安倍晋三元首相は12月1日、台湾で開かれたシンポジウムに日本からオンライン参加し、緊張が高まる中台関係で、「台湾への武力侵攻は日本に対する重大な危険を引き起こす。台湾有事は日本の有事であり、日米同盟の有事でもある。この点の認識を習近平主席は断じて見誤るべきではない」と語った。(『朝日』11月2日)
これに対して中国外務省は「中国内政に粗暴に干渉するものであり、日本は歴史を反省し台湾独立勢力に誤ったシグナルを送ってはならない」と強く抗議した。
第2次世界大戦で日本が敗北し、1972年に田中角栄総理が中国を訪問して国交を回復した際の「日中共同声明」(1972年)の前文で、「日本側は、過去に日本国が戦争を通じて中国国民に重大な損害を与えたことについての責任を痛感し、深く反省する」と記し、その第3条には「台湾が中国の領土の不可分の一部であることを、日本は理解し、尊重する」旨、さらには「満州、台湾および澎湖島の如き日本国が清国人より盗取したる一切の地域を中華民国に返還する」旨が述べられている。
1978年に結ばれた「日中平和友好条約」でも、この「共同声明が両国間の平和友好関係の基礎となるべきものであること」が明記されている。
安倍元首相には、この責任も反省のかけらもない。
かつて、ナチスの官僚、ゲーリングは「民衆などというものは、いつでも支配者の思いどおりになる。……攻撃されるぞと恐怖をあおり、平和主義者の奴等には愛国心がなく、国を危険に晒していると非難しておけばいい。このやり方は、どこの国でもうまくいく」と述べた。
わが国の例でも、第2次安倍政権下で自民党は「敵基地攻撃能力の検討」を提言してきたが、さる10月に行われた衆院総選挙ではこの能力の「保有」を公約としてかかげ、攻撃されるぞと絶えず恐怖をあおっている。
この一連の動きの中における安倍元首相の台湾有事発言も、恐怖をあおって国民を脅し、ゆくゆくは「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こる」(憲法前文)ことにつながるものものであり、けっして許されるものではない。
私たちが願うのは不安ではなく安心、戦争ではなく平和だ。
福田玲三 (12月4日)