さる4月27日(日)、神田・学士会館で会合、参加者11名。入会者 計 13名。
まず、岡部太郎(元『東京新聞』政治部長)氏から政治の現況について次のような報告があった。
政治現況報告(岡部太郎氏)の要旨
4月23、24日に今年前半の最大の行事とも云えるオバマ米大統領の国賓としての公式訪問があり、安倍首相と会談があった。今回の最大の議題は日米のTPP交渉の行方だった。日本側の強い要望であった尖閣列島への米側のコミットと集団的自衛権への作業の了承は案外すんなりと認められた。尖閣列島の領有は日米安全保障の範囲内である、という大統領のお墨付きと集団的自衛権の検討を認めるというものだ。
実は日本側は事前に、この二つを米側に要望。オバマ大統領の出発前にOKサインを出していたから、当然の結果だ。その代り、代償として米側の要求するTPP妥結への圧力は大変なものだった。
23日の非公式な寿司屋の会食でも、オバマ大統領はほとんどTPP妥結の要望だった。甘利経産相は、このあと呼び出され、深夜3時すぎまで、詰めの閣僚折衝を続けた。
24日の正式首脳会談後に出されるのが慣例の共同コミュニケも出されず、折衝が続けられた結果、翌24日、オバマの離日直前に、やっと「TPP妥結への筋道が特定された」との表現でコミュニケが発表された。
政府は二つのお墨付きを得たことを、鬼の首でもとったように大成果と発表したが、実際は米側に大きな借りを作ったことになる。11月に下院議員選挙を控えるオバマは、6、7月をメドにTPP妥結を急ぐことは確実で、安倍政権は米国に大きな負債を背負ったことになる。中心は牛、豚肉の関税の引き下げで、日本は米、麦、砂糖を聖域としているので、どこまで下げられるか。牛肉は10年かかって9%まで1%ずつ毎年引き下げ、豚肉もヒトケタの下の数字が言われている。もちろん日本の畜産農家は全滅との声もある。
自民党がなぜ一割にまで下がった農家を必死に保護するのか。それは日本の農村偏重の選挙制度が理由だ。都市部より農村部の票は、衆院で2倍、参院地方区で4倍の価値がある。一票の格差がなくなれば、自民党は永久に過半数は取れず、死活問題だけに、農産物の自由化に必死に反対するのだ。
日本政府の発表にはないが、オバマは安倍に①尖閣問題は慎重に、中国との改善を急げ②集団的自衛権は、よく国民に説明し、慎重に③TPPは日本の利益になるのだから、急げ――と強く訴えたという。そして「他の國の希望を受け入れない者は自国の希望も通ることはない」と寿司を食べながらピシャリと言ったそうだ。実際、米が譲歩した尖閣など二つは、米側にとってはプラスになることはあってもマイナスになるものではない。
これから先、安倍がどういう段取りで、米国への借りを返して行くかが、外交、国内政治問題のカギになる。
ついで野村光司(原案起草者)氏から、岡部氏の政治報告の中で、とくに現憲法に関する事項について次のような説明があった。
現政権の集団的安全保障論の憲法問題
現政権の「集団的安全保障論」は、自衛隊が随伴する米軍が第三国軍と戦闘状態になったら自衛隊も米軍と共にこの第三国軍と戦闘をさせようとするものである。自衛隊は決して国内暴力団などと対決する警察ではなく、他国との戦争を行い得る戦力を持つ軍隊である。これが日本が保持する戦力であれば憲法9条2項が明確に禁ずる違憲の存在である。しかしその創設の事情や米軍との関係の実質を考えると、発足当初から米国の強い要求ににより米軍の装備と米軍の教官と米軍の教程によって活動を始めたもので、「米軍日本人部隊」であったと言える。創設当初はその目的や兵器の名称など種々偽装して「警察予備隊」と称した。しかしこれが軍隊であることを隠し切れず、やがて憲法9条の解釈を変更して、侵略の軍隊は持てないが他国から侵略を受けた場合の自衛の軍隊の保持は禁じないという新たな詭弁を設けて陸海空の「自衛隊」となった。
国内でも各人の正当防衛権はあるが、それは現在所持を許され、また行使を許される範囲で行われるべきもので、自宅に盗賊が侵入した場合、これを追い払ったり、自力での逮捕は許されるが、直ちに殺害するのは過剰防衛となるし、自衛のためと称すれば日本の法律で所持を許されていないピストルを各人が備えられるわけではない。アイスランドは日本と同じく軍隊を持たないことを国是としているが、1958年から20年近く、イギリスの間で沿岸漁業権を巡りいわゆる「タラ戦争 (Cold WarならぬCod War)と称せられる紛争が起きた。イギリスは軍艦を差し向けたが、アイスランドは沿岸警備隊がこれに対決して、結局アイスランドの主張を、英国も国際社会も承認した。
また国家を組織することは、個人が自ら用心棒や警備会社を雇うのではなく国が警察を創設し、人民はその費用を負担し、或いは自ら警察官に応募して共同の武力によって安全を保障することである。日本国憲法は第9条で日本国が保持する軍隊を廃絶し、前文「平和を愛好する諸国民の公正と信義 (justice and faith:法と執行力と価値観) に信頼して我らの安全と生存を保持する決意」をしたのである。これは当時既に国連が加盟国の安全保障を担当するものとして設立されており、日本は国連に資金、職員、隊員の協力をして安全保障を確保するのが日本国憲法の立場である。
なお日本軍としての自衛隊のまま、現地軍だけの判断で第三国と戦闘を開始することは、戦前の陸軍刑法も「司令官、外国に対し故なく戦闘を開始したるときは死刑に処す」(35条)としていたように、現地軍の判断で外国と戦争を開始する行為は、現地軍の一存で日本国全体を新たな戦争に投入することで、最も許されざる行為である。満州事変は関東軍の謀略で開始され、朝鮮軍司令官の判断で日本国(朝鮮)から満州国に越境した。司令官は死刑に処せらるべきものを黙認されてその後の軍部の独走を許し、内外2千万人を犠牲にする人類の大悲劇となった。現政権の考える「日本の軍隊としての自衛隊」を残したままでの「集団的自衛権」は絶対に認められてはならない。
次の例会で、会員の皆さんの提案、疑問は、出尽くしたものとしたいので、「国政
案」を良く精査された上、問題点を持ってご出席になることをお願いしたい。例えば
既に最近、タイで憲法裁判所の決定で首相が違憲の行為があったことを理由に失職さ
せたことがあり、会員から、我々もこれに対応する必要があるのではないかとのご指
摘を頂いた。これについては、既に我々の「国政案」15条関係「行政指導の根絶」末
尾で「公務員を罷免する国民固有の権利」に言及しているが、これを「公務員を罷免
させる国民の権利」として次のように新たな項目に独立させたい。
公務員を罷免する国民の権利
違憲、違法、党利党略を恣にして来た政権党、官僚を頂点とする保守勢力は、一人
民によって罷免されるとするこの規定を実施する意思が全くなく、永くこの手続きを
法制化して来なかった。同時に憲法改正についても実現の可能性がなかったこれまで
は、その手続法を法制化することも無かった。しかし現政権の国権優先の強い改憲の
意思で「憲法改正国民投票法」が制定されることとなった。しからば対極にある、人
民の基本的人権としての公務員罷免権についても法制化されるべきである。
人民も恣に公務員罷免権を行使できるわけでもないが、少なくとも公然と憲法を否
定する公務員は、相手が例え首相であっても一人民の訴えで、これを罷免する手続法
が制定されねばならない。罷免のような厳しい制裁を科し得るのとすれば、それより
は軽く、個別の行為を違憲、違法、無効として、罰金、懲戒、弁償、謝罪で処置する
ことも当然できる。
また、すべて裁判所で処理するか、行政不服審査制度によるかの問題もある。
なお、必ずしも法律を制定するのではなく、内閣が政令で実施する余地もあるが
(憲法73条6号)、これは罰則を設けることはできないし、現政権にかかる政令を制
定させることは全く期待できないだろう。
野村光司氏の説明の後、先に送信済みの「護憲国政追加(案)」と「憲法改正国民投票法について」の討議に移り、一部修正されたが、その成文は今回添付の「日本国憲法が求める国政(中間案)」に織り込まれているので承知されたい。
最後に福田玲三(事務局)氏より、規約案のうち会の名称は(仮称)を外して「完全護憲の会」にすること、共同代表として、岡部太郎、野村光司両氏の外に、数名の候補者名を挙げて、ご本人の了解をえるよう交渉をすすめること、会の財政は会発足時に匿名者から寄附があった外に、会員3氏より計21、000円の寄附をうけている現状を報告したのち、会議終了後に学士会館喫茶室で懇談する際の飲み物は半額を会で負担したいと提案があり、いずれも了承された。
なお振替口座を設定するに必要な会の規約は当面、現規約案を流用すること、また共同代表候補に元衆院議長土井たか子氏が会員から推薦され、このいずれも了承された。
次回の集会は、都合により月末を越え6月1日(日)とされた。
なお、本ニュース第5号にあわせて、「ごあいさつ(案)」と「日本国憲法が求める国政案(中間案)」を添付した。これを6月1日の例会で討議する。それまでにまでに疑問点、追加点のある方は事務局 (03-3772-5095. rohken@netlaputa.ne.jp) または起草者 (03-3309-4310、mitsunomura@ybb.ne.jp ) にお知らせください。
この「ごあいさつ案」と「中間案」は6月の例会(6月22日に予定)で討議、決定したのち、これをパンフレットに編集し、関係方面へ配付する予定。そのための編集委員数名の人選を6月1日の例会でしていただきたい。
5月の例会(研究会)ご案内
日時 6月 1日(日) 14:00~16:30
場所 東京・神田 学士会館地下1階 京都大学連絡用室
(地下鉄・神田神保町駅 A9 出口から徒歩1分)
報告 政治の現況について 岡部太郎(元『東京新聞』政治部長)
「ごあいさつ案」及び「日本国憲法が求める国政(中間案)」 野村光司(原案起草者)
経過報告と今後の日程 福田玲三(事務局)
討議 報告および提案への質疑、意見
6月例会について その他
参加費 無料(ご参加の予定をメール、葉書あるいは電話などで予めお知らせください。)
連絡先 〒140-0015 東京都品川区西大井4-21-10-312 福田玲三
電話03-3772-5095 メール:rohken@netlaputa.ne.jp
なお本配信ご不用の方は恐れ入りますが、その旨ご返信ください。
<良書紹介> 東京新聞政治部編『読むための日本国憲法』
新憲法草案の発表など改憲論議が高まった2005年の人気新聞連載をまとめた原著を大幅に加筆修正。現役の政治部記者が、全103条をエピソードとともに逐次解説。難しい語句には注を付け、条文のポイントも示す。(文春文庫・680円)
「完全護憲の会」入会申込書 No.
氏名
ふりがな
入会年月日
20 年 月 日
e-mail アドレス
住所
〒
電話番号
入会金
支払 未払