安倍元首相の国葬に反対する。

     前川平氏(元文科省次官)は東京新聞(7月17日)「本音のコラム」で「国葬には反対だ」と要旨、次のように書く。

 岸田首相が挙げた国葬の理由は、どれもこれも理由になっていない。「憲政史上最長」の在任期間は、国葬に値しない。「国内外から幅広い哀悼、追悼の意」というが、多くは外交辞令だ。「日米機軸の外交」は歴代首相に当てはまる。「日本経済の再生」は事実に反する。「暴力に屈せず、民主主義を守り抜く決意を示す」というが、安倍氏追悼がなぜ民主主義を守る決意表明なのか。

 私は前川氏の意見に賛成だ。

 当会の会員ブログに投稿した柳澤修氏は、

「安倍氏については、……モリ・カケ・サクラ問題では説明責任を果たさず、安保法制や秘密保護法、共謀罪など、戦前回帰的な政策を強行したことも分断の切っ掛けとなった。外交的成果も、トランプ大統領とプーチン大統領と個人的な繋がりを深めただけで、実は何もないのである。逆に最も気を配るべき極東の隣人、中国・韓国・北朝鮮との関係は、悪化したとしか思えない。……

 安倍首相名の「桜を見る会招待状」を営業ツールに使い、多額の資金を集めていたジャパンライフの詐欺被害者と、旧統一教会により家庭を崩壊された銃撃事件の容疑者は、つながる部分もある。」

 私はこの批判に賛成だ。

 その上で、私はもう一つの問題を挙げる。それは戦後最悪といわれる日韓関係の真因だ。

 懸案の徴用工訴訟で、日本政府は「徴用工をめぐる問題は日韓請求権協定で完全かつ最終的に解決したことを確認しており、韓国大法院の判決は国際法違反であり、戦後の国際秩序への重大な挑戦だ」と一貫してはねつけている。

 これに対して、韓国大法院(2012年)は、日韓請求権協定(1965年)は、「サンフランシスコ講和条約に基づき両国間の財政的・民事的債権債務関係を政治的に合意により解決するためのものであり、日本の植民地支配に対する賠償を求めたものではない」と位置づけ、「請求権協定で放棄した請求権に、不法な支配による損害の賠償は含まれていない」との結論を導いている。

 つまり、日韓請求権協定は日本の植民地支配に対する賠償を求めたものではないから、今改めて、その分の損害賠償を請求するということだろう。この言い分は筋が通っており、日本はこの韓国大法院の判決を尊重すべきだ。この言い分を認めない者は、植民地支配時代への痛切な反省が欠けている。

 安倍晋三首相は2018年11月の衆議院予算委員会で「政府では『徴用工』という表現ではなく、『旧朝鮮半島出身の労働者』と言っている。(原告の)四人はいずれも『募集』に応じたものだ」としたうえで、「あり得ない判決で、国際裁判も含め、あらゆる選択肢を視野に入れ、毅然と対応する」と語った。(『歴史認識 日韓の溝』19頁)

 朝鮮半島からの労働者動員は、1937年に日中戦争勃発によって不足した労働力を補うための政策だった。1939年に「募集」という形で始まり、1942年からは「官斡旋」の制度により、1944年からは「徴用=強制動員」によった。

 原告の四人は1944年以前に来日しているから徴用工ではない、と日本政府はいう。

 だが、1939年から敗戦までに朝鮮半島から動員された労働者は数十万人と推計されており、募集であれ、官斡旋であれ、必要な人員を集めるのは容易でなく、実態は強制連行だったという証言が多い。

 安倍内閣は2014年1月、教科書検定基準を改定し、それを受けて菅内閣は2021年4月、教科書における「強制連行」の表現を不適切とした。

 2002年9月、安倍氏は監房副長官として小泉純一郎首相に随行し、2004年5月ふたたび小泉訪朝に同行し、このときの強硬姿勢で「拉致の安倍」の名を挙げ、総理への道を開いた。その後、2020年9月に総理を辞任するまで16年間、拉致問題で何らの実績もあげぬまま、他方で、上記のように、朝鮮半島から数十万人の実質的強制連行の歴史の抹消に専念した。

 今日、戦後最悪の日韓関係を招いた真因はここにある。拉致問題は被害者家族にとっては痛切な事件であるが、同じ思いを朝鮮半島の数十万の被害者家族も抱いたのだ。その規模は4桁違う。

 村山富市首相が「植民地支配と侵略」につきアジア諸国にお詫びを表明して以後、この謙虚で初々しい態度は、橋本竜太郎、小渕恵三、森喜朗、小泉純一郎、福田康夫、麻生太郎、鳩山由紀夫、菅直人、野田佳彦と9次の内閣に引き継がれたが、安倍晋三の8年8ヶ月にわたる内閣の間に、傲慢で、強面、厚化粧の態度に一変した。

 この変貌が、戦後最悪の日韓関係をもたらしており、安倍元首相の罪過は深い。

 安倍元首相は、「森友学園」問題で実直な公務員の死を招き、元統一教会との結びつきで凶行者を生んだ不徳の政治家だ。衆参両院でウソの証言を118回重ねながら、「信なくば立たず」と公言する二重人格者だ。

 このような不徳の政治家を国葬で遇すれば、現世代は恥を千載に残すだろう。

 安倍元首相国葬案を廃棄させよう。

 2020年5月「検察庁法改正案」は、ツイッター900万件の抗議で断念させた前例がある。

 故人の不慮の死は静かに悼めばよい。

2022年7月22日
福田玲三

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2022年7月23日 | カテゴリー : 未分類 | 投稿者 : 管理人