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目次 第41回例会・勉強会の報告 P1
第38回運営・編集委員会の報告 P1
別紙 1 政治現況報告 P2
別紙 2 事務局報告 P3
緊急警告020号案 P4
緊急警告021号案 P4
別紙 3-1 改正前後の教育基本法の比較 P5
別紙 3-2 愛知弁護士会長声明 P9
第41回 例会・勉強会の報告
5月28日(日)、港区・三田いきいきプラザ集会室で開催、参加者7名、会員57名。
司会を草野編集委員長が担当し、まず「政治現況報告」(別紙1)が代読され、この報告をめぐり次のような意見が交わされた。
「岡部氏が前川・前文科省事務次官の『週刊文春』インタビューとケナタッチ・国連人権理事会特別報告者の安倍首相宛て勧告を取上げたことに感謝したい。その上で、安倍首相の5月3日付読売インタビュー記事の件や、緊急事態条項の追加提起を取上げてほしい。第9条はすでに解釈が変更されてしまったが、この新たな緊急事態条項の追加にも首相の重要な狙いがある」「首相は易しい言葉を使って庶民の気持ちをあおっている」「緊急事態条項については『シンポジウム・大規模災害と法制度・記録集』(日弁連編集)が参考になる」「国民は安倍首相提起を受け入れるのではないだろうか。提起の最終的狙いは9条の廃棄だが」「自衛隊の存在は国民に認知されているが、自衛隊を縮小する方向で考えるべきだ。国民が認知しているから、と容認すべきではない」「ヨーロッパのリヒテンシュタイン侯国は35000人の人口、一人当たり年収は1000万円で、軍隊を持っていない」「前川前次官を国会に証人として呼ぶべきだ」「鳥インフルエンザは国境を越えて広がるので、研究レベルを上げる必要があり、加計学園の獣医学部新設は、そのためだと一部のメディアは言っている」「共謀法を阻止するためには、安倍首相を退陣させるのが筋だ」「忖度と云われているが、安倍首相の直接の命令ではないか。前川氏が出会い系バーに行ったと非難しているが、国はこうしたバーを容認している。こうした非難が横行すれば公務員は何も言えなくなる。安保法制は戦時に適用されるが、共謀罪は常時ついてまわる。かつて毎日の西山太吉記者が沖縄返還協定にかかわる密約を報道した際、『ひそかに情を通じて』というスキャンダルがばらまかれ密約への視線がそらされた。『それがどうした』と居直るべきだ。共謀罪は警察にさらに仕事を与える」「民進党の山尾議員の共謀法批判は見事だ。法務大臣には彼女が適任だ。岩波ブックレット『共謀罪の何が問題か』(高山加奈子・著)は良書だ」など。
次いで事務局報告(別紙2)が福田事務局長から行われ、緊急警告020号案では金田法相の答弁能力欠如を加筆すること、021号案では、国会が「国権の最高機関」である以上、行政府・内閣はその下位にあって国会に従属するものであり、「行政権の行使について、国会に対し連帯して責任を負う」(憲法66条3項)ことなどを加筆するよう要望された。
その後の勉強会は前月に引き続き、安立きくこ氏から「道徳の教科化と教育基本法」について別紙3の資料2点に基づき、明快な報告が行われた。
第38回運営・編集委員会の報告
5月31日に予定されていた運営・編集委員会は、当日、福田共同代表が慢性硬膜下血腫で大森日赤に入院し手術が行われたため、延期された。なお手術後の経過は順調で、福田共同代表は6月13日に無事退院した。
<別紙 1 > 政治現況報告
岡部太郎(共同代表) 2017年5月28日
5月3日、施行70周年の憲法記念日、安倍首相はビデオ・メッセージで、憲法改正の段取りについて①第9条の1項、2項は現行のままに残し、第3項に自衛隊の存在を明記する②高等教育の無償化を明記する③改憲施行時期を東京オリンピック開催の2020年とする――との具体論を初めて明らかにした。首相は就任以来、機会あるごとに憲法改正への期待を表明していたが、改憲の具体案と時期を明らかにしたのは初めて。国会の憲法審査会の論議が進まぬのに、しびれを切らして、まず自民党に総裁として促進を指示したものと見られている。もちろん自民党総裁の立場とはいえ、安倍氏は現実に内閣総理大臣。憲法を守る特別公務員としては、まさに憲法違反の行動である。これまで、自民党の改憲論は第9条2項の「(第1項の戦争放棄を受けた)陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない。国の交戦権はこれを認めない」を削除し、自衛隊保持を明記することであった。
それを9条1項2項を温存したのは、9条改正に慎重な公明党への配慮であり、授業料免除は日本維新の会への配慮と思われる。しかし、どう考えても、2項の「戦力不保持」と自衛隊の「存在の明記」は両立しない。さらに問題は、2020年の東京オリンピックに合わせて施行するという改憲時期。いうまでもなく、オリンピックは世界のスポーツの平和の祭典。それに合わせて平和憲法を後ろ向きに改正すると云うのは、集まる世界のスポーツマンに失礼な話。特にアジアでは日本の軍事力台頭に不満もあり、国内の安倍反対勢力にも五輪ボイコット論なども出かねない。
野党の民進党や共産党の反対はもとより、自民党にも反対論や慎重論が出ている。高村副総裁は、国民への説得や野党との協議なしに自民が一方的に改憲へ走るのは危険とし、次期総裁選を狙う宏池会の岸田外相も「9条の改憲は必要ない。保守本流の私たちには、現憲法に対する愛着は特別なものがある」と述べた。石破茂氏は「勢いで改正して良いはずがない」船田元自民党憲法改正推進本部長は「野党の反発を招くのは必至で急ぐべきでない」。
また民放の番組で枝野幸男・民進党憲法調査会長が「国論が二分され、国民投票で圧倒的に可決される状況でもないのに、自衛隊明記を国民投票にかけるのは無責任」と指摘し、公明党憲法調査会長も「野党第一党の民進党とも理解できる形にもってゆかねばならない」と語った。また各社の世論調査でも改正可、不可は41%、44%(朝日)、32%、20%(NHK)などだが、2020年に施行については「時期にこだわるべきでない」56%、20年実施20%で慎重派が圧倒的に多かった。
その安倍首相に降ってわいたのが、ごく親しい友人が理事長を務める岡山加計学園の今治・獣医学部新設の忖度問題だ。昭恵夫人の森友学園の口きき疑惑と瓜二つで、今治の国家戦略特区諮問会議(議長-安倍首相)が昨年11月9日に「今治の加計学園の構想が適当」としたことだ。共産党の小池晃氏は入手した内部文書で、内閣府が文科省に対し「官邸の最高レベルが言っている」「総理の意向だ」との文言で、加計学園を指名したことを明らかにした。安倍首相は「覚えがない」と否定。松野文科相も「文書の存在を確認できない」と逃げた。
しかし、25日発売の週刊文春が、この一月に再就職あっせんで辞任した文科省前次官の前川喜平氏(62)のインタビューで「私が去年10月、報告を受けた。総理の意向の文書は本物です」と証言。野党は前川氏の国会での証言を求める構えだ。
安倍首相は「何か働きかけた証拠があれば、私は直ちに止める」と森友問題と同じ大見得を切っているだけに、事件の発展によって首相辞任という大政変に発展する可能性もある。
昭恵夫人の森友学園の成功に、安倍首相も同じ方法で、昨年末、文科省に忖度を強いたものと見られ、婦唱夫随も極まれりというところ。
また治安維持法の再来として反対の強かった「共謀罪」は、19日、衆院法務委で自民・公明・維新の三党が強行可決。23日の衆院本会議でも三党が可決して参議院に送った。金田法務大臣のあいまいな答弁や不信任案否決の後、十分な説明や審議ができないままだった。
折も折、国連の人権理事会の特別報告者のジョゼフ・ケナタッチ氏から安倍首相あてに、日本の「共謀罪」法案が①「計画」「準備行為」の文言が抽象的で恣意的に運用されかねない②対象犯罪が幅広く、テロや組織犯罪と無関係のものも含む③令状主義など、プライバシー保護の適切な仕組みがないと指摘。日本政府はいったん立ち止まって熟考し、必要な保護措置を導入すべきだ、と勧告した。政府は「共謀罪」の法案作成に当たって「国際犯罪防止条約」を批准のために必要としてきた。ケナタッチ氏は「プライバシーを守る適当な措置を取ることなく、法案を通過させることにはならない」と述べた。実際、国際条約加盟のためテロ対策の国内法を法案化したのは、ノルウエーとマルタの二ヵ国だけという。
そのほか、今月はフランス大統領選で中道のマクロン氏(39)が当選。EU のワク組みに変化がなかったことと、お隣韓国の大統領選で北朝鮮と話し合うとした革新系の文在寅(ムンジェイン)氏(64)が大統領に選ばれた。
<別紙 2 > 第41回例会 事務局報告
福田玲三(事務局) 2017年5月28日
1)来信
1 濱口國雄作「地獄の話」をノンフィクションとしてではなく、作品として読んで欲しいと言うご意見に全く賛成です。(清林保:国鉄詩人連盟)
2 早々の対応、恐れ入ります。兄をはじめ、職場の友人等に配布し護憲の思いを広めたいと思います。立派な冊子となったことうれしいです。(濱口順二:濱口国雄氏次男)
3 貴重なパンフ有難うございます。濱口國雄の詩が載っているのが嬉しく、布施辰治は知っていましたが、その子杜生さんのこと、初耳でした。(I.I)
4 シリーズ4お送りくださり、杜生についての歳枝の文章をご紹介くださり有難うございました。あの逮捕は、歳枝には不意打ちでしたが、杜生は予期していたと思います。そのことは、妻には語っていなかったと思います。少し前に、京大時代の仲間、西田勲が逮捕されていて、その対策を有楽町にあったなんとかパーラーで話し合ったという事実があるからです。政治的な背景ゼロの勲の弟を呼び出して、丸の内署だかに話を聞きに行かせたという事実があります。
今日秋篠宮眞子の婚約が報じられました。女性宮家問題に光が当てられると思います。天皇家と安倍一族との十年戦争を思わずにはおれません。(S.O)
5 今、流布することが増々重要になっているすばらしいパンフです。(T.M)
6 ニュースNo41をお送りいただき有難うございました。事務局報告の中で、「来信」として私のこともお取上げいただき恐縮いたしております。……どうか、あまりお気遣い下さいませんようお願いいたします。(珍道世直)
2)訃報
当会創立時からの会員、鹿野淳二氏(87歳)が亡くなられた旨、5月18日ご遺族からご連絡をいただきました。
3)シリーズNo.4 『明治帝國憲法下のくらし』
今回は記者会見を設定せず、4社の記者に仮綴じ本を4月24日に送り紙上での紹介を依頼。うち1社は部内で相談中。別の1社には岡部共同代表の仲介を依頼、残る2社からはまだ返信なし。
ニュース発信アドレス(郵送及びEメール送信)に次の挨拶文を付けて郵送。(約400部)
みなさま
安倍内閣は、明2018年を明治維新150周年として華々しく祝おうとしています。11月3日の「文化の日」を、「明治の日」に改めようとする動きさえあります。
明治帝國憲法下の日々が庶民にとって、現憲法下の日々よりもよかったでしょうか。
明治維新後の新政権は天皇を絶対君主とする体制を作り、軍事大国に驀進しました。憲法発布からわずか5年後に日清戦争、その後10数年ごとに侵略戦争を繰り返し、その原点が明治帝國憲法でした。
明治維新への賛美は、国民主権を定めた現憲法を、国家主権に戻そうとする自民党改憲草案の意図と重なっています。
私たちは、戦争に明け暮れた明治憲法下のくらしが、どれほど悲しく苦しいものであったかを示すために、小冊子『明治帝國憲法下のくらし』をまとめました。
ご一見下さいますようお願いします。
なお恐縮ですが、当活動の資金として、本冊子原価と夏季カンパを、同封の振替用紙でお送りいただければ幸いです。
2017年5月1日 完全護憲の会
4)緊急警告020号案 「共謀罪」法案は違憲! 採決強行は許されない。
安倍政権は本年3月21日、「共謀罪」の趣旨をふくむ組織犯罪処罰法改正案を閣議決定し、国会に提出した。今回政府はこの法案を「テロ等準備罪」法案などと呼称し、あたかもテロ対策法案であるかのごとく偽って国民に受け入れさせようとしているが、実態は「共謀罪」法案そのものである。(当初の法案にはテロの文言がまったくなく、批判されてあわてて挿入した経過からも明らかである。)
「共謀罪」法案は過去3回にわたって国会に提出された。この法案の眼目は、犯罪実行の合意をもって、処罰対象にしようというもので、「刑罰の対象は外部に客観的に表れた行為に限られる(行為原理)」「どのような行為が犯罪になるかをあらかじめ法律で明確に定めなければならない(罪刑法定主義)」といった近代刑法の大原則を根本からくつがえし、ひいては、個人の尊重(憲法第13条)、内心の自由(憲法第19条)、表現の自由(憲法第21条)、法定手続きの保障(憲法第31条)など憲法で定められた人権保障と真っ向から対立する本質から、過去3回の法案はいずれも廃案となった。
そして、以下に見るとおり、この度の組織犯罪処罰法改正案には重大な違憲性がなお指摘される。
すなわち、この法案が成立すれば、
1 共謀を立証するために捜査機関が電話やメールなどの通信傍受を拡大する可能性があり、これは憲法第13条「(個人の尊重と公共の福祉)すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」(個人情報を守る「プライバシー権」の根拠とされる)に抵触する。
2 犯罪が実行される前に、合意しただけで処罰でき、人の内心を罰することが可能になる。安倍首相は準備行為があって初めて処罰対象とすると説明しているが、何が準備行為なのかはあいまいで、これは憲法第19条「(思想及び良心の自由) 思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。」に真っ向から違反する。
3 米軍基地反対や反原発など、自らの主張を表現する市民団体の行動が捜査対象になり、その活動を委縮させるものであり、これは憲法第21条「(集会・結社・表現の自由) 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。」に違反する。
4 何が準備行為と判断されるか分からず、これは憲法第31条「(法定の手続きの保障)何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない。)に違反する。
さらに安倍首相は「一般人には全く関係ない」と強調するが、戦前の治安維持法も、当初は、国体を変革する共産主義者が取り締まりの対象とされたが、後に政府の政策を批判する人、戦争に懐疑的な人まで、警察は容赦なく逮捕した。
与党は、この「共謀罪」法案について、現国会の会期末である6月18日から逆算して、5月17日衆院法務委で審議、採決、18日衆院本会議で採決、衆院通過、22日参院本会議で審議入り、23日参院法務委で審議入り、6月中旬での参院で採決、成立を狙っている。
しかし、法務委員会での審議を通じて、本法案への理解は深まるどころか、国民の懸念はいっそう広がるばかりだ。憲法違反の「共謀罪」法案の強行採決は許されない。
5)緊急警告021号案 安倍首相の改憲発言は違憲、首相は即時退陣せよ!
安倍首相はさる5月3日、憲法記念日の改憲派集会に寄せたビデオメッセージで、憲法第9条1、2項を残し、自衛隊の存在を明記した条文を追加するなどの改憲案を示したうえで、2020年に改正憲法を施行する考えを表明。
ついで5月8日、衆院の予算委員会で野党の質問に答え、首相は改憲発言の真意は読売新聞のインタビューを読めと云い捨て、委員会室を騒然とさせた。
この後、11日に開かれた衆院憲法審査会の幹事懇談会で、野党に追及された自民党は、一連の安倍首相による発言は「党に向けて示したものと理解している」との法外な言い逃れに追いこまれ、さらに「2020年施行」と年限を切った発言に審査会は「縛られるものではない」と釈明して、ようやく18日に審査会の開催を取り付けた。
18日に開かれた同審査会では、野党からの批判が噴出、審査会の森英介会長(自民党)は「憲法改正の発議権を有しているのは国会で、与野党で丁寧な議論を積み重ねていかなければならない」となだめたが、野党の反発は収まらず、「国会の立法権を侵害すると同時に議事の混乱を引き起こす行為だ」、首相の提起は「憲法を根底から覆すことにほかならない」と民進、共産、社民の各議員がこもごも批判した。
さらに安倍首相は21日、ニッポン放送のラジオ収録番組で自衛隊の存在を明記する自民党の憲法改正原案を「年内にまとめて、お示しできればなと思う」と、自民党の改憲原案作りの期限まで明言した。
首相の改憲提起に対する野党の「立憲主義に反する」との批判に、首相は「まったく理解できない。私は内閣総理大臣であると同時に自民党総裁だ。第1党のリーダーとして、国民に訴えていく責任がある」と反論している。
裏を返せば安倍首相は自民党総裁であると同時に、総理大臣であり、憲法第99条により、公務員・行政府の長として憲法尊重、擁護の重責を担っている。首相の役割は、憲法に従って政治をすることだ。行政府の長が憲法審査会という立法府の審議に介入する権限はない。首相は越権を謝罪し、即時退陣せよ。
6)集会の案内
1 第5回平和学習会――憲法原文を忠実に読み直す
6月3日(金)13:30~16:30
東京ボランティア市民センター 会議室C (飯田橋駅)
2 6.10 国会大包囲 止めよう!辺野古埋め立て 共謀罪法案は廃案に!
6月10日(土) 14:00~15:30 国会周辺
主催・戦争させない・9条壊すな! 総がかり行動実行委員会、他
3 第19回「7・1閣議決定」違憲訴訟勉強・相談会
6月16日(金) 14:00~16:30 神明いきいきプラザ(JR浜松町駅徒歩5分)
参加費:200円
4 週刊金曜日』東京南部読者会
6月23日(金)18:30~20:30 大田区生活センター(JR蒲田駅徒歩5分)
<別紙 3-1 > 改正前後の教育基本法の比較(略)
<別紙 3-2 > 愛知県弁護士会会長声明 (2006年5月)
教育基本法「改正」法案並びに日本国教育基本法案に反対する会長声明 -愛知県弁護士会-
政府は、本年4月28日、教育基本法「改正」法案を閣議決定し国会に上程した。衆議院に特別委員会が設置され、また、同年5月23日には、民主党からも「日本国教育基本法案」が提出され、本日、両法案ともに実質審議に入った。
しかし、愛知県弁護士会は、以下の理由により、この両法案に反対し、この両法案をいずれも廃案とすることを求める。
1 教育基本法の改正は、国民に十分な情報を提供し、国民的論議をふまえて十分な審議をつくした上で行われるべきである。
教育基本法は、前文で、「われらは、さきに、日本国憲法を確定し、民主的で文化的な国家を建設して、世界の平和と人類の福祉に貢献しようとする決意を示した。この理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである。」と謳っているように、憲法施行を控えた1947年3月に憲法と一体のものとして公布・施行された準憲法的性格を持つ。その準憲法的性格と「教育」の役割の重要性は現在も何ら変わってはいない。それは、一人ひとりが自由に学び、人間らしく成長する権利の保障を謳う基本法として、1989年国連で採択された子どもの権利条約とも調和している。その改正は、後述するとおり憲法の理念や基本原理にもかかわる重要な問題であり、改正の是非を含め、憲法の改正に準じた十分な国民的な論議が不可欠である。
しかるに、政府「改正」法案は、非公開の与党協議会において論議されたに過ぎず、その議事録さえ公開されていない。また民主党案についても、非公開の「教育基本法に関する検討会」において議論されたに過ぎない。このように、国民に十分な情報が提供されておらず、議論されてもいない状況のもとで、政府及び民主党が今国会に両法案を提出したこと自体が問題である。
2 なぜ今教育基本法の改正なのか不明である。
文部科学省は、子どものモラルの低下、学ぶ意欲の低下、家庭や地域の教育力の低下等の問題があることから、教育基本法を改める必要があるとしている(文部科学省「教育基本法案について」平成18年5月説明資料)。しかし、これらの問題が教育基本法の不備や欠陥によるものではないことは明らかである。むしろ、偏差値教育などと評される知育偏重の選別的、競争的教育や教員による体罰等も含む管理教育の弊害、平和教育や社会参加のための教育の不足など、教育基本法の理念に反する教育現場の問題が容易に改善されない現状に対する認識と具体策が必要とされている。しかし、両法案では、現行法のどこに問題があり、どこを変えれば、どのような問題が克服されるのかもまったく不明である。このように現実的な立法事実に基づかない法改正は不要であるばかりか、有害であり、真に国民のための教育の実現とは別の政治的意図があるとの疑いを抱かせるものである。
3 両法案は、教育基本法を180度転換するものである。
教育基本法は、教育に対する国家支配が不幸な戦争に国民を導いたことへの深い反省から、子どもをはじめ国民一人ひとりが学び、成長する権利主体として教育への権利を有することを基本として、国家権力-とりわけ教育行政の権力の濫用を戒めた。すなわち、現行教育基本法第10条第2項は、「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接責任を負って行われるべきものである。」との同条第1項を受けて、教育行政の役割を、教育の目的を遂行するに必要な諸条件の整備確立に限定している。
しかるに、両法案は、現行法第10条第2項の規定をあえて削除した。これは教育行政の役割を「条件整備」を超えて、教育内容の決定にまで拡大させる意図があるからとしか考えられない。
さらに、政府「改正」法案第2条は、第1号から第5号までの5項目の「教育目標」を定め、それぞれに「態度を養う」と規定している。要するに、国が法の名の下において教育目標を定め、子どもをはじめ国民に対してその目標に添う「態度」を求めるのである。達成することを目指す教育目標である以上、学校教育においては、その達成度が評価されることが前提となる(政府「改正」法案第6条第2項参照)。
政府「改正」法案は、教育基本法を、子どもをはじめ国民一人ひとりが求める教育の実現をめざすものから、国民に対し国が定めた教育目標に従う「態度」を求める法律へと180度理念を転換させるものである。それは、国民を不幸な戦争に導いた国家主義の教育が新たな装いをして再現することを強く懸念させるものである。
4 両法案は、憲法第19条「思想および良心の自由」の保障に反する。
政府「改正」法案前文第2段は、「公共の精神を尊び」「伝統を継承」する教育を推進するとし、第2条において、「道徳心を培う」「伝統と文化を尊重し、」「我が国と郷土を愛する」という「態度を養う」ことを教育の目標として掲げている。また、民主党案前文は、「我々が目指す教育」を「美しいものを美しいと感ずる心を育」むこと、「個人や社会に起こる不条理な出来事に対して、連帯して取り組む豊かな人間性と、公共の精神を大切にする人間の育成」、「日本を愛する心を涵養し、祖先を敬い、子孫に想いをいたし、伝統、文化、芸術を尊」ぶこと等とし、「国政の中心に教育を据え」「新たな理念に基づく教育に日本の明日を託す決意」を謳い、第7条第2項において、「道徳心の育成、文化的素養の醸成」を義務教育の旨として掲げている。
しかし、両法案は、何が「公共の精神」で、何を継承すべき「伝統」とするのかを、国が定めて国民にそれに従う「態度」を求めることになる。そして、教育の現場においては、これに従って指導し、かつ、その達成度を評価することになるから、国が求める一定の価値観を国民に押しつけることになる。
さらに、「我が国と郷土を愛する」という「態度を養う」こと、また「日本を愛する心を涵養す」ることを教育の目標とすることは、たとえば、君が代・日の丸に対し起立・礼・唱和などの「態度」を求めるというような指導によって、国の権力を持つ者が求める愛国心を国民に強制することを許す道を開くものである。国旗及び国歌に関する法律について、当時の内閣総理大臣が「強制は考えていない」と国会答弁をしたにもかかわらず、実際には学校教育現場では起立・礼・唱和などの「態度」の強制が広がっている現実を見れば、国が個人の心の自由に強制を加えることが強く懸念されるのは当然である。したがって、「改正」法案は、前文において「憲法の精神にのっとり」と記述しているにもかかわらず、憲法第19条「思想および良心の自由の保障」に反しており、法律として自己矛盾を犯している。
5 結語
両法案は、教育基本法の基本理念を逆転させ、憲法第19条「思想および良心の自由」、第23条「学問の自由」、第26条「教育を受ける権利」などの人権保障規定と整合しない重大な問題点をはらむものである。
よって、当会は、両法案に強く反対するとともに、両法案をいずれも廃案にするよう求めるものである。
2006年5月24日
愛知県弁護士会 会長 山田 靖典