緊急警告045号  日本学術会議会員の任命拒否は戦争への道

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日本学術会議は今年9月末で会員の半数が任期満了を迎えることから8月31日、計105名の新会員の推薦書を首相あてに提出した。ところが、9月末に事務局に示された任命者名簿には推薦した新会員のうち6名が記載されておらず、菅義偉首相が任命を拒否したことが分かった。

任命を拒否された6名は、芦名定道(京大・宗教学)、宇野重規(東大・政治思想史)、岡田正則(早稲田大・行政法学)、小沢隆一(東京慈恵会医科大・憲法学)、加藤陽子(東大・日本近代史)、松宮孝明(立命館大・刑事法学)の各教授。

この政府の対応に同会議は9月30日、菅首相に対し文書で理由の説明を求めるとともに10月1日の総会において、「創立(1949年)以来、自立的な立場を守ってきた。説明もなく任命が拒否されることは存立に大きな影響を与える」(山極寿一・前会長)と危機感を訴え、翌2日、菅首相に対して「1.推薦した会員候補者が任命されない理由の説明、2.任命されていない方の速やかな任命」の2点を要望した。

同会議はこれまで、政府に対する多くの勧告や提言などを行ってきた。科学者が戦争に協力したことへの反省から1950年と67年に、軍事目的の研究を行わないとの声明を出した。また2017年には、軍事応用できる基礎研究費を助成する防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」の予算を安倍政権が大幅増額したことを踏まえ、「政府による介入が著しく、問題が多い」と批判した。

これら批判の背景には苦い歴史がある。
戦前、多くの科学者が、戦争に邁進する政府に有無を言わさず協力させられたという教訓に学んだのだ。

つまり、1933年、京都帝国大学の滝川幸辰法学部教授が著書(『刑法読本』)や講演内容について思想的に問題があるとして罷免された「滝川事件」、1935年、美濃部達吉の憲法学説が糾弾され否認された「天皇機関説事件」、それらがその後の軍部の暴走を助長した。1937年、東京大学経済学部教授・矢内原忠雄は日中戦争を批判し、辞職をやむなくされた。また1939年、早稲田大学教授で歴史家の津田左右吉は皇室の尊厳を冒涜したと訴えられ、以後、学問研究や国民の知る権利が著しく制約され、全国民が戦争に総動員される道を開き、内外に二度と繰り返してはならない多大な犠牲をもたらした。

菅首相は10月5日、内閣記者会のインタビューで、任命拒否問題は「首相の任命権に基づく対応だ」と答弁し、その理由についても「個別人事に関するコメントは控えたい。総合的、俯瞰的(ふかんてき)活動を確保する観点から判断した」と抽象的で無内容な官僚的答弁に終始し、6名の任命拒否の理由にはまったく答えなかった。答えられるはずがなかったのだ。

6名の学者はいずれも社会科学系の学者であり、この間、安倍政権が強行してきた集団的自衛権容認の安保法制、特定秘密保護法、共謀罪法などの憲法違反・法律違反の数々の法案に対して、それぞれ専門的な立場から反対を表明してきた人々であり、これらの学者の任命拒否は、そうした反対表明をしてきた学者を見せしめ的に排除した結果だからである。そもそも、同会議の独立性と自律性は内閣総理大臣の所轄でありながら、「日本学術会議は、独立して左の職務を行う。」(日本学術会議法第3条)の規定によって守られている。

このため、推薦・任命にかかわる法解釈について、1983年の国会で当時の中曽根康弘首相は、「政府が行うのは任命にすぎない」と答弁し、当時の丹羽兵助総理府総務長官も「学会の方から推薦していただいた者は拒否しない。その通りの形だけの任命をしていく」と「第3条」に則った答弁をしており、これが今日に至るまで政府の公式見解となっている。

ところが、菅首相は同会議の会員任期満了を機に、法を無視し、歴代政府の公式見解も一方的に反故にし、国家行政の最高責任者としての説明責任さえ完全に無視し、同会議の変質を狙い政治介入してきたのだ。

この菅政権による6名の任命拒否と同会議への露骨な政治介入が強行されるならば、日本の学術研究は時の政府の下請け機関に成り下がり、多様な角度から真理を追究することが制約されてしまう。日本国憲法23条が保証する[学問の自由]を侵すことにとどまらず、19条[思想及び良心の自由]、20条[信教の自由]、21条[集会、結社及び表現の自由]を侵害していくことは明らかである。

さらに深刻なのは、菅政権のその後の対応である。
日本学術会議のあり方に問題があるかのような論点のすり替えを行ない、大学における軍事研究に批判的・非協力的な現在の学術会議のあり方を変え、産軍学共同の軍事研究体制を構築しようとしていることは明らかである。

安倍政権は集団的自衛権を認める安保法制を強行採決し、検察庁法を違法に解釈変更するなど、目を覆うばかりの憲法軽視、法律無視を繰り返してきた。
そして今回、安倍政権を継承し政権の意に沿わない官僚は排除すると公然と豪語している菅首相は、安倍政権以上の露骨さで学術の分野にまで触手を伸ばしてきた。

日本学術会議はその歴史と活動が示しているように、日本の学術を代表し、その科学者としての良心と倫理に基づき広く学問のあり方を点検し、「人類社会の共有資産としての科学の創造と推進に貢献する」(日本学術会議憲章第6項)重要な機関である。

私たちは、携帯電話料金値下げやGoToキャンペーンなどの大衆受けする政策で国民の支持拡大を狙う一方で、日本学術会議への政治介入という時の権力者の民主社会への挑戦を断じて許してはならない。

任命拒否の撤回を求めるネット署名は10月6日12万人を超え、全国各地・各方面から抗議の声がわき起こっている。この広範な世論の反対によって菅政権の反動的な動きを阻止しよう。

それは戦争に向かう道を明確に拒否することに通じる。

2020年10月6日

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