完全護憲の会ニュース No.37 2017年1月15日

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       目次 ① 第36回 例会の報告            1p
          ② 第33回 編集委員会の報告         2p
          ③ 当面の日程について            3p
          ④ 別紙1 政治現況報告           3p
          ⑤ 別紙2 事務局報告            4p
          ⑥ 別紙3 天皇の「生前退位」問題      5p

          第36回 例会の報告

昨年12月25日(日)、港区・三田いきいきプラザ集会室で第36回例会を開催、参加者9名。入会者 計56名。
 司会を草野編集委員長が担当し、右膝下切断の大手術を受けた岡部共同代表の病状報告があったのち、政治現況報告(別紙1)が代読され、事務局報告(別紙2)を福田共同代表が行った。
ついで次のような意見が交わされた。
「米国には女性蔑視の風潮が残っており、さきには民主党大統領候補でヒラリー女史がオバマ氏に破れ、今回もヒラリー候補がトランプ候補に負ける予想もあった」「家計の財布を握っているのは日本の主婦だけで、諸外国ではみな夫が持っている。だから海外のデパートは男の趣味を重視している」「12月の『政治現況報告』に『中国共産党政府は、東太平洋で強大な軍事力を持つにいたった』とあるが、疑問だ。中国脅威論が振りまかれている」「軍事力とは装備のことだろうが、それを裏付けるデータがほしい」「戦争になると日本の若者は戦争意欲がないから勝てないだろう。装備だけの問題ではない」「自衛隊員の戦意は高いとの意見もある」「南スーダンへの武器禁輸案に日本がなぜ賛成しなかったのか、理解できない」。
 ついでニュース前号に記載された和田伸氏と大西編集委員のコメントを巡り、「天皇の生前退位表明を違憲とすることで、最左翼と最右翼は一致している」「天皇にも、制限されているものの人権はある。今回の意向表明は、政治に関与しないぎりぎりの許容範囲だ」「天皇が国民に親しく接しているのを現政権は嫌っている」「天皇と組んで護憲活動をすべきだ」などの意見があった。
その後、総会の議案とされる編集委員会を運営・編集委員会と改称することについては、賛成の意見が多かった。また、現共同代表2名に1名追加することについては、現行2名案に賛成が多かった。
なお、「天皇の『生前退位』問題――護憲派は積極的な関与を」<別紙3>が資料として配付された。

      第32回 編集委員会の報告

  2017年1月9日(月)13時30分~17時00分 三田・会員事務所で開催
 出席者は大西、草野、福田。
 
1.事務局報告として福田共同代表より下記3点の経過報告があった。
1)岡部共同代表の術後の経過は順調の様子。次の年賀状をいただいた。

謹賀新年
終活も 少し交えて 年用意

安倍政権の戦前回帰、平和憲法九条改正の動きに危機感を感じ、まる三年前の暮れ、「完全護憲の会」を有志で立ち上げてから、毎月例会を開いて安倍首相の違憲ぶりを指摘しながら、三回のパンフレットを出版。平和護憲活動を続けてきました。
首相は、九条改憲を公言し、日本戦後の専守防衛を集団的自衛権を可能にする安保法制の改正を、公明党と自民党の強行採決で実現しました。
また、オバマ米政を助け、世界中どこへでも自衛隊を派遣する事を決めました。この動きは、今年トランプ政権の成立で更に強まりそうです。
なお昨年、長女万里子が急逝しましたが、さる十一日に一年祭の法要を行いました。遺族一同元気にやっています。

二〇一七年 元旦 岡部太郎

 2)「村山首相談話の会」が12月28日、千鳥ヶ淵戦没者墓苑においてアジアに及ぼした被害も含めた全戦没者への追悼の献花を行った。福田がこの式典に参列した。これは安倍首相がオバマ大統領とともに真珠湾の犠牲者に献花を行ったことに対応した取り組み。
 3)リーフレット第2集の発行に対して、年末・年始を通じて冊子代とカンパが寄せられた。

2.ニュース37号案(12月例会報告)について検討を行った。
3.第3回総会、第37回例会・勉強会について
 1)第3回総会提出議案を以下の6本とすることを確認
①第1号議案 2016年度活動経過報告
②第2号議案 2016年度決算報告
③第3号議案 会計監査報告
④第4号議案 会則7条の改定と編集委員会の名称変更について
⑤第5号議案 2017年度活動計画について
⑥第6号議案 新役員選出
 2)第1号議案について
  ・原案を検討した結果、いくつかの修正を加えて議案とすることを確認。
 3)第2号議案について
  ・決算報告案が年末ぎりぎりに振り込まれた誌代・カンパが含まれていなかったことから、この金額を加えて議案とすることを確認。
 4)第3号議案について
  ・事務局が会計監査のKN氏と日程調整中。監査の承認を得て議案とすることを確認。
 5)第4号議案について
  ・編集委員会の名称変更については「運営・編集委員会」とすることで一致できたが、関連して会則まで改定する必要があるかについて議論。結果、会則第7条について改定提案することを確認。
 6)第5号議案について
  ・原案を検討した結果、いくつかの修正を加えて議案とすることを確認。
 7)第6号議案について
  ・野村共同代表の辞任に伴い、共同代表が2名となるが補充はせず、岡部、福田の留任とする。
  ・事務局及び運営・編集委員については現体制を継続し、新たに2氏の参加を要請する。
  ・会計監査については、KN氏に再任を要請する。
  ・役員については議案に候補者を明示するが、当日の出席者で立候補表明があれば、それも加えることを確認。

4.緊急警告017号(天皇の「生前退位」に特例法は憲法違反!)に対する和田伸氏の批判意見書について検討
① 編集委員会としての見解をまとめたいとのことで、草野がその素案(別紙)を提示。
② 大筋で合意できたが、和田氏による天皇の「公的行為」違憲論に対して草野が憲法論としては同意できるとしたことに、福田、大西が異論。「国政に関しない天皇の『公的行為』はあり得るし、それは合憲ではないか」と主張。約1時間余にわたって議論したが一致をみなかった。
③ よって、編集委員会としての統一見解は当面見送り、棚上げとすることとなった。

          当面の日程について

 1)第3回総会・例会 1月29日(日)13:30~ 三田いきいきプラザ
 2)第34回編集委員会 2月1日(水)14:00~ 三田いきいきプラザ
 3)第38回例会 2月26日(日)13:30~ 三田いきいきプラザ
 4)第35回編集委員会 3月1日(水)14:00~ 三田いきいきプラザ
 5)第39回例会 3月26日(日)13:30~ 三田いきいきプラザ
 6)第36回編集委員会 3月29日(水)14:00~ 三田いきいきプラザ

<別紙 1>
         政治現況報告    2016年12月25日

             岡部太郎共同代表(元東京新聞政治部長)
      
  新春における世界政治の難かしい展望
         
 2016年(平成28年)から2017年(平成29年)の世界平和で一番の変化といえば、結局アメリカ第45代大統領選で共和党候補ドナルド・トランプ氏(70歳)の、民主党候補ヒラリー・クリントン氏(69歳)を倒しての圧勝を挙げなければなるまい。クリントン氏は初の米女性大統領を目指していた。言いたい放題のトランプ氏は、結局は世界の若者の右傾化の流れに乗ったといえるだろう。
 トランプ新大統領は新年早々には組閣を終え、就任式の1月20日後には外交教書、大統領教書を発表することになろう。
 第2次大戦後、長らく続いた米国の世界の警察官としての統治は終わることになる。もちろん戦後70年の平和秩序は戦勝5ヵ国による国際連合によって守られていた。中華民国が中華人民共和国、ソヴィエト連邦共和国がロシア連邦に変わっているだけだ。
 ただ当時の米ソ2大強国は、戦後の経済発展で、日本・ドイツの経済大国より下回っている。現在のヨーロッパでは仏独が政治統合を果たしEUという一大経済圏を実現した。EUに参加した英国は先日、国民投票で反対、まず脱落している。
 中国は太平洋でアメリカに対抗する一大経済圏を東アジア諸国と構築中で、米国と中国の張り合いが続いている。
 朝鮮戦争からベトナム戦争の結果、まずソ連邦が各共和国に分裂、ついで米国が軍事力を失った。この間、ベルリン東西の壁が崩壊、一方で中国共産党政府は、東太平洋で強大な軍事力を持つにいたった。
 他方、ヨーロッパはその経済力を強化し、欧州だけの共同経済圏を樹立し、27ヵ国が結束して経済だけでなく政治から言語まで強固な統一組織が完成しつつあった。しかし昨年、英国が、EUからの脱退の可否を問う国民投票で、世界的な予想に反して、若者を中心に離脱派が上回った。これをきっかけに、米国のトランプ大統領選出の番狂わせがあり、欧米から政治情勢が大きく崩れてきている。これをどう収拾するのか、非常に困難だ。トランプは反イスラム、反メキシコなどと、従来の世界外交を壊そうとしている。また経済でもアメリカ一国集中に方向転換する構えを見せている。
 最も問題の大きいのは、太平洋での中国に対する米国外交であるが、これが日本・韓国・極東地域に大きな変化をもたらすのは確実だ。
 トランプ・安倍の日米会談が11月17日に行われたが、本格化はこれからだ。ただこの2人は似ており上手くいくかもしれない。また安倍首相が12月15日故郷山口で日ロ首脳会談、まだ未成立の日ロ平和条約を北方領土の解決と共に完成したいとしているが、実際に領土問題がそう簡単に進むとは思われない。
 いまのところ、自民党安倍一強の日本政治も今後どう変わるのか、色々な問題がある。
 まずその1年目、平成29年の政局が注目される。

<別紙 2>
        第36回例会 事務局報告

             福田玲三(事務局) 2016.12.25

1)岡部太郎共同代表の手術

 岡部共同代表は12月6日、右脚の手術を終え、病床で左脚のリハビリを開始。新聞を取り寄せて閲覧。12月例会あて「政治現況報告」が自筆半分、代筆半分で届けられた。要介護5級が認定され、自宅のバリアフリー工事が終わる1月中頃、退院の予定。
 会員一同、順調なご回復を切に願っています。

2)リーフレット2『戦前の悪夢・戦争への急カーブ――政治現況報告集』
 
11月30日 14:00~21:00、三田いきいきプラザ、ついで会員事務所でリーフレット2の校正(大西、草野、福田)。
12月6日 15:00~21:00、会員事務所、リーフレットに岡部共同代表略歴、略年表など加筆、校正(大西、草野、福田)。
12月9日 最終校正作業
12月16日リーフレット2の納本(500部)、配付。
 
3)第3回総会(1月29日)の準備
 
① 会計報告
② 経過報告
③ 組織整備……編集委員会を「運営・編集委員会」に改名案
④ 共同代表補充……現2名に1名を補充案
⑤ 活動計画案……文集の発行
  『明治憲法下の哀れな国民――自民党改憲草案がめざすもの』(仮)
「私と憲法――三従の教え」
「死を奨励した異常な社会――露営の歌」
「天皇の『生前退位』問題――護憲派は積極的な関与を」
「布施杜人――人間を解体する治安維持法」
    濱口国雄「地獄の話」(西部ニューギニアにおける戦場を画いた400行近い長詩)
<資料> 大日本帝国憲法、教育勅語、軍人勅諭、戦陣訓
           
4)集会の案内

① 平和創造研究会、第3回平和学習会
 1月15日(日)14:00~16:30 東京ボランティア・市民活動センター会議室C
(セントラルプラザ10階 JR飯田橋駅西口 地下鉄飯田橋駅B2b出口)
資料代 200円
  日中戦争はなぜ起きたのか……長坂伝八(法政二高元教員)
② 竹内景助氏の獄死から50年、三鷹事件再審開始を求める集い
 1月18日(水)18:30~ 武蔵野スイングホール(JR武蔵境駅北口2分)
      参加費 500円
③『週刊金曜日』東京南部読者会
 1月20日(金)18:00~20:00 大田区生活センター第6集会室(JR蒲田駅徒歩5分)
④労働運動研究所、研究会
 2月4日(土)14:00~16:00 大阪経済法科大学セミナーハウス6階B会議室
     象徴天皇制の行方ー戦後憲法体制と天皇制
     報告者:伊藤晃氏(日本近代史研究、元千葉工大教授)

<別紙 3>

   天皇の「生前退位」問題 護憲派は積極的な関与を

                   草野好文

天皇の切なる想い
 現天皇が8月8日、「生前退位」の意向をにじませる「お言葉」を表明した。
 「お言葉」は、日本国憲法第4条が定める「天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない」という規定に抵触しないよう、慎重に言葉を選びつつ、ご自身が高齢化によって象徴としての務めを十分に果たせなくなっていることにふれ、この先も「皇室が国民と共にあり、相たずさえてこの国の未来を築いていけるよう、そして象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくことをひとえに念じ」ていると述べたのである。(天皇のこの発言をめぐっては、象徴天皇として許されない政治的発言であり憲法違反だ、との見解があるが、私は許容範囲と考える。)
 現憲法が定める「日本国の象徴であり日本国民統合の象徴」としての象徴天皇像を自らの行いを通じてつくりあげてきた、そしてこの天皇像を次世代の後継者にも引き継ぎたいとの想いのこもったものであった。
 その意味で「お言葉」は、現憲法が定める象徴天皇制の継続こそが皇室の存続と国民の幸福をもたらすものだとの切なる願いがこめられたものであったし、現日本国憲法を擁護するものであったと言えよう。天皇の元首化と改憲をもくろむ安倍自民党政権の現憲法敵視・改憲志向とくらべたとき、天皇の現憲法尊重・擁護の姿勢は鮮明である。
 この「お言葉」を受けて、国民の大多数が敬愛の念を込めて「生前退位」を肯定的に受け止めた。各紙の世論調査によれば、国民の約8割が「生前退位」を認めるべきだと回答したのである。
 しかしながら、天皇の主観的思いとしての憲法擁護姿勢はまぎれもないとしても、現天皇が「象徴的行為」としての「公的行為」を拡大してきたことは、国民の共感と支持として結実したとは言え、「象徴」としての枠を超えて政治的影響力を発揮しかねない危うさもある。同時に、この拡大する「公的行為」に対して内閣が関与し責任を持つということは、内閣が天皇を政治利用する危険性も増大する可能性があることを押さえておかなければならない。
 もともと、この「公的行為」をめぐっては憲法違反との学説もあり、天皇が「公務」として行う仕事は憲法第4条、第7条が定める「国事行為」のみなのであり、「第三の行為」(私的行為以外の)としての「公的行為」などはあり得ないとするものである。
 九州大学横田耕一名誉教授(憲法学)は「憲法の規定に忠実であるならば、事実行為を含む象徴としての天皇の公的な形式的・儀礼的行為を憲法の定める一二(ないし一三)の行為に限っているので、「第三の行為」などあり得ず、天皇の『公務』は『国事行為』だけである」(『世界』2016年9月号)としている。
 これは憲法を素直に読めば当然の結論と思われるのだが、学界、法曹界、政府見解含めて、象徴としての天皇の行為には国事行為と私的行為以外に、その象徴としての立場上、私的行為とは言えない公的な仕事があり、これを「公的行為」として合憲とする説が多数を占めているとのこと。
 これは自衛隊合憲論と似たところがあり、既成事実の積み重ねの結果もたらされたものとも言える。

安倍政権の冷たい対応
 安倍政権は現天皇の「生前退位」意向表明を受けて、「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」(座長=今井敬経団連名誉会長、御厨貴東大名誉教授ら6人)を設置した。
 「有識者会議」は初会合で、女性・女系天皇の是非などは議論のテーマとしない方針を早々と決め、「今生陛下の公務の負担軽減に絞って議論する」(菅官房長官)とし、第2回会合では新たに16人の「専門家」からのヒアリングを行うことを決めた。
 有識者会議の構成にも問題があるが、選定された「専門家」の顔ぶれの多くは、歴史学者の大原康男・国学院大学名誉教授、憲法学者の百地章・国士舘大院客員教授(ともに日本会議政策委員)など、日本会議系の学者や櫻井よしこ氏ら右派論壇を賑わせている人物が多数を占めるものであった。この専門家の選定には安倍首相の強い意向が反映されたとのことである。
 「有識者会議」の構成と役割の限定、「専門家」16人の選定からも明らかなように、安倍政権の「生前退位」に対する対応は、現天皇の象徴としての安定的な皇位継承を願う切なる想いに対しては冷たいものであった。
 現天皇の「生前退位」意向表明は、改憲によって天皇の元首化(自民党改憲草案に明記)と神格化をめざす安倍政権にとっては実に忌々しいものであったのだ。それゆえ、現天皇一代に限っての特例として「生前退位」を可能とする特例法(特別法、特措法とも表現されている)を制定しようとしているのである。
 「有識者会議」の設置も「専門家」からのヒアリングも、安倍政権の既定路線を補強するための隠れ蓑にすぎないと言えよう。だが、この特例法(特別法、特措法)による皇位継承は、明白な憲法違反と言わなければならない(著名な憲法学者の長谷部恭男(※1)早大大学院教授や今回のヒアリング対象者となった高橋和之(※2)東大名誉教授らが合憲との判断を示しているが)。
 なぜなら、憲法第2条は「皇位は、世襲のものであって、国会で議決した皇室典範の定めるところにより、これを継承する」と規定しているからである。「生前退位」とは即「皇位継承」問題なのであり、皇室典範を改正して「生前退位」を正式に認める以外にないのである。一部報道によると、この憲法違反を回避するために、皇室典範の附則に「特別な場合」に限定して「生前退位」を可能とする文言を付加してしのごうとしているとの報もあるが、このような姑息なやり方は許されない。
  ※1 「皇室典範の定めるルールによって継承順位は自動的に決まると言っているだけですので、退位について特別法という可能性はないわけではない」(『世界』2016年10月号)
  ※2 「天皇制自体が身分制に基づく点で憲法上の一般原則の例外であり、世襲制は事実上特定集団を対象としているのであるから、天皇制の中に一般原則を持ち込むことは憲法の想定していな
     いことというべきであろう。したがって、特例法により対応することが憲法に違反するとまではいえない」(『世界』同) ⇒目次
 
天皇の意向を無視し続けた安倍政権
 今回のビデオメッセージによる「生前退位」を強くにじませた意向表明は、現天皇にとっては、もはや残された時間がない、との危機感のあらわれであったのだと思う。
 もちろん、天皇の意向を指示として受け止め、これをすぐさま法制化するとなれば、憲法第4条「天皇は、この憲法の定める国事に関する行為のみを行ひ、国政に関する権能を有しない」に抵触するのであるから、安倍政権が天皇の意向を冷たくあしらい、無視してきたとしても、それ自体は憲法違反でもなく、あり得ることである。
 問題は、天皇の意向を冷たくあしらい無視してきたことの理由にある。それは天皇があまりにも現憲法を擁護し、憲法に即した象徴天皇制を体現し、将来においてもこれを継続しようとしてきたからである。これは現憲法を否定し、天皇の元首化と神格化をはかり、戦前回帰の明治憲法体制に回帰しようとする安倍政権には容認できないからである。
 8月のビデオメッセージに先立つ7月、NHKが「天皇陛下が『生前退位』の意向」とのニュース報道をした時、安倍内閣の菅官房長官は怒りもあらわに、ただちにこの事実を否定したが、その後、「5月以降、天皇の意向を受けた宮内庁幹部たちが水面下で検討を進めていた」との報道が各紙でなされことからして、この動きを全く知らされていなかったなどということはあり得ない。天皇が昨年の誕生日記者会見で「年齢というものを感じることも多くなり、行事の時に間違えることもありました」と述べられたことも含めて考えると、おそらく天皇の意向はもっと以前から官邸に伝えられていたはずである。
 NHKの報道は、天皇の意向を伝えられながら、これを無視するかたちで先延ばししている安倍官邸に対する関係筋のリークと推測できる。そしてこれが引き金となって、8月のビデオメッセージが実現したと言えよう。 ⇒目次

「生前退位」に反対する右翼保守派
 7月NHK報道、さらには8月ビデオメッセージ以降、天皇の「生前退位」をめぐって右翼保守派から反対論が噴出している。
 安倍政権を支える日本会議の副会長・小堀桂一郎氏(東大名誉教授)は天皇の「生前退位」について、「天皇の生前後退位を可とする如き前例を今敢えて作る事は、事実上の国体の破壊に繋がるのではないかとの危惧は深刻である」(産経新聞7月16日)と発言。
 「有識者会議」が選定した16人の一人である平川祐弘東大名誉教授(日本会議が主導する「美しい日本の憲法をつくる国民の会」代表発起人)は第1回ヒアリング後の記者取材に「ご自身で拡大解釈した役割を果たせなくなるといけないから元気なうちに皇位を退き、次に引き継ぎたいというのは異例のご発言だ。……退位せずとも高齢化への対処は可能で、摂政を設けるのがよい」(朝日新聞11月8日)と天皇が自らその可能性を否定した摂政について言及した。
 同じく16人のメンバーの一人である大原康男国学院大名誉教授(日本会議政策委員会代表)は「お一人の天皇が終身、その地位にいることにより、日本社会が保たれる」(「朝日」11月8日)として「生前退位」に反対を表明。
 同じく櫻井よしこ氏(「美しい日本の憲法をつくる国民の会」共同代表)は「譲位には賛成いたしかねる。……摂政を置かれるべき」(「朝日」11月15日)と述べた。
 同じく渡部昇一上智大名誉教授も「皇太子殿下を摂政として、代わりに公務に出ていただければ何の心配もない」(「朝日」11月15日)と発言。
 第3回のヒアリングをうけた八木秀次麗澤大教授(「新しい歴史教科書をつくる会」元会長)は「一代限りの特例法であっても、……皇位の安定性を一気に揺るがし、皇室制度の存立が危うくなる」(「朝日」12月1日)と表明した。
 この他、笠原英彦慶大名誉教授、今谷明帝京大特任教授も同様の発言を行っており、ヒアリング対象者16人中7人が「生前退位」に反対を表明したのである。国民の約8割が「生前退位」を肯定していることと比較すると、「有識者会議」の16人の人選がいかに偏ったものであったかがわかる。しかもその反対理由が現憲法下の「象徴天皇」像とは言い難い、「国体の破壊」などという表現に見られるように、明治憲法下の神格化された現人神的天皇像をベースにしていることが垣間見えるのである。
 このような日本会議系学者や一部右派論者の見解には、同じ右翼保守派の中からも強烈な批判が浴びせられており、深刻な対立が生み出されている。
 小林よしのり氏などは、「政府は速やかに皇室典範を改正し、陛下のご意向を叶えてあげてほしい。それが常識ある国民の願いなのだから」(『週刊ポスト』8月19・26日合併号)とした上で、「自称保守派の者たちは、82歳の天皇の『退位』の自由すら妨害しようとしてるではないか! 彼らは天皇陛下を敬愛してはいない! 天皇の『自由意志』を封殺したがる」として激烈な批判を展開している。
 それゆえ、日本会議系論者の見解は、象徴天皇制を維持しようとするまともな保守派の見解とは大きな亀裂があり、対立が潜在していると考えられる。 ⇒目次

皇室典範改正にあたってなすべきこと
 皇室典範の改正にあたっては、附則での一代限りなどではなく、本則において天皇の「生前退位」を正式に認める改正をなすべきである。
その上で、皇室典範第1条が「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」としているが、女性に皇位継承権を認めない、このようなあからさまな男女平等に反する女性差別は明白な憲法違反であり、直ちに改正しなければならない。
 憲法第14条は「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において差別されない」としているのであるから、憲法の下位にある法律である「皇室典範」は当然にこの規定に反してはならないからである。男女にかかわらず皇位継承権を認め、女性天皇を認めなければならない。
 なお、天皇という特別な存在や皇位の世襲に関しては憲法第1条、第2条に定めがあるため、第14条に優先する。
 さらに、男系男子に限定することによる皇位継承者の減少は、皇室の存続の危機をももたらす。
 小泉政権時代に設置された「皇室典範に関する有識者会議」は、皇位継承やそれに関連する制度について2005年(平成17年)1月より17回の会合を開き、同年11月24日には皇位継承について女性天皇・女系天皇の容認、長子優先を柱とした報告書を提出した。
 だが、当時内閣官房長官であった安倍氏は、有識者会議が「男系維持の方策に関してはほとんど検討もせず、当事者であるご意見にも耳を貸さずに拙速に議論を進めた」として、有識者会議の報告書を批判した。この後、2006年に秋篠宮家に男子の悠仁親王が誕生したことにより、法案提出は見送られた。(Wikipedia)
 さらに民主党・野田政権時の2011年、悠仁親王が誕生にもかかわらず、依然として皇位継承者の減少が続くことを回避するために、「女性宮家」創設に向けた検討を開始。2012年10月、女性宮家の創設案と、結婚した女性皇族が国家公務員として皇室活動を継続する案をまとめた。だが、この年の12月、衆院選で自民党が勝利し、「男系男子」にこだわる安倍内閣が発足して立ち消えとなったのである。
 以上の経過からも明らかなように、皇位継承者の減少を食い止めるためには、「男系男子」にこだわっていてはならず、女性・女系天皇も認めようというのがまともな保守の考えであり、国民の大多数の意向でもあるということである。 ⇒目次

護憲派は積極的関与を
 天皇の「生前退位」をめぐって国民の約8割が大きな関心を寄せ、右翼保守派内部でも激烈な対立があり、さらに右翼保守派とまともな保守派との対立が繰り広げられている状況の中で、一体護憲派は何をしているのであろうか。
 「九条の会オフィシャルサイト」を検索してみても、「生前退位」問題についてのアピールもコメントもない。各地の「九条の会」や護憲団体にもこの「生前退位」問題についての言及が見あたらないのである。
 野党各党の対応はどうか。
 民進党は護憲派とは言えないが、岡田克也代表(8月当時)は「陛下のお気持ちが示された以上、しっかりと応えていく必要がある」(「朝日」8月9日)として、「生前退位」を受け入れる考えを示した。その後、蓮舫代表のもとで「皇位検討委員会」を設置して党としての議論を開始している。
 同じく護憲派とは言えない「生活の党」(現自由党)の小沢代表は「これまでの陛下のご労苦などを踏まえ、大変重く厳粛に受け止めたいという思いであります。……具体的な内容につきましては、『天皇の地位』に関する問題でありますので、政治的な立場にあるものが軽々にコメントするべき性質の問題ではないと認識致しております」(「産経ニュース」8月8日)とする談話を発表した。
 日本共産党は志位委員長の談話として、「高齢によって象徴としての責任を果たすことが難しくなるのではないかと案じるお気持ちは理解できる。政治の責任として生前退位について真剣な検討が必要だ。……『人権は保障されなければならない』として、皇室典範など法改正による生前退位の実現に理解を示した」(「朝日」8月9日)。
 社民党は又市幹事長が「公務の負担のあり方や国事行為の臨時代行、摂政を含めて論議し、必要があれば皇室典範を改正するなどの対応を行うべきである。……象徴といえども、一人の人間として人権やその思いは尊重されるべきである」(「産経ニュース」8月8日)とする談話を発表した。
 その後、護憲派の共産党、社民党からの新しいメッセージはない。護憲派政党として、その立場上何らかの態度表明が避けられない故、「生前退位」について最小限の見解を表明しただけと言えよう。
 市民運動体としての「護憲団体」は沈黙、護憲政党は最小限の見解表明、という現状である。
 護憲派は今回の「生前退位」問題に限らず、天皇制が直面する現実問題については積極的にかかわろうとせず、否定的傍観者として振る舞っているように思う。言わば自らを蚊帳の外に置いているかのようだ。
 その理由は、護憲派の多くが天皇制否定の立場に立っているからである。天皇制などという人間平等に反する、あってはならない制度をより良くするなどということは考えられない、ということなのであろう。
 しかし、「生前退位」問題とは憲法第2条が定める「皇位継承」問題であり憲法問題なのである。護憲を標榜する護憲派がきわめて重要な憲法問題に直面して傍観者的に振る舞っていいわけがない。安倍政権はじめ右翼保守勢力が、象徴天皇制を元首天皇制に改編しようとの意図をもってこの「生前退位」問題に対応しようとしているからである。
 憲法上の重要問題である「生前退位」問題を、右翼保守派と象徴天皇制を維持しようとするまともな保守派との論争にまかせていては、天皇制が本質的に持つ問題性を多くの国民に知らせることもできない。
 それゆえ護憲派は、「生前退位」を自らに突き付けられた問題としてとらえ、護憲派としての見解を明確に提起し、安倍政権が皇室典範の改正によらない現天皇に限っての退位を認める特例法の制定によってしのごうとしていることに対して、明確に反対の意思表示をすべきなのである。
 安倍政権はじめ右翼保守勢力にとっては、天皇を「元首」化するためにも「生前退位」など認めたくないであろうし、ましてや天皇神格化の根源となっている男系男子による継承が断ち切られ、女性天皇が誕生することなど絶対に認められないであろう。
 それゆえ、護憲派は、憲法違反条項を持つ皇室典範改正に踏み込んで今回の「生前退位」問題を論じるべきであり、かつ、女性にも皇位継承権を与えるべきことを主張し展開すべきなのである。小泉政権時代の「皇室典範に関する有識者会議」がまとめた女性天皇・女系天皇を容認するとした報告書は、多くの国民がこれを支持した経緯もある。
 まさに今回の「生前退位」問題と「皇位継承」問題は、右翼保守派の弱点なのであり、彼らがいかに戦前回帰の国家主義・反民主主義勢力であるかをあぶりだす好機なのである。現天皇の「生前退位」問題は国民の関心も高く、さまざまに議論が噴出するであろう。このような状況の中で、これまでのように護憲派が否定的に傍観者的に振る舞うようなことがあってはならないと思う。
 象徴天皇制は遠い将来はともかく、国民意識の現状からしてなくすことはできないし、存続し続ける。そうであれば、国家主義者に天皇を政治利用させない闘いが不可欠となる。これは国民主権を守る民主主義のための闘いでもある。
 いまこそ護憲派は、天皇・皇族にも人権はある、「生前退位」賛成、女性にも皇位継承権を認める皇室典範改正を、と訴えるべき時である。

         (当会ブログに12月23日投稿、『地域と労働運動』196号同時掲載)
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