完全護憲の会ニュース No.32 2016年8月10日

                  <例会参加の方は本ニュ―スご持参のこと>

      連絡先 〒140-0015 東京都品川区西大井4-21-10-312 完全護憲の会
                電話:FAX 03-3772-5095
                Eメール:kanzengoken@gmail.com
                ホームページ:https://kanzengoken.com/
            
        目次 ① 第31回例会の報告 1p
           ② 第28回 編集委員会の報告(略) 1p
           ③ 当面の日程について 3p
        別紙 1 政治現況報告 3p
        別紙 2 事務局報告 4p
        別紙 3 安保法制について(講演)  6p

           第31回 例会の報告

 7月24日(日)、港区・三田いきいきプラザ集会室で第31回例会を開催、参加者15名。入会者 計59名。
 司会を草野編集委員長が担当し、まず、政治現況報告(別紙1)を岡部共同代表が行い、ついで事務局報告(別紙2)を福田共同代表が行った。
 これらについて以下の意見が出された。
 「若者を自公に取られている。衆参同日選に備え、野党4党提携を崩すな」
 「7月3日のNHK討論会で民進党枝野幹事長は、これまで憲法三原則を守る範囲で微修正を考えていたが、自民党がこの三原則を破壊する改憲を公約としている以上、わが党は微修正を棚上げして現憲法維持を主張すると述べた。これを歓迎したい」
 「若者が『今のままでいいじゃないか』というのに驚く。改憲反対、何でも反対を嫌う。実際は変わっているのに。今後の闘い方を考えることが必要」
 「民主主義は教わったが、日本の若者には議論の習慣がない。これが問題だ」
 「大学を訪ねても、立て看板がなく、座り込みも、アピールもなくなった。どこにも問題はないという。おかしな風潮だ」
 「子連れのママに聞いても改憲草案の内容を知っている人は少ない、緊急警告の形式だけでなく、自民党改憲案の要点をピックアップして知らせれば、読むと思う」
 「改憲は危険、だけでは受け身だ。憲法を擁護して平和を維持する方策を示すべきだ」

 ついで勉強会として結城祐弁護士が「安保法制について」(別紙3)について講演、約1時間にわたり、安保二法と呼ばれるものの多様な内容が詳しく説明された。
 これについては以下のような意見があった。
 「新三要件の下で武力行使(集団的自衛権)が可能にされたが、戦争に発展する可能性がある」「存立危機事態下で求められる国民の協力は、人権の制約や財産供出を招く恐れがある」「憲法9条は武力による威嚇や武力の行使を禁じているが日米韓合同軍事演習は威嚇ではないのか」「新三要件で他国にたいする武力行使の言葉が平気で使われているのは許せない」
 その他に、「市民にとって正当防衛は認められており、国にとっても個別自衛権までは認めてよい」との意見にたいして、「日本にとって国策としての自衛権は認められない」との意見があった。

        当面の日程について
       
  ① 第32回例会 8月28日(日)13:30~16:30
    場所 港区・三田いきいきプラザ・「憲法研究会」(田町)
       〒108-0014 港区芝4-1-17 電話03-3452-9421
JR 山手線・京浜東北線、田町駅西口から徒歩8分
   地下鉄 三田線・浅草線 三田駅 A9 出口から徒歩1分
    報告 1)政治の現況について 岡部太郎(元『東京新聞』政治部長)
       2)事務局報告 福田玲三 (事務局担当)
    勉強会 第9条について
    会場費ほか 300円
  
  ② 第29回編集委員会 8月31日(水)14:00~ 大阪大学東京オフィス
  ③ 第33回例会 9月25日(日)13:30~ 三田いきいきプラザ(田町)
  ④ 第30回編集委員会 9月28日(水)14:00~ 大阪大学東京オフィス
  ⑤ 第34回例会 10月23日(日)13:30~ 三田いきいきプラザ(田町)
  ⑥ 第31回編集委員会 10月26日(水)14:00~神明いきいきプラザ(田町)

<別紙 1>
           政治現況報告   2016年7月24日

                岡部太郎共同代表(「東京新聞」元政治部長)

 注目されていた第24回参議院選挙が7月10日に行なわれた。投票結果は自民56(非改選65、合計121議席)公明14(11、25議席)で与党は公示前より自民+6、公明+5と11議席を増やし悠々と過半数。逆に4党選挙協力の野党は、民進32、非改選17合計49議席(-11)、共産6,非改選5(+3)、社民1,非改選1(-1)、生活1,非改選1(-1)とトータルで10議席を減らし、自民党の圧勝に終わった。そればかりか、象徴的だったのは無所属で当選した平野達雄氏(元民主党、復興相)が即日自民党に入党したため、自民は合計122議席となり、27年ぶりに参院で単独過半数に。さらに野党でありながら憲法改正を是とするおおさか維新の会の当選7、非改選5,合計12、さらに改憲の、日本の心を大切にする党の3議席(当選者ゼロ、非改選のみ)、改革の党の1議席(非改選のみ)を加えると、参院総数242議席のうち、改憲に必要な三分の二議席162に達する結果となった。
 このような自民党の勝利の理由は、改憲や安保二法制、原発などに全く触れず、アベノミクスの効用と経済問題に争点をしぼり、自公政権の政局安定を訴えたことによる。さらに比例区(全国区)で、小泉時代に続く2010万票で18人の当選。また天王山といわれた32の選挙区一人区の与野党対決で自公が21対11で野党共闘に勝ったことなどがある。
 しかし、細かくみると得票率は過半数をわずかに上回る54・70%。先進民主国というには余りにも低い。それに一人区の野党共闘も東北地方では青森・秋田・岩手・宮城・福島などで自公を抑え込んだ。3年前は自公29、野党2だったから善戦といえる。また岩城法相(福島)、島尻北方担当相(沖縄)の二現職閣僚も落選した。
 安倍首相はこの勝利をもとに、秋の臨時国会で党・内閣人事を断行、憲法審査会で改憲の議論に着手すると言明した。しかし公明党の山口代表は「まだ国民の議論は進んでいないし、まあ一年以上議論した上でどうなるか」と慎重し、公明党へのアンケートでも“安倍政権で改憲”賛成はゼロだった。また改憲賛成のおおさか維新の会も九条改定には反対。安倍内閣での改憲にも慎重だ。すぐに改憲の動きとはならないようだ。
 結局、最初の改憲論議は緊急事態条項からになりそう。もちろん第二の安保法制として論議になるだろう。
今回の参院選の特色のもう一つは、選挙年齢18歳への引下げによる240万票の行方。まず得票率は18歳は選挙区60・53%(全国平均51・17%)を10%程度上回った。男58・18%、女62・71%と女性が高い。19歳は平均41・44%(男性33.9%、女性50・00%)とかなり低かった。18歳が高校などで選挙の授業があったのに対し、19歳は大学入学の解放感と浪人生、それに社会人一年生の忙しさか。18歳に関して云えば①神奈川64・58%②京都62・40%③群馬62・07%④東京60・53%⑤埼玉59・54%――と関東地区が高く、最低は香川の29・82%。
 その投票先は自民40%、公明10%と半数の5割。民共は25%と半分。無党派の票は民進19%、自民19%、共産13%、おおさか維新11%。20代は自民43%で世代別トップ。若者の支持によって自民は勝ったともいえるが、保守化は否めない。
 選挙中に桝添東京都知事の公費使用が問題となり、桝添氏の対応のまずさから2年4ヵ月で辞任。参院選後の14日に都知事選が告示となり、31日に選挙となる。小池百合子氏が立候補したあと、自民は元岩手県知事の増田寛也氏を擁立、野党は元民放キャスターの高越俊太郎氏に一本化。三つ巴戦に。自民は分裂選挙だけに鳥越氏有利か。ただ健康問題はある。他に平成天皇の退位問題も。

<別紙 2>
             事務局報告

                  福田玲三(事務局) 2016.7.24
                            
1) 財務状況について
  本年1月から7月現在までの財務状況の概括を報告します。

  収入 繰越金 28万円
       振替入金(パンフ・リーフ代金、カンパ、入会金など)   22
       現金(同上)  5
                           計 55

  支出   通信・事務費(ニュースの印刷と郵送)1~7月  13
       リーフ (白表紙) 2000部 印刷代  6
       リーフ (色表紙) 4000部 印刷代  12
       記者会見会場費 2
       通信・事務費(パンフ・リーフの郵送、振替用紙印刷など)  5
                           計 38

  残金   預金 10
       振替残 7
                           計 17

2) 全国の書店、喫茶室(善意)へのパンフ・リーフ配備依頼、反応未着

3) 緊急警告案文の起草(有志への要請)、進行中

4) ① ニュース31号への返信(龍平四郎氏)
 リーフレット読ませていただいていますが疲れます。内容が豊富なのでプロ向きでしょうが、護憲の裾野を広げるツールには向かないと思います。いみじくも、添付された「オドロキの発見」の形式が若い人の眼に止まります。「驚きの発見」ではなく「オドロキの発見」このキャラクターからも理解できると思います。文字離れの出ている現象の時代です。工夫のある冊子で多くの人々に読んでいただければと願っております。決して苦言として取り扱っていただかないようにお願いします。みなさまの、ご苦労は非常にたいへんなものと思っております。そのことへの感謝はしております。
  ② 同(珍道世直氏)
 (前略)改憲勢力が、衆参両院で、三分の二を占め、危機感もっています。私は、「安保法制は違憲であり、皆さんお一人お一人のお力で、市民の力で廃止させましょう」とJR津駅前で、毎週月水金Pm5:30~6:30訴えています。5月中旬から28回立ちました。7月21日の違憲訴訟判決日まで続けるつもりです。判決の結果は、ご報告いたします。

5)珍道世直氏からの来信
 いつも大切な使命を果され、心から敬意を表します。
 私の提訴した違憲訴訟に係る判決が、昨日21日、午前9時50分から行われました。たった20秒程度の言渡しでした。事前に書面で、判決の言渡しに当っては多くの傍聴者の方にもお分かりいただけるよう「裁判所の判断」の部分について、その要旨を口頭で言渡されるよう、申入れをいたしておりましたが、全く聴きいれられず残念でした。20秒程度の言渡しで、閉廷の言葉もありませんでした。
 裁判所は、もっと市民に向って対応をしていただくべきだと考えています。
 判決の内容は、国の答弁通り(閣議決定、安保法制が国民に全く影響を与えていないとの認識の上での答弁)でした。東京地裁の判決内容と、ポイントはほぼ同じでした。控訴いたしたいと考えております。判決文を、ご参考までに、添付でお届けいたします。
 どうか今後ともお見守りください。
                            
6) 知事選主要3候補の憲法観について
 小池百合子氏 「自民党で議論されている流れでよい」
 増田 寛也氏 「今の憲法の精神いかす。変えるなら十分に議論する必要がある」
 鳥越俊太郎氏 「安倍政権は戦後最悪の内閣。参院選とは違う結果を出したい」
以上、小池氏は自民党の改憲案に同調、増田氏は自民党の改憲に抵抗しているものの消極的、鳥越氏は改憲阻止で共闘した野党4党と同調。したがって都内の有権者にはもちろん、全国の会員、支援者、有志に鳥越候補当選のための応援を緊急に発信したい。節操のないジャーナリズムに屈してはならない。

7) 「7・1閣議決定」違憲訴訟 第9回勉強・相談会 7月28日(木)13:30~16:30 港区神明いきいきプラザ。

8) 当会リーフレット発行を機に、発行物の交換をしていただいた相沢緑さん(市川市)から以下のビデオが送られてきた。――希望者には転送します。
 ① 3分半でわかる!くらべてみよう現憲法と改憲。憲法前文以下、主要10条項を比較した、易しいカットいりの動画。必見。アクセス36,175回
 ② 安倍普三の憲法改正論。反面教師として必見。23分。27,767回
 ③ 日本国憲法誕生 全編。NHKスペシャル。在野の(日本)憲法研究会案を取り入れた現憲法の成立史として必見。73分。26,058回
 ④ ほか数点
 
<別紙 3> 講演

           安保法制について       2016年7月24日

                          結城 祐 弁護士

第1 自己紹介
・2014年12月弁護士登録(67期)弁護士になって1年半
・池袋西口の城北法律事務所所属 現在25名
 豊島区,練馬区,板橋区,北区等池袋周辺の地域の方々の人権(生活,労働等)を守る活動と共に,池袋の地から「平和」を発信し続けている。
 弁護士自身,あるいは学者,政治家等をお招きしての自主講演会の企画のほか,駅前での街頭宣伝,選挙前の電話掛け等地道な活動も継続している。また,先輩方が築き上げてきた地域の民主団体との関係を保ち,学習会にお招きいただき,平和,労働又は生活に関する講演を継続している。
 最近は「明日の自由を守る若手弁護士の会」(あすわか)に所属する弁護士が増え,上記のような講演会のほかに,市民の方々が集うカフェでの「憲法カフェ」を開催して,憲法が生活に直結しているのだと身近に感じてもらうと共に,改憲の危険性等について広める活動をしている。
・私の主な活動履歴
弁護団 浪江町支援弁護団(原発被災者),HPVワクチン薬害訴訟弁護団,特定整備路線補助26号線事業認可取消訴訟弁    護団(ハッピーロード大山商店街),ブラック企業被害対策弁護団,ホワイト弁護団
その他 NBfes(辺野古新基地建設に反対する若手有志の会)
    自衛隊をウォッチする市民の会,ビギナーズ・ネット
    明日の自由を守る若手弁護士の会,日本平和委員会常任理事
・ご質問,学習会のご依頼等は下記のアドレス,電話番号まで
 t.yuuki@jyohoku-law.com 03(3988)4866(代)

第2 今回の構成
 戦後日本における自衛権のあり方の推移を確認した後(第3),安保関連法について検討(第4)

第3 戦後日本における自衛権のあり方の推移
1 おさらいとして憲法9条を読む。
 憲法第9条〔戦争の放棄,戦力と交戦権の否認〕
 ①  日本国民は,正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し,国権の発動たる戦争と,武力による威嚇又は武力の行使は,国際紛争を解決する手段としては,永久にこれを放棄する。
 ②  前項の目的を達するため,陸海空軍その他の戦力は,これを保持しない。国の交戦権は,これを認めない。
2 憲法制定時「自衛権の行使は認められていない」
 憲法制定時でも,日本政府は自国に自衛権があるとの考え方
 しかしながら,日本国憲法9条2項によって,「一切の軍備と国の交戦権を認めない結果,自衛権の発動としての戦争も,また交戦権も放棄した」(吉田茂首相)
 ⇒憲法によって自衛権の行使が認められないと解釈
3 米ソ冷戦「武力によらざる自衛権」
 自衛権が認められない当時,万一の場合には国連軍が日本を守ることが想定されていた。
 しかしながら,米ソ冷戦が勃発し,吉田首相は,1950年1月,「武力によらざる自衛権を持つ」と発言し,その後のアメリカとの軍事同盟の成立を予感させた。(1951年,旧日米安保同盟締結)
4 自衛隊ができる「必要最小限度の実力」
 1950年6月 朝鮮戦争勃発
 1954年   自衛隊設立
 鳩山一郎
 「自衛のための必要最小限度の武力を行使することは認められている。」
 ⇒「自衛のための必要最小限度を超える実力」ではないので,「自衛隊は軍隊ではない」と解釈されるようになる。
 もっとも…
 1954年6月 参院本会議で「海外出動はこれを行わない」とする決議が可決。その後,(個別的)自衛権発動のための3要件(旧3要件)が決められた。
 ※旧3要件
  ① 我が国に対する急迫不正の侵害があること
  ② これを排除するために他の適当な手段がないこと
  ③ 必要最小限度の実力行使に留まるべきこと
  刑法36条1項(正当防衛)
   急迫不正の侵害に対して,自己又は他人の権利を防衛するため,やむを得ずした(必要性,相当性)行為は,罰しない。
   他の適当な手段がないことを要求している点で,刑法上の正当防衛とは少し異なる概念
5 PKOへの参加「PKOは武力行使にあたらない」
 ・冷戦終結
 ・1991年 湾岸戦争勃発 1兆4000億円を拠出したが評価され 
  ず
 ・湾岸戦争終結後,ペルシャ湾岸の機雷除去のため自衛隊が派遣された
  ∵戦争終了後の公海上の作業として,海上自衛隊の通常業務と解釈
 ・1992年 国際平和協力法(PKO協力法) 宮沢内閣
  ⇒紛争地の平和維持活動(PKO協力法)に自衛隊が参加できるように。
 ・1992年9月から約1年,カンボジアに1200人が派遣
 ・PKOが武力行使に当たらないとする5原則
 ① 紛争当事者の間で停戦合意が成立
 ② 紛争当事者が自衛隊派遣に同意
 ③ 中立的な立場を厳守
 ④ 上記の原則のいずれかが満たされない状況が生じた場合に撤収することが出来る。
 ⑤ 武器の使用は,要員の生命等の防護のために必要最小限のものに限られる。
国連PKO

6 北朝鮮核危機など「後方地域での米軍支援は武力行使にはあたらない」
 ・1993年3月 北朝鮮は核兵器不拡散条約(NPT)から脱退を表明
 ・1996年   中国が台湾を威嚇
 ⇒日本周辺で危機が高まる。
 ・1997年 日米ガイドラインの改訂(アメリカの協力要請)
 ・1999年 周辺事態法
  後方地域での米軍支援は「武力行使との一体化」に該当せず。
① 現に戦闘が行われていない地域
② 活動期間を通じて,戦闘行為が行われることがないと認められる地域
  ※地理的観念ではないが,「中東とかインドネシアとか,ましてや地球の裏側というようなことは考えられない」とされた。
7 9.11「非戦闘地域での多国籍軍支援は武力行使にあたらない」
 ・2001年9月11日 アメリカ同時多発テロ
             アフガニスタン戦争
 ⇒日本,国連安保理決議を受け,自衛隊を派遣することを決定
 ・2001年10月29日 テロ特別措置法成立
 自衛隊が活動できる地理的範囲が拡大。日本領域に加えて,公海及びその上空,そして外国の領域での支援活動
 非戦闘地域での多国籍軍支援は「武力行使との一体化」に該当せず
 ※地理的観念ではないが,「自衛隊が活動している地域は非戦闘地域」?
  ⇒民主党の岡田克也代表に「非戦闘地域」の定義を求められた小泉純一郎首相が,戦闘地域と非戦闘地域を明確に区別できなかったためか,「自衛隊が活動できる地域が非戦闘地域」などとちぐはぐな答弁をした。
8 第2次安倍政権「集団的自衛権は行使できる。場所も限定しない。」
・2014年 自衛権発動の3要件を見直し(新3要件),集団的自衛権が行使できるとした。
・2015年5月14日 政府は安保法制の関連11法案を閣議決定
 「周辺事態法」⇒「重要影響事態法案」へと変更し,地理的観念を含む言葉「周辺」を排除し,集団的自衛権について定める。
 「国連平和支援法」という新法では日本に影響がなくても国際社会が一致して対応すべき戦争や紛争が起きた場合に,自衛隊を派遣することを想定。自衛隊は紛争を未然に防ぐ活動もできる。

第4 安保関連法について
1 11の法律
 安保関連法とは,新設の「国際平和支援法」と自衛隊法改正案など10の法律の改正案を一つにまとめた「平和安全法制整備法案」からなる。
安保法案の構成

 簡潔に述べると,
 ・集団的自衛権を認める。
 ・自衛隊の活動範囲や,使用できる武器を拡大する。
 ・有事の際に自衛隊を派遣するまでの国会議論の時間を短縮する。
 ・在外邦人救出や米艦防護が可能になる。
 ・武器使用基準を緩和(従来は自己保存型のみ,改正により任務遂行型まで)
・ 上官に反抗した場合の処罰規定の追加(戦前!?)

 2 複雑すぎる事態 
安保法案の6つの事態
・上4つは(武力攻撃)事態対処法に記載。
 武力攻撃事態(武力攻撃発生自体,武力攻撃切迫事態)
 武力攻撃事態等(武力攻撃事態,武力攻撃予測事態)
 原則として事前の国会承認が必要とされるが,緊急時は事後の承認でも可能とされていることから,事後の承認が多発することになり,国会の機能不全を招く。
・武力攻撃事態(武力攻撃事態,武力攻撃切迫事態)武力攻撃予測事態は異なる概念であるにもかかわらず,武力攻撃切迫事態と武力攻撃予測事態の区別が曖昧。
・また,武力攻撃事態と存立危機事態との区別も曖昧
・存立危機事態について,安倍首相は「政府が総合的に判断して認定する」(後述)という。⇒非常に危険
 当時の民主党などは定義や認定方法が「極めて曖昧」と主張した。
 岡田克也代表は,「存立危機事態は,非常に抽象的。時の政府が勝手に存立危機事態を認定して,自衛隊を送り出し,武力行使するということになりかねない」,「当然,反撃も来るわけですし,国民の暮らし,命がかかっている大きな政治の決断。それが白紙委任しているような形になり,民主国家としては許されない」と批判。
・緊急時の事後承認が許されていることと相俟って,時の権力が恣意的に利用しかねない。
3 後方支援しか許されていない「重要緊急事態」,「国際平和共同対処事態」も実は…
 後方支援には「武器の提供は含まない」とされているが,弾薬の提供や武器・他国の兵士の輸送は認められており,後方支援中の部隊が襲われる可能性が高い。
 山崎拓元衆院議員
 「正面と後方は一体、つまり後方とは兵站ですから。今まで自衛隊は、例えばサマワなら近くのアメリカ軍に守ってもらう約束もあった。今度は兵站基地の部隊は自分たちで守らなければならない。そのための装備も持っていきますよね。かなり重装備になりますよ。PKOとはわけが違う。正面と後方は一体だから、敵軍は必ず、兵站基地である後方を襲います。すると自衛隊は防戦します。武器を使用すれば反撃がある。反撃があればまた撃ち返す。そうなれば武力行使になる。武力行使になれば戦闘行為になる。戦闘行為になれば、それは戦争に巻き込まれるということになる。そこで死傷者が出ないなんてまず考えにくいですね。だから、リスクが高まることは間違いない。イラクの経験はいくつか他にもあるんですけれども、自衛隊を後方支援活動に出すこと自体に私は反対です。」
4 主な法律に関して解説
(1)概要
 ア 自衛隊法改正
 ・在外邦人等の保護措置
 ・米軍等の部隊の武器等の防護
 ・平時における米軍に対する物品役務の提供の拡大
 ・国外犯処罰規定
 イ 国際平和協力法の改正
 ・国連PKO等において実施できる業務の拡大(いわゆる安全確保,駆け付け警護),業務に必要な武器使用権限の見直し
 ・国連が統括しない人道復興支援やいわゆる安全確保等の活動の実施
 ウ 重要影響事態安全確保法(周辺事態安全確保法の改正)
 ・我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態における米軍等への支援を実施すること等,改正の趣旨を明確にするための目的規定の見直し
 ・日米安保条約の目的の達成に寄与する活動を行う米軍以外の外国軍隊等に対する支援活動を追加
 ・支援メニューの拡大
 エ 事態対処法制
 ・ 存立危機事態の名称,定義,手続等の整備(事態対処法)
 ・ 自存立危機事態に対処する自衛隊の任務としての位置付け,行動,権限等(自衛隊法)
(2)自衛隊法改正
 ア 在外邦人等の保護措置(第84条の3)
① 目的
 外国における緊急事態に際して生命又は身体に危害が加えられるおそれがある法人の保護措置を自衛隊の部隊等が実施できるようにする。
  ※保護措置:警護,救出その他の当該邦人の生命又は身体の保護のための措置。輸送を含む。
② 手続
外務大臣から防衛大臣への依頼⇒両大臣の協議⇒内閣総理大臣の承認⇒防衛大臣の命令
③ 実施要件(以下の全てを満たす場合)
A 保護措置を行う場所において,当該外国の権限ある当局が現に公共の安全と秩序の維持に当たっており,かつ,戦闘行為が行われることがないと認められること
B 自衛隊が当該保護措置を行うことについて,当該外国等の同意があること
C 予想される危険に対応して当該保護措置を出来る限り円滑かつ安全に行うための部隊等と当該外国の権限ある当局との間の連携及び協力が確保されると見込まれること
④ 武器使用権限
任務遂行型の武器使用可能,危害許容要件は正当防衛,緊急避難
 イ 米軍等の部隊の武器等の防護のための武器の使用(第95条の2)
① 目的
 自衛隊と連携して我が国の防衛に資する活動に現に従事している米軍等の部隊の武器等であれば,当該武器等を防護するための武器の使用を自衛官が行うことが出来るようにする(第95条の2)。
② 対象
米軍その他の外国の軍隊その他これに類する組織の部隊
 自衛隊と連携して我が国の防衛に資する活動(共同訓練を含む。但し,現に戦闘行為が行われている現場で行われるものを除く。)に現に従事しているものの武器等
③ 手続
米軍等の要請⇒防衛大臣が必要と認めるとき⇒自衛官が警護
※内閣府資料によれば,条文上の手続きとは別途,運用の考え方を国家安全保障会議で審議する方針
④ 武器使用権限
 人又は武器等を防護するため必要であると認める相当の理由がある場合には,その事態に応じ,合理的に必要と判断される限度で武器を使用することが出来る
 危害許容要件は,正当防衛・緊急避難
(3)国際平和協力法改正
 ア 国際連合平和維持活動<拡充>
  参加五原則(下線部追加)
① 紛争当事者の間で停戦合意が成立
② 紛争当事者が自衛隊派遣に同意
③ 中立的な立場を厳守
④ 上記の原則のいずれかが満たされない状況が生じた場合に撤収することが出来る。
⑤ 武器の使用は,要員の生命等の防護のために必要最小限のものに限られる。受入れ同意が安定的に維持されていることが確認されている場合,いわゆる安全確保業務及びいわゆる駆け付け警護の実施に当たり,自己保存型及び武器等防護を超える武器使用が可能。
 イ 国際連携平和安全活動(非国連統括型)<新設>
  上記参加五原則を充足した上で次のいずれかが存在する場合
① 国際連合の総会,安全保障理事会又は経済社会理事会が行う決議
② 次の国際機関が行う要請
・国際連合
 ・国際連合の総会によって設立された機関又は国際連合の専門機関で,国際連合難民高等弁務官事務所その他政令で定めるもの
 ・当該活動に係る実績若しくは専門的能力を有する国際連合憲章第52条に規定する地域的機関又は多国間の条約により設立された機関で,欧州連合その他政令で定めるもの
 ※国際連合憲章第52条
 第六章????? 地域的取極(CHAPTER VIII. REGIONAL ARRANGEMENTS)
 第五十二条 (Article 52).
 1 この憲章のいかなる規定も,国際の平和及び安全の維持に関する事項で地域的行動に適当なものを処理するための地域的取極又は地域的機関が存在することを妨げるものではない。但し,この取極又は機関及びその行動が国際連合の目的及び原則と一致することを条件とする。
 2 前記の取極を締結し,又は前記の機関を組織する国際連合加盟国は,地方的紛争を安全保障理事会に付託する前に,この地域的取極又は地域的機関によってこの紛争を平和的に解決するようにあらゆる努力をしなければならない。
 3 安全保障理事会は,関係国の発意に基くものであるか安全保障理事会からの付託によるものであるかを問わず,前記の地域的取極又は地域的機関による地方的紛争の平和的解決の発達を奨励しなければならない。
 4 本条は,第三十四条及び第三十五条の適用をなんら害するものではない。
③ 当該活動が行われる地域の属する国の要請(国際連合憲章第7条1に規定する国際連合の主要機関のいずれかの支持を受けたものに限る。)
第三章????? 機関(CHAPTER III. ORGANS)
第七条(Article 7)
1 国際連合の主要機関として,総会,安全保障理事会,経済社会理事会,信託統治理事会,国際司法裁判所及び事務局を設ける。
 ウ 業務の拡充
  停戦監視,被災民救援等に加え,いわゆる安全確保業務,いわゆる駆け付け警護等を追加,統治組織の設立・再建援助の拡充
  ・安全確保業務
:重要施設の警護,検問所を設置しての検査,市街地のパトロールなど。⇒ 狙撃や自爆テロの標的,戦闘に至る可能性
  ・駆け付け警護
:離れた場所にいる他国軍部隊や非政府組織(NGO)職員などを救援する活動⇒本格的な戦闘に巻き込まれる懸念
 エ 武器使用権限の見直し
  いわゆる安全確保業務,いわゆる駆け付け警護の実施に当たっては,いわゆる任務遂行のための武器使用を認める。
 オ 国会承認
 自衛隊の部隊等が行う停戦監視業務,いわゆる安全確保業務について事前の国会承認が基本(閉会中又は衆議院が解散されている場合の事後承認可)
(4)重要影響事態安全確保法(周辺事態安全確保法の改正)
 ア 目的
  重要影響事態に際し,合衆国軍隊等に対する後方支援活動等を行うことにより,日米安保条約の効果的な運用に寄与することを中核とする重要影響事態に対処する外国との連携を強化し,我が国の平和及び安全の確保に資すること
 イ 定義
  ・重要影響事態
   :そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態
    ※周辺事態の定義から「我が国の周辺の地域における」限定を削除
  ・後方支援活動(=兵站 Military Logistics)
   :補給,輸送,修理及び整備,医療,通信,空港及び港湾業務,基地業務,宿泊,保管,施設の利用,訓練業務
    ※武器の提供は含まない。弾薬の提供及び戦闘作戦行動のために発進準備中の航空機に対する給油及び整備は実施可能に。
     ⇒上述したとおり,武器や外国軍兵士の輸送は可能。
 ウ 支援対象
  重要影響事態に対処する以下の軍隊等
  ・日米安保条約の目的の達成に寄与する活動を行う米軍
  ・その他の国連憲章の目的の達成に寄与する活動を行う外国の軍隊
  ・その他これに類する組織
 エ 対応措置
  ・後方支援活動 ・捜索救助活動 ・船舶検査活動
  ・その他の重要影響事態に対処するための必要な措置
 オ 「一体化」の回避
  ・「現に戦闘行為が行われている現場」では実施しない。
  ※遭難者が発見され,救助を開始しているときは,部隊等の安全が確保される限り当該遭難者に係る捜索救助活動を継続できる。
・自衛隊の部隊等の長等は,活動の実施場所又はその近傍において戦闘行為が行われるに至った場合,又はそれが予測される場合には一時休止などを行う。
・防衛大臣は実施区域を指定し,その区域の全部又は一部において,活動を円滑かつ安全に実施することが困難であると認める場合等は,速やかにその指定を変更し,又はそこで実施されている活動の中断を命じなければならない。
 カ 国会承認(改正前と同様)
  原則事前の国会承認,緊急の必要がある場合の事後承認可
 キ 武器使用権限…自己保存型のみ
(5)事態対処法制
 ア 事態対処法の改正
 (ア)内容
  我が国の平和と独立,国及び国民の安全を確保するため,武力攻撃事態等への対処について,基本理念,国・地方公共団体等の責務,手続等基本的事項を定めることにより,対処のための体勢を整備
  イメージとして,重要影響事態よりも,我が国への切迫した危険がある場合。
 (イ)改正の概要(「存立危機事態」への対処等を追加)
① 目的(事態対処法1条)
   武力攻撃事態等及び存立危機事態への対処について,基本理念,国,地方公共団体の責務,国民の協力その他の基本となる事項,を定めることにより,武力攻撃事態等及び存立危機事態への対処のための態勢を整備し併せて武力攻撃事態等への対処に関して必要となる法制の整備に関する事項を定め,我が国の平和と独立,国及び国民の安全の確保に資すること
②対処基本方針(事態対処法9条)
   武力攻撃事態等又は存立危機事態に至ったときに,政府がこれらの事態への対処に関する基本的方針を定める。
   ⇒批判の検討。
  ・事態の経緯,事態が武力攻撃事態であること,武力攻撃予測事態であること又は存立危機事態であることの認定及び当該認定の前提となった事実
  ・事態が武力攻撃事態又は存立危機事態であると認定する場合にあっては,我が国の存立を全うし,国民を守るために他に適当な手段がなく,事態に対処するため武力の行使が必要であると認められる理由
③新三要件の下で武力行使(集団的自衛権)が可能に
   I我が国に対する武力攻撃が発生したこと,又は我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し,これにより我が国の存立が脅かされ,国民の生命,自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること
   Ⅱこれを排除し,我が国の存立を全うし,国民を守るために他に適当な手段がないこと
   Ⅲ必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと
 (ウ)国会承認(事態対処法9条)
  ・存立危機事態に対処するために自衛隊に防衛出動を命ずるに際しては,現行の規定と同様,原則国会の事前承認を要する(緊急時の例外あり)
   ⇒批判の検討。
 イ 自衛隊法の改正(存立危機事態関連)
  「新三要件」で新たに可能となる「武力の行使」は「我が国を防衛するため」のやむを得ない「自衛の措置」であり,「存立危機事態」への自衛隊の対処は,自衛隊法76条(防衛出動)と第88条(武力行使)によるものとし,第3条(自衛隊の任務)において主たる任務に位置付ける。
  第3条 「直接侵略及び関節侵略に対し」を削除
  第76条 内閣総理大臣が自衛隊の出動を命じるに際し,国会の承認を得なければならない場合として,存立危機事態を追加
  第88条 改正なし 防衛するため必要な武力を行使可能      以上

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