完全護憲の会ニュース No.29 2016年5月10日

<例会参加の方は本ニュ―ス持参のこと>
         連絡先 〒140-0015 東京都品川区西大井4-21-10-312 完全護憲の会
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        目次 ① 第28回例会の報告            1p
           ② 当面の日程について            2p
        別紙 1 政治現況報告               3p
        別紙 2 事務局報告(緊急警告 012、013号を含む) 4p
        別紙 3 9条論の再検討              8p
          
           第28回 例会の報告

 さる4月24日(日)、港区・神明いきいきプラザ集会室で第28回例会を開催、参加者11名。入会者 計53名。
 司会を草野編集委員長が担当し、まず、政治現況報告(別紙1)を岡部共同代表が行い、ついで事務局報告(別紙2)を福田共同代表が行った。
 これらに対する質疑として、「衆院解散が総理の専権事項」とされていることを巡って意見が交わされ、また自民党の改憲案は「改憲ではなく新法」ととらえて対処すべきだ、などの意見が出された。
 事務局報告にふくまれた緊急警告012号 自民党改憲草案「家族条項」の危険性、013号 主権行使を制限する「国民投票法」は改正を! の検討では、(注)挿入形式についての意見があったほかは、異議なく承認された。
 ついで勉強会として「9条論の再検討」(別紙3)が加東遊民氏から報告され、とくに当会パンフに記載されている「国連軍駐留部隊」について、また加藤典洋氏が提起している「国際連合待機軍」について質疑がかわされ、時間切れのため、今後、討議を続けることとなった。

         当面の日程について
        
 ① 第29回例会 5月22日(日)13:30~16:30
      場所 港区・三田いきいきプラザ・「憲法研究会」(田町)
         〒108-0014 港区芝4-1-17 電話03-3452-9421
         JR 山手線・京浜東北線、田町駅西口から徒歩8分
         地下鉄 三田線・浅草線 三田駅 A9 出口から徒歩1分
  報告 1) 政治の現況について 岡部太郎(元『東京新聞』政治部長)
   2) 事務局報告(緊急警告 012,013号をふくむ) 事務局
  勉強会 自民党改憲案批判(上)<予定> 加東遊民
  会場費ほか 300円
 ② 第26回編集委員会 5月24日(火)14:00~ 大阪大学東京オフィス
 ③ 第30回例会 6月26日(日)13:30~ 三田いきいきプラザ(田町)
 ④ 第27回編集委員会 6月28日(火)14:00~ 大阪大学東京オフィス
 ⑤ 第31回例会 7月24日(日)13:30~
 ⑥ 第28回編集委員会 7月26日(火)14:00~ 大阪大学東京オフィス

<別紙 1>
          政治現況報告     2016年4月24日

              岡部太郎共同代表(「東京新聞」元政治部長)

 4月14日、九州の熊本と大分を襲った震度7、2回の大震災はその後10日間も終息を見せず、日本中を巻き込んでいる。震度7が2回続けて起きたのが初めての上に、震度6強が3回、6弱が3回など、震度5以上が17回、4以上になると77回と想定外の長期地震となった。当然政治日程にも大きな影響が出ている。政府・自民党は通常国会の会期が6月1日に終わるので、5月末の先進7ヵ国首脳会議のホスト役として、国際経済・安全保障の協力の強化をテコに一気に7月の参院選挙に走る思惑だった。
 その中心がTPPの太平洋経済協力条約で、今国会で成立させると安倍首相が公約したが、参院の審議日数が地震で足りないと、早々に成立を断念、衆院で継続審議とし秋の臨時国会まで伸ばすことを決めてしまった。これまでの審議もTPP交渉の途中経過を提出するように野党に要求され、ほとんど墨で塗り潰して出すなど、審議が遅れていただけに、渡りに船というところ。交渉の中で日本が結局アメリカの云う通りに譲歩したことが明らかになるのを嫌がったとみられている。
 また来年の4月からの2%増税(10%)の公約も、アベノミクスがうまくいってないので、世界の経済学者を日本に呼んで慎重論を唱えさせ実施延期の下ごしらえをしていたので、熊本災害を口実に、これまた延期するだろう。このように安倍首相の今年度の最大の二つの公約が延期され、政治責任が問題となろう。また党内にくすぶっていた衆参ダブル選挙も地震と共に去ってしまったのは皮肉。
 このほか大きなことは初めて七ケ国外相会議が広島で行われ、原爆ドームなどを見学したこと。オバマ米大統領が五月日本を訪れたとき広島にゆけば、原水爆禁止にプラス。
また韓国の総選挙で朴大統領の与党であるセリヌ党が過半数を割る惨敗。第二党に転落した。朴政権の経済失政で格差が拡大、特に若者の失業が野党に回った。
 このような中で一番大きかったのは国連のデービッド・ケイ氏が日本の現地調査で言論の自由について「秘密法は報道に重大な脅威」「政府圧力が自己検閲を生む」など報道の独立に政府が関与することに警告を発したこと。高石総務相が「放送法四条の公平公正の原則に違反と判断すれば放送業務をていしさせる」と述べたのを放送側は脅しと受けとめている。また自民党が14年の11月、衆院選の中立、公平な報道を放送局に要請したのも同じ。
 日本政府は放送法四条を廃止してメディア規制干渉から手を引くべきだ。また(表現の自由を保障する)憲法二十一条について、自民党が「公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」とする憲法改正草案を出しているが、これは国連の「市民的及び政治的権力に関する国際規約」十九条に矛盾し、表現の自由への不安を示唆する、としている。
 そのほか①中学校の日本史の教科書から慰安婦の記載が削除されつつあるなどは、民衆の知る権利を侵害する②特定秘密保護法は必要以上に情報を隠し、原子力や安全保障・災害への備えなど市民の関心の高い分野への知る権利を危険にさらす――などとしている。この正式な日本に対する報告書は17回国連人権理事会に報告される。
 ケイ氏は取材や証言を求めた日本の放送人や雑誌記者が例外なく「自分の名を出さないように」と言ったことに驚いたという。そこまで言論の自由が狭まり、自己規制するのかと。また最近発表された「報道の自由ランキング」でも、日本は180ヵ国のうち72位に転落した。2010年には民主党政権下で11位であったのが、年々下がっている。
 
<別紙2>
          第28回例会 事務局報告    2016年4月24日
                            
                  福田玲三(事務局)

1) 緊急警告009号~011号について
 先の例会で提出された意見にもとづいて案文に加除を加えリーフレット(緊急警告集32ページ版)に収録の予定。このリーフレットは4月20日原稿締切、4月末発行、5月以降の各種護憲集会で配付の予定。
2)緊急警告012号、013号

  緊急警告012号 自民党改憲草案「家族条項」の危険性
  近年、「介護での子による親の虐待」や「親による子の虐待」をメディアが取り上げる回数が増えている。改憲運動を展開している団体が、家族間の凄惨な事件を「日本国憲法24条の個人の尊重と両性の平等」が「行き過ぎた個人主義」を生んだ結果だとして、「家族尊重条項」の新設を主張している(注1)。
 ここで改めて現行憲法24条の重要性と自民党改憲草案「家族尊重条項」の危険性について考えたい。
 下記の現行憲法と自民党改憲草案の24条を比較して頂きたい(注2)。大きな相違は改憲草案で第1項に「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は、互いに助け合わなければならない」という2文(家族尊重条項)が新設されている点である。「家族は助け合わなければならない」という文章が、日常の会話でのやりとりであったり、書物の中で倫理的価値観を記したものであれば、ごく当たり前のことで問題にはならないだろう。しかし憲法に規定されるとなると大変な問題をはらむ。「道徳を憲法に持ち込めば思想統制の根拠にすらなりかねない」「法と道徳を混同するなというのは、近代法の大原則」(注3)だからだ。
 日本国憲法では「個人の尊重と両性の平等」が「人権を守るために権力を縛るもの」として書かれているが、改憲草案新設部分は、明確に「国民を縛る規定」すなわち「国民の義務」として書き込まれている。現在も民法730条に「直系血族及び同居の親族は、互いに扶け合わなければならない」という規定がある。それなのに敢えて新たな「国民の義務」として、憲法に「家族は助け合わなければならない」という規定を新設するのはなぜか。政府が今後社会保障費を削減するための根拠にするためではないのか。つまり、政府が国家予算を、軍備増強や新自由主義政策推進のために重点的に配分し、福祉や教育に使いたくなければ、この憲法の新たな規定に従って、今まで国が提供してきた教育や介護に関わるサービス・予算をはじめ生活保護費・社会保険・年金までも削減、廃止することが容易になる。斎藤貴男氏は、24条の新設項目に関して「貧困は、自己責任か家族・親族の連帯責任、公的扶助は理念ごと解体へ」という思想に基づくもので、「19世紀の資本主義が復活するようなもの」(注4)と批判している。
 また、改憲草案第1項前半の「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される」という部分がはらむ問題について、水島朝穂氏のゼミ生の指摘は鋭い。「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位」という抽象的な規定は「のちのち民法なりで、シングルマザーや同性愛カップルを明確に否定する規定を設ける際に裏付けとなる危険性はあるでしょう」と。さらに「それ以前に、家族がいない人はどうなるの?という問題があるんじゃないですか?・・・家族がいない人は社会に属していないのかということになりかねない」。水島氏はこの学生の指摘に対して、「家族がひとりもいない人というのは少数派として存在します。少数派のことを憲法で考えることは、憲法議論で絶対に必要なことです」(注5)と述べ、憲法論の重要な視点を提示している。
 私たちは、この家族尊重条項が、財政配分だけでなく、将来家族の多様性を否定する法律に利用される可能性や、国民の社会参加が個人ではなく家族を単位とされうる危険性を見過ごすわけにはいかない。
 日本の戦前の「家」制度は、天皇制支配を末端にまで貫徹するための役割を担った。戦後、現行憲法は、戦前の「家」から、「個人」を自由な意志を持ち主体的に考え行動する社会的存在として解放した。そして、「個人」の自由な意志によって、男女の合意「のみ」で家族をきずくことを可能にした。もっとも、現行日本国憲法下でも家族問題において「個人の尊重と両性の平等」が完全に実現されているとは言えない。離婚後の単独親権制や夫婦同姓強制問題など、憲法にそぐわない民法の規定によって苦しむ人は多い(注6)。
 自民党改憲草案24条が「個人」ではなく「家族」を、「社会の自然かつ基礎的な単位」と宣言していることは、同草案13条が現行憲法の「すべて国民は個人として尊重される」を「・・・人として尊重される」(個人を人と差し替えている)と書き換えていることと照らし合わせると、個人を究極の価値の担い手とする立憲主義の本質を葬り去ろうとする改憲の怖ろしい狙いが見えてくる。
 <注>
(注1)朝日新聞デジタル2016年3月25日
(注2)日本国憲法24条と自民改憲草案
  日本国憲法24条
  婚姻は両性の合意のみに基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。
 2 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
  自民党改憲草案24条
  家族は、社会の自然かつ基礎的な単位として、尊重される。家族は互いに助け合わなければならない。
2 婚姻は、両性の合意に基づいて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により維持されなければならない。
3 家族、扶養、後見、婚姻及び離婚、財産権、相続並びに親族に関するその他の事項に関しては、法律は個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して制定されなければならない。
(注3)樋口陽一・小林節『「憲法改正」の真実』集英社新書
(注4)斎藤貴男『戦争のできる国へ 安倍政権の正体』朝日新聞出版
(注5)水島朝穂『はじめての憲法教室』集英社新書
(注6)最高裁は昨年12月16日、女性にのみ離婚後6カ月間の再婚禁止期間を定めた民法733条の規定について、100日を超える部分の禁止規定が憲法24条と14条に反して違憲とする判決を下す一方、夫婦別姓を認めない民法750条については合憲との判決を下した。しかし、憲法学者の高橋和之東大名誉教授は、最高裁の合憲性審査の手法を厳しく批判すると同時に、民法750条は憲法24条2項の「個人の尊厳と両性の本質的平等」という日本国憲法の根本原理に反し、人格権(13条)や婚姻の自由(24条1項)にも反して違憲であると主張している(注7)。また、今年3月7日、女性差別撤廃条約の実施状況を審査する国連女性差別撤廃委員会が公表した日本政府に対する「最終見解」も、夫婦同姓を強制する民法の規定を改正するよう勧告するととに、女性に対する再婚禁止期間も全廃するよう勧告した。
(注7)高橋和之「同氏強制合憲判決にみられる最高裁の思考様式」『世界』2016年3月号

  緊急警告013号 主権行使を制限する「国民投票法」は改正を!
 憲法改正案に対して国民が直接その賛否を問われる「国民投票」が現実味をおびてきている。来る7月参議院選において、自公与党と大阪維新の会などの改憲勢力が3分の2以上の議席を獲得するようなことになれば、すでに衆議院において自公の与党だけで3分の2以上の議席を有していることからして、憲法「改正」の発議は現実のものとなり、発議がなされれば、一気に「国民投票」が現実のものとなるからである。
 国民投票は、主権者である国民が自ら改憲案に対して決着をつけるものであり、極めて重要な主権行使である。例え国会における3分の2以上の発議よるものであっても、この国民投票によって過半数の賛成(憲法第96条)を得られなければ、改憲案は否決されるのである。
 それゆえ、この国民投票こそは改憲か護憲かの闘いの分岐点なのであり、護憲派が最も重視しなければならない闘いの天王山なのである。しかしながら、これほど重要な国民投票が、どのような法律に基づいて実施されるのかについて十分な関心が払われてきたとは言い難い現実がある。

 「国民投票法」(正式名称:日本国憲法の改正手続きに関する法律)は2007年5月、第一次安倍内閣によって、民主党の修正案を否決したうえ、強行成立させられた法律である。この「国民投票法」がいかにずさんな、かつ、国民の主権行使を制限する違憲性を内包するものであったかは、18項目もの附帯決議が付けられたことに示されている。
 その後、2014年6月に「国民投票法」の一部改正(選挙権年齢の満18歳への引き下げ、公務員の政治的行為の制限に関する特例等)がなされたが、「国民投票法」の持つ、本質的な問題性は残されたままである。

 第一の問題点は、憲法改正という最重要問題において現「国民投票法」が最低投票率の規定を設けていないことである。
 憲法第96条は、憲法改正の発議は衆参「各議院の総議員の三分の二以上の賛成」を要すると定めており、これを踏まえれば、憲法改正の正当性に疑義が生じないためには、国民投票は最低限、国民有権者の過半数が投票参加するものでなくてはならず、その重要性に鑑みれば、せめて60パーセント以上の投票率でなければならないはずである。2007年制定時附帯決議、2014年一部改正時附帯決議が共に低投票率により「憲法改正の正当性に疑義が生じないよう」最低投票率制度の検討を求めていることからも明らかである。
 この最低投票率制度については、憲法にその明文規定がないことから不要との主張があるが、現憲法の趣旨に照らせば、憲法改正国民投票の実施に当たっては、最低投票率の定めは不可欠と言わねばならない。

 第二の問題は、現「国民投票法」が国民の主権行使を制限し、基本的人権を侵害する条項を盛り込んでいることである。
 「国民投票法」第103条1項は「国若しくは地方公共団体の公務員……は、その地位にあるために特に国民投票運動を効果的に行い得る影響力または便益を利用して、国民投票運動をすることができない」とし、2項は「教育者(学校教育法に規定する学校の長及び教員をいう)は、学校の児童、生徒及び学生に対する教育上の地位にあるために特に国民投票運動を効果的に行い得る影響力または便益を利用して、国民投票運動をすることができない」としている。
 「その地位にあるために」という表現は、公務中における活動とは限定しておらず、一般職の公務員含め及びすべての教員は国民投票運動をしてはならない、とするもので、公務員や教員に対する基本的人権の侵害であり、主権行使の政治活動を制限するもので違憲である。すべての警察官への一律禁止規定(第102条6項)も同様である。
 まして公務員は、憲法の「尊重・擁護義務」(第99条)を負っているのであり、この「尊重・擁護義務」に基づく現憲法擁護の国民投票運動を禁止するのは、二重の意味で違憲と言わなければならない。
 「国民投票法」の一部改正において、第100条の2として、「公務員は……国会が憲法改正を発議した日から国民投票の期日までの間、国民投票運動(……)及び憲法改正に関する意見の表明をすることができる。ただし、政治的行為禁止規定により禁止されている他の政治的行為を伴う場合は、この限りでない」との条項が追加されたことによって、公務員の国民投票運動に対する禁止規定がなくなったかのような報道がなされた。確かにこの条項が一定の歯止めの役割を果たすことはあり得るが、103条1項、2項が削除されたわけではなく、依然として残っていることは指摘しておかねばならない。

 第三の問題は、「国民投票の期日」の問題である。第2条は「国民投票は、国会が憲法改正を発議した日から起算して60日以後180日以内において、国会の議決した期日に行う」としている。問題なのは60日という短期間の設定である。憲法改正という重要問題について、全国民的な議論を重ねる期間としてはあまりに短すぎると言わなければならない。

 第四の問題は、憲法改正案成立要件の問題である。第82条は白票を無効投票とした上、第98条2項において投票総数を「憲法改正案に対する賛成の投票の数及び反対の投票の数を合計したもの」として、白票と無効投票を投票総数に加えず、意図的に賛成過半数のハードルを引き下げていることである。実施にあたっては、この規定の改正も不可欠である。

 その他、細かくはあるが重要な問題点が数多くあるのであるが、国民投票法の一部改定時の附則4については、労働組合を対象にしたものとして注目しておかなければならない。
 附則4は「法制上の措置」として、「国はこの法律の施行後速やかに、公務員の政治的中立性及び公務の公正性を確保する等の観点から、国民投票運動に関し、組織により行われる勧誘運動、署名運動及び示威運動の公務員による企画、主宰及び指導並びにこれらに類する行為に対する規制の在り方について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとする」としている。このような反民主主義的規制を許してはならない。

3)パンフ『日本国憲法が求める国の形』の贈呈
 立憲主義をかかげる民進党の結成を歓迎して、同党および社民党の国会議員に3月パンフを贈呈することにした編集委員会の取決めにもとづき、4月12日、民進党の衆院議員全員にパンフを配付した。同党参院議員と社民党議員などへの贈呈は4月26日(火)10:00、参議院会館1階受付前集合、12時頃終了予定。

4)「戦争法の廃止を求める統一署名」は16枚(80筆)を4月19日、主催団体に送付した。なお郵便振替赤伝票1000枚を4月19日発注した。

5) 労働運動研究所 研究会「安倍政権が狙う緊急事態条項の制定」(4月16日)
講師の野村光司氏の報告の後、4人の参加者の間で、討議は「国会の解散は首相の専権事項」の是非について行われた。
「専権事項」を非とする側は、「国会は、国権の最高機関」(第41条)であること、「内閣の職務」(第73条)に記載されていないこと、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないように」(前文)を空文化する恐れのあること、を挙げた。「首相の専権事項」を是とする側は、3権分立の原則から当然のことであることとした。第7条「天皇の国事行為」(第3項「衆議院を解散すること」)が手続き規定であり、これを解散理由に使えないことには両者とも一致した。

 珍道世直氏を原告とする「閣議決定・安全保障法制違憲訴訟」
 4月18日に津地裁で行われた第2回口頭弁論の概要と原告陳述の前文が着信した。

 水野スウさん(『私とあなたの憲法ブック』の著者)との交流会
 4月22日(金)午後、「私の一票、大きな12条~民主主義を生きる私たち~」をめぐり40人ほどの、主に若い主婦たちを集めて、調布のクッキングハウスで行われ、政治に無関心な人々への働きかける方法などについて熱心に意見を交換した。

<別紙3> 2016年4月24日 完全護憲の会例会・勉強会

          9条論の再検討

                     加東遊民
はじめに
 今井一(2015)の「護憲派」への質問と批判
 今井は2014年8月8日と15年3月19日の2回、「九条の会」に対し質問状を送付
 「憲法九条を、貴会は、自衛戦争を含むあらゆる戦争を放棄するものとして理解、認識し、これを「輝かせたい」「守りたい」と考えておられるのか、自衛戦争は放棄せず侵略戦争のみ放棄するものと理解、認識して「輝かせたい」「守りたい」と考えておられるのか、どちらでしょうか?……
 これは些末なことではなく本質的な問題であり、人々に呼びかける側(九条の会)は、それを明らかにする責務があると考えます。……」(24)
 軍隊を認めるのか否か、自衛戦争を認めるのか否かこそ9条問題の本質であるにも関わらず、その問題に直面するのを意識的に避け続けて来た護憲運動は欺瞞ではないか。そこを曖昧にしたままの運動に生産的な成果を期待することはできない。(41,43,48)

Ⅰ 法解釈と政策判断の区別
 軍隊や軍事同盟、国連との関係について、9条解釈、または防衛政策として、どう考えるかは、様々な立場があり得るが、ここでは大まかに4つの立場を区別することにしたい。
 (表1)防衛政策(9条解釈と政策判断を区別しない)に関する4つの立場

 軍隊(自衛隊)    集団安全保障体制(国連)     軍事同盟
          国連軍 PKO 国連有志連合 有志連合
A ×非武装      ×  ×/△   ×      ×    ×
B △専守防衛     ○   △   ×/△    ×    ×
C △専守防衛     ○   △   △/○    ×    △
D ○集団的自衛権   ○   ○    ○     ○    ○

 (表2)9条解釈と(あるべき)防衛政策の組み合わせ

              防衛政策
        A     B    C     D
    A  1G、K  (2K)  3G、K  4K
9条解釈 B   ――   (5G) (6K)  (7K)
    C   ――    ――    8G   9K
    D   ――    ――    ――   10K1→10K2

 *護憲派をG、改憲派をKで表す。
1G:原理主義的護憲派・・・小林直樹
1K:原理主義的改憲派・・・公法研究会
(2K:護憲論的改憲論)
3G:現状容認型護憲派=「大人の知恵」派・・・内田樹、護憲派市民の多数1?
3K:護憲論的改憲派(新9条論)・・・今井一、加藤典洋、中島岳志、矢部宏治
4K:対米追随・好戦的改憲派(原理主義解釈)
(5G:修正主義的護憲派)
(6K:現状容認的改憲派)
(7K:対米追随・好戦的改憲派)
8G:修正主義的護憲派・・・長谷部恭男、杉田敦、護憲派市民の多数2?
9K:対米追随・好戦的改憲派(修正主義解釈)
10K:詭弁的2段階改憲派・・・安倍政権
 10K1:詭弁的・好戦的解釈改憲(安保法制):集団的自衛権限定容認の解釈改憲
 10K2:好戦的明文改憲(自民党改憲草案):集団的自衛権全面容認の明文改憲

○「護憲派」「改憲派」それぞれの内部対立と連携関係

           明文改憲賛成
              ↑

     1K              4K
     3K              9K
                     10K2
安倍改憲反対←                   →安倍改憲賛成
      1G
      3G             (10K1)
      8G

              ↓
           明文改憲反対

Ⅱ 9条の法解釈
第9条 
 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
 2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

(1)「1項全面放棄説」・・・「国際紛争を解決する手段としては」という9条1項の文言は放棄する対象に何らかの限定を加える意味を持たず、本条項はおよそ一切の戦争・武力行使・武力(以下、「戦争等」)による威嚇を放棄した。
(2)「2項全面放棄説」・・・9条1項はあらゆる戦争等を無条件に放棄したものではなく、「国際紛争を解決する手段として」の戦争、すなわち侵略戦争を放棄したものであって、自衛のための戦争まで放棄したものではないが、9条2項で「陸海空軍その他の戦力」を保持せず、「国の交戦権」も否認されているので、結果的に自衛戦争も放棄した。
(3)「限定放棄説」・・・9条1項はあらゆる戦争等を無条件に放棄したものではなく、「国際紛争を解決する手段として」の戦争、すなわち侵略戦争を放棄したものであって、9条2項は「前項の目的」、すなわち侵略戦争を放棄するための戦力不保持と交戦権の否認を定めたものであり、自衛のための戦争もそのための戦力を持つことも、禁じたものではない。
(4)保安隊・駐留米軍合憲解釈(1952.11.25政府統一見解)・・・「憲法第9条2項は、侵略の目的たると自衛の目的たるとを問わず「戦力」の保持を禁止している」、「右にいう「戦力」とは、近代戦に役立つ程度の装備、編成を具えるものをいう」、「憲法第9条2項にいう「保持」とは、いうまでもなくわが国が保持の主体たることを示す。米国駐留軍は、わが国を守るために米国の保持する軍隊であるから憲法9条の関するところではない」
(5)自衛隊合憲解釈(1954.12.22政府統一見解)・・・「憲法第9条は、独立国としてわが国が自衛権を持つことを認めている。従って自衛隊のような自衛のための任務を有し、かつその目的のため必要相当な範囲の実力部隊を設けることは、何ら憲法に違反するものではない」
(6)自衛隊違憲判決(1973.9.7長沼訴訟一審判決)・・・国が主張するような「必要最小限度の自衛力は憲法第9条第2項にいう戦力にはあたらない」とする解釈は「戦力」という言葉の「通常一般に社会で用いられている」意味に反し、また憲法前文の趣旨や9条の規定にも抵触するものであり、さらに政府のような解釈をとれば「現在世界の各国は、いずれも自国の防衛のために必要なものとしてその軍隊ならびに軍事力を保有しているのであるから」世界中どの国も戦力を保有していないという「奇妙な結論に達せざるをえない」。「自衛隊は明らかに『外敵に対する実力的な戦闘行動を目的とする人的、物的手段としての組織体』と認められるので、軍隊であり、それゆえに陸、海、空各自衛隊は、憲法第9条第2項によってその保持を禁じられている『陸海空軍』という『戦力』に該当するものといわなければならない」
(7)駐留米軍違憲判決(1959.3.30砂川事件一審判決)・・・「わが国が外部からの武力攻撃に対する自衛に使用する目的で合衆国軍隊の駐留を許容していることは、指揮権の有無、合衆国軍隊の出動義務の有無に拘わらず、日本国憲法第9条2項前段によって禁止されている陸海空軍その他の戦力の保持に該当するものといわざるを得ず、結局わが国に駐留する合衆国軍隊は憲法上その存在を許すべからざるものといわざるを得ないのである」
(8)駐留米軍「一見極めて明白に違憲無効であるとは認められない」判決(1959.12.16砂川事件最高裁判決)・・・「憲法9条は、わが国がその平和と安全を維持するために他国に安全保障を求めることを、何ら禁ずるものではないのである」。…憲法が禁止する戦力とは「わが国がその主体となってこれに指揮権、管理権を行使し得る戦力をいうものであり、結局わが国自体の戦力を指し、外国の軍隊は、たとえそれがわが国に駐留するとしても、ここにいう戦力には該当しないと解すべきである」
(9)「狭義の集団的自衛権=違憲;広義の集団的自衛権=合憲」論(1960.2.13林法制局長官答弁、衆院予算委)・・・「いわゆる他国に行って、他国を防衛するということは、国連憲章上は、集団的自衛権として違法性の阻却の事由として認められておりますけれども、日本の憲法上はそこまでは認められていない。(中略)しからば基地の提供あるいは経済援助というものは、日本の憲法上禁止されてはいない。仮にこれを人が集団的自衛権と呼ぼうとも、そういうものは禁止されていない」
(10)集団的自衛権違憲説(1972.10.14政府見解)・・・「憲法9条は、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛の措置を禁じているとは解されない。……しかし、自衛のための措置を無制限に認めているとは解されないのであって、あくまで外国の武力攻撃によって国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底からくつがえされるという急迫、不正の事態に対処し、国民のこれらの権利を守るための止むを得ない措置としてはじめて容認されるものであるから、その措置は、右の事態を排除するためにとられるべき必要最小限度の範囲のとどまるべきものである。……したがって、他国に加えられた武力攻撃を阻止することをその内容とするいわゆる集団的自衛権の行使は、憲法上許されない」
(11)集団的自衛権の限定容認論(2014年7月1日閣議決定)・・・これまで政府は、この基本的な論理の下、「武力の行使」が許容されるのは、我が国に対する武力攻撃が発生した場合に限られると考えてきた。しかし、冒頭で述べたように、パワーバランスの変化や技術革新の急速な進展、大量破壊兵器などの脅威等により我が国を取り巻く安全保障環境が根本的に変容し、変化し続けている状況を踏まえれば、今後他国に対して発生する武力攻撃であったとしても、その目的、規模、態様等によっては、我が国の存立を脅かすことも現実に起こり得る。……こうした問題意識の下に、現在の安全保障環境に照らして慎重に検討した結果、我が国に対する武力攻撃が発生した場合のみならず、我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、これを排除し、我が国の存立を全うし、国民を守るために他に適当な手段がないときに、必要最小限度の実力を行使することは、従来の政府見解の基本的な論理に基づく自衛のための措置として、憲法上許容されると考えるべきであると判断するに至った。

【補論】パンフ(『日本国憲法が求める国の形』)の立場
<パンフの論理>
① 自衛隊は軍隊なので違憲である
② 従って将来的には災害救助隊へと改編していかなければならない
③ しかし軍事力の縮小に対する国民の不安に応えるため、中核部隊としての自衛隊は国連駐留部隊とし、国連の指揮下に置くべきである。そうすれば憲法上の問題はなくなる
<疑問点>
 ・国連駐留部隊とは何か? 国連が指揮する国連軍を日本に常駐させるようなことは国連憲章の規定上できない。
 ・国連駐留部隊を、日本が自主的に編成する国連待機軍だとすると、平時における指揮権はあくまで日本側にあり、憲法9条2項違反となることは明白である。
 ・国連駐留部隊を、日本が自主的に編成したうえで、指揮権を国連に移譲したものと解釈しても、そのようなことは国連憲章上想定されていないので、不可能だろう。仮にそのようなことが国連憲章上可能だとしても、やはり9条2項違反の疑いは残る。

Ⅲ.主要な立場の検討

1. 原理主義的護憲論=非武装平和主義(1G)
 1-1.小林直樹(1982)の立場
  1-1-1.「違憲・合法論」への誤解
 自衛隊はいかなる法的地位を占めているのか。「裁判所が政治部にその判断をゆだねている現状において、この問いは実はまだ、不確定のままになっている」。
 「世界有数の総合戦力をもつ軍事組織となった自衛隊は、単に「違憲の事実」にすぎないと見なすだけでは済まない存在となった」。
 「自衛隊存在の現実は、まさに「違憲かつ合法」の矛盾を内包したものととらえることが、最も正確で客観的な認識であろう」。
 「これはもちろん、統一的な法秩序の下ではあり得べからざる矛盾である。いいかえれば、「合法=違憲」という事実は、法(学)的には説明のつかない背理である。」
 「すなわち、「合法=違憲」の規範状況の認識は、憲法と法律(……)との矛盾した緊張関係を正確に捉えることによって、そうした矛盾をどうしたら最もよく解消できるか、という問題に国民を向かわせるだろう。」
  1-1-2.現代国防論の欠陥と虚妄
(1) 自衛隊の対米従属的性格
(2) 日本の軍事的防衛の不可能性
(3) 軍事目的が他のあらゆる価値に優先する国家では、反戦平和を求める言論は封殺され、民主主義は無限後退を余儀なくされる。
(4) 国民を無視する軍隊の脅威
(5) 有事体制の反憲法的性格
  1-1-3.平和のための積極的構想
(1) 平和な国際関係を不断に維持するとともに、軍事力に依らない紛争解決のシステムを作り出す。
(2) 国際安全保障の強化策
(3) 非武装防衛・・・上記のような平和のためのあらゆる努力にもかかわらず、なお侵略を受けたらどうするか?
(4) 非暴力抵抗の条件・有効性と問題点
  1-1-4.平和憲法の現実性/非武装平和方式の優位性
(1) 仮想敵国を作らないから、どこの国も刺激せず、善隣友好を通じて、紛争原因を解決していくことができる。
(2) アジア地域に安定空間を広げ、世界の非核化と軍縮への道を実現してゆく足がかりとなる。
(3) 軍事費という巨大な不生産的費用を不要にし、その分だけ平和教育や国際交流などの積極的な文化施策に投じることにより、平和の拡大再生産を可能にする。
(4) 国民の福祉や教育に力を注ぐことにより豊かな民主社会を建設することが可能になる。
(5) 軍国主義化から生ずるあらゆる――自由・人権の蹂躙、軍産複合体の形成、軍事クーデタの危険等――が消滅し、真に文化国家の名に値する国家の形成が可能になる。
(6) 非武装中立をとることにより、侵略の可能性を著しく減少できる。
(7) 国際的にも信頼と尊敬を集め、それによってさらに安全を保障することになる。

2.現状容認型護憲論(3G)
 2-1.内田樹(2002)の立場
 <憲法9条は「戦争をさせないため」に制定されている。/とすると、論理的には「では、どうやったら人間に戦争をさせないようにできるか」という問いが次に来る。/「戦力を持たない」というのがいちばん簡単だが、日本はもう戦力を持っている。/だとしてら「戦力をできるだけ使わない」ためにどうするかというふうに考えるのが現実的である。>(24)
 <矛盾した2つの要請のあいだでふらふらしているのは気分が悪いから、どちらかに片づけてすっきりしたい、話を単純にしてくれないからわからないと彼らは言う。/それは「子ども」の主張である。「武装国家」か「非武装中立国家」かの二者択一しかないというのは「子ども」の論理である。ものごとが単純でないと気持が悪いというのは「子ども」の生理である。/「大人」はそういうことを言わない。>(26)
 <自衛隊は「緊急避難」のための「戦力」である。この原則は現在おおかたの国民によって不文律として承認されており、それで十分であると私は考える。>(29)
 <平和憲法と軍隊を「同時に」日本に与えることによって、日本が国際政治的に固有の機能を果たすことをアメリカは期待した。/憲法の制定が1946年、警察予備隊の発足が1950年。憲法に4年の時間的アドバンテージがあるために現在の論争の構造が定着しているが、もしこの順番が逆だったら、かえって憲法9条の意味ははっきりしたはずである。憲法9条を空洞化するために自衛隊が作られたというよりは、自衛隊を規制するために憲法9条が効果的に機能しているという構図が見えるはずである。/憲法9条と自衛隊は創語に排除し合っているにではなく、いわば相補的に支え合っている。/「憲法9条と自衛隊」この「双子的制度」は、アメリカのイニシアティヴのもとに戦後日本社会が狡知をこらして作り上げた「歴史上もっとも巧妙な政治的妥協」の一つである。/憲法9条のリアリティは自衛隊に支えられており、自衛隊の正統性は憲法9条の「封印」によって担保されている。憲法9条と自衛隊がリアルに拮抗している限り、日本は世界でも例外的に安全な国でいられると私は信じている。>

3.修正主義的護憲論(8G)
 3-1.長谷部恭男(長谷部・杉田2006)の立場
 9条2項は、ごく普通の日本語として素直に理解すると、一切の常備軍の存置を禁止しているように見えるが、法律の解釈というのは「芸」であり、「普通の日本語として理解したらこうだ」では、芸も何もない。そんなものは解釈とは言わない。
 では9条は何を言っているのか。それはやはり「平和主義は大切だ」という一つの価値を示している。同時に、「国民の生命・安全をいかに実効的に確保するか」という、同じくらい重要な別の価値もある。この2つの価値は衝突する。そこで、国民の生命・安全を守るために、必要最小限度のぎりぎりの装備だけは許される。これが立憲主義に沿った9条の解釈だ。
 (なぜ9条を文字通りに解釈しなくてもいいのかといえば)9条は準則ではなく原理として読むべきだからだ。法規範には「原理」と「準則」の2種類がある。準則はある問題の答えを一義的に決めるのに対して、原理は答えを一義的に決めるものではなく、重要な価値原則を示し、法律問題に対する答えを引っ張る力として働くものだ。原理は別の原理と対立することもあるので、互いに衝突する複数の原理を調整して答えを導く思考のプロセスが必要だ。それが法解釈だ。
 法解釈は法律家共同体のコンセンサスで決まる。

4.原理主義的改憲論(1K)
 4-1.公法研究会
1949年3月20日 「公法研究会」(丸山眞男、辻清明、佐藤功、有倉遼吉ら)が「憲法改正意見」を発表。
 [第九条] 第1項の「国際紛争を解決する手段としては」を削り、且つ個人の参加を禁止する規定を新たに挿入する。
  第2項の「前項の目的を達するため」を「如何なる目的のためにも」と改める。
 [理由]本条の第1項は、侵略的な戦争その他武力の行使又は威嚇が永久に放棄されることの宣言であり、第2校は、進んで更に一切の軍備と一切の戦争を行う権利を否認する規定である。そこで既定の本来の精神からいえば、あらゆる戦争(自衛戦争や制裁戦争を含む)を放棄した徹底的平和主義の宣言の規定であるにも拘らず、本条の字句は、それに若干の制限があるように誤解されるおそれがあるので、それらの点をすべて改めようというのである。

5.新9条論=護憲論的改憲論
 5-1.中島岳志(2016)の立場
  9条を変えていかないと、平和と立憲主義を維持することが難しくなる。立憲主義は憲法で権力を縛るものですが、9条は自衛隊を縛れていない。今の9条のあり方は立憲主義的とはいえない。
  人間は不完全で、暴力性を持たざるをえない。国際秩序を維持する上で、一定の軍事力が必要であるなら、自衛隊を憲法で規定して、歯止めをかけるべきだ。絶対に9条を変えるなというのは、自衛隊廃止論を採らない限り、なし崩し的な解釈改憲を拡大させることになり、立憲主義を空洞化させてしまう。
  戦後の日本は、9条と日米安保の微妙な綱引きを、絶妙のバランスでやってきた。最後の最後には「わが国には9条があります」と米国にノーを言えた。日本の主権を9条が担保していた。そのやり方には英知があった。
  9条で、自衛隊はどこまでやるべきか、何をしてはいけないかを明示すべきだ。それが平和主義的で保守的な改憲論であり、かつ護憲論だ。

 5-2.今井一(2015)の立場
 旧来型の「安保廃棄・自衛隊違憲」の護憲派(原理主義的護憲派)と近年急増している「安保容認・自衛隊容認」の護憲派(修正主義的護憲派ないし現状容認型護憲派)とが、「自衛戦争を認めるのか否か」という根本問題を曖昧にしたまま、互いの批判を控え、「条文の護持」という一点で協調してきたことが、解釈改憲を黙認し、立憲主義を損なってきた。
 ここまで解釈改憲が進んでしまったこの段階で、私たちがやるべきことは、立憲主義を守るために、解釈改憲に歯止めをかけ、これを完全に解消することだ。すなわち、「解釈改憲解消=立憲主義の立て直し」のための憲法改正を行うべきである。
 9条は以下のように改正する。
 1項 (現行のまま)
 2項 わが国が他国の軍隊や武装集団の武力攻撃の対象とされた場合に限り、個別的自衛権の行使としての国の交戦権を認める。集団的自衛権の行使としての国の交戦権は認めない。
 3項 前項の目的を達するために、専守防衛に徹する陸海空の自衛隊を保持する。
 4項 自衛隊を用いて、中立的立場から非戦闘地域、周辺地域の人道支援活動という国際貢献をすることができる。
 5項 76条2項の規定にかかわらず、防衛裁判所を設置する。ただし、その判決に不服な者は最高裁に上告することができる。
 6項 他国との軍事同盟の締結、廃棄は、各議院の総議員の3分の2以上の賛成による承認決議を必要とする。
 7項 他国の軍事施設の受け入れ、設置については、各議院の総議員の3分の2以上の賛成による承認決議の後、設置先の半径10キロメートルに位置する地方公共団体の住民投票において、その過半数の同意を得なければ、これを設置することはできない。

 5-3.矢部宏治(2014)の立場
 長年リベラル派が闘ってきたように「憲法には指一本ふれるな」といって食い止めることはもうできない。唯一、状況を反転させる方法は、憲法にきちんと「日本は最低限の防衛力をもつこと」を書き、同時に「今後、国内に外国軍基地をおかないこと」を明記することです。(276)
 具体的には、9条2項を(例えば)次のように改正する。
 「前項の目的を達するため、日本国民は広く認められた国際法の原則を自国の法の一部として取り入れ、すべての国との平和および友好関係を堅持する」
 そして、国連憲章本来の精神にもとづき、専守防衛のしばりをかけた最低限の防衛力をもつことを決めて、それを憲法に反映させるとともに、今後は国内に外国軍基地を置かないこと、つまり米軍を撤退させることを(例えば次のように)必ず憲法に明記し、過去の米軍関係の密約をすべて無効にする。(273-274)
 「この改正憲法の施行後、外国の軍事基地、軍隊、施設は、国内のいかなる場所においても許可されない」(277)

 5-4.加藤典洋(2015)の立場
  5-4-1.顕教・密教システムの成立
  ・顕教……日本と米国はよきパートナーで、日本は無条件降伏によって戦前とは違う価値観の上に立ち、憲法9条によって平和主義に立脚している。
  ・密教……日本は米国の従属化にあり、戦前と戦後はつながっており、憲法9条のもと自衛隊と米軍基地を存置している。
   吉田茂が基礎を作り、池田勇人・佐藤栄作の政権担当期に完成(保守本流路線)
 〔効用〕(略)
 〔成立条件〕(略)
  5-4-2.顕教・密教システムの崩壊と、安倍政権の密教による顕教征伐
 〔成立条件の消滅〕
 ・東西冷戦の終焉と米国の国力の衰退、中国の台頭
 ・バブル崩壊後の経済成長の終焉
 ・戦争体験世代の減少(戦争体験の風化)に伴う平和主義の土壌の喪失
 〔安倍政権の暴走〕
 ・なりふり構わず、米国の世界戦略に積極的に加担・迎合
    集団的自衛権の行使容認閣議決定→安保法制整備
 ・戦前的価値観の前景化
    靖国参拝強行、慰安婦問題の政府関与否認、中国・韓国への強硬姿勢、報道統制、特定秘密保護法
 ・憲法9条の有名無実化
    自衛隊の事実上の国軍化、米軍軍事作戦への参加、自衛隊と在日米軍の連携強化
 〔密教の内部矛盾〕
 対米従属政策と復古的国家主義とは徹底すれば矛盾する。
  5-4-3.加藤の提言
  2009年の政権交代とその失敗は、日本が米国の自発的隷従下にあることを暴露した。
  もはや護憲のままでは、憲法制定権力=米国の権力を覆すことができない。憲法の選び直し=憲法改正によってこの憲法制定権力を日本の外に撤退させるしか、方法がない。そのために、9条2項以下を次のように改正する。
 二 以上の決意を明確にするため、以下のごとく宣言する。日本が保持する陸海空軍その他の戦力は、その一部を後項に定める別組織として分離し、残りの全戦力は、これを国際連合待機軍として、国連の平和維持活動及び国連憲章第47条による国連の直接指揮下における平和回復運動への参加以外には、発動しない。国の交戦権は、これを国連に移譲する。
 三 前項で分離した軍隊組織を、国土防衛隊に編成し直し、日本の国際的に認められている国境に悪意をもって侵入するものに対する防衛の用にあてる。ただしこの国土防衛隊は、国民の自衛権の発動であることから、治安出動を禁じられる。平時は高度な専門性を備えた災害救助隊として、広く国内外の災害救援にあてるものとする。
 四 今後、われわれ日本国民は、どのような様態のものであっても、核兵器を作らず、持たず、持ち込ませず、使用しない。
 五 前四項の目的を達するため、今後、外国の軍事基地、軍隊、施設には、国内のいかなる場所においても許可しない。

【参考文献】
伊勢崎賢治(2015)『新国防論』毎日新聞出版
今井一(2015)『「解釈改憲=大人の知恵」という欺瞞』現代人文社
内田樹(2002)『「おじさん」的思考』晶文社
加藤典洋(2015)『戦後入門』ちくま新書
小林直樹(1982)『憲法第九条』岩波新書
阪田雅裕(2013)『政府の憲法解釈』有斐閣
杉原泰雄(1987)『平和憲法』岩波新書
砂川裁判の悪用を許さない会編(2015)『砂川判決と戦争法案』旬報社
千葉眞(2009)『「未完の革命」としての平和憲法』岩波書店
寺島俊穂(2004)『市民的不服従』風行社
豊下楢彦(2007)『集団的自衛権とは何か』岩波新書
中島岳志(2016)「(憲法を考える)立憲主義と保守」『朝日新聞』2016年4月13日朝刊
長谷部恭男・杉田敦(2006)『これが憲法だ!』朝日新書
宮田光雄(1971)『非武装国民抵抗の思想』岩波新書
矢部宏治(2014)『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』集英社

【資料】■国連憲章
第七章 平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為に関する行動

第三十九条 (安保理の一般的権能)
 安全保障理事会は、平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略行為の存在を決定し、並びに、国際の平和及び安全を維持し又は回復するために、勧告をし、又は第四十一条及び第四十二条に従つていかなる措置をとるかを決定する。

第四十条 (暫定措置)
 事態の悪化を防ぐため、第三十九条の規定により勧告をし、又は措置を決定する前に、安全保障理事会は、必要又は望ましいと認める暫定措置に従うように関係当事者に要請することができる。この暫定措置は、関係当事者の権利、請求権又は地位を害するものではない。安全保障理事会は、関係当事者がこの暫定措置に従わなかつたときは、そのことに妥当な考慮を払わなければならない。

第四十一条 (非軍事的措置)
 安全保障理事会は、その決定を実施するために、兵力の使用を伴わないいかなる措置を使用すべきかを決定することができ、且つ、この措置を適用するように国際連合加盟国に要請することができる。この措置は、経済関係及び鉄道、航海、航空、郵便、電信、無線通信その他の運輸通信の手段の全部又は一部の中断並びに外交関係の断絶を含むことができる。

第四十二条 (軍事的措置)
 安全保障理事会は、第四十一条に定める措置では不充分であろうと認め、又は不充分なことが判明したと認めるときは、国際の平和及び安全の維持又は回復に必要な空軍、海軍又は陸軍の行動をとることができる。この行
動は、国際連合加盟国の空軍、海軍又は陸軍による示威、封鎖その他の行動を含むことができる。

第四十三条 (特別協定)
 1 国際の平和及び安全の維持に貢献するため、すべての国際連合加盟国は、安全保障理事会の要請に基き且つ一又は二以上の特別協定に従つて、国際の平和及び安全の維持に必要な兵力、援助及び便益を安全保障理事会に利用させることを約束する。この便益には、通過の権利が含まれる。
 2 前記の協定は、兵力の数及び種類、その出動準備程度及び一般的配置並びに提供されるべき便益及び援助の性質を規定する。
 3 前記の協定は、安全保障理事会の発議によつて、なるべくすみやかに交渉する。この協定は、安全保障理事会と加盟国との間又は安全保障理事会と加盟国群との間に締結され、且つ、署名国によつて各自の憲法上の手続に従つて批准されなければならない。

第四十四条 (非理事国の参加)
 安全保障理事会は、兵力を用いることに決定したときは、理事会に代表されていない加盟国に対して第四十三条に基いて負つた義務の履行として兵力を提供するように要請する前に、その加盟国が希望すれば、その加盟国の兵力中の割当部隊の使用に関する安全保障理事会の決定に参加するようにその加盟国を勧誘しなければならない。

第四十五条 (空軍割当部隊)
国際連合が緊急の軍事措置をとることができるようにするために、加盟国は、合同の国際的強制行動のため国内空軍割当部隊を直ちに利用に供することができるように保持しなければならない。これらの割当部隊の数量及び出動準備程度並びにその合同行動の計画は、
第四十三条に掲げる一又は二以上の特別協定の定める範囲内で、軍事参謀委員会の援助を得て安全保障理事会が決定する。

第四十六条 (兵力の使用計画)
 兵力使用の計画は、軍事参謀委員会の援助を得て安全保障理事会が作成する。

第四十七条 (軍事参謀委員会)
 1 国際の平和及び安全の維持のための安全保障理事会の軍事的要求、理事会の自由に任された兵力の使用及び指揮、軍備規制並びに可能な軍備縮少に関するすべての問題について理事会に助言及び援助を与えるために、軍事参謀委員会を設ける。
 2 軍事参謀委員会は、安全保障理事会の常任理事国の参謀総長又はその代表者で構成する。この委員会に常任委員として代表されていない国際連合加盟国は、委員会の責任の有効な遂行のため委員会の事業へのその国の参加が必要であるときは、委員会によつてこれと提携するように勧誘されなければならない。
 3 軍事参謀委員会は、安全保障理事会の下で、理事会の自由に任された兵力の戦略的指導について責任を負う。この兵力の指揮に関する問題は、後に解決する。
 4 軍事参謀委員会は、安全保障理事会の許可を得て、且つ、適当な地域的機関と協議した後に、地域的小委員会を設けることができる。

第四十八条 (決定の履行)
 1 国際の平和及び安全の維持のための安全保障理事会の決定を履行するのに必要な行動は、安全保障理事会が定めるところに従つ
て国際連合加盟国の全部又は一部によつてとられる。
2 前記の決定は、国際連合加盟国によつて直接に、また、国際連合加盟国が参加している適当な国際機関におけるこの加盟国の行動によつて履行される。

第四十九条 (相互援助)
 国際連合加盟国は、安全保障理事会が決定した措置を履行するに当つて、共同して相互援助を与えなければならない。

第五十条 (経済的困難についての協議)
 安全保障理事会がある国に対して防止措置又は強制措置をとつたときは、他の国でこの措置の履行から生ずる特別の経済問題に自国が当面したと認めるものは、国際連合加盟国であるかどうかを問わず、この問題の解決について安全保障理事会と協議する権利を有する。

第五十一条 (自衛権)
この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当つて加盟国がとつた措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持又は回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない。

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