緊急警告005号 日本政府、「ヘイトスピーチ」特別報告者の訪日延期も要請

 国連人権理事会の「ヘイトスピーチ(差別憎悪扇動表現)」問題特別報告者であるリタ・イザック氏は昨年(2015年)秋、日本政府に公式の訪日調査を求めたが、政府から「16年秋以降でないと調整が間に合わない」と断られたことが明らかになった。これは、緊急警告004号で指摘した、「表現の自由」特別報告者に対する訪日延期要請と同様、都合の悪い調査結果が参院選前に公表され、選挙に不利になるのを防ぐためには、国連機関の訪日調査受け入れ義務をも平然と無視するという、日本政府の独善的な体質を改めて示したものである。前号で指摘したのと同様、「国際法規の誠実遵守義務」(憲法98条2項)の精神に反するのみならず、ヘイトスピーチの蔓延によって、在日コリアンらマイノリティの人格権(13条)や平等権(14条)などが侵害されている状況を暗に認めたものである。
 イザック氏は2011年から国連理事会で「ヘイトスピーチ」問題特別報告者を務めており、昨年(2015年)3月には同理事会に「メディアにおける少数者に対するヘイトスピーチと憎悪扇動」と題する年次報告書を提出した。日本政府の訪日延期要請を受け、日本弁護士連合会の招きで今年1月23~26日の日程で来日したイザック氏は、同25日にシンポジウム「ヘイトスピーチと表現の自由」で講演した。イザック氏は日本政府に対し、引き続き訪日調査を受け入れるよう求めている。
日本については、2014年、国際人権B規約に基づく人権委員会と人種差別撤廃条約に基づく人種差別撤廃委員会がそれぞれ日本に対する総括所見を公表し、いずれも日本におけるヘイトスピーチの広がりに懸念を表明するとともに、法規制を含む対応強化を勧告している。
国際人権B規約は第19条で「表現の自由」を定めるとともに、第20条では民族的・人種的・宗教的憎悪の唱道を法律で禁止するよう求めており、マイノリティの尊厳を傷つけ、彼らの人格権や平等権を毀損するヘイトスピーチが「表現の自由」の埒外であることを明確に規定している。一方、人種差別撤廃条約は第4条で、締約国が、あらゆる形態の人種的憎悪及び人種差別を正当化もしくは助長する宣伝や行為を非難し、このような扇動または行為を根絶するため「迅速かつ積極的な措置をとる」ことを求めている。日本は1979年に国際人権B規約、95年に人種差別撤廃条約を批准しているが、未だに差別禁止の基本法もヘイトスピーチ規制法も制定しておらず、これらの条約上の義務に違反する状況が続いている。

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