緊急警告062号 軍備拡大路線は戦争を招く

さる5月23日に発表された日米首脳の共同声明で、「岸田文雄首相はミサイルの脅威に対抗する能力を含め、国家に必要なあらゆる選択肢を検討し、防衛力の抜本的強化に向けた防衛費の相当な増額を確保する決意を表明。バイデン氏は強く支持」(東京新聞5月24日)した。

だがこの軍備拡大の合意には強い批判がある。「首相が目指す防衛力強化は、自衛隊による相手国領域内への攻撃も選択肢から排除しないなど、戦後堅持してきた抑制的な安保政策の転換につながる内容だ。……自民党内にも慎重論は残り、野党の反発や世論の懸念は根強い。早い段階でバイデン氏の支持を取り付けることで議論の流れを決定付け、既成事実化する狙いも透ける。……だが、両国そろって力に力で対抗することに傾倒すれば、周辺国に疑心暗鬼を招く恐れを否定できず、もろ刃の剣ともいえる。」(東京新聞5月24日)

 この軍拡路線にはかねてからの反論もある。自由法曹団の小賀坂徹幹事長は2022年5月の研究討論集会あて報告で、「安全保障のジレンマ」をめぐり次のように警告している。

「抑止論は、軍備の増強によって相手に攻撃を思いとどまらせようというものである以上、相手国に恐怖を抱かせるだけの打撃力を常に保持していなければならない。当然相手国が軍事力を増強するとこちらも増強し、そのことがさらに相手国の軍事力増強を誘発する。その結果、際限のない軍拡競争となり、いつまでたっても安全は保障されないことになる。……」と。

このように、防衛費の増額は、「安全保障のジレンマ」によって、平和の維持に役立たず、反って東アジア地域の安定を損なう結果をみちびくことに、識者の意見はほぼ一致しており、私たちもこの見解を確認している。

東京新聞(6月3日)によれば、2021年度の防衛費は国内総生産(GDP)比1%程度の約5兆4000億円で、これを自民党の提言にそって2%以上に増額すれば、さらに5兆円を必要とする。この5兆円を民生費に当てればどれ程の規模になるのか。

教育関係では、小・中学校の給食無料化で0.4兆円、児童手当の高校までの延長と所得制限の撤廃で1兆円、大学授業料の無償化で1.8兆円、この計3.2兆円。

年金関係では、受給権者全員に年12万円を追加支給すれば、4.9兆円。

医療関係では、公的保険医療の自己負担をゼロにすれば、5.2兆円。

消費税関係では、現10%の税率から2%を引下げれば、4.3兆円。

と試算されている。

コロナ禍で国民の生活は委縮し、物価高で生活苦に沈む年金生活者やワーキングプアが溢れているとき、これだけ貴重な財源を軍拡競争に回すことは許されない。

最も社会的に弱い立場にある女性の自殺者数は、2021年に7068人と2年連続して増加しており、コロナ禍の長期化で雇用など先行きへの不安が心理的負担になっているとされる。自殺未遂者は既遂者の10倍はいると見られるから、7万人ほどの女性が、主として生活苦で、今死ぬほど苦しんでいることになる。この層の人々に先ず目を向けるのが政治の務めではないか。

ちなみに、日本の自殺率(10万人当たりの自殺者数)は米国の2倍、英国の3倍で、先進国のなかでは群を抜いて高い状態にあるという。

さらに憂慮すべきことがある。

来るべき参院選を控えて、野党第1党の立憲民主党は、物価高のへの対策をとっていないとして内閣不信任案を提出したものの、さる6月3日には、選挙公約の柱に「着実な安全保障」をかかげ防衛力の整備を強調したことだ。党内で防衛力強化に慎重な議員も多いなか、保守層の票も取らねば勝てないとの狙いは、かえって国民の失望を買うだろう。

今こそ不毛な軍備拡大競争を放棄し、近隣諸国と善隣互恵の関係構築に努力すべきときだ。とくに北東アジアの隣国とは2000年来の善隣の歴史を回顧し、また近年において植民地支配と侵略によって多大の損害と苦痛を与えたことに反省の誠意を示して、政治・経済・社会・文化などあらゆる面で日頃から交流を積み重ね、相互理解を深めておくことが肝要だ。

この度の日米首脳会談における合意は、軍備の増強を意図することによって、戦争の放棄を定めた憲法第9条に、戦争暴発の危険をもたらすことにより、国民の幸福追求の権利を定めた第13条に、また民生費を圧迫することにより、健康で文化的な生活を営む権利を定めた第25条に違反するものである。(2022年6月10日)

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