安倍晋三前首相の後援会が主催した「桜を見る会」前夜祭(夕食会)をめぐり、全国の弁 護士や法学者ら 941 人が公職選挙法と政治資金規正法違反の疑いで、安倍首相(当時)と 後援会幹部の計 3 人を東京地検に告発していたが、ようやく東京地検特捜部が動きを見せ た。
報道によると、「東京地検特捜部が安倍氏の公設第1秘書らから任意で事情聴取をしてい たことが、関係者の話でわかった。特捜部は、会場のホテル側に支払われた総額が参加者か ほてんしていた可能性があるとみており、立件の会費徴収額を上回り、差額分は安倍氏側が補填 の可否を検討している」(読売新聞オンライン 11 月 23 日)という。
さらに同紙は、「安倍氏の公設第1秘書が東京地検特捜部の事情聴取に対し、費用の一部 ほてんしたことを認めた上で、『補填した分は政治資金収支報告書に記載しなければならないとわかっていた』と供述したことが関係者の話でわかった」(11 月 27 日)と続報した。
安倍前首相後援会が主催した「桜を見る会」前夜祭をめぐっては、先の国会において、立 憲民主党など野党は、都内の一流ホテルでの 800 人もの後援者を招待した夕食会の参加費 が 5,000 円とは安すぎる、主催者側が差額を補填したのではないか、補填したとすれば寄付 にあたり公職選挙法にも違反する、と追及していた。
これに対し安倍前首相は、5,000 円の会費はホテル側が設定したもので、安倍事務所職員 が参加者一人ひとりから集めて全額をホテル側に渡したと説明。「後援会としての収入、支 出は一切なく、政治資金収支報告書への記載の必要はない」「事務所側が補填したという事 実も全くない」と述べていた。
こんな安倍前首相の子供だましの説明がウソであることは明白であり、立憲民主党の辻 元清美議員が衆議院予算委員会において、「私たちが選挙区の人を招待してお花見して飲み 食いさせたら公職選挙法違反になる」として、「『主催は後援会だが、契約の主体は個人で、 個人が(会費を)支払った』(安倍晋三首相)とする手法を『安倍方式』と命名。政治資金 収支報告書の記載を逃れる『脱法行為だ』と追及した。」(毎日新聞 2020 年 2 月 3 日)の は当然である。
安倍前首相の国会答弁は、明らかに言い逃れのウソとわかるような恥知らずなもので、こ うした答弁を繰り返し行っていたが、それを裏付ける報告が衆院調査局によって明らかに された。
「衆院調査局は安倍氏が 2019 年秋の臨時国会と 20 年の通常国会で事実と異なる答弁を 少なくとも 33 回行ったと明らかにした」(毎日新聞 11 月 26 日)のである。同時に同調査 局は、「森友学園」問題についても「安倍政権下の政府答弁のうち事実と異なる答弁が計 1391回あったと明らかにした」(同 11 月 25 日)。
これは恐るべきことである。
「国会は、国権の最高機関」(憲法第 41 条)とする国会を、行政府の長がかくも軽んじ無 視し虚偽答弁を重ねてきたのである。まさに三権分立を揺るがす憲法違反の所業と言わな ければならない。さらに、憲法 73 条(「内閣は、…… 一 法律を誠実に執行し、国務を総 理すること」)が定める「法律の誠実執行」義務違反でもある。
安倍前政権のこれほどの暴挙を許してきたのは、国会内多数を制する自公与党がこれを 良しとして支えてきたからに他ならない。安倍政権の官房長官としてこれを支え推進して きた菅義偉現首相の責任も免れない。
こうした事態に対して、当然にも野党は安倍前首相の国会への参考人招致を自民党と菅 首相に要求した。菅首相は、事の重大性を歯牙にもかけず「国会がお決めになること」と言 う。自民党森山国対委員長は、「司法当局から正式な発表がない現時点で、(安倍氏を)参考 人として出席を要請されても受けることには無理がある」として拒否。自民党はこれを当然 の如く支えている。
そして現在取沙汰されているのは、「安倍氏は国会答弁で補填を否定したが、事務所の秘 書が安倍氏に虚偽の報告をした」(産経新聞 11 月 24 日)、したがって安倍氏も秘書の虚偽 報告に騙されていたので安倍氏に罪はない、というもの。お決まりの秘書に一切の罪をかぶ せて一件落着としようとするものである。
このような非道を許しておいていいはずはない。「国権の最高機関」としての権威を取り 戻すためにも、安倍前首相の国会への参考人招致は不可欠である。東京地検も安倍氏本人の 聴取も含め、徹底して真相を解明しなければならない。
安倍前首相は国会の場で自ら説明・謝罪し、議員を辞職すべきである。(2020 年 11 月 30 日)