さる1月25日(日)、神保町・学士会館地下1階北海道大学連絡室で1月例会を開催、参加者13名。入会者 計 21名。
岡部太郎(元『東京新聞』政治部長)が風邪で欠席し、後日、書面で以下を報告された。
政治現況報告
新年早々、1月18日に野党第一党の民主党の委員長選挙が行われた。年末の総選挙で民主党は再び惨敗(と言ってもよいと思う)東京1区の海江田万里委員長は比例区にも残れず落選した。全国の党員・地方議員も巻き込んだ後任委員長争いは、若手の支持を集めた細野剛志が6票差で岡田克也代行を破り1位となったが、過半数に達せず、国会議員による決戦投票では、本命の岡田氏が逆転、委員長の座を射止めた。
はからずも、自民党総裁選での党員も含む本選で1位になった石破氏を国会議員選による決戦投票で安倍首相が破り、首相の座を射止めたのと同じ形にになった。岡田氏は細野氏を政調会長にするなど、挙党一致体制をとったが、雄弁で生まじめな新委員長が、バラバラな党内をどう一本にまとめ、再び政権を争える党に再建するか、今後の課題となろう。
そこへ飛びこんだのがイスラム国が湯川遥菜さんと後藤健二さんの二人の日本人を拘束したというニュースだった。人質の交換要求などがあったが、結果的に二人の人質は殺された。戦後70年の平和を守ってきた日本にとって、歴史的な転換点ともなる大事件に発展してしまった。
安倍首相は就任以来、秘密保護法の制定や集団的自衛権の閣議決定など戦前回帰路線ともいえる後ろ向き政策を進めて来たが、外交についても「積極的平和外交路線をとる」と強調していた。これまでは全く意味不明だったが、はからずも今回のイスラム国人質事件で、その正体と意図することが明白になった。
日本はこれまで外国に自衛隊を派遣することは自重。自ら紛争に積極的に介入することは避けて平和を守ってきた。しかし今回、安倍首相は紛争地ヨルダン、エジプト、イスラエルと、いずれも米国との友好国だけを訪問、しかも1月17日にはエジプトのカイロで「イラク、シリア難民・避難民支援、トルコ、レバノンへの支援をするのはISIL(イスラム国)がもたらす脅威を少しでも食い止めるためです。地道な人材開発・インフラ整備を含め“ISILと戦う周辺各国”に総額2億ドルの支援を約束します」と公言してしまった。つまり米国と共同歩調をとって日本が友好国を積極的に支援するのが”積極的平和外交“だったわけだ。表立ってアメリカを積極的サポートする外交である。わざわざISILを名指しして、それと対抗することを明言したのだから、イスラム国が日本人二人を人質として確保したのは、むしろ当然だろう。
しかも政府は昨年10月には二人が拘束されたとの情報を知り、内密で交渉していたのだという。いかにもタイミングの悪い歴訪であり、しかも2億ドルをイスラム国対応で拠出すると明言するのは危険極まりない。まさに挑発ではないか。安倍首相は二人殺害の政治責任について、“私に最終責任がある”と開き直ったが、誰がこの文章を書き、発言時期を決めたのかと云う野党の質問に「文章も発言自体も私が決めた」と予算委で答弁した。「それが間違ったとは思っていない」とも強調したが、さすがに鋭く追及されて「その発言の可否についても、今回の人質事件の検証の中で明らかにしたい」と述べた。
いずれにしても、戦後初めて日本人が人質にとられ、政府の折衝にもかかわらず殺された。国民が“積極的平和外交”の犠牲になった。しかも、もっと問題は、日本が米国のお先棒を担ぐ図式が世界に知れ渡ったことだ。今後、国民が危険な立場に立つことの安倍首相の責任を、野党はもっと追及していい。国民もまた安倍が首相になったのは運が悪かったでは済ませず、一日も早く退陣させるべきだ。
例会における討議
ついで、野村光司(「日本国憲法が求める国の形」起草者)氏が、予め例会出席予定者に配付し、検討を要請していたパンフレット第4次案について、次のように報告した。
まず第1点は、憲法9条(戦争の放棄、軍備及び交戦権の否認)関係で、先に「戦力保持の禁止」として記述していたものを、「違憲の自衛隊を合憲の国連軍に」の見出しに代え以下の記述に差し換えた。
(第9条関係)
違憲の自衛隊を合憲の国連軍に
法治主義とは真実に基づいて法を適格に適用することであって真実を偽装してそれで済むならば法治とは言えない。自衛隊は発足時から用語でも政府説明でも種々の偽装を施して来た。第9条は「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」とあり、自衛隊の組織・装備は、外国と戦争するために整備された陸海空軍であり、決して国内犯罪を鎮圧する警察ではない。自衛隊が日本の軍隊ならば違憲と言わざるを得ない。
また、正当防衛の権利は、国内法でも国際法でも普遍的に認められている自然権であるがわが刑法36条は、「急迫、不正の侵害に対して自己又は他人の権利を防衛するため止むを得ない」行為についていうのであって、例えば強盗に押し入られたとき、合法的に所持している物を用いて抵抗するのは許されるが、所持を禁止された物を予め準備することは許されない。日本では銃砲刀剣の所持が禁止されており、有り得べき侵入者に備えてピストルや機関銃を準備することは許されない。公の警察力に頼るべきものである。
日本は憲法上許されない「自衛隊と言う名の軍隊」が持てない。そこで憲法は前文で「平和を愛する諸国民 (peace-loving peoples) の公正と信義 (justice and faith) に信頼して、われらの安全と生存を保持」するとする。憲法制定時、既に国連が世界各国の平和を守る国際機関として存在しており、国連憲章第47条では「国連軍事参謀委員会」が国連軍を運用する規定を設けている。この規定は主として多国籍軍の運用にかかるものであるが、国連自体の直轄軍を創設することを排除するものではないと考える(参考:PKOは国連規定には存在しないが国連総会の決議で創設された)。いずれにしても、わが国は他国の侵略を受ける恐れがあるならば、クウェートがイラク軍の侵略を受けたとき多国籍軍によってイラク軍が排除されたような体制を国際的に整備することが必要である。ここに主として日本を防衛する日本駐留の日本防衛の国連軍部隊が創設されれば憲法上の問題はなくなる。現在、アメリカも一国で世界の警察官たる負担に堪え兼ねており、EUも国際軍の性格を帯びて来ており、すべて一国のみでの防衛はできなくなっているので、国連軍の創設には欧米諸国の協力も期待できる。また中国、韓国、ロシアも日本軍に苦しめられた経験から、自衛隊が日本の軍隊ではなく国連軍部隊であるならこれを歓迎できる。政治的外交的には困難であるが、日本国憲法の理想に向かって努力すべきである。
もとよりこうした軍備に努力するよりは、憲法随所に規定される「恒久の平和を念願し」「自国のことのみに専念して他国を無視してはなら」ず、普遍的な「政治道徳の法則」に従って「自国の主権を維持し」(前文)、「大臣は、文民でなければなら」ず(66条)、ポツダム宣言、対日平和条約など敗戦で結んだ「条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守」して(98条)、先ずは近隣諸国で日本を攻めようとする敵対国を無くし、近隣諸国との平和を確立することが、わが国の安全を守る第一義であることを認識すべきである。
自衛隊が違憲であるとするならば軍隊としての自衛隊は解散せざるを得ない。しかし自衛隊にはこれまで軍隊としての訓練の他、災害救助、南極探検支援など国民の必要に応じ、危険な業務を負担して来た。日航機墜落事件、阪神大震災、東日本大地震・大津波の災害に対して被災者救済に多大な活動をし、国民の自衛隊への親近感は著しく増大したと言われる。今後は順次、軍隊の要素を減じ、災害救助隊としての活動範囲を拡大することが望まれる。これまで、中国、韓国初めアジア諸国に侵略の軍を進めたのに代わって、今後は国内ばかりではなくアジア全域、或いは全世界に対し、災害救助に、難民救助に、と危険な業務に迅速に対応し、全世界に感謝される組織になることが期待される。
第2点は36条(拷問及び残虐刑の禁止)関係で、これまで「死刑の廃止」として、主として人間の生命権を奪う殺人、さらに残虐な刑罰としての死刑の廃止を要求したが、編集委員会からの注文で冤罪による死刑の危険について加筆することになり、いま文案の作成中である。
以上、主として2点の報告をめぐって討議が交わされ、次のような意見が提出され、意見はほとんど第9条関係に集中した。
「国連軍部隊による日本の防衛は現憲法の趣旨に反する。国土の防衛はあくまで近隣諸国と友好を保つ外交努力によるべきであり、国民意識をそこに先導するよう努めるべきだ」
「中程に『自衛隊が違憲であるとするならば軍隊としての自衛隊は解散するしかない』という記述があるが、『将来、自衛隊は解散するしかない』、などとして、時間的な余裕を持たせた方がよい」
「9条関係では、別に『集団的交戦国にはなれない』という見出しで、集団的自衛権の行使容認を決定した閣議決定を批判しているが、この決定が『違憲』であることを明記した方がよい」
「第99条(憲法尊重擁護の義務)関係で、『公然、憲法を侮辱する公務員は、公職から排除されなければならない』と記述しているが、この記述の冒頭に『首相以下、』と明記した法がよい」
これらの意見に対して「憲法の規定には、ある程度の理想が含まれても許容されるので、国連軍部隊の日本駐留については、国連創設当時の、世界の平和を守る国際機関としての役割の復権に努力することと合せて、国連軍部隊にへの言及についてご理解願いたい」旨、起草者側から答弁があり、提起された様々な意見をあわせて編集委員会で文案を作成することとなった。
さらに、「昨年7月1日の集団的自衛権行使容認の閣議決定以降、安倍首相が進めている露骨な改憲活動批判をパンフレットにどう取り込むのか?」「この度の湯川、後藤さんの拘束事件で、折から中東訪問中の安倍首相が『ISILと闘う周辺各国に、総額で2億ドル程度、支援をお約束します』公表し、しかも、アラブの宿敵であるイスラエルを訪れネタニアフ首相とともに『テロとの戦い』を宣言し、『イスラム国』に報復の口実を与えていることを、どう受け取るのか?」などの切迫した意見も提出され、いずれも編集委員会が検討することとなった。
ついで、パンフレット発表に当たっての下記「あいさつ文」の案が事務局から配付され討議された。
「日本国憲法が求める国の形」(パンフレット)
発表について完全護憲の会からのごあいさつ(案)
私たちは、皆、無位無官の庶民であり、学者でもありません。どの政党政派にも属せず、誰にも隷属せず、誰をも憎む者でもありません。ただ私たち庶民の目で見ると、日本が日本国憲法を最高法規として戴く法治国家であるとすれば、今の国政が憲法の理念、条文と余りにもかけ離れていることに驚いています。
いわゆる左翼、護憲を標榜する方々も現行憲法を非難する方々もおられます。例えば第1章天皇規定の存在が許せない、と言う方が少なからずおられます。しかし護憲と称しながら現行憲法を否定したのでは、改憲派が憲法の権力抑制や人権尊重の規定を否定するのを非難することはできません。この場合は、現憲法否定の政治勢力の方が遙かに現実を動かす力が強いことを知らねばなりません。
私どもは憲法と現実の国政との乖離の幾つかを列挙させて頂きました。その殆どが憲法制定の根本目的である権力の抑制を外し、国民の人権を否定することにあります。私たちは右にも左にも、現行憲法の理想と条文とに完全に合致する政治を求めなければならないのです。
私たちは政治活動をしませんが、戦前の事情をいささか経験し学んだ者として、現日本国憲法が国民全体のため、また周辺諸国との友好、諸民族との和解のため非常に優れたものであり、現憲法の完全な適用が日本と世界との利益であることを信じていることを告白させて頂きます。
しかし憲法の理想と条文から曲りに曲がった政治の現実のすべてをいきなり是正することができないことも承知しています。できるものから順次、憲法に沿って正されるよう心から望んでいます。現に違憲の国政で利益を得られている方々には申し訳なく思いますが、できるだけ痛みが少ない方法で転向できる方策が取られることを願っています。
今、私どもが提示する現行政治違憲論が間違っているならば、それを教えて頂けるようお願いします。ただ憲法の理想と条文に即したものであることをお願いします。
2015年(平成27年)3月
完全護憲の会 共同代表、編集委員名 列記
意見としては「第1章天皇規定への言及はとくに必要ではないのではないか」「安倍政権の最近の改憲策動に触れるべきではないか」などが表明され、成文は編集委員会に委託された。
その後、事務局から次の文書が配付され、承認された。
パンフレット発表の手順(案)
- 日程
統一地方選挙前に発表するために逆算して
統一地方選挙第1次 投票日 4月12日(日)
パンフレット発表の記者会見
3月20日前(岡部、野村さんの都合で3月16<月>か20日<金>)
パンフレット発行・配付 2月25日(水)
パンフレット入稿 2月10日(火)
編集委員会(パンフレット成稿) 1月28日(水)
例会(パンフレット最終案決定) 1月25日(日)
パンフレット第4次案を例会出席予定者に郵送、配信 1月19日(月)
2. パンフレットの大要
A5版 横書き
内容 「日本国憲法が求める国の形」と「日本国憲法原文」、目次を詳しく。
500部 単価300円
発行所 東京都品川区西大井 4-21-10-312 完全護憲の会
3人の共同代表、岡部、野村、福田の名を入れる。
編集委員名は?
- 者会見の場所
- 事前のパンフレット配付先
マスコミ、政党、学会など
つぎに事務局の方から2014年の「会計報告書」が配付され、宮崎会計監査員からの「適正にして妥当である」との「監査報告書」とあわせて承認された。
ついで、郵便局で振替口座を開設するための便宜として、事務局担当の福田玲三を共同代表の一員にすることが求められ、「完全護憲の会」会則施行の2014年4月27日にさかのぼって、選出したとすることが承認された。
また、昨年7月に集団的自衛権行使を認めた安倍内閣の閣議決定を違憲とした珍道世直氏による訴訟が、東京地裁で一二月一二日に棄却され、控訴されたことが報告された。配付された1審判決文のコピーに見られる原告の主張の誠実さが参加者に感銘を与えた。
編集委員会の報告
例会から3日後の1月28日、第9回編集委員会が虎の門の大阪大学東京オフィスで開かれた。参加者は5名。
まず、例会で反対論の強かった第9条関係での国連軍への言及については、これまで非武装平和論では大半の国民大衆を納得させることのできなかった経験を踏まえ、違憲の自衛隊を廃止した後の実力組織として、合憲の国連軍を選択することが最良であることを説得的に加筆するとともに、自衛隊の廃止に時間的猶予をもたせよという反対論のなかの助言を取り入れることとし、その成文を草野委員に委任した。
また99条関係で「公然、憲法を侮辱する公務員は、公職から排除されねばならない」の前に、例会の意見を踏まえ、「首相を始め」を挿入することとした。
次に、「ごあいさつ」の案文中、批判的意見のあった「第1章天皇」規定への言及については、天皇条項が14条(法の下の平等)に原則的に反しており、この章への批判は当然であると認めた上で、日本国憲法全体をまもるために、この第1章をやむをえず容認する理由を丁寧に加筆することとした。また集団的自衛権行使容認以降における現政権の強権的な違憲行動に対して例会で示された強い批判を「あいさつ」の文中に反映させることとし、加藤委員の案文を基礎に、榊山委員に成文を委任した。
ついで、例会で承認された「今後の日程」「パンフレットの仕様」「パンフレット発表記者会見の準備」等を確認したが、パンフレットには頒価は入れず、カンパの呼びかけにするとし、閉会した。
2月6日、会場を確保し、パンフレット発表の記者会見は3月20日(金)14:00から日本プレスセンタービル(都内千代田区内幸町2-2-1)9階大会議室 と決定した。
次の例会・勉強会のご案内
日時 2月22日(日) 14:00~16:30
場所 東京・神田 学士会館地下1階 北海道大学連絡室
(地下鉄・神田神保町駅 A9 出口から徒歩1分)
報告 政治の現況について 岡部太郎(元『東京新聞』政治部長)
「日本国憲法が求める国の形(パンフレット)」の発表について
野村光司(「パンフレット」起草者)
今後の日程について 事務局
討議 報告および提案への質疑、意見
参加費 無料(できれば、ご参加の予定をメール、葉書あるいは電話などで予めお知らせください。)
連絡先 〒140-0015 東京都品川区西大井4-21-10-312 福田玲三
電話03-3772-5095 メール:rohken@netlaputa.ne.jp
なお本配信ご不用の方は恐れ入りますが、その旨ご返信ください。