特措法・感染症法改正で支援策を具体化し、罰則は削除せよ
1月18日にようやく開会した通常国会で、就任以来初めて菅首相が施政方針演説を行った。焦点である新型コロナ対策については、「安心」を強調し、「国民の命と健康を守り抜く。まずは『安心』を取り戻すため、(中略)新型コロナウィルス感染症を一日も早く収束させます」と言い切った。
GoToキャンペーンを早く中止すべきだ」、「緊急事態宣言を早く出すべきだ」といった専門家意見や国民世論を無視して、年末ぎりぎりまでGoToキャンペーンを中止しようとせず、国民に間違った「安心」を植え付けたことが大晦日の大量感染者発生を招き、首都圏4知事の要請で止む無く正月明けに緊急事態宣言に至るという、後手後手の政策判断を繰り返した張本人の無神経な発言であった。
さらに菅首相は、特措法の改正にも触れ、「新型インフルエンザ特別措置法を改正し、『罰則』や『支援』に関して規定し、飲食店の時間短縮の実効性を高めます」と述べた。法の実効性を高めるために「罰則」を「支援」の前に置く表現スタイルは、持論である「自助・共助・公助」を説く菅首相の頭の中にある優先順位そのままに、公助での「支援」は二の次なのである。
1月22日閣議決定され、今国会に提出された特措法と感染症法改正の政府・与党案は、いずれも厚労大臣や知事の権限を強くし、罰則で実効性を高めようとするもので、過去の感染症対策の教訓も踏まえず、感染症拡大防止の観点からも妥当性を欠くものであり、かつ、国民の基本的人権を不当に侵害するものとなっており、容認できないものである。
〇特措法の主な改正事項は、次の通り。
- 緊急事態宣言前に「まん延防止等重点措置」を設け、都道府県知事が時短営業等の要請ができ、応じない場合は立入検査、命令ができ、命令に従わない場合は30万円以下の過料(行政罰で前科のつかない金銭罰、以下同じ
- 緊急事態宣言時に時短営業などの要請に従わない場合は50万円以下の過料
- 知事の要請に応じた事業者への支援の義務化
〇感染症法の主な改正事項は、次の通り。
- 知事などが宿泊療養等を要請し、応じない場合は入院勧告、それでも応じない場合は1年以下の懲役または100万円以下の罰金(前科がつく刑罰、以下同じ)
- 保健所の調査に対して、虚偽申告や調査拒否した場合50万円以下の罰金
- 厚労大臣や知事が医療機関に必要な協力を求めることができ、正当な理由なく応じなかった場合には勧告し、従わなかった場合は医療機関名を公表
こうした改悪法案に対して、立憲民主党など野党が、「刑事罰を削除せよ」として反対しているのは当然である。
特措法改正において最も必要なのは、支援策の具体化である。十分な支援や補償があれば、個人や事業者は罰則がなくとも法に従い、実効性は格段に向上するはずである。政府・与党案は、罰則ばかりが目立ち、何ら具体的支援策が示されていない。
感染症法改正において最も必要なのは、入院病床の拡充である。1月になって検査も入院もできずに、自宅で亡くなる方が増えているのは、病床が圧倒的に不足しているからに他ならない。こうした状況下で、入院拒否者への刑事罰など論外である。刑事罰を逃れるために検査忌避者が増え、感染拡大を誘発する恐れの方が大きいのではないか。
また、ハンセン病患者を強制隔離に追い込んだ「らい予防法」の悪しき教訓もあり、刑事罰付きの強制入院措置は、憲法第18条「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。又、犯罪に因る処罰の場合を除いては、その意に反する苦役に服させられない。」に抵触する恐れがあり、認めてはならない。
そもそも冬季に感染拡大することは分っていたことであり、5月以降の安倍政権から続く現政権がリスク管理を怠り、何も策を講じなかったがための現在の結果であることを、現政権は真摯に反省すべきである。そして速やかに、提出した法案から罰則規定を削除し(特に刑罰)、個人や事業者への具体的な支援策や補償を明記して、感染防止対策を実効あるものとしなければならない。
(2021年1月27日)