(弁護士 後藤富士子)
1 次期天皇になる皇太子は、美智子皇后が定めた「なるちゃん憲法」を指針として育てられた(と記憶している)。多才な美智子皇后は、オリジナル子守唄まで作って歌っていたという。その「なるちゃん」が天皇になるのだ。
考えてみれば(考えるまでもなく)、次期天皇は、戦後生まれの最初の天皇である。彼は、生まれたときから日本国憲法の下ですごしてきた。彼が天皇になってからも、この憲法がますます輝くことを願わずにはいられない。
ところが、下村博文・自民党憲法改正推進本部長は、3月5日、国会内の会合で「新たな御世(みよ)に。新たな国家ビジョン」と題して改憲について講演し、5月の新元号の施行など天皇代替わりにあわせて改憲論議を盛り上げるよう呼びかけた、という(3月6日赤旗)。全くアベコベ、転倒、逆立ちというほかない。
2 去る2月24日、政府主催の「天皇陛下在位30年記念式典」が国立劇場で開かれた。その「おことば」では、象徴天皇の道が如何に険しく難しいかが語られ、美智子皇后の一首を引用して胸中が吐露された。それは「ともどもに平らけき代を築かむと 諸人のことば国うちに充つ」であった。閉会に際して、安倍首相は「天皇陛下万歳」の音頭を取って三唱した。NHKテレビで映し出された天皇の顔は苦渋に満ち、かたわらの皇后はうつむいたままだったという(週刊金曜日3月8日号矢崎泰久「下段倶楽部」)。
平和憲法を守ろうとする象徴天皇と改憲政権の、この冷徹な「亀裂」。「なるちゃん天皇」が改憲勢力に政治利用されないように、主権者である国民は肝に銘じよう。
それには、国歌「君が代」を「民が代」に歌詞を変更することである。「御世」だの「君が代」だのというのは、象徴天皇制にそぐわない。「民が代」なら、天皇自身が気分よく国歌を歌えるはずだ。新元号も、こうした空気を反映したものにしてほしい。
3 「天皇制」をめぐっては、左右の改憲論が賑々しい。右派の改憲論は時代錯誤であり、戦後生まれの天皇が続く中で力を失っていくはずだ。
それに比べ、左派の「天皇制廃止」論は、「護憲」の立場からすると、あまりにも有害である。左派は、政治的リアリズムと法的プラグマティズムに欠けている。それでは、「護憲」は不可能というほかない。
〔2019・3・8〕