緊急警告038号         日本にとって真の国難とは

新聞各紙によると、2月17日午前の衆院予算委員会で、「桜を見る会」前夜の安倍首相支援者の夕食会について、立憲民主党の辻元清美衆院議員が調査の結果を紹介した。ANAインターナショナルコンチネンタルホテル東京に、「見積書や請求明細書を主催者側に発行しないケースがあったか」など問い合わせたところ、「ない。主催者には見積書や請求明細書を発行する。宛名が空欄のままの領収書は発行しない」といった回答を書面で受けたことが明らかになった。

午後の同委員会で安倍首相は、ホテル側の回答は「一般論で答えたもの」で自身の夕食会は例外扱いだったとの趣旨の反論をしたが、報道各社の取材にホテル側は、「一般論であっても、例外扱いはない」と再度回答した。首相の言い逃れはもう無理だ、と各紙は書く。

今から35年前、ロッキード事件の一審判決を受けて、衆参両院で議決した「政治倫理綱領」は5項目から成る。その第1と第4項目は次の通り。

第1「われわれは、国民の信頼に値するより高い倫理的義務に徹し、政治不信を招く公私混淆を断ち、清廉を持し、かりそめにも国民の非難を受けないよう政治腐敗の根絶と政治倫理の向上に努めなければならない」

第4「われわれは、政治倫理に反する事実があるとの疑惑をもたれた場合にはみずから真摯な態度をもつて疑惑を解明し、その責任を明らかにするよう努めなければならない」

昨年の10月、菅原一秀経済産業相と河井克行法相が公職選挙法違反疑惑で相次いで辞任した際、安倍首相は「政治家として自ら説明責任を果たすべきだ」と語った。その首相が、森友・加計問題や「桜を見る会」をめぐって常に詭弁と欺瞞に満ちた弁解に終始し、「自ら説明責任を果た」しているとはとうてい言えない。

ついで安倍首相は、さる2月27日、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐためとして、全国すべての小中高校などに、3月2日から春休みまで、一律に休校するよう要請した。この突然の発表が全国の児童、教職員、保護者や医療関係者に与えた衝撃は大きく、特に子どもを抱えて働く母親は困惑の極にある。

各種世論調査で政権支持率が急落し、検事の定年延長問題でも批判の渦中にある政権にとって、新型肺炎の出現は渡りに船、神風になるはずだった。現に一部の識者は「ある種の国難」として首相の方針に理解を示している。

しかし、2017年にも安倍首相は、森友学園問題などで支持率が記録的に下がったとき、北朝鮮の核・ミサイル実験をチャンスとばかりに危機感をあおり、「国難突破」を名目に衆院を解散、総選挙で圧勝した。選挙が終われば「国難」はシャボン玉のように消えた。

今回の発表も政権の浮揚策であることは見え透いている。前川喜平氏(現代教育行政研究会代表、元文部科学事務次官)は、「学校の臨時休業は国の権限ではない」(学校保健安全法 第二十条 学校の設置者は、感染症の予防上必要があるときは、臨時に、学校の全部又は一部の休業を行うことができる。)、「国がすべきことは、各自治体が最適の方策を見つけられるよう……正確で網羅的な情報を提供することだ。全校休校の号令より、万全の検査・治療体制を整えることこそ、国の最優先課題だろう」(『東京新聞』3月1日「本音のコラム」)と指摘している。

安倍首相は、この唐突な号令が国民に与えた不安と動揺の大きさに反応し、翌28日には「(この要請は)基本的な考え方として示した。各学校、地域で柔軟にご判断いただきたい」と前日の発言を大幅に後退させた。法律も、優先順位も、現場も理解しない政権であることが、また露呈したかっこうだ。

これを反面教師として、われわれは国の理不尽な指示に従う前に、まず各人が各所でしっかりと状況判断し、賢明な選択をしなければならない。国民は「教育を受ける権利」と「受けさせる義務」があるのだから(憲法26条)、学校は、一般家庭同等かそれ以上に、子どもの安全を守れる教育環境作りに知恵を絞ることが重要だ。島根、兵庫、群馬、栃木、岡山、沖縄の各県には、同調圧力に屈せず授業を続けている自治体もある。

そもそもこの新型感染症拡大は、安倍政権の杜撰な対応が招いた結果であり、経済も社会もいつ立ち直れるのか深刻な影響が続いている。しかし首相は真摯に謝罪するどころか、3月2日の参院予算委員会冒頭では、緊急事態宣言を発令できる法整備を早急に検討するよう呼びかけた。

これが、「国難騒動」の重要な狙いのひとつである。安倍首相が執着しているのは自衛隊の軍隊化と緊急事態発令の権能であるから、改憲を実現できなければ法整備で、というのが本音だろう。

(2020年3月5日)

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