緊急警告053号 「重要土地利用規制法」の乱用を許すな

 「この土地・建物は米軍辺野古基地建設反対運動の拠点になっている可能性があるので、施設の所有者や利用者の個人情報や利用状況を調査し、利用を制限する」

 こんなことが堂々とできるような危険性のある法律が、今国会で自公与党と一部野党によって強行成立させられた。

「重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律」(以下「重要土地利用規制法」)がその法律で、会期最終日の6月16日に参議院で可決・成立した。

 この法律の目的は、安全保障上の観点から、自衛隊・米軍基地等の防衛関連施設、海上保安庁の施設、国境離島、更には生活関連施設で、その機能が阻害されることにより国民の生命・身体や財産に被害を及ぼす可能性のある行為を防止するため、当該施設からおおむね1,000メートルの範囲を注視区域又は特別注視区域に指定し、土地・建物の権利関係や利用状況について政府が調査できるというものである。そして、政府が機能を阻害すると判断した場合は、罰則をもって利用制限を強制する内容となっている。区域指定や具体的な阻害行為、利用制限命令などの詳細は国会質疑では何ら明らかにされず、内閣総理大臣が「審議会」に意見を聞いて決めていくとしている。しかし「審議会」なるものは、通常政府の追従機関に過ぎず、原則として政府がフリーハンドでこの法律を根拠に政令をつくることができ、憲法の保障する国民の思想・良心の自由、表現の自由、プライバシー権、財産権、居住・移転の自由などを侵害する危険性が高い。

 米軍基地が集中する沖縄については、全島が国境離島や防衛関連施設の注視区域に含まれる可能性がある。冒頭に記したような、反基地運動をしている人々の利用する施設も対象となり、政府が気に入らないデモ行動を抑止することも可能となる。反原発の住民運動などもその対象とされるであろう。更に言えば、「憲法を武器として」闘った「恵庭事件*1」の酪農家野崎兄弟による自衛隊基地の通信線切断行為は、この法律で裁かれれば自衛隊の機能阻害と解釈され、有罪になってしまうのではないか。

 そもそも当法案が提出された端緒は、対馬などで外国人や外国資本が土地を購入するなどの例が見られ、政府有識者会議が昨年末、安全保障上問題がある旨政府に提言したからであるが、実際に阻害行為が発生している事例はない。しかし、政府はこの提言を好機と捉え、日本国民の基本的人権制限まで盛り込む法案となったのである。

事例がないため、即ち、立法の根拠となる「立法事実」を欠いているため、法律の条文は極めてあいまいであり、国会質疑でも「国民の生命・身体や財産に関わる生活関連施設は何か」との質問に、「現時点では原子力施設だけ」との回答で、今後他の公安施設やライフラインに拡大する可能性も十分にある。閣議決定の政令にすべてをゆだねる極めて危険な法律である。

 安倍政権は、かつて集団的自衛権の法解釈を閣議決定で変更し、憲法違反の安保法制を強行採決したが、菅政権もまた、閣議決定で国民の基本的人権を制限できるような法案を提出し、成立させた。

憲法の根幹をなす「平和主義」「国民主権」「基本的人権」に関わる重要法案を、閣議決定で如何様にも解釈できる政令や内閣府令にゆだねるということは、国権の最高機関である立法府としての国会を形骸化させ、行政府の独裁を招くものである。これはまさに、自民党「改憲4項目」の一つである「緊急事態条項」の一部先取りと言わなければならない。

 国会と国民は、同法の廃止を見据え運用状況を厳しく監視し、乱用を許してはならない。

*1.恵庭事件:1962年、北海道恵庭町の陸上自衛隊島松演習場の隣接地で酪農を営んでいた野崎兄弟が、自衛隊訓練の騒音で牛乳生産量の落ち込みや家族の体調不良が発生したため、何度も抗議し、訓練の事前連絡の確約を得たが、約束は守られず改善されなかったことから、ついには演習場の通信線切断をした事件。この行為に対して検察は自衛隊法を根拠に起訴。裁判は憲法問題に発展したが、札幌地裁判決は憲法には触れずに「肩透かし判決」と言われたものの、通信線が自衛隊法に定める「その他防衛に供する物」には当たらないとして1967年に無罪を言い渡し確定した。野崎兄弟は、日本国憲法第12条「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」を頭に叩き込み、裁判を闘ったと言われている。(詳細は当会冊子シリーズ11号・「日本国憲法の司法」を参照)

(2021年6月16日)

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