完全護憲の会ニュース No.64    2019年4月10日

<例会参加の方は本ニュ―スをご持参ください>

発行:完全護憲の会
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目  次

第63回 例会の報告
別紙1 第63回例会 事務局報告
別紙2 元徴用工・韓国大法院判決確定についての覚書 田中宏
第62回 運営・編集委員会の報告

。。。。。。。。。。。。。。。。

第63回 例会の報告

3月24日、港区いきいきプラザにて開催、参加者5名。
まず事務局報告(別紙1)が提出された(なお「別紙1」ほか、本ニュース用に一部内容を修正し情報を更新した)。ついで運営・編集委員として初めて例会に参加する鹿島孝夫氏より次の自己紹介があり、下のような意見が交換された。
「国有鉄道に勤めていたとき、文学に関心があり、文学サークル『国鉄作家集団』に参加した。国鉄を定年退職した後、コンビニに勤めたが、憲法第25条の「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」に関心を持った。というのも、コンビニの勤めは忙しくて何も考えられず、低賃金のその日暮らしで、反戦意識さえ持てず、格差拡大を実感したからだ」
「いまや非正規は4割になり、この人々には憲法を考える余裕さえない」「少子高齢化、非正規労働者の増加、格差の拡大で、憲法25条は遵守されていない」「少子高齢化による人口減少も悪くない。ニュージーランドは人口360万人で、これに比べれば日本は3000万人が限度だ。少子でも構わない。最低賃金1500円よりも正規雇用の実現が優先する。今の職場は正規、パート、派遣の労働者に分断され、技術の継承ができず、愛社精神もない」「憲法の厳正な遵守を要求し続けよう。女の子はアイドルへの関心で育てられている」「男の子もアニメにあこがれ、技術習得はきつくて低賃金だからと避けている。額に汗する労働の喜びを知らない」。

そのあと山岡聴子氏の報告「南京で起こったことを考える」(1.事実を構成するもの、2.児童がふれていたもの、3.事実はどう見られたか、4.旧日本軍の証言、5.南京だけでいいのか)を受けた。

次に映画『語られなかった戦争・侵略1』(50分)を上映。「悪玉よりも悪に支配されるものの方がさらにたちが悪い、といわれるが、中国を侵略した日本兵の悪逆ぶりは、目をそらしたくなるほどだ」などの意見があり、来月例会ではこの続編『語られなかった戦争・侵略2 南京』(60分)の上映と、それに先立ち山岡氏の報告を受けることとして会を閉じた。

<別紙1>   第63回例会 事務局報告

1) 『象徴としての日本国憲法』の寄贈
鳥取県在住の深田哲志氏より次の書状とともに、表題の単行本(本体価格1000円+税、幻冬舎、2019年2月1日刊)を寄贈いただいた。

前略、いつも冊子を読ませて頂いております。有難うございます。
この度、この本を、この国とこの世界に遺す私の『遺言』として出版いたしました。
創案中には何か所か完全護憲の会の考え方を取り入れさせていただいています。遅くなりましたが御礼申し上げます。

(※Amazonより目次転載:はじめに『遺言』/基本理念に関する条文の主な要点/おわりに『平和と存続を実現する唯一の道』/巻末綴じ込み 一目でわかる永世中立の価値(世界地図))

2)普天間基地の移設候補地
さる3月6日、朝日新聞夕刊のコラムで池澤夏樹氏が、普天間基地の移設先として「短期間の工事で実用化可能、付近住民の危険がなく、騒音問題もなく、使い勝手も悪くないという候補地がある」として、鹿児島県の種子島西方の馬毛島を紹介し注目された。しかし3月18日の参院予算委員会で、防衛省はすでに、米軍空母艦載機の離着陸訓練基地を硫黄島から馬毛島に移す計画を、周辺住民や鹿児島県知事の強い反対を無視して進めていることが、仁比総平参議院議員(共産)によって明らかにされた。

※この問題に関する「南日本新聞」の記事はリンクが切れてアクセスできないものが異様に多いが、ネット検索の際「キャッシュ」というリンクをクリックすると、外された記事を表示できる。なお、種子島 の「西之表(にしのおもて)市」のサイトでは、対策協議会や経緯の記録が多数見られる:
http://www.city.nishinoomote.lg.jp/admin/soshiki/kikaku/seisakusuishin/3939.html
3)「辺野古NO」那覇で大規模県民大会
さる3月16日、米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設に反対する集会が那覇で開かれ、参加者は主催者発表で1万人を超えた。玉城デニー沖縄県知事の「辺野古が唯一と政府がこだわることこそ、普天間の固定化につながる。日米両政府が断念するまで揺らぐことなく闘い続ける」という挨拶が代読され、また「政府は県民投票で示された民意を尊重し、米国政府と直接交渉し、辺野古新基地建設を断念せよ」との大会決議文が採択された。(琉球新報、沖縄タイムスより)

4)田中宏先生からの論考「元徴用工・韓国大法院判決確定についての覚書」
田中宏先生より、先月の論考に続いて、元徴用工の韓国大法院判決に関する論考をいただいた。政府があおる嫌韓、それに追随する低級な報道の洪水のなか、その欺瞞を事実であばくこの一陣の清風は、日韓両国の友好を願う人々にとって強力な武器となる。 ⇒<別紙2>

5)当面の日程について
第64回例会・勉強会
4月28日(日)13:30~16:30
三田いきいきプラザ・A集会室
山岡聴子氏の報告と、上映『語られなかった戦争・侵略2 南京』(60分)
第63回運営・編集委員会
5月1日(水)14:00~
三田いきいきプラザ講習室
第65回例会・勉強会
5月26日(日)13:30~16:30
三田いきいきプラザ・A集会室
第64回運営・編集委員会
5月29日(水)14:00~
三田いきいきプラザ講習室
第66回例会・勉強会
6月23日(日)13:30~16:30
三田いきいきプラザ A集会室
第65回運営・編集委員会
6月26日(水)14:00~
三田いきいきプラザ 講習室

6) 集会の案内
① 「憲法寄席」春席公演 (壊憲への危惧から12年前に結成された会)
第1部:時代に媚びず、歌え!しゃべりまくれ!
第2部:構成舞台「長長秋夜~小熊秀雄と朝鮮」
・3月30日(土)17時~20時
・3月31日(日)11時30分~

① ビザ発給拒否 国賠裁判 2名の原告本人を尋問(最大の山場)
4月18日(木)13:30~ 東京地裁103号・大法廷
13:30~ 原告・高 鋒さん(中国湖南省の細菌戦被害者)
15:30~ 原告・田中宏さん(一橋大学名誉教授)
18:00~ 裁判報告会 衆議院第1議員会館B1 大会議室
(17時半~ロビーにて入館カード配布)
特別ゲスト:森田実さん(政治評論家)
原告からの発言:高鋒さん(湖南省)、田中宏さん、高嶋伸欣さん

私たちは、2015年11月に安倍政権・外務省が強行した
(1)中国人戦争被害者へのビザ発給拒否、
(2)戦争法廃止を求める「集会の自由」侵害、
という重大な人権侵害の責任を追及し、国家賠償請求裁判を提訴して闘っています。憲法を蹂躙し、民主主義を破壊する、安倍政権による国家権力の乱用は、絶対に許されません!
原告団は、この集会の主催者、およびビザ発給を拒否された中国の細菌戦被害者です。
*日本人原告:田中宏(一橋大学名誉教授)、高嶋伸欣(琉球大学名誉教授)、藤田高景(村山首相談話の会・理事長)
*中国人原告:高鋒(湖南省)、胡鼎陽(浙江省)、郭承豪(浙江省)

② 戦争をさせない1000人委員会の行動予定

今後の行動予定


・安倍政治を終わらせよう! 4.19院内集会
4月19日(金)17時~
参議院参議院議員会館講堂
講師:中野晃一さん(上智大教授)「政治を変える!プログレッシブ連合へ」
主催:戦争をさせない1000人委員会・立憲フォーラム

・辺野古新基地建設は断念を! 政府は沖縄の民意に従え!
安倍9条改憲NO!憲法審査会始動させるな!4.19国会議員会館前行動
4月19日(金)18時30分~
衆議院第二議員会館前
主催:戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会/安倍9条改憲NO!全国市民アクション

・朝鮮半島と日本に非核・平和の確立を! 4.24集会
4月24日(水)18時30分~
文京区民センター3A会議室
主催:「朝鮮半島と日本に非核・平和の確立を!」市民連帯行動実行委員会

・平和といのちと人権を! 5.3憲法集会 ―許すな!安倍改憲発議―
5月3日(金・休)11時~
有明防災公園(東京臨海広域防災公園)
主催:平和といのちと人権を!5.3憲法集会実行委員会

③ 第19回平和学習会(討論会)
「平成とは一体なんだったのか?」 平和創造研究会
4月20日(土) 18:15~20:45 参加費 300円
東京ボランティア・市民活動センター会議室B(飯田橋・セントラルプラザ10階)
【発言者】:王道貫氏、藤澤豊氏、高橋俊夫氏ほか
平成が終わろうとする今、この平成の30年間とは一体どういう時代だったのか、数名の人から一人15分程度ずつ話題提供して頂き、後半の1時間余りを討論に充てたいと思います。時代が大きく変わりつつある今こそ、直近の歴史を振り返り、現在直面している問題の所在を探り、未来の方向性を見定めることが必要なのではないでしょうか。

④ 『週刊金曜日』東京南部読者会
4月26日(金) 18:30~20:30
大田区消費者生活センター 会議室(JR蒲田駅徒歩5分)

⑤ オルタナティブな日本をめざして(第27回) 「教育勅語と道徳教育」
講師:前川喜平さん(現代教育行政研究会代表、元文部科学省事務次官)
日時:5月9日(木)18時~21時(開場17時30分) 予約優先 参加費:800円(学生400円)
会場:千代田区神田三崎町2-6-2 ダイナミックビル4階 スペースたんぽぽ(JR水道橋駅西口から5分)
連絡先:03-3238-9035 nonukes@tanpoposya.net URL: http://www.tanpoposya.com/
日本の教育がおかしくなり始めています。第一次安倍政権の時に教育基本法が改悪され、学校教育における愛国心の押付けなど、関連法も含めていくつかの問題の多い法改悪がなされています。その後も我が国の教育政策の「右旋回」は止まることがなく、昨今の第二次安倍政権下では、さながら戦前の教育体制に後戻りさせるかのごとき雰囲気も強まってきました。そして、ここにきて教育勅語の義務教育現場での活用と、道徳教育が一つの「教科」として導入されることが決められました。国家に忠実であることを第一義とするような、まさに権力を握る側・統治支配をする側にとって都合のいい人間像を教育によって無批判に教え込もうとする意図が見え隠れしています。今回は「文部科学省の突然変異」を自称される前川喜平前文科省事務次官においでいただき、懸念される日本の教育政策の中でも、この「教育勅語と道徳教育」の問題についてお話いただきます。
http://tyobotyobosiminn.cocolog-nifty.com/blog/2019/03/27-b2fe.html(※教育関連のリンク多数)

<別紙 2> 元徴用工・韓国大法院判決確定についての覚書
田中宏(一橋大学名誉教授)

1 はじめに

二〇一八年一〇月三〇日、韓国大法院(最高裁)は、「元徴用工問題」について、新日鉄住金の上告を棄却し、元徴用工への損害賠償を命じる判決を確定させた。そのことを報じる日本のマスコミは、安倍晋三首相の「国際法上あり得ない判断」とか、河野太郎外相の「両国関係の法的基盤を根本から覆す暴挙」とかを大きく伝え、あたかも「大本営発表」とその報道を思わせる様相だったというのが私の感想である。なぜそう思うのかについて、ここに書き留めておきたい。

2 大法院判決は、二〇一二年判決で予想されたとおりのもの

今回の大法院判決は、前から予想されたとおりで、何も驚くことではないのである。というのは、ニ〇一二年五月、大法院は、下級審の判断を覆し、事件を原審(ソウル高等法院、釜山高等法院)に差し戻した。その大法院判決は、すでに重要な指摘をしていたのである。その重要な部分は次のとおりである。
「(日韓)請求権協定は、日本の植民地支配賠償を請求するためのものではなく、サンフランシスコ条約第四条に基づき韓日両国間の財政的・民事的債権債務関係を政治的合意により解決するためのものであり、請求権協定第一条〔経済協力〕により日本政府が大韓民国に支給した経済協力資金は、第一一条「請求権」による権利問題の解決と法的対価関係があるとは見られない点、請求権協定の交渉過程で日本政府は植民地支配の不法性を認めないまま、強制動員被害の法的賠償を根本的に否定し、このため韓日両国政府は日帝の韓半島支配の性恪について合意に至ることができなかったが、このような状況で日本の国家権力が関与した反人道的不法行為や植民地支配と直結した不法行為による損害賠償請求権が請求権協定の適用対象に含まれていたとは解しがたい点等に照らしてみると、原告らの損害賠償請求権については、請求権協定で個人請求権が消滅しなかったのはもちろん、大韓民国の外交保護権も放棄しなかったと解するのが相当である」と。
核心部分は、「日本の国家権力が関与した反人道的不法行為」や「植民地支配と直結した不法行為」による損害賠償請求権は、日韓請求権協定の適用対象ではなく、外交保護権も放棄していない、という点である。
この大法院判決によって差し戻されたソウル高等法院、釜山高等法院が原告たちへの賠償を認める判決を言いわたし、それを日本企業が不服として上告し、今回の大法院判決となったのである。したがって、二〇一二年五月段階で、今回の判決は自明のものとして予想されていた。したがって、日本側で問題にするのであれば、ニ〇一二年の大法院判決の時(李明博政権の時)に問題視すべきであった。それを、「ろうそく革命」で生まれた文在寅政権へのバッシングのごとく、二〇一八年になって今回の大法院判決を問題視することに、私は大きな違和感を覚えた。

3 日本の韓国併合について、いかなる認識をもつか

二〇一二年大法院判決は、「請求権協定の交渉過程で、日本政府は植民地支配の不法性を認めないまま、……韓日両国政府は日帝の韓半島支配の性格について合意に至ることができなかった……」と指摘し、日韓併合に関する歴史認識について、日韓間に大きな問題が存することをすでに吐露していた。
一九四五年八月に日本が受諾した「ポツダム宣言」第八項には、「カイロ官言の条項は履行せらるべく……」と、カイロ宣言には「朝鮮の人民の奴隷状態に留意し、やがて朝鮮を自由独立のものにする」とあり、両者は一体なのである。日本が受諾した、この国際文書に示された歴史認識を、今一度想起する必要があろう。それは戦後の原点であり、戦後日本は、それとどう向き合うかが問われてきたのである。
ここで日韓併合をめぐる問題を本格的に論ずるだけの能力は私にはないが、二、三の点について書き留めておきたい。一九一〇年八月の「韓国併合条約」第一条には「韓国皇帝陛下は韓国全部に関する一切の統治権を完全且永久に日本国皇帝陛下に譲与す」とある。私が注目したのは「完全且永久に」とうたわれた点である。香港は一九九七年に中国に返還されたが、それは、この年に「期限」が切れるため、それを前に中国と英国が交渉し、一九八四年一二月の「香港問題に関する中英共同声明」によって返還が実現したのである。「完全且永久に」ということは、「離婚しないとの条件付きの婚姻届」ということになろうか。要するに、朝鮮が日本から独立することは、条約上あり得ないのである。朝鮮が日本から独立するためには、併合条約はもともと「無効」だったとすれば成り立つ。
併合条約より前の一九〇五年一一月、日韓間には「第二次日韓協約」が締結された。その第一条には「日本国政府は、在東京外務省に由り、今後韓国の外国に対する関係及事務を監理指揮すべく……」とある。要するに、さきの併合条約は、「東京の外務省が監理指揮」したもので、いわば日本政府と同外務省間の「やらせ」ということになる。日本の韓国併合が、日清戦争に日本が勝利したことを背景とすることは周知のところである。ところで、一八九五年四月の「日清講和条約」第一条には次のようにある。「清国は、朝鮮国の完全無欠なる独立自主の国たることを確認す。因て右独立自主を損害すべき朝鮮国より清国に対する貢献典礼等は将来全く廃止すべし」とある。要するに、朝鮮に対する中国の影響力を完全に排除し、そこに日本がとって代わるとの筋書きが手に取るように見えよう。
このように条約上の文言だけ見ても、日本の朝鮮併合をめぐる問題について、大法院判決が「韓半島支配の性恪」や「植民地支配の不法性」を問題にしていることに、私たちは耳を傾ける必要があろう。日本の戦後処理に関する国際文書で、「歴史認識」が披瀝されるのは、東京オリンピック(一九六四)も大阪万博(一九七〇)も終わった後の、「日中共同声明」(一九七二)が初めてである。すなわち、「日本側は、過去において日本国が戦争を通じて中国国民に重大な損害を与えたことについての責任を痛感し、深く反省する」と。
戦後処理に関する国際文書には、対日平和条約(一九五一)、日華平和条約(一九五二)、日ソ共同宣言(一九五六)、日韓基本条約(一九六五)とあるが、いずれにも、こうした「歴史認識」を示す文言は見当たらない。ちなみに二〇〇二年九月の「日朝平壌宣言」の前文には、「日本側は、過去の植民地支配によって、朝鮮の人びとに多大の損害と苦痛を与えたという歴史の事実を謙虚に受け止め、痛切な反省と心からのお詫びの気待ちを表明した」とある。
しかし、日韓条約当時、こうした認識は皆無だった。日韓条約の国会審議において、惟名悦三郎外務大臣は、次のように述べた。「経済協力というのは純然たる経済協力ではなくて、これは賠償の意味をもっておるものだというように解釈する人がありますが、法律上は、何らこの間に関係はございません。あくまで、有償・無償五億ドルのこの経済協力は、経済協力でありまして、韓国の経済が繁栄するように、そういう気持ちをもって、また、新しい国の出発を祝うという点において、この経済協力を認めたのでございます」(参議院本会議、一九六五年一一月一九日)と、要するに、拠出資金は″独立祝い金″であって、過去の行為に対する「償い」の性格ははっきりと否定されたのである、当時、巷には、「朴(正熙)にやるなら、僕にくれ」という声も聞かれた。

4 ゴールポストを動かしたのは日本側!

韓国側を非難する時によく聞くのは、「韓国は、またゴールポストを動かした」という言説である。私は、真逆ではないかと思う。なぜなら、国家間の取り決めによって個人の清求権は消滅しないとしてきたのは、他でもない日本政府なのである。
請求権問題が最初に問題となるのは、一九五五年四月、広島の被爆者が、日本国を相手に、東京地裁に、損害賠償とアメリカの原爆投下を国際法違反とすることを求めて提訴した。この訴訟で、国側は次のように主張した。「対日平和条約第一九条〔日本国による戦争請求権の放棄〕の(a)の規定によって、日本国はその国民個人の米国及びトルーマンに対する損害賠償請求権を放棄したことにはならない。……(同条にいう日本国民の権利)は、国民自身の請求権を基礎とする日本国の賠償請求権、すなわちいわゆる外交保護権のみを指すものと解すべきである。……仮にこれ(個人の請求権)を含む趣旨であると解されるとしても、それは放棄できないものを放棄したと記載しているにとどまり、国民自身の請求権はこれによって消滅しない」と。要するに、「国民自身の請求権は消滅しない」のである。この裁判は、一九六三年一二月、東京地裁で判決が言いわたされ、請求は棄却されたが、原爆投下は国際法違反との判断が出たため、一審で確定した。損害賠償は認めなかったが、「(被告らに)十分な救済策を執るべきことは多言を要しない……。本訴訟を見るにつけ、政治の貧困を嘆かずにはおられない」と付言し、被爆者救済の拡充に繋がった。
同じことはシペリア抑留者の損害賠償訴訟でも見られた。ちなみに、一九五六年の「日ソ共同宣言」第六項には、(日本及びソ連)は、一九四五年八月九日以来の戦争の結果として生じたそれぞれの国、その団体及び国民のそれぞれ他方の国、その団体及び国民に対するすべての請求権を、相互に放棄する」とある。そして、国の主張は、同じように「我が国が放棄した請求権は、我が国自身の有していた請求権及び外交保護権であり、日本国民が個人として有する請求権を放棄したものではない」と。要するに、国家間の取り決めで、個人の請求権が消滅することはないのである。判決で請求は棄却されたが、一九八八年五月、「平和祈念事業特別基金等に関する法律」が制定され、一時金の支給などがなされた。
日本側の被爆者及び抑留者の請求権に関する問題では、いずれも国家間の取り決めによって、個人の請求権は消滅しないことが確定したのである。その後、九〇年代に入って、アジアの被害者の請求権問題が浮上してくるが、その時も当然この見解が維持されることになる。たとえば、柳井俊二外務省条約局長は、国会で次のように答弁した。「日韓請求権協定におきまして両国間の請求権問題は最終かつ完全に解決したわけでございます。その意味するところでございますけれども……これは日韓両国が国家としてもっております外交保護権を相互に放棄したということでございます。したがいまして、いわゆる個入の請求権そのものを国内法的な意味で消滅させたということではございません」(一九九一年八月二七日参議院予算委員会)と。
そうであるから、「一九九〇年以来、韓国人被害者が提訴した数十件の戦後補償裁判において、一九九九年までの一〇年間、国側は日韓請求権協定などの条約で解決済みと主張することはなく、これが争点になることさえなかった」という(山本晴太弁護士稿、『世界』二〇一九年一月号所収)。これにつづいて、山本弁護士は、「二〇〇〇年頃、戦後補償裁判の各種の争点について企業や国に対して不利な判断をする裁判例が現れ始めると、日本政府は解釈を突然変更し、あらゆる戦後補償裁判で条約(サンフランシスコ平和条約、日韓請求権協定、日華平和条約、日中共同声明)により解決済みと主張し始めた」と指摘している。ゴールポストを動かしたのは、他でもない日本側なのである。しかし、日本のメディアは、このことは「棚に上げて」、一斉に「解決済み」との「政府見解」の大合唱に走ったのである。それは、私には一種異様な光景にみえた。

5 被害者との和解をどう実現するか

今回の「韓国バッシング」の異常さのもう一つは、大法院判決という司法判断について韓国政府を攻撃し、対応を迫った点である。三権分立の原則を考えれば、韓国政府に司法判断への「介人」を求めることの異常さに気づくべきである。日本政府の見解では、しきりに「すべては解決済み」が強調されるが、司法の判断はこれとは異なっている。
たとえば、中国人被害者の戦後補償裁判で、二〇〇七年四月、日本の最高裁は、「ここでいう請求権の放棄とは、請求権を実体的に消滅させることまでを意味するものではなく、当該請求権に基づいて裁判上訴求する権能を夫わせるにとどまるものと解するのが相当である」と請求は棄却したが、その上で、「本件被害者らの被った精神的・肉体的苦痛が極めて大きかった……諸般の事情に鑑みると、上告人(西松建設)を含む関係者において、本件被害者らの被害の救済に向けた努力をすることが期待される」と付言した。この「付言」に沿う形で、二〇〇八年一〇月、東京簡易裁判所で「即決和解」が成立し、三六〇人全体について、西松建設は、(社)自由人権協会に二億五〇〇〇万円を信託した。
要するに、個人の請求権は消滅していないという点では、日韓間の司法判断に大きな違いはないのであり、それを基礎に解決策をどう模索するかが、いま問われているのである。核心は、被害者との和解をどう実現するかではなかろうか。しかし、日本政府の姿勢は、それから逸脱している。たとえば、国際司法裁判所への提訴も辞さないと吠える。しかし、日韓請求権協定第三条〔紛争解決〕には、紛争解決について、日韓両国政府がそれぞれ任命する仲裁委員各一人に、第三国の仲裁委員を加えて仲裁委員会を設け、その決定に両国政府は服するとの定めがある。いきなり国際司法裁判所を持ちだすのはあまりに感情的である。
第二次世界大戦では日本の同盟国だったドイツにも、強制労働をめぐる戦後補償問題がある。一九九八年から、米国にある大手ドイツ企業等に対し、戦時中の強制労働に関する補償請求の集団訴訟が次々と提起された。この問題の解決のために、ドイツでは、ニ〇〇〇年七月、「記億・責任・未来」財団が発足し、ドイツ政府とドイツ企業が折半で一〇〇億マルク基金を設立し、強制労働問題の解決にあたったことはよく知られている。
戦後四〇年にあたる一九八五年五月、西独ワイツゼッカー大統領の「過去に目を閉ざす者は、現在をも見ることができない」との記念演説は世界に感銘を与えた。直後の八月、日本の中曽根康弘首相は、A級戦犯東条英機らをも祀る「靖国神社」を公式参拝し、アジア諸国から猛反発を受けた。
一九九一年四月に来日したソ連のゴルバチョフ大統領は、途中ハバロフスクで日本人抑留者のお墓に供花し、日本では全国抑留者補償協議会の斎藤六郎会長らと対面し、直接遺憾の意を伝えた。シベリア抑留者に何かが伝わったことは言うまでもなかろう。
二〇一六年五月、伊勢志摩サミットの後、オバマ米大統領が広島を訪問し、生存被爆者に言葉をかけるシーンは印象的だった。原爆投下は戦争の早期終結のための正しい選択だったとする戦勝国アメリカの大統領が、その被害者と直接対面したのである。その協に立つ日本の安倍晋三首相は、「大統領がそこまでされるなら、自分は韓国のナヌムの家に元慰安婦のハルモニを訪ねよう」となぜ思わなかったのだろう。今回の元徴用工に関する大法院判決にどう向き合うかの鍵も、ここにあるように思う。「すべて解決済み」といくら念仏を唱えても、それでは歴史の歯車は前に進まない。日本に地球上から消された朝鮮、その歴史に思いを馳せ、被害者とどう向き合うか、いまこそ、日本の品性が問われるのである。

第62回 運営・編集委員会の報告

3月27日 14:00~ 出席:大西、福田
1.大畑龍次氏のブログ:天皇制批判
この最新ブログは天皇制を多面的に批判していて参考になる。当会も、憲法第1章「天皇」が、第3章の第14条「法の下の平等」に反していることを認めているが、それ以前に、憲法から逸脱したことが多すぎる現状から、まずは憲法の原点に還ることを最優先と考えている。先日来のマスメディアの新元号に関する集中報道は、国民主権という憲法の大原則を忘れさせるのみならず、累積する多数の深刻な政治問題を覆い隠し、現政権の支持率を不当に押し上げることも危惧される。警鐘を鳴らすために大畑氏のブログを配信することも検討したが、天皇制の矛盾については、まず女帝や女性宮家の創設など皇室典範を憲法に近づけることが、民意に添っているのではないかとの考えから、配信は中止した。

2.大久保敏明氏よりファックス
愛知県在住の大久保敏明氏から届いた以下のファックスの要望を、田中宏先生に伝えることとした。

前略。ニュースNo.63について気づいた点を記します。
①p.5大畑氏の論考の下から6行目に「朴槿恵政権の積幣」とあります。「積弊」の誤植ではないでしょうか。
②田中宏氏の論考に深くうなずくところがあった。
「日本では、凡そ登場しない『天皇』が、アジアの人々が『日本の過去』に言及するとき、こうした形で登場すること」に、しっかり立ち止まり、深く考察することが、マスコミにも必要だと思う。
田中氏が挙げている4つの事例は、ほとんど初めて知るものだけに、衝撃が大きかった。
とくに一つ目のインド青年の驚き「天皇が健在で……大きな居を構え……どこか遠くに隠居していると思っていました」は昭和天皇の戦争責任を考えつづけている小生(75歳)に、最も人間的な良心をつきつけられる思いがした。
田中氏の論考は、続編を期待したい。連載形式で、もっともっと読みたいと思う。天皇の戦争責任追及の声は代替わりの今こそ挙げるべき。
③ビザ発給拒否国賠裁判(4/18)の記録も是非次号で読みたいと思う。
④夏発行の「戦争体験」(福田玲三)もたのしみだが、田中宏氏や大畑龍次氏の論考も、小冊子にしていただけないだろうか。 草々

3.深田哲志氏の『象徴としての日本国憲法』
ご著書を5冊購入し、希望者に配布することにした。

4.水野スウさんより、4月、関東へのお話出前の案内
・4月19日 調布のレストラン、クッキングハウスさんで。
今回は、『わたしとあなたのけんぽうBOOK』『たいわけんぽうBOOK+』の2冊が、平和・協同ジャーナリスト基金 荒井なみ子賞」をいただいたことのお祝いもかねて。
お申し込みはクッキングスターまで 042-498-5177
・4月20日 千葉稲毛海岸でよりみちカフェ、「けんぽうはじめの一歩」企画で「小さないのちを守る やさしいけんぽうの話」 お申し込みはどんぐりさんまで 043-301-2439
・4月21日 藤沢鵠沼でおはなし会「きもちは、言葉をさがしている??わたしとあなたの13条+12条」 お申し込みは、私か、さとみさんまで 090-5761-0953
・4月22日 東京練馬の冷えとりと雑貨のお店の繭結(まゆ)さんで、「スウさんのピースウォーク 」おはなし会。 お申し込みはまゆさんまで。
TEL:03-5848-3917 FAX:03-5848-3915

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