緊急警告022号 自衛隊明記は口実、9条全面改悪の突破口とするもの

 5月3日の憲法記念日、安倍首相は日本会議が主導する「美しい日本の憲法をつくる国民の会」の改憲集会にビデオメッセージを寄せ、憲法9条に関して「9条1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込む、という考え方、これは国民的な議論に値する」「夏季のオリンピック・パラリンピックが開催される2020年を……新しい憲法が施行される年にしたい」とのべ、具体的改憲項目として、憲法9条改憲に踏み込んだ提起を行った。(憲法尊重擁護義務を負う首相がこのような改憲提起を行うこと自体の違憲性については緊急警告021号で指摘。安倍首相と安倍自民党総裁は不離一体であり、改憲提起に関する限り使い分けはできない。)
 これは9条3項に自衛隊を明記する加憲論として論じられているが、一部報道によれば、自民党は安倍首相の提起を受けて9条現行条文を維持したまま、新たに「9条の2」の別条を設け、ここに自衛隊を明記する方向で検討に入ったとのことである。
「9条3項」加憲にせよ、「9条の2」加憲にせよ、具体的に案文が示されたわけではないので案文に沿った検討はできないが、いきなり本丸の9条改憲に手を付けてくることはないだろうとの大方の予想に反しての、安倍首相ならではの極めて危険な「クセダマ」である。案文が示されてからでは遅いので、その危険性について警告を発しておかなければならない。
安倍首相はビデオメッセージで「例えば憲法9条です。今日、災害救助を含め命懸けで、24時間365日、領土、領海、領空、日本人の命を守り抜く、その任務を果たしている自衛隊の姿に対して、国民の信頼は9割を超えています。しかし、多くの憲法学者や政党の中には、自衛隊を違憲とする議論が今なお存在しています。『自衛隊は、違憲かもしれないけれども、何かあれば、命を張って守ってくれ』というのは、あまりにも無責任です。
 私は、少なくとも私たちの世代のうちに、自衛隊の存在を憲法上にしっかりと位置付け、『自衛隊が違憲かもしれない』などの議論が生まれる余地をなくすべきであると考えます。」と述べた。
 このメッセージは、自衛隊に対する国民の信頼が「9割を超えている」(内閣府調査、2015年1月)という現状を踏まえた、自衛隊を合憲と考えている多くの国民(9条護憲派も含めた)の心に届く言葉である。
 これまでのところ、安倍首相の自衛隊明記改憲についての世論は「9条をいじるべきではない」とする国民の根強い反対もあって、「朝日」が賛成41%、反対44%、「毎日」賛成28%、反対31%、32%(わからない)、と賛否拮抗しているが、「読売」賛成53%、反対35%、「時事通信」賛成52%、反対35%と過半数が自衛隊明記賛成となっている。
しかしこのままでは、具体的に改憲文案が提示され、大々的なキャンペーンが行われるならば、国民投票において賛成多数となる可能性は大きいと見ておかなければならない。
 それゆえ、この自衛隊明記の安倍9条改憲に賛成する国民の選択は極めて危険な間違った選択になるということを訴えたい。
 その理由の第一は、安倍9条改憲「自衛隊明記」は単なる口実であり、憲法9条全面改悪の突破口に過ぎないからである。自民党改憲草案に明記されているように、現行9条2項「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これをみとめない。」を全文削除し、自衛隊を軍隊としての「国防軍」(「草案」第九条の二)とするための突破口なのである。自衛隊を大切に思う国民の自衛隊明記の選択が、自衛隊とは異なる「国防軍」という軍隊を選択することになるのである。
 第二は、これはこれまでの自衛隊(集団的自衛権行使を容認した安保法制成立以前の)を合憲と考える大多数の国民の見解に立っての立論であるが、現行憲法第9条に明記されようとしている自衛隊は、安倍内閣によって集団的自衛権容認の7・1閣議決定がなされ、安保法制強行成立によって集団的自衛権行使を付与された自衛隊なのである。「専守防衛」の「戦力」ではないとされた自衛隊であることによってかろうじて維持されてきた合憲の自衛隊が、あらためて憲法違反の自衛隊となってしまったのである。このあらためて憲法違反となってしまった自衛隊を9条3項として(あるいは九条の二として)書き加えることなど不可能なことである。
 何故ならそれは、「専守防衛」を破り集団的自衛権行使によって他国の戦争にまで参加する自衛隊は、明白に現行9条1項(戦争の放棄)、2項(戦力及び交戦権の否認)と対立し、相反するからである。
 第三は、しかし論理の矛盾など意に介さない安倍政権はこれを強引に遂行するであろう。その時、現行憲法9条1項、2項は完全に無効化され、憲法に明記された集団的自衛権行使の「自衛隊」が独り歩きを開始することになる。
独り歩きを開始した「自衛隊」は、「集団的自衛権」行使の戦争参加により限りなく軍隊としての性格を強め、軍隊としての扱いを要求してくる。結果は第二、第三の9条改憲をもたらし、自民党改憲草案がめざす「国防軍」に行き着く。
 第四は、「集団的自衛権」行使容認の安保法制が成立させられ、南スーダンに派遣された自衛隊に「駆けつけ警護」が付与されたことなどによってその兆候が現れはじめたのであるが、ひとたび「集団的自衛権」行使の戦争参加が行われるならば、「自衛隊」に応募する青年は激減する可能性がある。その結果もたらされるのは「徴兵制」である。
 第五は、「自衛隊」が「集団的自衛権」行使によって他国の戦争にまで参加するということは、国内が戦争体制下となるということなのであり、その結果、国民の基本的人権がさらに制約され、自由と民主主義が失われるということである。
すでに安倍政権下で教育基本法改悪、盗聴法改悪、特定秘密保護法制定、安保関連法制定、「共謀罪」制定と、国民の基本的人権を制約する悪法が次々と成立させられてきたが、すべてはこの戦争体制構築のためと言わなければならない。そして今また、「大規模な自然災害」への対処を口実とした「緊急事態条項」(自民党改憲草案第98条、99条)の制定が着手されようとしている。これはナチスが全権を掌握した「全権委任法」と同質のもので、国民の自由と民主主義を圧殺し、政権の独裁を招くものである。

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