自民党の安倍晋三元首相は2月27日の民法テレビ番組で、「北大西洋条約機構(NATO)加盟国の一部が採用している、米国の核兵器を自国領土内に配備して共同運用する“核共有”政策について、日本でも議論すべきだ」との考えを示し、ロシアのウクライナ侵攻を踏まえ「世界の安全がどのように守られているのか。現実の議論をタブー視してはならない」と述べた。(2022.02.27共同通信)
ロシアのウクライナ侵攻は、主権国家を武力で圧殺する蛮行である。しかも、自国の核兵器使用も辞さない脅しをかけ、国際社会を威嚇する行為は、ロシアにとって危惧すべきNATOの「東方拡大」という要因があったにせよ、国連憲章、国際法破壊への挑戦であり、決して許容できるものではない。
すでにウクライナの民間人死者が2千人(ウクライナ非常事態庁発表、日テレNEWS 3月3日)、ウクライナ・ロシア軍双方の兵士の死者3千人超(共同通信 3月3日)、近隣諸国への避難民は136万人超(朝日 3月6日)と報じられている。これ以上犠牲者を拡大させてはならない。ロシア軍は直ちに撤退し、停戦すべきである。そのためにも、NATO諸国はウクライナに武器を供与して戦闘を激化させるのではなく(日本政府の防弾チョッキ等防衛装備品の供与も同様)、双方への停戦を呼びかけるものでなければならない。
こうした中、ロシアのウクライナ侵攻に伴い、日本国内でも憂慮すべき発言が頻出している。右派勢力を中心に核武装論が盛り上がりつつあり、その典型が冒頭の記事にある安倍元首相の極めて深刻な発言である。1年少し前まで8年間も首相をつとめた人物のこうした発言は、断じて許されない。彼らにとって「議論する」とは、「核を持ち込み核武装せよ」ということであり、平和憲法の改悪、非核三原則の否定ありきだからである。
これに対して岸田首相は、3月2日の参議院予算委員会で、「自民党の内外、そして世の中に様々な意見があることは承知しているが、政府において“核共有”は認めない。議論は行わない」と明確に答弁し、非核三原則を堅持していくことを強調した。曖昧な答弁が多いとされる岸田首相であるが、この答弁については評価すると同時に、安倍氏等右派勢力や日本維新の会などの圧力には、断固とした態度で撥ねつけることを求める。
唯一の被爆国として、核の脅威を最も身近に経験した日本は、平和憲法を定め、その下に非核三原則(持たず、作らず、持ち込まず)を国是として掲げてきた。核共有は、アメリカの核兵器を日本に配備し、アメリカの許可のもとに、日本が核兵器の運用を担うことである。中国を仮想敵国としているアメリカにしてみれば、日本が希望すれば核共有を容認する可能性も十分にある。核共有によって「持たず、持ち込まず」がなくなり、非核三原則は完全に放棄されるのである。断じて核武装・「核共有」政策などを選択してはならない。核共有によりアメリカと軍事的一体化を更に強めた日本は、平和的な独自外交努力が通用しなくなり、最初の攻撃目標となるだけである。
広島・長崎の被爆という大きな犠牲を払い、前文及び第9条に象徴される平和憲法ができたことを胸に刻むときである。過ちを繰り返してはならない。
(2021年3月6)