2021年1月22日、核兵器の使用と実験による壊滅的被害を阻止する初の法規として「核兵器の禁止に関する条約」(核兵器禁止条約)が発効した。
条約前文では、「あらゆる核兵器の使用から生ずる壊滅的で非人道的な結末を深く憂慮し、したがって、いかなる場合にも核兵器が再び使用されないことを保証する唯一の方法として、核兵器を完全に廃絶することが必要であることを認識し」とし、核兵器の開発から実験、生産・製造、保有、他国からの取得、威嚇、使用までを全面的に禁止している。
条約は、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)を中心とした粘り強い活動により、2017年7月に国連で採択され、昨年10月に発効に必要な批准数50か国を満たし、この日の発効となった。
21年1月22日現在、世界52の国と地域が批准または加入している。さらに、署名は済ませたものの批准していない国と地域が34、国連での条約採択時に支持を表明したものの署名も批准もしていない国と地域が約40ある。一方で、批准していない国・地域への法的拘束力はなく、米ロなど核保有国は条約自体に反対している。
この条約について毎日新聞が2020年11月8日に発表した調査では「参加すべき」70%、「参加する必要ない」17%、「わからない」13%。また朝日新聞が11月14,15日に行った調査では「参加する方がよい」59%、「参加しない方がよい」25%、「その他・答えない」16%となっており、多数の国民がこの条約に賛同している。
これに対して菅義偉首相は21年1月22日、参議院本会議で「わが国の立場に照らし、条約に署名する考えはない」と明言、「核兵器のない世界を実現するためには、現に核兵器を保有する国を巻き込んで核軍縮を進めることが不可欠」と強調し、核兵器国と非核兵器国との「橋渡しに努める決意だ」と語ったが、これらが口先だけの欺瞞であることは、容易に看破できる。
世界で唯一の被爆国民の悲願に背反する日本政府の態度は、「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意」(日本国憲法前文)に違反している。
現衆議院議員の任期は今年10月21日までで、今から8カ月以内に必ず総選挙が行われる。この機に、核兵器禁止条約への賛否を選挙の重要な課題の一つとし、保革を問わず、与野党を問わず連携し、非人道的な核兵器に固執する少数派の思惑を浮かび上がらせようではないか。
このたび、核兵器を巡る国際情勢を調べているNPO法人「ピースデポ」(横浜市)は、日本反核法律家協会など20団体の賛同を得て「北東アジア非核地帯構想」を菅首相に提出した(東京新聞2月3日付)。
この構想は、日本と韓国、北朝鮮の3国が核開発などを禁止し、米国、中国、ロシアがこの3国に核攻撃や威嚇を行わないと約束するものであり、日本が米国の「核の傘」から離脱し、核兵器禁止条約に参加する具体策として注目される。
しかし、まずは日本国自身が、たとえ米国の「核の傘」の下にあろうとも、唯一の被爆国として、被爆者の悲願でもあり大多数の国民の願いでもある核兵器禁止条約に署名し批准することが先決であろう。そして改めて、遅れをとった核兵器全面禁止運動の先頭に立つべきである。それでこそわれわれは、憲法前文が掲げる国際社会における「名誉ある地位」を占めることができるのである。
全世界の核兵器絶対悪・全面禁止運動の高まりの中でこそ、日本国民の意識が変革され、米国の「核の傘」を脱することが可能となる。
偶発的にもせよ、北東アジアで核戦争が勃発すれば、小さな島国・日本は壊滅する。たとえ米軍が核による反撃をしたところで、すでに壊滅したわが日本国民にとって何の役にも立たない。
われわれは、このリアルな現実をこそ、直視しなければならない。そしてこの厳しい現実から目をそらさせ、曇らせ、米国の「核の傘」が不可欠だと思い込ませ、人類の悲願ともいうべき核兵器全面禁止条約に反対しているのが、現現在の日本政府なのである。
日本政府・菅政権は、見せかけの「橋渡し役」を演じることを止め、ただちに核兵器禁止条約に参加すべきである。
(2021年2月4日)