたしました処、同年12月22日「本件控訴を棄却する」との判決が言渡されました。
(1)控訴人としては「判決は受け入れられない」ので上告することとし、1月4日午前、名古屋高裁を通じ「上告手続」をいたしました。
(2)「上告理由」は、次の4点です。
Ⅰ.本件「閣議決定」「安全保障法制」について、違憲無効であることの確認を求める。
Ⅱ.本件「閣議決定」「安全保障法制」の影響による上告人の権利の侵害について認定を求める。
Ⅲ.「平和的生存権」等の具体的権利性について、確認を求める。
Ⅳ.上告人の「具体的争訟性」の認定、もしくは「警察予備隊違憲訴訟に係る昭和27年最高裁大法廷判決」の判例を変更して、「憲法適合性」を審査されたい。
(3)本件「違憲訴訟」に係る今日までの裁判の全ては、「当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争とは認められない(具体的争訟性がない)」として却下・棄却されてきた。しかし、「具体的争訟性」については、「憲法及び法律」に条規されていない。警察予備隊違憲訴訟昭和27年10月8日最高裁大法廷判決から発出されている。「最高裁判例」が「憲法及び法律」の上位に位置づけられている。
これは、法理の逆転であり、このことが正され、裁判所が本件訴訟を通じて、本来の機能を回復・発揮されるよう、求めました。
(4)本件上告に当っては、弁護士7名の方に「上告人訴訟代理人」として就任いただきました。弁護士代表 辻 公雄氏はじめ訴訟代理人の方々は、今日まで「砂川事件・航空自衛隊百里基地訴訟などの違憲訴訟」や「森永ヒ素ミルク中毒被害者訴訟・新潟水俣病訴訟など社会的に重大な訴訟」に携わって来られた方々であり、裁判所が違憲審査に入るよう強く促して参りたいと考えております。
憲法九条は日本の宝、世界の宝、人類の宝、世の光である。  (上告理由書より)

事務局からの追記
12月22日私たち傍聴支援参加者は裁判所前で珍道さんを激励する集会を開きました。この日も岐阜や名古屋からの力強い支援者の参加がありました。また九条の会・津の会員だけでなく、平和フォーラムからも参加があったことも大事なことでした。テレビ局一社も前回以来この裁判に注目、取材が行われました(放映は当日夕方)。法廷では傍聴人から裁判長に対して、裁判が公開されている意味を考え、明瞭な発言をすべしとの申し入れも行いました。
 しかし判決は控訴理由に誠実に向き合わない、一方的で官僚的な不当なものでした。終了後に私たちは再び集会を開き、最高裁上告を決意された珍道氏の訴えを聞き支援を約束しあいました。
 珍道さんの文にあるように最高裁での裁判には辻公雄、西山明行、加地修、菊池史憲、坂東克彦、杉浦龍至、清水善朗氏が弁護団として参加することが決まりました。(K)

3) 集会の案内

① 労働運動研究所、研究会
 2月4日(土)14:00~16:00 大阪経済法科大学セミナーハウス6階B会議室
 象徴天皇制の行方ー戦後憲法体制と天皇制
 報告者:伊藤晃氏(日本近代史研究、元千葉工大教授)

②『週刊金曜日』東京南部読者会
 1月20日(金)18:00~20:00 大田区生活センター第6集会室(JR蒲田駅徒歩5分)

当面の日程について

1)第38回例会 2月26日(日)13:30~ 三田いきいきプラザ
2)第35回運営・編集委員会 2月28日(火)14:00~ 三田いきいきプラザ
3)第39回例会 3月26日(日)13:30~ 三田いきいきプラザ
4)第36回運営・編集委員会 3月29日(水)14:00~ 三田いきいきプラザ
5)第40回例会 4月23日(日)13:30~ 三田いきいきプラザ
6)第37回運営・編集委員会 4月26日(水)14:00~ 三田いきいきプラザ

集会の案内

①2月総がかり行動日 「格差ノー 心豊かにみんなが尊重される社会を!」
 2月19日(日) 13:30~14:30 日比谷野外音楽堂 集会後銀座パレード
南部共同行動の集合場所: 13:00 日比谷図書館玄関前(南部共同行動のぼり旗)

②『週刊金曜日』東京南部読者会
 2月24日(金)18:30~20:30 大田区生活センター第6集会室(JR蒲田駅徒歩5分)

③第16回「7・1閣議決定」違憲訴訟勉強・相談会
 2月25日(土) 14:00~16:00 神明いきいきプラザ(JR浜松町駅徒歩5分)

完全護憲の会ニュース No.37 2017年1月15日

           <例会参加の方は本ニュ―スをご持参ください>
       完全護憲の会 連絡先 〒140-0015 東京都品川区西大井4-21-10-312
              電話・FAX:03-3772-5095
              Eメール:kanzengoken@gmail.com
              ホームページ:https://kanzengoken.com/
            
       目次 ① 第36回 例会の報告            1p
          ② 第33回 編集委員会の報告         2p
          ③ 当面の日程について            3p
          ④ 別紙1 政治現況報告           3p
          ⑤ 別紙2 事務局報告            4p
          ⑥ 別紙3 天皇の「生前退位」問題      5p

          第36回 例会の報告

昨年12月25日(日)、港区・三田いきいきプラザ集会室で第36回例会を開催、参加者9名。入会者 計56名。
 司会を草野編集委員長が担当し、右膝下切断の大手術を受けた岡部共同代表の病状報告があったのち、政治現況報告(別紙1)が代読され、事務局報告(別紙2)を福田共同代表が行った。
ついで次のような意見が交わされた。
「米国には女性蔑視の風潮が残っており、さきには民主党大統領候補でヒラリー女史がオバマ氏に破れ、今回もヒラリー候補がトランプ候補に負ける予想もあった」「家計の財布を握っているのは日本の主婦だけで、諸外国ではみな夫が持っている。だから海外のデパートは男の趣味を重視している」「12月の『政治現況報告』に『中国共産党政府は、東太平洋で強大な軍事力を持つにいたった』とあるが、疑問だ。中国脅威論が振りまかれている」「軍事力とは装備のことだろうが、それを裏付けるデータがほしい」「戦争になると日本の若者は戦争意欲がないから勝てないだろう。装備だけの問題ではない」「自衛隊員の戦意は高いとの意見もある」「南スーダンへの武器禁輸案に日本がなぜ賛成しなかったのか、理解できない」。
 ついでニュース前号に記載された和田伸氏と大西編集委員のコメントを巡り、「天皇の生前退位表明を違憲とすることで、最左翼と最右翼は一致している」「天皇にも、制限されているものの人権はある。今回の意向表明は、政治に関与しないぎりぎりの許容範囲だ」「天皇が国民に親しく接しているのを現政権は嫌っている」「天皇と組んで護憲活動をすべきだ」などの意見があった。
その後、総会の議案とされる編集委員会を運営・編集委員会と改称することについては、賛成の意見が多かった。また、現共同代表2名に1名追加することについては、現行2名案に賛成が多かった。
なお、「天皇の『生前退位』問題――護憲派は積極的な関与を」<別紙3>が資料として配付された。

      第32回 編集委員会の報告

  2017年1月9日(月)13時30分~17時00分 三田・会員事務所で開催
 出席者は大西、草野、福田。
 
1.事務局報告として福田共同代表より下記3点の経過報告があった。
1)岡部共同代表の術後の経過は順調の様子。次の年賀状をいただいた。

謹賀新年
終活も 少し交えて 年用意

安倍政権の戦前回帰、平和憲法九条改正の動きに危機感を感じ、まる三年前の暮れ、「完全護憲の会」を有志で立ち上げてから、毎月例会を開いて安倍首相の違憲ぶりを指摘しながら、三回のパンフレットを出版。平和護憲活動を続けてきました。
首相は、九条改憲を公言し、日本戦後の専守防衛を集団的自衛権を可能にする安保法制の改正を、公明党と自民党の強行採決で実現しました。
また、オバマ米政を助け、世界中どこへでも自衛隊を派遣する事を決めました。この動きは、今年トランプ政権の成立で更に強まりそうです。
なお昨年、長女万里子が急逝しましたが、さる十一日に一年祭の法要を行いました。遺族一同元気にやっています。

二〇一七年 元旦 岡部太郎

 2)「村山首相談話の会」が12月28日、千鳥ヶ淵戦没者墓苑においてアジアに及ぼした被害も含めた全戦没者への追悼の献花を行った。福田がこの式典に参列した。これは安倍首相がオバマ大統領とともに真珠湾の犠牲者に献花を行ったことに対応した取り組み。
 3)リーフレット第2集の発行に対して、年末・年始を通じて冊子代とカンパが寄せられた。

2.ニュース37号案(12月例会報告)について検討を行った。
3.第3回総会、第37回例会・勉強会について
 1)第3回総会提出議案を以下の6本とすることを確認
①第1号議案 2016年度活動経過報告
②第2号議案 2016年度決算報告
③第3号議案 会計監査報告
④第4号議案 会則7条の改定と編集委員会の名称変更について
⑤第5号議案 2017年度活動計画について
⑥第6号議案 新役員選出
 2)第1号議案について
  ・原案を検討した結果、いくつかの修正を加えて議案とすることを確認。
 3)第2号議案について
  ・決算報告案が年末ぎりぎりに振り込まれた誌代・カンパが含まれていなかったことから、この金額を加えて議案とすることを確認。
 4)第3号議案について
  ・事務局が会計監査のKN氏と日程調整中。監査の承認を得て議案とすることを確認。
 5)第4号議案について
  ・編集委員会の名称変更については「運営・編集委員会」とすることで一致できたが、関連して会則まで改定する必要があるかについて議論。結果、会則第7条について改定提案することを確認。
 6)第5号議案について
  ・原案を検討した結果、いくつかの修正を加えて議案とすることを確認。
 7)第6号議案について
  ・野村共同代表の辞任に伴い、共同代表が2名となるが補充はせず、岡部、福田の留任とする。
  ・事務局及び運営・編集委員については現体制を継続し、新たに2氏の参加を要請する。
  ・会計監査については、KN氏に再任を要請する。
  ・役員については議案に候補者を明示するが、当日の出席者で立候補表明があれば、それも加えることを確認。

4.緊急警告017号(天皇の「生前退位」に特例法は憲法違反!)に対する和田伸氏の批判意見書について検討
① 編集委員会としての見解をまとめたいとのことで、草野がその素案(別紙)を提示。
② 大筋で合意できたが、和田氏による天皇の「公的行為」違憲論に対して草野が憲法論としては同意できるとしたことに、福田、大西が異論。「国政に関しない天皇の『公的行為』はあり得るし、それは合憲ではないか」と主張。約1時間余にわたって議論したが一致をみなかった。
③ よって、編集委員会としての統一見解は当面見送り、棚上げとすることとなった。

          当面の日程について

 1)第3回総会・例会 1月29日(日)13:30~ 三田いきいきプラザ
 2)第34回編集委員会 2月1日(水)14:00~ 三田いきいきプラザ
 3)第38回例会 2月26日(日)13:30~ 三田いきいきプラザ
 4)第35回編集委員会 3月1日(水)14:00~ 三田いきいきプラザ
 5)第39回例会 3月26日(日)13:30~ 三田いきいきプラザ
 6)第36回編集委員会 3月29日(水)14:00~ 三田いきいきプラザ

<別紙 1>
         政治現況報告    2016年12月25日

             岡部太郎共同代表(元東京新聞政治部長)
      
  新春における世界政治の難かしい展望
         
 2016年(平成28年)から2017年(平成29年)の世界平和で一番の変化といえば、結局アメリカ第45代大統領選で共和党候補ドナルド・トランプ氏(70歳)の、民主党候補ヒラリー・クリントン氏(69歳)を倒しての圧勝を挙げなければなるまい。クリントン氏は初の米女性大統領を目指していた。言いたい放題のトランプ氏は、結局は世界の若者の右傾化の流れに乗ったといえるだろう。
 トランプ新大統領は新年早々には組閣を終え、就任式の1月20日後には外交教書、大統領教書を発表することになろう。
 第2次大戦後、長らく続いた米国の世界の警察官としての統治は終わることになる。もちろん戦後70年の平和秩序は戦勝5ヵ国による国際連合によって守られていた。中華民国が中華人民共和国、ソヴィエト連邦共和国がロシア連邦に変わっているだけだ。
 ただ当時の米ソ2大強国は、戦後の経済発展で、日本・ドイツの経済大国より下回っている。現在のヨーロッパでは仏独が政治統合を果たしEUという一大経済圏を実現した。EUに参加した英国は先日、国民投票で反対、まず脱落している。
 中国は太平洋でアメリカに対抗する一大経済圏を東アジア諸国と構築中で、米国と中国の張り合いが続いている。
 朝鮮戦争からベトナム戦争の結果、まずソ連邦が各共和国に分裂、ついで米国が軍事力を失った。この間、ベルリン東西の壁が崩壊、一方で中国共産党政府は、東太平洋で強大な軍事力を持つにいたった。
 他方、ヨーロッパはその経済力を強化し、欧州だけの共同経済圏を樹立し、27ヵ国が結束して経済だけでなく政治から言語まで強固な統一組織が完成しつつあった。しかし昨年、英国が、EUからの脱退の可否を問う国民投票で、世界的な予想に反して、若者を中心に離脱派が上回った。これをきっかけに、米国のトランプ大統領選出の番狂わせがあり、欧米から政治情勢が大きく崩れてきている。これをどう収拾するのか、非常に困難だ。トランプは反イスラム、反メキシコなどと、従来の世界外交を壊そうとしている。また経済でもアメリカ一国集中に方向転換する構えを見せている。
 最も問題の大きいのは、太平洋での中国に対する米国外交であるが、これが日本・韓国・極東地域に大きな変化をもたらすのは確実だ。
 トランプ・安倍の日米会談が11月17日に行われたが、本格化はこれからだ。ただこの2人は似ており上手くいくかもしれない。また安倍首相が12月15日故郷山口で日ロ首脳会談、まだ未成立の日ロ平和条約を北方領土の解決と共に完成したいとしているが、実際に領土問題がそう簡単に進むとは思われない。
 いまのところ、自民党安倍一強の日本政治も今後どう変わるのか、色々な問題がある。
 まずその1年目、平成29年の政局が注目される。

<別紙 2>
        第36回例会 事務局報告

             福田玲三(事務局) 2016.12.25

1)岡部太郎共同代表の手術

 岡部共同代表は12月6日、右脚の手術を終え、病床で左脚のリハビリを開始。新聞を取り寄せて閲覧。12月例会あて「政治現況報告」が自筆半分、代筆半分で届けられた。要介護5級が認定され、自宅のバリアフリー工事が終わる1月中頃、退院の予定。
 会員一同、順調なご回復を切に願っています。

2)リーフレット2『戦前の悪夢・戦争への急カーブ――政治現況報告集』
 
11月30日 14:00~21:00、三田いきいきプラザ、ついで会員事務所でリーフレット2の校正(大西、草野、福田)。
12月6日 15:00~21:00、会員事務所、リーフレットに岡部共同代表略歴、略年表など加筆、校正(大西、草野、福田)。
12月9日 最終校正作業
12月16日リーフレット2の納本(500部)、配付。
 
3)第3回総会(1月29日)の準備
 
① 会計報告
② 経過報告
③ 組織整備……編集委員会を「運営・編集委員会」に改名案
④ 共同代表補充……現2名に1名を補充案
⑤ 活動計画案……文集の発行
  『明治憲法下の哀れな国民――自民党改憲草案がめざすもの』(仮)
「私と憲法――三従の教え」
「死を奨励した異常な社会――露営の歌」
「天皇の『生前退位』問題――護憲派は積極的な関与を」
「布施杜人――人間を解体する治安維持法」
    濱口国雄「地獄の話」(西部ニューギニアにおける戦場を画いた400行近い長詩)
<資料> 大日本帝国憲法、教育勅語、軍人勅諭、戦陣訓
           
4)集会の案内

① 平和創造研究会、第3回平和学習会
 1月15日(日)14:00~16:30 東京ボランティア・市民活動センター会議室C
(セントラルプラザ10階 JR飯田橋駅西口 地下鉄飯田橋駅B2b出口)
資料代 200円
  日中戦争はなぜ起きたのか……長坂伝八(法政二高元教員)
② 竹内景助氏の獄死から50年、三鷹事件再審開始を求める集い
 1月18日(水)18:30~ 武蔵野スイングホール(JR武蔵境駅北口2分)
      参加費 500円
③『週刊金曜日』東京南部読者会
 1月20日(金)18:00~20:00 大田区生活センター第6集会室(JR蒲田駅徒歩5分)
④労働運動研究所、研究会
 2月4日(土)14:00~16:00 大阪経済法科大学セミナーハウス6階B会議室
     象徴天皇制の行方ー戦後憲法体制と天皇制
     報告者:伊藤晃氏(日本近代史研究、元千葉工大教授)

<別紙 3>

   天皇の「生前退位」問題 護憲派は積極的な関与を

                   草野好文

天皇の切なる想い
 現天皇が8月8日、「生前退位」の意向をにじませる「お言葉」を表明した。
 「お言葉」は、日本国憲法第4条が定める「天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない」という規定に抵触しないよう、慎重に言葉を選びつつ、ご自身が高齢化によって象徴としての務めを十分に果たせなくなっていることにふれ、この先も「皇室が国民と共にあり、相たずさえてこの国の未来を築いていけるよう、そして象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくことをひとえに念じ」ていると述べたのである。(天皇のこの発言をめぐっては、象徴天皇として許されない政治的発言であり憲法違反だ、との見解があるが、私は許容範囲と考える。)
 現憲法が定める「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」としての象徴天皇像を自らの行いを通じてつくりあげてきた、そしてこの天皇像を次世代の後継者にも引き継ぎたいとの想いのこもったものであった。
 その意味で「お言葉」は、現憲法が定める象徴天皇制の継続こそが皇室の存続と国民の幸福をもたらすものだとの切なる願いがこめられたものであったし、現日本国憲法を擁護するものであったと言えよう。天皇の元首化と改憲をもくろむ安倍自民党政権の現憲法敵視・改憲志向とくらべたとき、天皇の現憲法尊重・擁護の姿勢は鮮明である。
 この「お言葉」を受けて、国民の大多数が敬愛の念を込めて「生前退位」を肯定的に受け止めた。各紙の世論調査によれば、国民の約8割が「生前退位」を認めるべきだと回答したのである。
 しかしながら、天皇の主観的思いとしての憲法擁護姿勢はまぎれもないとしても、現天皇が「象徴的行為」としての「公的行為」を拡大してきたことは、国民の共感と支持として結実したとは言え、「象徴」としての枠を超えて政治的影響力を発揮しかねない危うさもある。同時に、この拡大する「公的行為」に対して内閣が関与し責任を持つということは、内閣が天皇を政治利用する危険性も増大する可能性があることを押さえておかなければならない。
 もともと、この「公的行為」をめぐっては憲法違反との学説もあり、天皇が「公務」として行う仕事は憲法第4条、第7条が定める「国事行為」のみなのであり、「第三の行為」(私的行為以外の)としての「公的行為」などはあり得ないとするものである。
 九州大学横田耕一名誉教授(憲法学)は「憲法の規定に忠実であるならば、事実行為を含む象徴としての天皇の公的な形式的・儀礼的行為を憲法の定める一二(ないし一三)の行為に限っているので、「第三の行為」などあり得ず、天皇の『公務』は『国事行為』だけである」(『世界』2016年9月号)としている。
 これは憲法を素直に読めば当然の結論と思われるのだが、学界、法曹界、政府見解含めて、象徴としての天皇の行為には国事行為と私的行為以外に、その象徴としての立場上、私的行為とは言えない公的な仕事があり、これを「公的行為」として合憲とする説が多数を占めているとのこと。
 これは自衛隊合憲論と似たところがあり、既成事実の積み重ねの結果もたらされたものとも言える。

安倍政権の冷たい対応
 安倍政権は現天皇の「生前退位」意向表明を受けて、「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」(座長=今井敬経団連名誉会長、御厨貴東大名誉教授ら6人)を設置した。
 「有識者会議」は初会合で、女性・女系天皇の是非などは議論のテーマとしない方針を早々と決め、「今生陛下の公務の負担軽減に絞って議論する」(菅官房長官)とし、第2回会合では新たに16人の「専門家」からのヒアリングを行うことを決めた。
 有識者会議の構成にも問題があるが、選定された「専門家」の顔ぶれの多くは、歴史学者の大原康男・国学院大学名誉教授、憲法学者の百地章・国士舘大院客員教授(ともに日本会議政策委員)など、日本会議系の学者や櫻井よしこ氏ら右派論壇を賑わせている人物が多数を占めるものであった。この専門家の選定には安倍首相の強い意向が反映されたとのことである。
 「有識者会議」の構成と役割の限定、「専門家」16人の選定からも明らかなように、安倍政権の「生前退位」に対する対応は、現天皇の象徴としての安定的な皇位継承を願う切なる想いに対しては冷たいものであった。
 現天皇の「生前退位」意向表明は、改憲によって天皇の元首化(自民党改憲草案に明記)と神格化をめざす安倍政権にとっては実に忌々しいものであったのだ。それゆえ、現天皇一代に限っての特例として「生前退位」を可能とする特例法(特別法、特措法とも表現されている)を制定しようとしているのである。
 「有識者会議」の設置も「専門家」からのヒアリングも、安倍政権の既定路線を補強するための隠れ蓑にすぎないと言えよう。だが、この特例法(特別法、特措法)による皇位継承は、明白な憲法違反と言わなければならない(著名な憲法学者の長谷部恭男(※1)早大大学院教授や今回のヒアリング対象者となった高橋和之(※2)東大名誉教授らが合憲との判断を示しているが)。
 なぜなら、憲法第2条は「皇位は、世襲のものであって、国会で議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する」と規定しているからである。「生前退位」とは即「皇位継承」問題なのであり、皇室典範を改正して「生前退位」を正式に認める以外にないのである。一部報道によると、この憲法違反を回避するために、皇室典範の附則に「特別な場合」に限定して「生前退位」を可能とする文言を付加してしのごうとしているとの報もあるが、このような姑息なやり方は許されない。
  ※1 「皇室典範の定めるルールによって継承順位は自動的に決まると言っているだけですので、退位について特別法という可能性はないわけではない」(『世界』2016年10月号)
  ※2 「天皇制自体が身分制に基づく点で憲法上の一般原則の例外であり、世襲制は事実上特定集団を対象としているのであるから、天皇制の中に一般原則を持ち込むことは憲法の想定していな
     いことというべきであろう。したがって、特例法により対応することが憲法に違反するとまではいえない」(『世界』同) ⇒目次
 
天皇の意向を無視し続けた安倍政権
 今回のビデオメッセージによる「生前退位」を強くにじませた意向表明は、現天皇にとっては、もはや残された時間がない、との危機感のあらわれであったのだと思う。
 もちろん、天皇の意向を指示として受け止め、これをすぐさま法制化するとなれば、憲法第4条「天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない」に抵触するのであるから、安倍政権が天皇の意向を冷たくあしらい、無視してきたとしても、それ自体は憲法違反でもなく、あり得ることである。
 問題は、天皇の意向を冷たくあしらい無視してきたことの理由にある。それは天皇があまりにも現憲法を擁護し、憲法に即した象徴天皇制を体現し、将来においてもこれを継続しようとしてきたからである。これは現憲法を否定し、天皇の元首化と神格化をはかり、戦前回帰の明治憲法体制に回帰しようとする安倍政権には容認できないからである。
 8月のビデオメッセージに先立つ7月、NHKが「天皇陛下が『生前退位』の意向」とのニュース報道をした時、安倍内閣の菅官房長官は怒りもあらわに、ただちにこの事実を否定したが、その後、「5月以降、天皇の意向を受けた宮内庁幹部たちが水面下で検討を進めていた」との報道が各紙でなされことからして、この動きを全く知らされていなかったなどということはあり得ない。天皇が昨年の誕生日記者会見で「年齢というものを感じることも多くなり、行事の時に間違えることもありました」と述べられたことも含めて考えると、おそらく天皇の意向はもっと以前から官邸に伝えられていたはずである。
 NHKの報道は、天皇の意向を伝えられながら、これを無視するかたちで先延ばししている安倍官邸に対する関係筋のリークと推測できる。そしてこれが引き金となって、8月のビデオメッセージが実現したと言えよう。 ⇒目次

「生前退位」に反対する右翼保守派
 7月NHK報道、さらには8月ビデオメッセージ以降、天皇の「生前退位」をめぐって右翼保守派から反対論が噴出している。
 安倍政権を支える日本会議の副会長・小堀桂一郎氏(東大名誉教授)は天皇の「生前退位」について、「天皇の生前後退位を可とする如き前例を今敢えて作る事は、事実上の国体の破壊に繋がるのではないかとの危惧は深刻である」(産経新聞7月16日)と発言。
 「有識者会議」が選定した16人の一人である平川祐弘東大名誉教授(日本会議が主導する「美しい日本の憲法をつくる国民の会」代表発起人)は第1回ヒアリング後の記者取材に「ご自身で拡大解釈した役割を果たせなくなるといけないから元気なうちに皇位を退き、次に引き継ぎたいというのは異例のご発言だ。……退位せずとも高齢化への対処は可能で、摂政を設けるのがよい」(朝日新聞11月8日)と天皇が自らその可能性を否定した摂政について言及した。
 同じく16人のメンバーの一人である大原康男国学院大名誉教授(日本会議政策委員会代表)は「お一人の天皇が終身、その地位にいることにより、日本社会が保たれる」(「朝日」11月8日)として「生前退位」に反対を表明。
 同じく櫻井よしこ氏(「美しい日本の憲法をつくる国民の会」共同代表)は「譲位には賛成いたしかねる。……摂政を置かれるべき」(「朝日」11月15日)と述べた。
 同じく渡部昇一上智大名誉教授も「皇太子殿下を摂政として、代わりに公務に出ていただければ何の心配もない」(「朝日」11月15日)と発言。
 第3回のヒアリングをうけた八木秀次麗澤大教授(「新しい歴史教科書をつくる会」元会長)は「一代限りの特例法であっても、……皇位の安定性を一気に揺るがし、皇室制度の存立が危うくなる」(「朝日」12月1日)と表明した。
 この他、笠原英彦慶大名誉教授、今谷明帝京大特任教授も同様の発言を行っており、ヒアリング対象者16人中7人が「生前退位」に反対を表明したのである。国民の約8割が「生前退位」を肯定していることと比較すると、「有識者会議」の16人の人選がいかに偏ったものであったかがわかる。しかもその反対理由が現憲法下の「象徴天皇」像とは言い難い、「国体の破壊」などという表現に見られるように、明治憲法下の神格化された現人神的天皇像をベースにしていることが垣間見えるのである。
 このような日本会議系学者や一部右派論者の見解には、同じ右翼保守派の中からも強烈な批判が浴びせられており、深刻な対立が生み出されている。
 小林よしのり氏などは、「政府は速やかに皇室典範を改正し、陛下のご意向を叶えてあげてほしい。それが常識ある国民の願いなのだから」(『週刊ポスト』8月19・26日合併号)とした上で、「自称保守派の者たちは、82歳の天皇の『退位』の自由すら妨害しようとしてるではないか! 彼らは天皇陛下を敬愛してはいない! 天皇の『自由意志』を封殺したがる」として激烈な批判を展開している。
 それゆえ、日本会議系論者の見解は、象徴天皇制を維持しようとするまともな保守派の見解とは大きな亀裂があり、対立が潜在していると考えられる。 ⇒目次

皇室典範改正にあたってなすべきこと
 皇室典範の改正にあたっては、附則での一代限りなどではなく、本則において天皇の「生前退位」を正式に認める改正をなすべきである。
その上で、皇室典範第1条が「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」としているが、女性に皇位継承権を認めない、このようなあからさまな男女平等に反する女性差別は明白な憲法違反であり、直ちに改正しなければならない。
 憲法第14条は「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において差別されない」としているのであるから、憲法の下位にある法律である「皇室典範」は当然にこの規定に反してはならないからである。男女にかかわらず皇位継承権を認め、女性天皇を認めなければならない。
 なお、天皇という特別な存在や皇位の世襲に関しては憲法第1条、第2条に定めがあるため、第14条に優先する。
 さらに、男系男子に限定することによる皇位継承者の減少は、皇室の存続の危機をももたらす。
 小泉政権時代に設置された「皇室典範に関する有識者会議」は、皇位継承やそれに関連する制度について2005年(平成17年)1月より17回の会合を開き、同年11月24日には皇位継承について女性天皇・女系天皇の容認、長子優先を柱とした報告書を提出した。
 だが、当時内閣官房長官であった安倍氏は、有識者会議が「男系維持の方策に関してはほとんど検討もせず、当事者であるご意見にも耳を貸さずに拙速に議論を進めた」として、有識者会議の報告書を批判した。この後、2006年に秋篠宮家に男子の悠仁親王が誕生したことにより、法案提出は見送られた。(Wikipedia)
 さらに民主党・野田政権時の2011年、悠仁親王が誕生にもかかわらず、依然として皇位継承者の減少が続くことを回避するために、「女性宮家」創設に向けた検討を開始。2012年10月、女性宮家の創設案と、結婚した女性皇族が国家公務員として皇室活動を継続する案をまとめた。だが、この年の12月、衆院選で自民党が勝利し、「男系男子」にこだわる安倍内閣が発足して立ち消えとなったのである。
 以上の経過からも明らかなように、皇位継承者の減少を食い止めるためには、「男系男子」にこだわっていてはならず、女性・女系天皇も認めようというのがまともな保守の考えであり、国民の大多数の意向でもあるということである。 ⇒目次

護憲派は積極的関与を
 天皇の「生前退位」をめぐって国民の約8割が大きな関心を寄せ、右翼保守派内部でも激烈な対立があり、さらに右翼保守派とまともな保守派との対立が繰り広げられている状況の中で、一体護憲派は何をしているのであろうか。
 「九条の会オフィシャルサイト」を検索してみても、「生前退位」問題についてのアピールもコメントもない。各地の「九条の会」や護憲団体にもこの「生前退位」問題についての言及が見あたらないのである。
 野党各党の対応はどうか。
 民進党は護憲派とは言えないが、岡田克也代表(8月当時)は「陛下のお気持ちが示された以上、しっかりと応えていく必要がある」(「朝日」8月9日)として、「生前退位」を受け入れる考えを示した。その後、蓮舫代表のもとで「皇位検討委員会」を設置して党としての議論を開始している。
 同じく護憲派とは言えない「生活の党」(現自由党)の小沢代表は「これまでの陛下のご労苦などを踏まえ、大変重く厳粛に受け止めたいという思いであります。……具体的な内容につきましては、『天皇の地位』に関する問題でありますので、政治的な立場にあるものが軽々にコメントするべき性質の問題ではないと認識致しております」(「産経ニュース」8月8日)とする談話を発表した。
 日本共産党は志位委員長の談話として、「高齢によって象徴としての責任を果たすことが難しくなるのではないかと案じるお気持ちは理解できる。政治の責任として生前退位について真剣な検討が必要だ。……『人権は保障されなければならない』として、皇室典範など法改正による生前退位の実現に理解を示した」(「朝日」8月9日)。
 社民党は又市幹事長が「公務の負担のあり方や国事行為の臨時代行、摂政を含めて論議し、必要があれば皇室典範を改正するなどの対応を行うべきである。……象徴といえども、一人の人間として人権やその思いは尊重されるべきである」(「産経ニュース」8月8日)とする談話を発表した。
 その後、護憲派の共産党、社民党からの新しいメッセージはない。護憲派政党として、その立場上何らかの態度表明が避けられない故、「生前退位」について最小限の見解を表明しただけと言えよう。
 市民運動体としての「護憲団体」は沈黙、護憲政党は最小限の見解表明、という現状である。
 護憲派は今回の「生前退位」問題に限らず、天皇制が直面する現実問題については積極的にかかわろうとせず、否定的傍観者として振る舞っているように思う。言わば自らを蚊帳の外に置いているかのようだ。
 その理由は、護憲派の多くが天皇制否定の立場に立っているからである。天皇制などという人間平等に反する、あってはならない制度をより良くするなどということは考えられない、ということなのであろう。
 しかし、「生前退位」問題とは憲法第2条が定める「皇位継承」問題であり憲法問題なのである。護憲を標榜する護憲派がきわめて重要な憲法問題に直面して傍観者的に振る舞っていいわけがない。安倍政権はじめ右翼保守勢力が、象徴天皇制を元首天皇制に改編しようとの意図をもってこの「生前退位」問題に対応しようとしているからである。
 憲法上の重要問題である「生前退位」問題を、右翼保守派と象徴天皇制を維持しようとするまともな保守派との論争にまかせていては、天皇制が本質的に持つ問題性を多くの国民に知らせることもできない。
 それゆえ護憲派は、「生前退位」を自らに突き付けられた問題としてとらえ、護憲派としての見解を明確に提起し、安倍政権が皇室典範の改正によらない現天皇に限っての退位を認める特例法の制定によってしのごうとしていることに対して、明確に反対の意思表示をすべきなのである。
 安倍政権はじめ右翼保守勢力にとっては、天皇を「元首」化するためにも「生前退位」など認めたくないであろうし、ましてや天皇神格化の根源となっている男系男子による継承が断ち切られ、女性天皇が誕生することなど絶対に認められないであろう。
 それゆえ、護憲派は、憲法違反条項を持つ皇室典範改正に踏み込んで今回の「生前退位」問題を論じるべきであり、かつ、女性にも皇位継承権を与えるべきことを主張し展開すべきなのである。小泉政権時代の「皇室典範に関する有識者会議」がまとめた女性天皇・女系天皇を容認するとした報告書は、多くの国民がこれを支持した経緯もある。
 まさに今回の「生前退位」問題と「皇位継承」問題は、右翼保守派の弱点なのであり、彼らがいかに戦前回帰の国家主義・反民主主義勢力であるかをあぶりだす好機なのである。現天皇の「生前退位」問題は国民の関心も高く、さまざまに議論が噴出するであろう。このような状況の中で、これまでのように護憲派が否定的に傍観者的に振る舞うようなことがあってはならないと思う。
 象徴天皇制は遠い将来はともかく、国民意識の現状からしてなくすことはできないし、存続し続ける。そうであれば、国家主義者に天皇を政治利用させない闘いが不可欠となる。これは国民主権を守る民主主義のための闘いでもある。
 いまこそ護憲派は、天皇・皇族にも人権はある、「生前退位」賛成、女性にも皇位継承権を認める皇室典範改正を、と訴えるべき時である。

         (当会ブログに12月23日投稿、『地域と労働運動』196号同時掲載)
1

完全護憲の会ニュース No.36 2016年12月10日

                <例会参加の方は本ニュ―スをご持参ください>

     連絡先 〒140-0015 東京都品川区西大井4-21-10-312 完全護憲の会
              電話・FAX 03-3772-5095
              Eメール:kanzengoken@gmail.com
              ホームページ:https://kanzengoken.com/
            
        目次 ①第35回例会の報告            1p
           ②第32回 編集委員会の報告(略)     1p
           ③当面の日程について           2p
           ④ 別紙1 政治現況報告        2p
           ⑤ 別紙2 事務局報告         3p
 
           第35回 例会の報告

11月27日(日)、港区・三田いきいきプラザ集会室で第35回例会を開催、参加者8名。入会者 計58名。
 司会を草野編集委員長が担当し、脚の手術で再入院された岡部共同代表の病状報告を受けたのち、事務局報告(別紙)を福田共同代表が行った。
 ついで次のような意見が交わされた。
 「リーフレット2(政治現況報告集)には11月、12月の報告原稿を加える必要があり、岡部さんの病状回復を待って発行したらどうか」「年内発行かどうかの判断は編集委員会に一任する」
 「天皇が長野の満蒙開拓記念館を私的に訪問されたことは評価するが、『天皇退位』の問題には障らぬ方がよい」「天皇が国民に触れることや女系天皇を容認することは、天皇神格化を防ぐために有効だ。護憲派は積極的に関与すべきだ」「意味がない。他に大切なことがある」「沈黙は合意と取られかねない」「9条の会から発言のないのは不思議だ」「天皇の退位発言は違憲だという人もいるが、天皇の人権もある」「象徴天皇は圧倒的に受け入れられ、若い人に親しまれている。その政治力学を考慮すべきだ」「長期的には天皇制離れによって消滅してほしい」
 「マッカーサー原案では天皇元首だった。それが国内論議で、国民主権となり、天皇が象徴になった意味は大きい。だが一番大切なのは国民主権だ」「天皇を元首にせず、象徴を守り抜く運動をすべきだ」
 「自衛隊OBの会議では南スーダン派遣に反対の意見が出た」「今のミサイル防衛システムは全く無効だ」「軍事費削減で年金を維持できる。野党は護憲で連合すべきだ」など。

<別紙 1>
           政治現況報告      2016年11月27日

               岡部太郎共同代表(元東京新聞政治部長)

 大番狂わせ 米大統領に共和党トランプ氏
         
 4年に1度の米大統領選は再選で満期の民主党オバマ大統領の後継者、クリントン女史(元国務長官、クリントン元大統領夫人)が当選確実と思えた。共和党の対抗馬トランプ氏のあまりにも常識外の発言に、共和党の幹部も次々に反対に回ったからだ。もともとタカ派の財界人の同氏は反イスラムの強烈な闘士であり、入国拒否や強制出国を強調した。また不法入国者の多いメキシコ移民を国外追放、あるいは同盟国の日本、韓国、ドイツ、南アフリカにも米国の防衛増に負担を求め、核の傘に対しても自己保持を求めるなど、これまでの米国の防衛、外交政策を根本から変える発言を繰り返していた。余りにも非常識な発言で識者の反発も受け、選挙戦のスタートからクリントンのリードを許してきたが、半年経った後半戦ぐらいから五分五分となってきた。そして11月8日の投票日、投票総数はクリントンが百万票多かったものの、米中部の接戦地域で軒並みトランプ陣営、共和党が逆転した。大統領選では各州の代議員の過半数を取れば、全代議員を取る州がいくつもあり、そんな状況がトランプの勝ちを呼んだ。また実質的にクリントンの余りにも常識的な政策が民主党の若者を中心に反発を呼び、隠れトランプの票を呼び込んだとの見方がある。確かに世界のひとびとから全体的に力の政策、右翼の政策が支持される傾向があり、最近では、イギリス保守党のEC離脱勝利、日本での小池都知事の無所属の圧勝、またドイツ、オランダ、ポルトガルなど右派系の勝利が目立っている。
このトランプ勝利は、アメリカの伝統政策の力を弱めるとみられ、世界中に外交や軍事・防衛など安全政策にも変化をもたらすと見られる。日本でも早速、安倍首相は11月18日にトランプ氏と会談した。これは元々タカ派だけに、右寄り政策、安保政策などで、これまでの日米政権より密着することになりそうだ。これまでは、イラク戦争での共和党ブッシュ政権と小泉内閣が軍事協力に熱心だったが、それ以上に世界をまたに掛けた日米軍事協力が展開することになろう。それだけに太平洋、中近東、対中国などで世界的緊張が強まりそうだ。ただトランプ氏は安倍首相との会談でも以前の話より慎重になっており、同じ激烈さを外交、軍事で発揮することは少ないと思われる。またトランプは経済問題でアメリカの一国保護主義を強化し、なかでもTPPには強く反対を進めてゆこう。これらの問題でも、世界との調和という点はむつかしくなりそうだ。
                     (入院先より12月2日届けられたもの)

<別紙 2>

           第35回例会 事務局報告

                  福田玲三(事務局) 2016.11.27

1) 来信、珍道世直氏より
 
 いつも大切なニュースをお送りいただき心から感謝いたしております。
 岡部共同代表様のお怪我が早く治られるよう願っております。岡部様の「政治現況報告」は、それ自体で素晴らしい内容だと、いつも読ませていただいております。それに「今後の展望」を加味されるということは素晴らしいことですが、どうかご無理されませんよう願っております。
 「皇室典範」のことは、その通りだと思います。
 私の提訴している「閣議決定・安保法制違憲訴訟」に係る名古屋高裁第1回口頭弁論が去る11月8日開廷されました。
 国から次のような答弁がありました。
 『控訴人が指摘する自衛隊イラク派兵差止訴訟に係る名古屋高等裁判所平成20年4月17日判決は、確立した判例理論に反するものであるから、先例としての価値はなく、また、同判決は、違憲審査の在り方を誤ったものであるから、この点においても、先例としての価値はないというべきである。』
 これに対し、私控訴人は、次のとおり反論いたしました。
 『当該名古屋高裁判決の内容は、前例にとらわれない先駆的なものであり、今日の時代が要請するものとなっている。また、当該訴訟に係る控訴人らは、全ての基本的人権の基底的権利である「平和的生存権」の「具体的権利性」が肯定されることは、控訴人ら及び日本国民の利益にとって極めて重要であるとの認識に立って、「上告せず確定させる」ことを選択されたものである。
 国がこの判決を、「違憲審査の在り方を誤ったものである」と断定することは、極めて失当である。現憲法において、違憲審査は下級審においても行える。当該訴訟は正当な訴訟手続きを経て行われたものであり、手続きに瑕疵はない。
 この度、本訴訟において、国指定代理人として、国家公務員30名が連名して発出した答弁書(公文書)において、「名古屋高等裁判所平成20年4月17日判決は(中略)違憲審査の在り方を誤ったものである」と表明されたことは、行政の司法に対する重大かつ不当な干渉であり、行政による司法の職権侵害である。三権分立の原則に違背する重大な行為である。
 すみやかに撤回されたい。
 同時に、先駆的な当該判決を、国(行政、立法、司法)は「先例」として真摯に受け止め、「平和的生存権の具体的権利性を肯定する」ものとして、保持していく必要がある。』と反論しました。
 これに対し、「国の主張は答弁書の通りであり変わらない。本日結審されたい」とのことで、控訴人は「撤回するか、どうかの回答を求めるとともに、反論書で反証を求めている4項目、求釈明申立書で釈明を求めている7項目について回答を得た上、結審されたい」主張しました。裁判長が「評議」の為、暫時休憩を宣し、開廷直後、裁判長から「本日結審し、判決は12月22日とする」旨言渡されました。
 これに対し、控訴人から裁判長に「本日結審ということであれば、裁判長にお願いしたいことがございます。日本は今、平和を堅持するか、戦争への道に進むか、戦後最大の重大な岐路に直面している。この時に、裁判所が、「違憲審査権」を行使して「憲法適合性」を審査されないのなら、裁判所は「違憲審査権」を放棄したに等しく、国民の司法に対する信頼を失い、「三権分立」の原則が崩壊することになる。
 裁判所におかれては、憲法第76条「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。」との規定に基づき判決を下されるよう心から要請する。司法が歴史的使命を全うされることを希求する。」と発言いたしました。
 上記の名古屋高裁判決に対する国の「答弁」は、誠に重大であり、このことは公の場で糺されなければならないと考えております。以上ご報告いたします。
     
2) リーフレット2『戦前の悪夢・戦争への急カーブ―― 政治現況報告集』
 
 岡部共同代表から「まえがき」と各月現況報告につける「小見出し」の原稿が11月15日に到着。このリーフの編集会議を11月23日に会員事務所で開催(参加:草野、大西、福田)。表紙と奥付を校正、頁割を検討したのち、今後の日程として11月27日までに本文初校、11月30日に再校、12月6日に校了(15時)、12月13日に納本、配付とした。
 なお日曜画家のY氏にカットの作成を、また岡部氏に顔写真、略歴の用意と、12月政治現況報告の早目の執筆(12月5日着)を、依頼することとした。
 
3) 集会の案内

① 第14回「7・1閣議決定」違憲訴訟勉強・相談会
 12月22日(木)13:00~14:00 神明いきいきプラザ(JR浜松町駅徒歩5分)
② 『週刊金曜日』東京南部読者会
 12月23日(金祝)18:00~20:00 大田区生活センター第6集会室(JR蒲田駅徒歩5分)
  報告: 戦争体験者が戦後を語る 福田玲三

4)付記 来信、和田伸氏 (鹿児島県、12月1日着信。原文のまま掲載)

 いつもニュースをありがとうございます。そのたび非常なる知的刺激を受け感謝いたします。さて、ニュースNO.35に気になる箇所があるので、私なりの見解を述べます。
 緊急警告017号の本文中に「天皇陛下」が4回も使用されているが、この「天皇陛下」は「絶対敬語」「二重敬語」であり、日本語の文法としては明らかに誤りである。日本語を正しく使うのが基本中の基本であるべき「大」新聞をはじめとして大多数のマスコミ、メディア等がこれを「皇室用語」として破廉恥にも平然かつ意図的に使用して、デタラメを垂れ流している。笑止千万である。週刊「金曜日」の読者が「天皇」について某新聞に投稿したら「天皇陛下」と書き直されていたという、馬鹿馬鹿しい。
 当然日本国憲法では「天皇」である。憲法において天皇(それ以外の皇族は何ら規定されていない。よって公金をあてるのはおかしい)は単に象徴であり、主権は在民である。ちなみに「陛下」とは下位の者が宮殿の階段の下に額づき云々の意であり、主権在民とは矛盾しており、主客転倒のそしりを免れない。それとも相変わらず今日でも日本国民は「臣」なのであろうか。このへりくだる卑屈さが日本人民の民度の低さと人権後進国ニッポンの「象徴」である。
 「お言葉」と「生前退位」について。
 ではこの度の天皇の「お言葉」なるものは一体何か。宮内庁によって事前にお膳立ての後、予告された午後3時に国民がテレビの前で「謹聴」すべきこととして設定された。これはまさしく1945年8月の「玉音放送」と同じである。「天皇の生前退位を認めよ」という意見表明は皇位継承という重要な政治事項の変更を求める高度の政治的発言である。しかもそれを公的に行ったことになる。「『お言葉』は立法府の長として謹んで受け止める云々」(大島衆議院議長「重く受け止めている」(安倍首相)というように実質的に公的な政治的発言と受け止めて動き始めている。そもそも憲法上天皇の「公務」は「国事行為」のみである。それ以外の「公的行為」(海外訪問、慰霊、国体・植樹祭への出席、園遊会、被災者見舞い、等)は全て違憲とすべきであろう。なお「私的行為」である宮中祭祀は論外である。また憲法上「国民統合を表す象徴」ではあるが、天皇に国民を統合することを要請していないし、その義務も無い(横田耕一・憲法学者)。
 憲法上「国事行為」のみに規定されている天皇による今回のビデオメッセージ「お言葉(意思表明)」は天皇の発意による政治的意味を持つ行為であり、違憲としか言いようがない。それもその方法と内容において二重に違憲である。それなのに昭仁天皇は自らに国民を統合する役割があると考えているようである。それを自ら能動的に果たす。しかし天皇に国民を統合する役割、責任、義務は当然無いし、またそれをさせてはならない。大日本帝国憲法下において天皇に求められた最大の権能は「国民統合」だった。そしてどうして「お言葉」なのか。「天の声」とでも言うのか。ある介護施設では入所者を集めてこのテレビ放送を見せたという。ほとんどがそれぞれの部屋にテレビを所有し、さらに10人一グループのユニットごとにテレビが設置されているというのにである。一堂に集めて「拝聴」させる。あの「玉音放送」とそっくりではないか。国民に天皇の存在を知らしめす。非常に怖いことである。
 国事行為以外に公的行為そして自ら「象徴としての行為」と称し、戦地訪問、被災地慰問、諸外国訪問、外国要人との面会、「終戦記念日」等各種行事に出席し続けてきた。象徴皇制を見えるようにする。そして皇室を存続させる。それが自分の仕事だと思ってやってきた。がもう疲れた、そろそろ交代したい、これが生前退位のホンネではないか(山口正紀・人権と報道連絡会世話人)。ここらあたりだと思う。
 憲法に規定の無い即ち違憲である「公的行為」だとか、公務の過多と関係のない私的行為である宮中祭祀を「勝手」に「出しゃばり」「調子に乗って」やり過ぎたためであろう。だったら「国事行為」のみに戻せばよい。「公務」は国事行為のみ、それの多くは署名捺印事務である。楽々チンだよ。
 私のような下層の民に言わせるとこういうことになる。

5)和田意見へのコメント 大西編集委員

 私も天皇制に反対だけど、国民の9割近い支持がある天皇制。現実に天皇制を廃止する力量を持っていないのだから、天皇制は続く。そこで、和田説のように天皇を国民から隔離することが良いのだろうか。国民から離れた天皇は神になりやすい。それこそ今の安倍が望む姿だ。
 戦跡や災害被災地に行くことで、天皇が庶民とともにあると実感できる。この人が「私のために死ね」というはずがないと気づく。「象徴として国民とともにありたい」とは、神になることを拒否された言葉なのだ。
 天皇制を廃止できる明確なステップがあるならいいが、和田説は現状では安倍を利するだけだ。
 同様にこれまでの護憲派の方は、自衛隊についても、「自衛隊は違憲で、廃止しなければならないのだから、装備等を論じるのは問題外」という意見が多いが、国民の6~7割が「丸腰は怖い」と自衛隊を認めている中で、昔の空母より大きい護衛艦「いずも」が出来ている。目を閉じていると肥大化する一方である。目を開いて反対の声を上げなくてはならない。 ⇒目次

ご支援ご協力のお願い

 2014年以来、毎月の例会で岡部太郎共同代表が発表した「政治現況報告」を、この度リーフレットにまとめて集成版を刊行いたしました。
 政権が過激に戦争準備をごり押ししたこの3年間は、後世の歴史に「時代の転換点」として記載されるやもしれません。
 私たちは、蹂躙される平和憲法を目の当たりにした経験を基礎に、今後の憲法擁護活動と、憲法の理念を実現する活動を続けていく所存です。
 つきましては、新リーフレット『戦前の悪夢・戦争への急カーブ――安倍政権3年の歩み』の拡散へのご協力とともに、恐縮ですが年末カンパへのご協力をお願い申し上げます。
 来年も引き続き、当会へのご支援をよろしくお願いいたします。
 みなさまの来る年におけるご健康とご活躍を祈念申し上げます。

   2016年12月
                       完全護憲の会