さる8月28日午後2時、安倍晋三首相の辞意表明がテレビで伝えられ衝撃が走った。ついで午後5時からの記者会見で安倍首相は持病再発のためとして辞任の意向を表明した。第2次安倍政権は、2012年12月26日の発足から約7年8カ月で幕をとじる。
記者会見で「改憲の機運が高まらなかった理由は」と聞かれ、首相は「国民的な世論が充分盛り上がらなかったのは事実で、それなしに進めることはできないと痛感してる」と答えた。選挙の度に公約に掲げて信任されたから「改憲は国民に支持された」と強弁していた首相が、初めて国民の支持を得られなかったことを認めた。
「国民的な世論が充分盛り上がらなかった」とは、裏を返せば国民が改憲攻勢に粘りつよく抵抗したということだ。1946年11月3日、現憲法が公布されて以来75年間、保守反動派は常に改憲の攻勢を継続してきた。とくに最後の8年間、自民党内最右翼の安倍派は権力を笠(かさ)に、ここぞとばかりに猛攻を重ねた。だが、ついに護憲の砦(とりで)を抜くことはできなかった。現憲法条文は無傷で守り抜かれた。国民はこの試練を乗り切った。敵失とはいえ、この経験は貴重だ。憲法は確かに国民の宝として守り抜かれた。この勝利を私たちは護憲政党や、これを支えた護憲の団体、個人とともに祝賀したい。
首相の退陣表明の直後、8月29,30日に行われた共同通信世論調査によれば、新内閣が取り組むべき課題9項目のうち「憲法改正」は最下位の5.5%。つまり反対と無関心層はあわせて90%を超えている。このように不人気な課題に本気で取り組む政治家は――怨念につかれていない限り――当分は現れないだろう。
護憲の運動は75年間の試練を経て新たな段階に入った。改憲の挫折で気落ちした保守反動派を直ちに追撃し、第2段階の護憲運動を有利に展開する足場を固めなければならない。
具体的に追求すべき課題を挙げれば①戦争予算を大幅に削減し、民生予算を大幅に増額する②戦争産業を孤立化し、民生産業を拡充する③第1次安倍政権下で行われた改正教育基本法(06年12月)第2次政権下の特定秘密保護法(13年12月)集団的自衛権の行使容認(14年7月)安全保障関連法(15年9月)の実質的空文化を進める④護憲教育を活性化し、護憲活動を敵視する風潮を一新する⑤歴史教育を強化し、国内外の戦争被害を学習し、とくに近隣諸国への加害を直視し、自虐史観批判を一掃する⑥辺野古の埋め立てを停止し、沖縄の軍事基地を削減する⑦核兵器禁止条約に参加する⑧森友、加計、桜問題を解明し、不法行為者を処罰する⑨コロナ対策の透明性、検査の拡大、正当な補償を計る⑩原発を全廃し、再生可能エネルギーを開発する、など。
後継内閣が現政策を転換せず、継承するとの予測があるなか、私たちは一層の警戒心を持ち、後継政権の動向を監視し、違憲行動を萌(ほう)芽のうちに摘発し、護憲諸団体との協力を進める。
極右安倍政権の退陣を、18年4月19日に逝去された岡部太郎元共同代表の霊に報告したい。氏は、当会シリーズ第3号『戦前の悪夢・戦争への急カーブ』の中で最後まで安倍政権の戦前回帰政策に危機感を抱き続けられていた。
(8月31日 福田玲三)