完全護憲の会ニュースNo.41 2017年5月10日

             <例会参加の方は本ニュ―スをご持参ください>
             連絡先 〒140-0015 東京都品川区西大井4-21-10-312 完全護憲の会
             電話・FAX 03-3772-5095 Eメール:kanzengoken@gmail.com
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      目次  第40回 例会・勉強会の報告       P.1
          第37回 運営・編集委員会の報告(略)  P.1
          別紙 1 政治現況報告        P.2
          別紙 2 事務局報告         P.3
          別紙 3 緊急警告019号        P.4
          別紙 4 道徳の教科化と教育基本法  P.5

        第40回 例会・勉強会の報告

 4月23日(日)、港区・三田いきいきプラザ集会室で開催、参加者8名、会員57名。
 司会を草野委員が担当し、まず「政治現況報告」(別紙1)が代読され、この報告をめぐり次のような意見が交わされた。
 「報告では極東地域の緊張について、『必要以上に声高に危機を叫んでいるフシもある』となっているが、万一米朝交戦になれば日本が必然的に巻き込まれる危険が軽視されている」「安倍首相は危機をあおりながら観桜会に出ている。危機をあおっているが、はったりだ」「『対話と圧力』とよくいわれるが、『圧力』という言葉は嫌だ。本当に、誠実に語るべきだ」「北朝鮮の扱いを中国に任せるべきではなく、日本が最大限、自力で努力すべきだが、安倍首相の外交能力には信用がおけない。日ロ首脳会談は成果なし、韓国駐在大使引き上げは意味がなかった」「情けない内閣だ。よく自民党が黙って見ているものだ。末期的症状だ。自民党にもまともな人がいるはずだ。反抗すれば昔のスキャンダルが持ちだされる。小選挙区制だけのせいではない。清廉潔白な議員がいなくなっているのではないか」「報告に『シリア政府軍が反政府軍にサリン攻撃を仕掛け』とあるが、このように断定できるか?」「断定はまずい、『と伝えられる』位にすべきだ」「ジュバからのPKO撤退は安倍の大敗北だ。安保法にもとづく『駆け付け警護』の派遣を閣議決定しながら、目的を達成できぬままの引き上げだ。これは憲法の画期的な勝利だ。トランプ、朴槿恵とも憲法裁判で敗れた。この教訓に学ぶべきだ」「高度成長期が終わり、自分に不安な人々が中国や北朝鮮を見下して自分を慰め、安倍政権を支えている」など。
 ついで事務局報告(別紙2)が福田共同代表から行われ、「緊急報告019号 過去の亡霊、教育勅語の復活は違憲」案の字句について修正意見があり、それにもとづいて一部書き直すこととした。
 そのあと都内で家庭教師をしている初参加者1名の自己紹介があり、休憩の後、勉強会にうつり「道徳の教科化と教育基本法」(別紙4)について、安立きくこ氏から報告があった。この報告をめぐり、東京都の教育委員会が試験の模範解答で愛国心や忠誠心を賛美する事例が参加者から出された。安立報告の多面的で秩序だった報告については、次回に引き続き討議することとして勉強会を終えた。

 当面の日程について
1)第41回例会 5月28日(日)13:30~ 三田いきいきプラザ
2)第38回運営・編集委員会 5月31日(水)14:00~ 三田いきいきプラザ
3)第42回例会 6月25日(日)13:30~ 三田いきいきプラザ
4)第39回運営・編集委員会 6月28日(水)14:00~ 三田いきいきプラザ

<別紙1>
         政治現況報告
                  岡部太郎(共同代表) 2017年4月23日

 4月も内外共に重要な政治ニュースがあったが、その中でも太平洋を中にはさんだ超大国の米国・中国の両首脳が初めて顔を合わせたことであろう。中国の習近平国家主席は12日、米国のトランプ大統領をフロリダに訪問、2日間にわたって会談した。最大の懸案だった北朝鮮問題では「中国が傘下にある北朝鮮の横暴を止めないなら、米国一国で(軍事的に)対処する」とトランプ氏が最大の圧力をかけたのに対し、習氏は「努力する」と答えただけで、実質、平行線に終わった。しかし、この会談期間にシリア政府軍が反政府軍にサリン攻撃を仕掛け、トランプは人道上許せないと直ちにシリア空軍基地を海上からミサイル攻撃をした。しかも首脳会談で、この事実を習氏に伝え、習氏も受け入れざるを得なかった。
 ロシアのプーチン大統領はシリア政府を支援するだけに直ちに米国を非難。安倍首相はトランプを支持、EU諸国も支持したため、膠着状態が続いている。
 一方、北朝鮮は五年ぶりに金日成生誕祭を軍事パレードで飾り、ICBM(大陸間弾道弾)や潜水艦発射のミサイルなど新兵器の示威運動を展開。習訪米やペンス米副大統領の訪中、訪韓に向けてミサイル発射実験(失敗)などで挑発した。これに対し、トランプもインド洋にあった原子力空母カールビンソンを北朝鮮海域へ送り込み「北朝鮮に対する全ての選択肢はテーブルの上にある」と対抗。ペンスも日本で「平和は力のみで達成される」と大見得を切った。またトランプはアフガンに〝全ての爆弾の母″という名の大型爆弾を使ってみせた。
 そんなことで、極東地域の緊張はこれまでになく高まっているが、安倍首相ら政府・自民党が必要以上に声高に危機を叫んでいるフシもある。と云うのも、トランプは会談後は習近平を大いに持ち上げ、対米輸出第一位も攻撃しなかった。また口先では強いが、北朝鮮のことは、しばらく中国の説得に任せよう、との空気が強い。当然北朝鮮も余り派手な火遊びは控えるだろう。ただ当分は極東地域から目が放せない。
 一方、国内では安倍政権が戦前の〝治安維持法″の再来「組織犯罪処罰法改正案」(テロ等準備罪)を閣議決定の上、6日衆院で審議入りした。
 政府は03年~05年三度にわたって「共謀罪」を新設する改正案を国会に提出したが、いずれも適用範囲があいまいで廃案となっている。
 今回は2020年の東京オリンピックに向けて「テロなどの組織犯罪を未然に防ぐ」という鳴りもの入りで、適用は「組織的犯罪集団が、計画・実行段階に入った時」としているが、治安維持法もどんどん拡大し、本を持っているだけでも逮捕された。 しかも「テロ等」とあるものの、あくまで集団で、個人のテロは逮捕されない(これは治安維持法も最初は集団だけだった)。対象は一応277にしぼられたが、まだあいまいな部分が多く、政府・与党は数だけを頼りに五月連休までに衆院を通過させ、今国会での成立を図る。民進や共産は「思想の自由を侵す」と言論界、法曹界の反対を支えに廃案を目指す。ただ担当大臣の金田勝年法相は、これまでも数々あいまい答弁や失言で野党から追及されており、このへんが波乱要因か。
 そう云えば一強と云われた安倍首相も、絶対多数のおごりから、閣僚の失言や取り消しが相次いでいる。金田法相(テロ法案は国会提出後に議論せよ)、稲田防衛相(森友学園の問題で裁判所に出ていた)、務台復興政務官(台風被害で長靴業界はもうかった=辞任)、今村復興相(原発自主避難者は本人の責任。自己判断だ)、山本地方創成担当相(一番のガンは文化学芸員)そして安倍首相(妻昭恵は云われたようなことは絶対やっていない)。
 昔ならみな辞任もので野党もだらしない。
 森友学園の説明 不十分 75% 十分 12%  首相夫人国会で説明 必要 53% 不要39%(朝日新聞)
 これから三カ月、フランス大統領選、韓国大統領選、イギリス総選挙、東京都議選……重要選挙が目白押しです。

<別紙2>
        第40回例会事務局報告
                    福田玲三(事務局)2017.4.2

1)来信

①最新ニュース受信いたしました。毎号の記事のなかで特に「政治現況報告」(岡部さんレポート)が楽しみです。
 つきましてはニュース6ページの集会案内中『週刊金曜日』東京南部読者会 4月28日(金) 18:30~20:30 大田区生活センター第6集会室(JR蒲田駅徒歩5分)の場所は「正」第3集会室(誤・第6集会室)です。案内訂正方よろしくお願い致します。 週刊金曜日東京南部読者会・事務方(松島)

②新年度も4月半ばになりましたが、お元気でお取組みのことと拝察いたしております。
 ニュースNo40号頂戴いたしました。すべての内容が価値あるもので、私にとって貴重なものとなっております。
「平和への権利宣言」国連総会採択についての中で、日本が「平和への権利」の国際法典化に反対していることを知り驚いております。(核実験禁止条約に反対した日本が情けないですが、それと同根ですね。)ありがとうございました。 (珍道)

2)訃報

当会創立時から編集委員を務めていただきました榊山今日児氏(87歳)が去る3月30日闘病の末、逝去されました。

3)新しい冊子の発行

『 明治帝國憲法下のくらし――自民党改憲草案のめざすもの/羽毛よりも軽かった人のいのち 』
2017年5月/完全護憲の会
3月29日入稿/ 4月7日初校/ 4月13日再校 /4月21日校了 /5月1日納本(予定)

目次
まえがき
自民党改憲草案のめざすもの
戦前の我が家と憲法――三従の教え
死を奨励した異常な世界――露営の歌
死の五段活用と総立ち拍手の光景――第192臨時国会
布施杜生――人間を解体する治安維持法
地獄の話――西部ニューギニア戦場の飢餓
天皇の「生前退位」問題――護憲派は積極的な関与を

資料:大日本帝国憲法/教育勅語/軍人勅諭/戦陣訓/自民党改憲草案

4)集会の案内

1.5・3憲法集会
  5月3日(水・祝)11:30 開場 12:00 開会 有明防災公園5月19日(金) 
2.戦争と共謀罪に反対する大集会
  5月19日(金) 18:30 東京・霞が関 弁護士会館2階講堂 クレオ
  主催・憲法と人権の日弁連をめざす会、他 入場無料
3.第18回「7・1閣議決定」違憲訴訟勉強・相談会
  5月20日(土) 14:00~16:30 神明いきいきプラザ(JR浜松町駅徒歩5分) 
  違憲訴訟 出発式  参加費:200円
4.『週刊金曜日』東京南部読者会
  5月26日(金)18:30~20:30 大田区生活センター(JR蒲田駅徒歩5分)
5.第5回平和学習会~憲法原文を忠実に読み返す
  6月3日(土)13:30~16:30 東京ボランティア市民活動センター 会議室C(飯田橋駅に隣接)
6.6.10国会大包囲 止めよう!辺野古埋め立て 共謀罪法案は廃案に!
  6月10日(土) 14:00~15:30 国会周辺
  主催・戦争させない・9条壊すな! 総がかり行動実行委員会、他

<別紙3>
      緊急警告019号 「過去の亡霊、教育勅語の復活は違憲」

 さる3月31日、安倍内閣は教育勅語について「憲法や教育基本法等に反しないような形で教育勅語を教材として用いることまでは否定されることではない」との政府答弁書を閣議決定した。
 しかし、教育勅語をめぐっては、すでに1948年に衆院が「根本理念が主権在君並びに神話的国体観に基づいている。基本的人権を損ない、国際信義に疑点を残す」としてその排除を決議し、参院も「われらは日本国憲法にのっとり、教育基本法を制定し、わが国とわが民族を中心とする教育の誤りを払拭し、真理と平和を希求する人間を育成する民主主義的教育理念を宣言した。教育勅語がすでに効力を失った事実を明確にし、政府は勅語の謄本をもれなく回収せよ」と、その失効を決議した。
 教育勅語について「日本が道義国家を目指すというその精神は今も取り戻すべきだと考えている」(参院予算委員会、3月8日)と述べた稲田防衛相を、その後で擁護するために作られたこの政府答弁書は、持って回った文面にかかわらず、この勅語を復活させる意図は明らかだ。
 国会は、国権の最高機関、国の唯一の立法機関であり、内閣は国会に対して責任を負う行政府に過ぎない。国会の決議に反する閣議決定は明らかに違憲だ。
 衆参両院の決議が示しているように、教育勅語は絶対的天皇主権を定めた明治帝國憲法下で発布され、そこで天皇は臣下、つまり従僕に守るべき徳目を列挙した。現日本国憲法になって状況は一変した。臣下は国の主権者となり、天皇は主権を失い、お上は国民につかえる公務員になった。この場合、天皇がかつて下付した勅語を、国務大臣や内閣がふたたび徳目として持ちだすことは、主権者国民を侮辱する越権行為だ。いくつかの徳目の結びとして「一旦緩急あれば義勇公に奉じ、以て天壌無窮の皇運を扶翼すべし」と、天皇家を守るために命を差し出せと指示しているのであるから、なおさらだ。
 「すべて国民は、個人として尊重される」(現憲法第13条)ことを教えるべき学校で、個性を否定するいじめが広がっている現状では、上下の厳格な秩序と画一化を狙う教育勅語の復活は百害あって一利もない。
 稲田防衛相が教育勅語を「全体として」肯定し、安倍内閣がその教材としての使用を否定しないと閣議決定したのは、彼らの公務員としての自覚の欠如であるとともに、現憲法を彼らが敵視している表れだ。
 だが、敗戦時の時勢に助けられてこの憲法を手にした私たちの多くが、その至宝の価値を十分には認識せず、そこに彼らの付け入る隙を与えている。私たちはこの弱点を痛感し、その主権者意識を高める長期的な運動を行っている。
 この緊急警告は現政権に対する告発であると同時に、私たち自身の反省を深めるための呼びかけでもある。

<別紙4>
       道徳の教科化と教育基本法
                    安立きくこ  2017年4月23日                               

【 最近の社会状況 】
2012  中学校で武道必修
2015.3  文科省、道徳を小学校で「特別な教科」 に格上げすることを告示
2017.2.19 子多いほど税軽減「N分N乗(世帯課税)方式」検討、自民有志
2017.2  憲法改正のテーマに教育の無償化を据えようとする動き
2017.3.15 ベア前年割れ続出
2017.3.17 大卒内定率90.6% 今春卒業予定 6年連続で改善
2017.3.21 稲田防衛相、教育勅語について「戦前のように教育の唯一の根本理念として復活させるべきだとは全く考えていない」
2017.3.23 森友学園の籠池理事長、証人喚問(大阪の国有地売却問題について)
     (森友学園の塚本幼稚園では園児達に教育勅語を暗唱させる指導を行っていた)
2017.3.24 道徳教科書 初検定(小学校で2018年度に正式教科)結果公表
 「伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度」を学ぶ題材中の「パン屋」を、和菓子を扱う「お菓子屋」に変更。文部科学省の審議会において「学習指導要領に示す内容に照らして扱いが不適切」「『我が国や郷土の文化と生活に親しみ、愛着を持つこと』という内容項目について考えさせる内容になっていない」との検定意見がついたため。
 これに対して、パン業界憤慨「郷土 愛してるのに」
 〔道徳の教科化: 2011年の大津市の中学二年生のいじめによる自殺をきっかけに、道徳教育の大切さが注目され、2013年に政府の「教育再生実行会議」が道徳の教科化を提言、2014年に中央教育審議会が小中学校の道徳の教科化を答申。数値ではない成績がつく。小学校は2018年度から、中学校は2019年度から教科化される。中学の教科書検定は2017 年度に実施〕
2017.3.31 保育所で「国旗国歌」 に「親しむ」
      厚生労働省、保育所の運営指針を正式決定、2018年度に施行
2017.3.31 新学習指導要領(中学)に、「銃剣道」明記
2018(平成30)年度から移行期間、2021(平成33)年度から全面実施
2017.4.1 教材に教育勅語 否定せず、答弁書を閣議決定
 「わが国の教育の唯一の根本とするような指導を行うことは不適切だ」とする一方
 「憲法や教育基本法などに反しないような形で教材として用いることまでは否定されない」
2017.4.3 「教材に教育勅語」 菅官房長官、記者会見発言
 「戦後の諸改革の中で唯一の教育の根本として取り扱うことは禁止され、その後の教育基本法の制定で、政治的、法的な効力は失っている」とする一方で、「親を大切にする、兄弟仲良くする、友達を信じ合うことまで否定すべきでない」として道徳の教材としては否定しない考えを示した。(安倍内閣、答弁書を閣議で決定)
2017.4.4 「生涯未婚」男性23%、女性14%(2015年)、 厚生労働省調査
2017.4.18 稲田防衛相、女性自衛官の配置制限撤廃を発表
2018年度~ 小学校で、教科書に基づく教科としての「道徳」の授業開始
2019年度~ 中学校で、教科書に基づく教科としての「道徳」の授業開始

【 歴史 】
1890年10月 明治天皇の名で教育勅語発布(起草は井上毅・元田永孚ら)
1891年 9月 教育勅語の解説書「勅語衍義」刊行
1945年10月以降
     (GHQ)軍国主義的教職員の追放、国家神道の禁止、修身・日本史・地理教育の停止など
1946年3月 アメリカ教育使節団来日
      民主主義教育の理念、教育内容への文部省の介入排除など
      日本教育委員会(南原繁委員長)
1946年10月 文部次官通牒で教育勅語を教育の唯一の根本とする考え方や奉読を廃止
1947年3月  教育基本法の公布
1947年5月  日本国憲法の施行
1948年6月 「主権在君や神話的国体感に基づき、基本的人権を損なう」として衆院で排除、参院で失効確認の決議採択
2006年12月 教育基本法改正(第一次安倍内閣)、教育目標に愛国心が盛り込まれる

【 教育基本法改正の流れ 】
1.制定当時からの強い不満
  占領下における制定、日本国憲法を補完する性格、教育勅語の代替物としての役割、政治的な “主義”の文言(平和主義、民主主義、平等主義などの政治的イデオロギー)
2.類型
  「復古的・国家主義的改正論」
   基本法の内容を教育勅語のようなものにする
  「未来思考型改正論」
新しい時代に対応した内容に変えようとする
3.1951年、吉田内閣、天野貞祐文部大臣「国民実践要領」(国家の道義、愛国心など41の徳目)
  「国家の道義的中心は天皇にある」と発言し、反対論強まり白紙撤回
4.1956年、鳩山内閣、臨時教育制度審議会設置法案、廃案
5.1963年、池田内閣、荒木文相「 期待される人間像について」中央教育審議会に諮問
  1966年、中教審による答申(16の徳目)
 ◎個人として(ア)自由であること(イ)個性を伸ばすこと(ウ)自己を大切にすること(エ)強い意思をもつこと(オ)畏敬の念をもつこと
 ◎家庭人として(ア)家庭を愛の場所とすること(イ)家庭をいこいの場とすること(ウ)家庭を教育の場とすること(エ)開かれた家庭とすること
 ◎社会人として(ア)仕事に打ち込むこと(イ)社会福祉に寄与すること(ウ)創造的であること(エ)社会規範を重んずること
 ◎国民として(ア)正しい愛国心を持つこと(イ)象徴に敬愛の念を持つこと(ウ)すぐれた国民性を伸ばすこと
 作成の趣旨(高坂正顕主査):「教育基本法の内容はあれでけっこう」「教育基本法は抽象的であり、世界のどこにも適用する普遍性」「日本人の精神的風土に定着させるためには、もっと具体化する必要がある」
6.1984年、中曽根内閣、臨時教育審議会設置(基本法の解釈変更)
  1986年、答申 「教育基本法の精神をさらに深く根付かせ、21世紀に向けてこの精神をさらに創
造的に継承、発展させ、実践的に具体化」するうえで、「平和国家、文化国家、民主主義の成熟を目指す正しい国家意識の涵養(略)、個性ゆたかな文化や伝統の継承…」の必要性から、「公共のために尽くす心、他者への思いやり、社会奉仕の心、郷土・地域、そして国を愛する心、(略)異質性・多様性への寛容の心などを育成することが必要」
7.1990年代、グローバリゼーションの進展、新自由主義による社会の変化
8.1999 年、小渕内閣、教育基本法の見直し着手を明言
  2000年、教育改革国民会議の設置
9.2000 年 、森内閣、「教育を変える十七の提案」において改正を提言「新しい時代にふさわしい教育基本法を」
  2001年、小泉内閣の遠山敦子文科大臣「1 教育振興基本計画の策定について 2 新しい時代にふさわしい教育基本法の在り方について」中教審に諮問
  2003年3月20日、中教審の答申「新しい時代にふさわしい教育基本法と教育振興基本計画の在り方について」[注]
10.2006年4月28日、小泉内閣、改正法案を閣議決定、同日政府法案として国会提出
「我が国と郷土を愛する」という場合の国とは何かについて、「歴史的に形成されてきた国民、国土、伝統、文化などから成る、歴史的、文化的な共同体としての我が国を愛するという趣旨であり」、「統治機構、すなわちそのときどきの政府や内閣等を愛するという趣旨ではない」と答弁
11.2006年12月、安倍内閣、改定教育基本法施行

[注] 中央教育審議会答申 2003.3.20
 「2 具体的な改正の方向」
 (社会の形成に主体的に参画する「公共」の精神、道徳心、自律心の涵養)
 「…国民が国家・社会の一員として、法や社会の規範の意義や役割について学び、自ら考え、自由で公正な社会の形成に主体的に参画する「公共」の精神を涵養することが重要である。」

 (日本の伝統・文化の尊重、郷土や国を愛する心と国際社会の一員としての意識の涵養)
 「…なお、国を愛する心を大切にすることや我が国の伝統・文化を理解し尊重することが、国家至上主義的考え方や全体主義的なものになってはならないことは言うまでもない。」

 (参考)学習院大学法科大学院教授、野坂泰司氏 2016 岩波書店『世界』8月号
 安倍内閣が七・一閣議決定により、憲法九条の下でも集団的自衛権の行使は容認されると憲法解釈の変更をしたことに対し、従来の政府解釈を変更すること自体は許されないことではないとした上で、「 問題は、その解釈変更(変更後の新たな解釈)が当該条項の解釈として妥当なものであるかどうか、すなわち、制憲者の意図=当該条項の趣旨・目的に反することなく、その枠内で、本来の意味(原意)を具体化し、補充するものであるかどうかの一点に尽きる。このような観点から見るとき、今回の安倍内閣による憲法九条解釈の変更が解釈として許される限度を超えた不当なものであることは明白である。」

【 改正の理由 】
①押しつけ論:今の教育の荒廃の原因は今の教育基本法からきている
②規定不備論:第10条、誰が教育の責任者かわからない、法文の表現に恣意的解釈が入りこみ不要な混乱を招く
③規範欠落論:一連の教育荒廃現象は、教育勅語にあったような徳目が規定されていないため
④原理的見直し論:教育荒廃の背景は、病める近代文明と近代学校システム。アジア型道徳教育、教育勅語、日本人のアイデンティティー
⑤時代対応論:生涯学習、男女参画、国際化・情報化
⑥改正派の改正不要論批判:「愛国心に反対の人、今の日本が嫌いなら自分が愛せる国にすべく、国づくりに積極参加すればいい。それが主権在民の理念だ。」「国家と国民を対立したものと見るのは主権在民の制度を無視した空論」「理念と徳目は何が違うのか」→ 理念は名宛人が国家、徳目は名宛人が国民個々人

* 徳目を基本法に規定する必要性
参考1)森喜朗元首相、2002 年
「やはり根拠法をつくって初めて、円滑に学校に国歌が響き、国旗が掲揚される」ということを「国旗・国歌法案の経験から知っている」
 憲法改正への布石「憲法改正を視野に入れつつ、国民レベルの幅広い議論の中に教育基本法改正を積極果敢に推し進めるべき」
参考2)民主党 西村真悟衆院議員、2004 年「 教育基本法改正促進委員会」
「お国のために命を投げ出しても構わない日本人を生み出す。お国のために命をささげた人があって、今ここに祖国があるということを子どもたちに教える。これに尽きる。」

* 統治行為としての教育

* 優生思想
三浦朱門「平均学力が下がらないようでは、これからの日本はどうにもならん…できる者を限りなく伸ばす…“ゆとり教育”の本当の目的。エリート教育とは言いにくい時代だから、回りくどく言っただけの話だ」
江崎玲於奈「ある種の能力が備わっていない者が、いくらやってもねえ。いずれは就学時に遺伝子検査を行い、それぞれの子供の遺伝子情報に見合った教育をしていく形になりますよ。」

【 小学校学習指導要領 】
① 小6社会
 大日本帝国憲法の発布、日清、日露戦争、条約改正、科学の発展などを手掛かりに、我が国の国力が充実し国際的地位が向上したことを理解すること。
「天皇の地位」について、天皇についての理解と敬愛の念を深めるようにすること。
② 音楽
 国歌「君が代」は、いずれの学年においても歌えるよう指導すること。
③ 指導計画の作成と内容の取扱い 1 指導計画の作成に当たっての配慮
第1章「総則」の第1の2の(2)に示す道徳教育の目標に基づき、道徳科などとの関連を考慮しながら、第3章「特別の教科道徳」の第2に示す内容について、算数科の特質に応じて適切な指導をすること。
(上記「算数科」の箇所に、国語科、理科、社会科、生活科、音楽科、図画工作科、家庭科、体育科、外国語科、外国語活動、特別活動と、すべての科目が入れられている。)
(愛国心、歴史や伝統、文化の尊重などすべて旧法に含まれているというのが旧法制定以来の一貫した文部省解釈で、学習指導要領はこれらの徳目を明文化してきた)

【 教育勅語の時代(1890年~1948年失効) 】
1. 出来事
(1)文部省設置、1871 年

(2)学制を公布、兵部省設置、徴兵の詔、1872年

(3)徴兵令、1873年
 およそ95%の庶民を兵士に仕立て上げる

(4)伊藤博文、憲法制定の根本精神について所信を披瀝、1888 年
 「今憲法ノ制定セラルゝニ方テハ先ツ我国ノ機軸ヲ求メ、我国ノ機軸ハ何ナリヤト云フ事ヲ確定セサルヘカラス。機軸ナクシテ政治ヲ人民ノ妄議ニ任ス時ハ、政其統紀ヲ失ヒ、国家亦タ随テ廃亡ス……抑、欧州ニ於テハ…宗教ナル者アリテ之カ機軸ヲ為シ、…然ルニ我国ニ在テハ宗教ナル者其力微弱ニシテ一モ国家ノ機軸タルヘキモノナシ。仏教ハ…傾キタリ。神道ハ…宗教トシテ人心ヲ帰向セシムルノ力ニ乏シ…我国ニ在テ機軸トスヘキハ、独リ皇室アルノミ。…専ラ意ヲ此点ニ用ヒ君権ヲ尊重シテナルヘク之ヲ束縛セサラン事ヲ勉メリ。…君権ヲ機軸トシ、偏ニ之ヲ毀損セサランコトヲ期シ、敢テ彼ノ欧州ノ主権分割ノ精神ニ拠ラス。固ヨリ欧州数国ノ制度ニ於テ君権民権共同スルト其揆ヲ異ニセリ。是レ起案ノ大綱トス」
  新しい国家体制の精神的機軸としての皇室 ; 国體「将来如何の事変に遭遇するも…上元首の位を保ち、決して主権の民衆に移らざる」1889年
⇒「家族国家」:「国體」 の最終の「細胞」

(5)日清戦争(1894年7月~95年11月) 「疫病との戦争」決して文明的な戦争ではなかった
* すもうと愛国
力士も軍夫として戦争協力
 「報国の志」を示すため。当時、“裸体踊(はだかおどり)”と軽蔑され廃止論まで出ていた相撲の地位を向上させるため。
* 福沢諭吉〈 日清の戦争は文野の戦争 〉 ※文野:文明と野蛮
⇔ 討清軍歌 “膺(う)てや懲らせや清国を”
* 実物教育としての戦利品の公開(天皇→大阪の博物館→靖国神社→全国巡回)
* 旅順虐殺事件、1894年
 司令官、山地元治中将による指令「婦女老幼を除き皆殺しにしてもかまわない」
 実際は「老爺は嬰児と共に斃(たお)れ老婆は嫁娘と共に横たわる、惨状名状すべからず」(輜(し)重輸卒、小野六蔵)という状況
「大抵の人家二三人より五六人死者のなき家はなし…実に愉快極りなし」(長野出身、窪田仲蔵、11/21日記)
 世界中に報道され苦境に立たされた日本政府は、通信社のロイターを買収し事件のもみ消しをはかる。(伊藤博文首相、「不問に付」すことを指示)
* 台湾領有戦争(1895年)
 台湾民衆のゲリラ的抵抗は1902(明治35)年まで続く。

(6) 全国青年大会 1910年
 「青年団規十二則」採択
一、教育勅語並に戊申詔書の御趣旨を奉体すべきこと。 一、忠君愛国の精神を養ふべきこと。 一、国体を重んじ祖先を尊ぶべきこと。……

(7) 石橋湛山の小国主義
 『大日本主義の幻想』1921年 (「東洋経済新報」1895年創刊)
  朝鮮、台湾、樺太も棄てる覚悟、軍備の縮小、平和主義

(8) 関東大震災 1923年
 死者の最大のものは焼死者。悲劇は、避難者の持ち出した家財によるものであった。
 江戸時代には持ち出し禁止の通告があった。江戸時代に防火のための火除原と称された広場や広い道路も、無駄な場所として民家で埋まる。(火災に対する処置などは、むしろ江戸時代よりも後退 ――中村清二、 寺田寅彦)
* 1882年、太政官布告第36号「戒厳令」を規定

(9) * 国民学校令公布 1941年
 小学校が国民学校に改められる
 国民学校の教育目的は「個人の発展完成」を目指すものではなく、教育勅語を奉じ「皇国の道に則りて国民を錬成し皇運を無窮に扶翼」するにある、とした。(文部省)
 教育勅語の暗唱と奉安殿への敬礼
 但し、戦前の軍国主義教育はイデオロギーそれ自体を直接注入するようなものばかりではなく、子どもたちが好きな歌、物語、お芝居、映像、画像など当時あったあらゆるメディアで子どもの欲望に答えるかのような巧妙なやりかたで行われた。
 **『臣民の道』文部省発行、1941年
 「我等は私生活の間にも天皇に帰一し国家に奉仕するの念を忘れてはならぬ」天皇と国家への忠誠を国民に要求

(10)第二次世界大戦、1945年終結
  戦死者約2000 万人(日本人 約300 万人)

2.体験
(1)むのたけじ(1915年生まれ)
  隣組は、隣近所で互いに監視するためのもの。軍事訓練を怠けると「あいつは非国民だ」と非難。それが家庭にも入りこみ親子、夫婦も信じ合えなくなる。だから家族がバラバラになった。

(2)山口 彊(1916年生まれ)
 1925年から、中学校での軍事教練
「陸軍現役将校学校配属令」教練指導として現役将校が配属され、授業の一環として週3~5時間ほど実施
「軍人がそうやって威張り出したのは、昭和になってからだという感じがどうもある。いまからすれば、戦前は軍国主義一辺倒で、ひたすら暗い時代であったようなイメージがあるかもしれないが、大正時代は、少なくともそうではなかった。」
「何が善くて何が悪いかは国家が決める。自分独自で物事を考え表現する人は、権力によって殺害される時代になっていた。…心に思ったことを言っては罰せられる。それは何も特定の思想に限ったことだけではなかった。やがては素直に感情を表すことすら禁じられるようになっていった。…学校教育そのものが、ますます天皇至上主義に傾いていった。」

(3)大島孝一(1916年生まれ)
 当時は「神社は宗教でない」という理屈で、他にどのような宗教を信じていようといまいと、日本人である以上、神社参拝を拒むことは許されなかった。…靖国神社の前を走っていた都電に乗る乗客は車掌の指示でいっせいに拝礼しなければならなかった。

(4)福島菊次郎(1921年生まれ)
小学校時代、早く兵隊になって天皇陛下に忠義をして死ぬのが最高の名誉。毎日、「 国民は天皇陛下の赤子で、天皇陛下からもらった命は天皇陛下にお返しすべきである」「天皇のために手柄を立てて名誉の戦死をせよ」
満州事変後には小学校高学年に軍事教練を義務づけ。銃剣術、匍匐前進。卒業すると少年志願兵の道も。
「名誉の戦死」は国家に強制された無惨な死にすぎなかった。それでも男たちが戦場に引かれて行ったのは、「卑怯者、非国民」呼ばわりされる人の目を恐れていたからだった。

* 植民地支配(朝鮮)
1925年7月 朝鮮神社完成(10余年の歳月)
10月、朝鮮神宮に改称(朝鮮全土の神社の総鎮守に据えるため)
1935年 神社参拝強要
1937年10 月 「皇国臣民の誓詞」
一、私共ハ、大日本帝国臣民デアリマス
二、私共ハ、心ヲ合ワセテ天皇陛下ニ忠義ヲ尽シマス
三、私共ハ、忍苦鍛錬シテ立派ナ強イ国民トナリマス
(小学生は毎朝、学校で唱える。怠れば学校ではびんた。)
1937年12月 朝鮮中の学校などに御真影を配布、奉安殿に安置
1940年 創氏改名

* メディアの役割
 ( 新聞 )
 各府県にあった二つの有力紙を一県一紙という政府の政策で統合
→ライバル紙の批判、自分たちの方が国策に協力しているという嘆願書を情報局へ送付
 ( ラジオ )
 日本の優越性を強調。「天皇」に関するキー・シンボルの多用。この戦いは「聖旨」すなわち天皇の意思、天皇の命令によるものだと強調し、その大命にしたがうことが臣民の道であると国民に訴える。

【 その他の視点 】
◇愛子さんの卒業文集 平和について
 「…唯一の被爆国に生まれた私たち日本人は、自分の目で見て、感じたことを世界に広く発信していく必要があると思う。『平和』は、人任せにするのではなく、一人ひとりの思いや責任ある行動で築きあげていくものだから。」

◇「共にある」(2016年8月の天皇のお言葉) ⇔ 為に死ぬ(教育勅語)の大きな隔たり

◇籠池町浪(ちなみ)新理事長のメッセージ(抜粋)
 (塚本幼稚園ホームぺージ「新理事長より皆様へ」2017.3.30より)
…教育基本法が平成18年に改正された際に新たに設定された「我が国と郷土を愛する態度を養う」との教育目標を、幼児教育の現場で生かそうとした前理事長なりの努力と工夫の結果であると理解しております。
…今後は、教育基本法が昭和22(1947)年に制定された際に示された「われらは、個人の尊重を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成を期するとともに、普遍的にしてしかも個性ゆたかな文化の創造をめざす教育を普及徹底しなければならない。」との指針を常に念頭におきつつ、内容、カリキュラムを柔軟に見直して参ります。

◇「外国人教員から見た日本の大学の奇妙なグローバル化」
 『中央公論 』2015.7 エドワード・ヴィッカーズ、ジェルミー・ラプリー
 「日本の生徒たちに学校で日本の「伝統、文化、歴史」を学ぶようさらに強要することは、世界と疎遠になることに拍車をかけるだけであろう。そして日本が国際的役割を担う舞台への参加をいっそう難しくする。日本人と外国人という単純な線引きをし続けることにより、現政権は日本の若者の内向き思考を助長する恐れがある。」
 「改革は教育全ての段階で、教室の若者たちが「日本人」の概念に疑問を持ち批判的になれる場にするべきであろう。」
 「内向き志向(ママ)は、国家体制側の価値を教えることを過度に強調してきた必然の結果である。」

参考文献
市川昭午『教育基本法改正論争史』2009年、教育開発研究所
大内裕和『 教育基本法改正論批判』2003年、現代書館
小森陽一 大原穣子『読んでみませんか 教育基本法』2005 年、新日本出版社
杉田敦 編『丸山眞男セレクション』2010 年、平凡社ライブラリー
由井正臣『大日本帝国の時代』2000 年、岩波ジュニア新書338
大島孝一『戦争のなかの青年』1985 年、岩波ジュニア新書103
吉村昭『関東大震災』2004 年、文春文庫
山口彊『ヒロシマ・ナガサキ 二重被爆』2009年、朝日文庫
福島菊次郎『ヒロシマの嘘』2003年、現代人文社
片野次雄『日韓併合』2010 年、彩流社
NHKスペシャル取材班 編著『 日本人はなぜ戦争へと向かったのか』2015年、新潮文庫
『日本の歴史14 「いのち」と帝国日本』小学館
毎日新聞など

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