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目次 第38回例会・勉強会の報告 P1
第35回運営・編集委員会の報告 P2
別紙 1 政治現況報告 P3
別紙 2 事務局報告 P5
別紙 3 緊急警告018号 P6
別紙 4 自民党改憲草案がめざすもの P7
第38回例会・勉強会の報告
2月26日(日)、港区・三田いきいきプラザ集会室で開催 参加者7名、会員57名
司会を草野委員が担当し、まず政治現況報告(別紙1)を代読した。次いで事務局報告(別紙2)を福田委員が行った。
質疑に入り、「『政治現況報告』の日米首脳会談評価は良すぎるのではないか」、「数字には出ていないが米国に武器購入を約束しているはずだ」、「首相は防衛力強化を錦の御旗にしている。その危険性を表現して欲しかった」、「岡部さんの早期のご回復を願っている。トランプ新大統領の就任演説はすばらしかった。権力は国民のものだとか、問題の平和的解決などが力説された。戦争と貧困への不満がトランプを生んだ。だが、新大統領に480万人のも女性が反対デモをしている。今後を見守りたい」、「トランプの言う労働の創出と右傾化はヒトラーを思わせる」、「トランプには良いところもある。パレスチナ人民を無視したり、水責めの拷問を肯定したのは良くないが、メキシコとの国境に壁をつくり密入国を防ぐのは当然ではないか」、「トランプへの評価は揺れている。メディアの選別には反対だが、メディアにも信頼が置けない」、「国境に壁を作らなくても、就労ビザ監視を強化すれば密入国は防げるだろう。メキシコでの自動車製造を制限すれば、両国の経済格差はさらに広がるだろう」などの意見が交換された。
次いで緊急警告018号(別紙3)の検討に入り、「安倍首相が『新しい国造り』を強調している。このことへの警戒を加筆すべきだ」、「『新しい』の中身は復古だが、この言葉に多くのひとが騙されている、加筆は慎重に」などの意見があり、編集委員会で字句の調整することになった。
ほかにも憲法解釈で第24条「婚姻は両性の合意のみに基づいて成立」について、「これは日本社会の実情を反映していないのではないか」との提起があり、これに対しては、「両親や親族に対する配慮と、国民の権利とは、別次元の問題だろう」との見解が出された。
次いで、昨年末に国連総会で多数によって採択された「平和への権利宣言」の条文が紹介され、日本の実行委員会へ講師派遣を要請し、勉強会を開くこととした。
第35回 運営・編集委員会の報告
2017年2月28日(月)14時00分~16時15分 三田いきいきプラザで開催
出席者は大西、草野、福田。
1.運営・編集委員会分担について
・運営・編集委員長を草野委員が担当する。
2.第38回例会・勉強会の結果を受けて
1)緊急警告018号(「行政府の長」が国会に改憲論議促すは憲法違反!)への修正意見について
・例会で、「安倍首相の施政方針演説には『新しい国創り』との表現が強調されている。この『新しい国創り』とは何かを指摘する必要があるのでは」との提起がなされた。
・あらためて安倍首相の施政方針演説全文を検討してみると、確かに、「はじめに」のところで、「『戦後』の、その先の時代を拓くため、新しいスタートを切る時」、「新しい国創りに挑戦」、「共に、新しい国創りを進め」などの言葉が目立つ。意図するところは、現行憲法を改正し、自民党憲法改正草案に示された「新しい国創り」をめざす、ということなのであろう。
・発言の内容は大きな問題を含んでいるが、これらの言葉が「はじめに」のところでなされていて、直接に憲法改正をめざすとは言っておらず、「憲法改正」については演説の締めくくりのところで触れている。
・緊急警告018号は、「行政府の長」が国権の最高機関たる国会において改憲議論促進を提起することの越権性と違憲性を指摘することが目的ゆえ、改正の内容には踏み込んでいない。
・よって運営・編集委員会としては、冒頭の「新しい国創り」が直接憲法改正に触れていないこと、緊急警告が越権性と違憲性を指摘することが主目的であることから、ここではあえて取り上げない方がよいのではないかと判断する。
2)長坂氏提起問題について(トランプ米大統領イスラム圏7カ国「入国禁止」大統領令と連邦地裁・高裁「差し止め」判決)
・「7・1閣議決定」違憲訴訟を準備している長坂氏は、上記連邦地裁・高裁判決の意義について触れ、「抽象的違憲訴訟は不可(アメリカ型)と聞いてきたが、当のアメリカで、大統領令そのもの(具体的争訟、国民の被害ではない)を「違憲」とし、その執行停止を司法が決定した。ということは、「アメリカ型」を金科玉条として、数々の違憲審査権の行使を回避、放棄してきた日本の戦後の裁判(の判例)は根本的に間違っていることになる」と指摘した。このアメリカの裁判例は、日本の法曹界にも影響を与えるものとして注目していきたい。
・長坂氏はまた、最高裁砂川判決(1959年12月・裁判長は田中耕太郎)が「統治行為論」によって案件を違憲審査の対象外とした、その際の少数意見(小西、奥野、高橋、石坂裁判官)に注目をうながした。4裁判官による少数意見の概略は次の通りである。
「高度の政治性などの理由だけでは、『法の支配』を根本理念とする新憲法が、裁判所の本質に内在する固有の権能と認めて特に裁判所に付与した違憲審査権を否定する理由にはならない。多数意見のごとく、国の存立の基礎に重大な関係がある高度政治性の国家行為に対し違憲審査権を否定することは、国の重大事項と憲法との関係において憲法を軽視するものと言わざるをえない。また国会や政府の行為によって憲法が侵犯されることのないように配慮した憲法の精神に沿わないのみならず、憲法76条、99条により特に憲法擁護の義務を課せられた裁判官の職責を全うするゆえんでもない。本件安保条約についても、その国内法的効力が憲法9条その他の条章に反するか否かは、司法裁判所として純法律的に審査することが可能であり、特にいわゆる統治行為論として裁判所がその審査を回避すべき特段の理由はない」
この少数意見こそ真の憲法解釈であり、田中耕太郎裁判長の罪は重大だと言わざるをえない。
3)勉強会 国連「平和への権利宣言」について
・上記テーマについて講師を呼んでの勉強会を開催することを例会で決めた。
・「平和への権利国際キャンペーン・日本実行委員会」の事務局に問い合わせ、講師派遣を依頼する。具体的には福田委員が笹本弁護士事務所を訪ね、依頼する(笹本潤弁護士は日本実行委員会の事務局長)。その際、予算の関係上、薄謝のみとなることを伝える。
・講演が可能となったら、その日の例会には多くの参加者を募る。
3.「文集」掲載予定草野論文について
・「文集」掲載予定の草野論文「自民党憲法改正草案がめざすもの」(別紙4)について検討。
・一部追加修正をする方向で文案を練ることとした。
4.違憲「緊急警告」のテーマについて
・今後も違憲性に対する「緊急警告」を発信していくために、対象となるテーマを検討。
・共謀罪、マイナンバー制度、地方自治蹂躙(沖縄)、交付金などがあがった。
5.当面の日程について
1)第39回例会 3月26日(日)13:30~ 三田いきいきプラザ
当日、勉強会 「国連:平和への権利宣言」について
講師:飯島滋明(名古屋学院大学)
2)第36回運営・編集委員会 3月29日(水)14:00~ 三田いきいきプラザ
3)第40回例会 4月23日(日)13:30~ 三田いきいきプラザ
4)第37回運営・編集委員会 4月26日(水)14:00~ 三田いきいきプラザ
<別紙1>
政治現況報告
岡部太郎共同代表 2017.2.26
トランプ・安倍 初首脳会談
安倍首相は2月10日、ワシントンでトランプ米大統領と初会談を行った。トランプにとって英国のメイ首相に次いで、政権発足後二人目の首脳会談で、安倍首相と日本を優遇した形の会談となった。ワシントンでの正式会談では、日米同盟の強化で一致。米国が安保条約第5条で日本と尖閣諸島を引き続き守る決意を示し、心配された経済問題では、日米2国間貿易のワク組みを含め、麻生副総理とペンス米副大統領をトップとする新しい対話の場を作った。日本側はトランプが広言していた在日米軍の撤退や駐留経費の負担増、自動車輸入の公平、円安誘導などを米側が会談で持ち出さず、むしろ日本が米軍を受け入れていることに感謝さえしていてホッと胸をなでおろした。しかし、これは安倍首相お得意の問題解決の先への引き延ばしにトランプが乗っただけで、本質的な解決にはなっておらず、むしろ米側は今後、あらゆる場面で日本に注文することが予想される。
確かにトランプは共同声明のあとも、安倍夫妻をマイアミの別荘に招待、ゴルフを27ホールやったり、夕食を二日にわたって共にするなど、最大級の歓待をした。しかし、これは商売人の常で、歓待は何も持ち出さず、政治・外交でのマイナスはない。
冷静に見れば、米側は今、何も懸案のない日本の首相を招いて、政権発足後、足元の全く固まっていない時期だけに、時間稼ぎと味方を増やすことにウエイトを置いたことがわかる。
トランプ政権発足以来、大統領令を次々と発表。特にイラン・シリアなど中東7ヵ国の難民などの入国をストップしたことは、ワシントン連邦地裁がすぐに効力停止を決定、さらに連邦9控訴裁が、その停止を支持したことは、政権にとって痛いことだった。これは米世論を二分しているだけでなく、EUの中心であるドイツ、フランスなどヨーロッパ全体にも反対が強い。いわば四面楚歌の中で、安倍首相だけが反対せず、2国間貿易でもすり寄るなどトランプを支持していた。
さらに云えば南太平洋でもメキシコ、オーストラリアと喧嘩別れだ。世界の中では北太平洋の日本とカナダがトランプと協調している。最初、中国に対して台湾を認め、二つの中国を主張していたトランプが習主席との初の電話会談で、掌を返すように“一つの中国”を認めたのは、やはり一個所ぐらいは安全・安定の場所が欲しかったからだろう。それはマティス国防相が来日した時から、すけて見えたものだが、日本はラッキーな立場にいた。
そんな中で11日のゴルフが終わったところへ北朝鮮が、日米会談を狙ったように、日本海に新型の弾道ミサイルを発射した。夕食中だった安倍首相は直ちに記者会見をして非難しようとしたが、同席していたトランプも「オレも出る」といい、タイミングよく日米両首脳の会見になった。北朝鮮を非難する安倍首相に次いで、トランプも「アメリカは100%日本を支持する」と口をそえ、日米一体を視覚で世界に示した。くしくも、このシーンが今回の訪米で最大のハイライトになった。金正恩にとって、これは思わぬマイナスの判断材料になった。北朝鮮ではこのあと15日にクアラルンプルで正恩の異母兄が毒物で暗殺された。正恩の指示は確実で、金王国にもかげりがしのび寄っている。
トランプ政権はこのあとも騒ぎは収まらず、最側近で安全保障関係の柱であるフリン大統領補佐官が、就任前にロシア駐米大使と対ロ制裁で協議、辞任に追い込まれた。またイスラエルの首相との会談で、世界の趨勢であるパレスチナとイスラエルの“二国両立”の世界世論を「一国だけでも良い」と発言。これもアラブだけでなく、世界的議論と混乱を招くこと確実だ。
このようにトランプは政権発足3週間で、まだ政策も固まらぬうちに数々の問題を抱え、米共和党の中には「1年もたない」との声もあると云う。安倍首相も相手のふところに飛び込んだのはよいが、共倒れにならぬよう、気を引き締めねばなるまい。
そのほか稲田防衛相の南スーダン“戦闘”問題、小池・石原都知事の豊洲市場汚染問題は次へ回す。
<別紙2>
事務局報告
福田玲三(事務局)2017.2.26
1)来信
・珍道世直氏より
ニュース38号お届けいただき有難うございました。
岡部共同代表様がご退院されたとの御事、何よりと存じます大切なご使命を、お体をかばいながらお取組み賜れれば嬉しく存じます。
事務局報告の中で、私の「違憲訴訟」について、多くの紙面をお取りいただきまた、「不屈の闘いを支持する」とのお言葉をいただき、恐縮に存じますと共に御礼申し上げます。何とか裁判所が違憲審査に入るよう、強く願っております。
完全護憲の会の運営に大変ご苦労なことと存じますが、どうか継続した活動が出来ますよう、お元気でお取組みくださいませ。
・会員、T.W. 氏(神奈川県)より
このところ、欠席が続きまして申し訳ありません。仕事が忙しかったこと、正直な所、町田と田町はそれなりに遠いこと、地元での活動に参加するようになったこと、参議院議員選挙が終わったこと等の理由により、欠席をしております。
完全護憲の会ニュースは、毎回拝読させていただいています。今は、衆議院東京23区の民進党の候補者(浪人中)の後援会活動を中心に、市民連合にも参加しております。
貴会の地道ですが、論理明快で分かりやすい理論構成を全面的に支持・信頼することにかわりはありません。アベの改憲のデタラメさ、アベクロコンビのとめどない量的緩和政策(いずれ必ず大インフレを起こし、国民に付けを回すことになるでしょう)に加えて、トランプという大かく乱要因が生起し、まことに将来が危ういと思います。
私は全面的に「完全護憲の会」の憲法理論の賛同者です。町田の知人にも貴会の紹介もしております。会合に参加できることもあると思いますが、その時はよろしくお願い申しあげます。
2)「平和への権利宣言」
「『平和への権利宣言』が国連総会で採択された。… 日本の非政府組織(NGO)も深く関与し、日本国憲法の理念も反映された。NGOは宣言を具体化する国際条約をつくるよう各国に働きかけていく。」(『東京新聞』2月19日朝刊)この宣言は、昨年12月19日の国連総会で131ヵ国の賛成、34ヵ国が反対(棄権9ヵ国)で採択された。日本は反対、中国、ロシアの賛成が注目される。日本の実行委員会(050-3395-8735)は「条約化を目指す。これからが本番」と呼びかけている。
3)ハフィントン・ポスト紙より取材申し入れ
プレスセンターに事務所を置くフォーリン・プレスセンター(FPCJ)の招聘で来日したハフィントン・ポスト紙(ニューヨークに本社を置くインターネット新聞)ジェシカ・シュールバーグ記者の取材を受けた。日本の元兵士の安保法制を巡る問題で意見を聞きたいということだった。2月22日17:30~18:45にプレスセンター9Fラウンジで福田が取材を受け、加藤委員が同席して要所を補った。
質問は①兵歴について、②完全護憲の会の趣旨について、③安保法制についての見解、④記者の感想が間違っているかもしれないがと前置きして、「この一両日の取材で、日本の元官僚や経済界は日本の若者たちが軍国化に反対していない、と考えているようだが、どうか」。
④については、大半の若者は社会問題に無関心で体制に順応しているが、学生たちの間に今の国の進路に反対する強力な運動があり、二極化していると答えた。
シュールバーグ記者は小柄な若い女性で、目は灰色がかった緑、ルーツはドイツとハンガリーで、専門は中東問題ということだった。「記事になったら報告する」との追信があった。
4)集会の案内
①ビザ発給拒否集会妨害の第4回裁判
3月2日(木)14:00 東京地裁415号法廷
中国人戦争被害者への「ビザ発給拒否」で、戦争法廃止を求める「集会の自由」を侵害した安倍政権の責任を追及する
連絡先:村山談話継承発展の会
②市民と野党をつなぐ会@東京
3月13日(月)17:00開会 衆議院第一議員会館大会議室
東京衆議院25小選挙区、市民と野党が大集合!
主催:市民と野党をつなぐ会@東京
③重慶大爆撃裁判 控訴審 第2回
3月17日(金)14:00~ 東京高裁101号法廷
④第4回平和学習会 「ガンジーと非暴力主義」
3月18日(土)18:30~20:45 東京ボランティアセンター会議室C
(飯田橋駅隣 セントラルプラザ10階)
⑤週刊金曜日 東京南部読書会
3月24日(金)18:30~20:30 大田区生活センター(蒲田駅徒歩3分)
<別紙3>
緊急警告018号 「行政府の長」が国会に改憲論議促すは憲法違反!
第193通常国会が1月20日開かれた。安倍首相は衆参両院で施政方針演説を行ったが、この中で、「憲法施行70周年の節目に当たり、私たちの子や孫、未来を生きる世代のため、次なる70年に向かって、日本をどのような国にしていくのか。その案を国民に提示するため、憲法審査会で具体的な議論を深めようではありませんか」と述べたのである。
「行政府の長」が、国権の最高機関たる国会において、国会議員に向かって現憲法の「改正」を促す演説を行ったのである。
「行政府の長」がなすべきことは、ひたすら憲法に則り、国政を執行するべきものである。憲法第99条が「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」と定めるように、「国務大臣」の長たる首相には、憲法の尊重・擁護義務があるからである。
安倍首相の施政方針演説における「改憲」促進発言は、明白な憲法違反と言わなければならない。
しかしながら、この安倍首相の施政方針演説を、憲法違反と指摘する国会議員も野党もいないのである。マスコミの報道もこれを当然のごとく報じている。これは何んとしたことであろうか。
ここには、明治帝国憲法下に培われた、元首である天皇の下で行政府が国権の最高機関であるとの認識が根付いているとしか言いようがない現実がある。
憲法第41条が「国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である。」としているように、三権分立の頂点にあるのが国会であって、その下に内閣と司法があるのである。
それゆえ、安倍首相の施政方針演説における「改憲」促進発言は、「行政府」としての立場をわきまえない国会に対する越権行為であり、憲法第99条の憲法「尊重・擁護」義務違反であると言わなければならない。
<別紙4>
自民党改憲草案がめざすもの
戦前「日本を取り戻す!」/ 国民主権から国家主権へ
主語の逆転が示す主権の逆転
安倍自民党政権はこの国を一体どんな国にしたいのであろうか。どんな国民をつくりたいのであろうか。
自民党の「日本国憲法改正草案」は明確にこの国と国民のありようを定めている。一言でいうなら、国民主権から国家主権の国にすることであり、国民はこの国家につき従うべきというものである。
「草案」の前文の出だしはこうである。
「日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家であって、国民主権の下、立法、行政及び司法の三権分立に基づいて統治される。」
これに対して、現日本国憲法前文の出だしは、次の文章である。
「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。」
見てのとおり、「草案」の主語は「日本国」であり、現憲法の主語は「国民」である。
「草案」が「国民主権」、「三権分立」の文言を残していたとしても、それはもはや本来の意味での国民主権ではなく、国家に従属した「国民主権」でしかない。そのことは「草案」全体が示しているが、とりわけ明瞭に示すのが現憲法第12条に付け加えられた、「国民の責務」の新設である。
「草案」の第12条は、「この憲法が保障する自由及び権利は……国民は、これを乱用してはならず、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない。」(傍点引用者)と言う。
さらに「草案」第13条は、「全て国民は、人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない。」(傍点引用者)と述べる。(現行憲法第13条が、「全て国民は、個人として尊重される」とし、「人」一般ではなく、「個人」としていることの重要性は留意しなければならない。)
ここに言う「公益及び公の秩序」とは、現憲法13条の「公共の福祉」を置き換えたものであるが、同じ公の字を使ってはいるが、全く意味の異なるものである。「公共の福祉」とは各人の自由や権利が、他の多くの人々の自由や権利と衝突した場合にこれを調整し、より多くの人々の自由や権利を優先しつつ共存を図っていこうとするものであるのに対して、「草案」の「公益及び公の秩序」は「国益及び国家の秩序」を意味しているからである。
「公益及び公の秩序」の内実を決めるのは誰か、それは国家権力であり、その一部である時の行政権力にあることは自明であろう。
こうして国民は、国家の許容する範囲で基本的人権が保障される、言い換えれば基本的人権が制約された「主権者」に降格させられるのである。国家権力によって基本的人権を制約された国民はもはや主権者とは言えないのであり、「国民主権」は名ばかりとなり「国家主権」に取って代わられるのである。
その意味で自民党改憲「草案」は近代民主主義と立憲主義とは相いれない敵対物なのであり、憲法の構造としては、天皇に主権(即ち国家に主権)のあった明治帝国憲法と同質のものと言える。「草案」第1条が天皇を日本国の「元首」と規定していることも見事に一致している。
まさに戦前「日本を取り戻す」、ということである。
際立つ基本的人権の制約
自民党改憲「草案」の際立つ特色は、現憲法が国民に保障している基本的人権を敵視しこれに制限を課していることである。
それは前述した「草案」第12条、13条に明確に示されているが、第21条「表現の自由」においても、「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は保障する。」としながら、その2項において「前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社することは、認められない。」(傍点引用者)とする、1項の規定を完全に否定する恐るべきものである。
さらに、「勤労者の団結権等」の第28条において、「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、保障する。」として、現行憲法第27条を踏襲していながら、その2項において「公務員については、全体の奉仕者であることに鑑み、法律の定めるところにより、前項に規定する権利の全部又は一部を制限することができる。この場合においては、公務員の勤労条件を改善するため、必要な措置が講じられなければならない。」として、現行憲法のもとでは憲法違反となる国家公務員法、地方公務員法及び人事院規則におけるスト権はく奪や政治活動の禁止規定を、憲法において正当化するものである。
そして極めつけは、現行憲法が第10章「最高法規」として定めた第97条、98条、99条中、「草案」は第97条をまるごと削除しているのである。削除された第97条の文章を以下に示す。
「この憲法が国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試練に堪へ、現在および将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。」
現憲法があえて「最高法規」規定の中にこの97条の文章をおいたのは、いかに基本的人権が侵すことのできない一番大切な権利であるかということを強調し、現憲法がこれをまるごと体現したものであることを宣言したものと言える。
基本的人権を国家権力の制約下に置こうとする自民党改憲「草案」は、敵意を込めてこれを全文削除したのである。
さらに、現憲法第99条「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」に対応した「草案」第102条は「全て国民は、この憲法を尊重しなければならない。」とし、その2項において「国会議員、国務大臣、裁判官、その他の公務員はこの憲法を擁護する義務を負う。」とする。
ここには驚くべき逆転がある。現憲法99条がこの憲法の尊重擁護義務を課しているのは、すべて国家権力側に立つ者に対してのみなのに対して、「草案」102条は「天皇」を除外した上で、国民に対してこの憲法を尊重する義務を課しているのである。
憲法は「国家権力をしばるもの」とする立憲主義とは反対に、「草案」は憲法が「国民をしばる」ものとしているのである。まさに立憲主義とは正反対の「国家主義憲法」そのものである。国民主権と基本的人権不可侵を定めた現行「民主主義憲法」は、この「国家主義憲法」に取って代えられようとしているのである。
そしてさらなる極めつけは、「草案」に新たに設けられた第9章「緊急事態」条項である。
「緊急事態条項」の恐るべき危険性
「大規模な自然災害」に対処することを名目として、内閣に絶大な権限を与えるこの「緊急事態」条項の恐るべき危険性については、当会のリーフレット第1集「安倍政権下の違憲に対する緊急警告」において、「『ナチスの手口』、緊急事態条項の危険性」において詳しく解説している。
「大規模な自然災害」などへの緊急対応は現行法で十分対応可能であることは、東日本大震災の被害にあった地方自治体関係者や防災専門家が明確に指摘していることである。「大規模な自然災害」は国民を欺く口実である。
「草案」第98条が「内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる。」としていることからも、「大規模な自然災害」が口実として使われていることは明らかでする。
そして「草案」第99条は、「緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。」とし、3項において「緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示にしたがわなければならない。この場合においても、第14条、第18条、第19条、第21条その他の基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。」としている。
唯一の立法機関にして国権の最高機関である国会の議決を経ずして「法律と同等の効力を有する政令」を内閣の判断一つで制定できるとなれば、後段の「基本的人権に関する規定は、最大限に尊重されなければならない。」が単なる付け足しでしかないのは自明である。
まさにこの「緊急事態条項」はナチスが全権を掌握した「国家授権法」(「全権委任法」)そのものであり、民主主義と基本的人権を圧殺する独裁政治を招くものと言わなければならない。
再び戦争をする国へ、9条改憲
現日本国憲法の3大原理である「国民主権」「基本的人権不可侵」「平和主義」のいずれもが、自民党改憲草案において否定されている。とりわけ、「平和主義」の放棄と言えるのが現行憲法第9条「戦争放棄」の改変である。
「草案」ではまず、現行憲法第二章「戦争放棄」が「安全保障」の文言に変えられている。そして現行憲法第9条2項「前項の目的を達成するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」をまるごと削除し、「草案」第9条2項は「前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。」としている。
過去の戦争が多くの場合、「自衛」と「平和」の名のもとに行われてきたこと、そして先の日本帝国が行った戦争も「自衛」の名のもとに行われた教訓を踏まえれば、「自衛権」や「自衛権の発動」については「戦争への道」へとつながっていると言わなければならない。増して「草案」は、現憲法前文にあった「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意」するという文言を消し去った上、前述した9条2項をまるごと削除した上で「自衛権の発動を妨げるものではない」と言うのである。
「草案」が九条の二において「我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。」として、「国防軍」を規定していることは、「自衛」を名目としていながら「自衛隊」とは異なる「軍隊」を設けるということであり、再び「政府の行為」によって「戦争の惨禍」がもたらされる可能性が強まるということである。
すでに先の安保関連法制の強行可決により、自衛権の発動としての「専守防衛」は破られ、「自衛」や「国際貢献」を名目として海外への自衛隊派遣が先行している状況にある中、「草案」の第九条の二の3項は「国防軍は、第一項に規定する任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。」としている。
これは「国防軍」が世界のどこにでも出てゆくという宣言であり、もはや「自衛」を名目とした「専守防衛」を投げ捨てる、ということである。さらにこれは、「国防軍」が「公の秩序」の維持を名目に、自国民に対して出動することを公言しており、決して見過ごすことはできない。
第1次安倍政権、第2次安倍政権が推し進めてきた自由と人権の抑圧、戦争準備の悪法の代表例を列挙して見る。
教育基本法改悪(2006年)、盗聴法改悪(2016年)、特定秘密保護法制定(2013年)、安保関連法制定(2015年)である。そして今、戦前の治安維持法の再来とも言われる「共謀罪」制定へと突き進んでいる。国民を「見ざる、聞かざる、言わざる」という状況に追い込んでいる。
この一連の流れはすべて新たな戦争遂行の準備作業と言えるであろう。
過去の歴史の教訓を踏まえれば、いま、私たちのこの国は再び戦争をする国へと少しずつ接近していると言わなければならない。
誰も戦争なんか望まないし、まして日本国民はそんなことを望んでいないのだから戦争なんて起こりっこない、と楽観している人も多いであろう。
しかしながら、この人間の世界では、自己の既得権益を守るために適度な戦争(一旦戦争が起こったら適度で済んだためしはないが)を必要とし、望む者が現にいるのである。そしてこの者どもは、始末の悪いことに国家権力の中枢を握り動かすことができるのである。一般国民の意思など問題外なのである。
わかりやすい例が原発問題である。国民の過半数が脱原発を望み、原発の再稼働に反対しているにもかかわらず、何故に安倍政権は原発を推進し外国にまで売り込むのか。「美しい国」日本を掲げる安倍政権の所業としては理解に苦しむが、これが現実である。
以上見てきたように、自民党憲法改正草案は、現行憲法前文が「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであって、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基づくものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。」として排除の対象とした、もはや「改正草案」とは言えないまったく別の「憲法」そのものなのでる。
自由も人権も抑圧され、戦争の惨禍に苦しめられ、女性の参政権すらなかった明治帝国憲法下のような暮らしに陥らないよう、私たち一人ひとりが自覚すべき時である。
自民党と右翼保守派改憲勢力は、来年2018年を明治150年として祝賀行事を行うとのことである。